模擬戦 後
シドは今、デンベの猛攻を必死に防いでいた。
知識としては攻撃を往なす方法もあるのだが、デンベを相手に使う余裕が全くない。生体シールドも使用し、襲い来る拳と体の間に腕を滑りこませ、渾身の力でガードを繰り返していく。
ステップで逃げようにも、移動したい方向にデンベが回り込んで来る為逃げるに逃げられない。
(クソ!)
反撃も出来ず、逃げる事も出来ない。
シドの焦りが増し、ガードも甘くなってくると、腕の隙間にデンベの拳が滑り込んできた。
「うお!」
シドは顔面目掛けて振るわれた拳を、頭を傾けることで紙一重で回避。デンベの伸びた腕を掴もうとするも、腕の引きが速く捕える事に失敗。
それを隙と見たのか、デンベは少し大振りの左フックをシドの側頭部目掛けて放って来た。
(今だ!)
シドはデンベの懐に飛び込みながらフックに被せる様にカウンターを取ろうとする。
が、それはデンベの囮だった。
左フックを即座に戻し、後ろに下がりながらシドのカウンターを避けると、体を捻りながら右拳でシドの顎を突き上げる。
デンベの怪力で顎をかち上げられ、縦に伸びてしまったシドの腹部に、左拳を叩き込まれた。
生体シールドも貫通され、深々と突き刺さった左拳はその勢いのままにシドを壁に叩きつける。
「がは!」
腹部の衝撃と背中を壁に叩きつけられた衝撃でシドの呼吸が止まる。
<シド、意識を保ってください。追撃が来ます>
「!!」
飛びそうになった意識を無理やり引き戻し、シドはシールドを蹴って上に逃げる。
すると、今さっきまでシドがいた場所にデンベの蹴りが突き刺さった。
どんな身体能力をしているのか。
その蹴り一発でこの部屋が大きく揺れたような気がする。
<あれ食らってたら死んでたんじゃないか?!>
<腹部を狙っていた為シドなら即死はしません。しかし、戦闘不能は確実だったでしょう>
<喜多野マテリアル やべーな!>
<逃げ回るだけではどうにもなりません。攻め手に回りましょう>
イデアはそういうが、何をやってもデンベに一撃食らわせるイメージが湧かない。今までの攻撃も全て捌かれるか避けられてしまうのだから。
(弱気になってもしゃーない!!一発くらいは放り込んでやるぞ!)
シドはこちらに向き直ったデンベに向け、前のめりで飛び込んで行く。
デンベ視点
(これで何発目だ?)
デンベはシドを攻撃しながら自分がシドに当てた攻撃の回数を考える。
最初の肘鉄からこれまで10発以上はクリーンヒットさせている。
当然ある程度の手加減はしているが、生身の人間にここまで耐えられるのは久しぶりだった。
6大企業に2・3人は所属しているといわれているイレギュラー以外で、徒手空拳でデンベと殴り合える人間は稀だ。
最前線のワーカーには居るかもしれないが、彼らはどちらかというと装備の質とそれを使いこなすことに特化している。
生身でこれほど戦える者がいるとは思えない。
(ただの身体拡張者では無いな・・・・)
シドを殴り飛ばし、壁に叩きつけた後、追撃の蹴りを放つ。
もし気絶している様なら当たる直前で止めるつもりだったが、シドは自分が発生させたシールドを蹴って上方へ回避した。
シドに振り返りながら、デンベは久しぶりに模擬戦で楽しいと感じ始めていた。
(さて、これからどうするかな)
まだまだ気迫を漲らせながら自分へと突っ込んでくるシドを見ながら、これからの戦い方を試行する。
シド視点
それからシドは幾度となく突っ込み、殴られ、投げられ、蹴り飛ばされた。
こちらの攻撃は一切通用せず、高圧電撃を放っても避けられる始末。
<電撃避けるってどうなってんだよ!>
<シドの予備動作で感知されている様です>
<普通初見殺しだろ?!>
<経験の差でしょうか?>
なんとか一撃だけでもと方法を考えるため距離を取るシドだったが、デンベは離れた場所で急に拳を突き出した。
(なんだ?)
その行動の意味を考えようとした瞬間、シドの腹部に衝撃が走る。
思わぬ衝撃にシドは顔をしかめ、デンベを見る。すると、デンベは何も無いはずの空間を叩き、次々とシドへ打撃を叩き込んできた。
複数の衝撃を受けたシドはガードを固め、後ろに飛び、この意味不明な攻撃の対処を考える。
<なんだ今の?!>
<衝撃波攻撃の様です。デンベの拳が空気を叩き、その拳圧を飛ばしてシドを攻撃している様ですね>
<そんなこと出来るのかよ!>
<やっているので出来るのでしょう。彼の身体能力があっての技ですね>
シドは宙を蹴りながらデンベの攻撃から逃げようとするが、視界に映らない攻撃は避けづらい。空間把握で飛んで来ることは分かるのだが、飛んで来る速度は通常の弾丸を超えており、拳大の空気弾がマシンガンの様に撃ち出されてくるのだ。
デンベも立ち位置を変えながらシドを狙っており、避け難いことこの上ない。
段々選択肢を削り取られ、逃げる方向に迷いが生じる。
その隙をデンベは見逃さず、その場でクルリと回転し後ろ回し蹴りを放った。
シドと接近戦を行なっていた時より数段鋭い蹴りは、空気の断裂現象を発生させながらシドに向かってくる。
避けられないと判断したシドは両腕に最大出力のシールドを纏わせガードを試みる。
しかし、デンベが放った真空波はシールドを切り裂き、シドの両腕を深々と切り裂いた。
「ぐぅ!」
痛みの走り方から、恐らく骨まで達しているだろう。
<直ぐに治療します>
イデアはそう言うが、デンベが待ってくれるはずもない。
シドに深手を負わせた事を見て取ったらしいデンベは、シドに向かって高速で突っ込んでくる。
シドの両腕は動かない。今デンベに攻撃されれば防ぐ手立てが無かった。
(こうなったら!!!)
シドは残ったエネルギーを全て使い切るつもりで発電を開始。溜めていた分の電気も合わせて両脚に集中させ、地面を蹴る。
空気の壁を突き破り、シドはデンベに向けて真っすぐに蹴りを放った。
ここまで脚力を強化した事など無い。デンベの後ろに回り込むなど器用な事は望めなかった。
故に、最大出力、最短距離でデンベが反応する前に一撃を叩き込む。
当たる当たらないに関係なく、この後シドの両脚はしばらくの間動かなくなるだろう。それでも、デンベに一撃入れたかった。このバケモノの様な男の、爪先に触れる程度でも存在を示したかったのだ。
「うらぁぁぁ!!!」
シドが放った蹴りがデンベの腹に激突し、この模擬戦最初で最後のクリーンヒットとなる。
その感触は、イデアと出会う前、苛立ち紛れに蹴飛ばした岩よりも硬いものだった。
「素晴らしいな」
デンベの声が聞こえたかと思うと、顔面に強い衝撃を受け後方へ吹き飛ばされる。
何度目かもわからない。
壁に背中を強く打ち付け、後頭部も強打する。
揺れる視界の中で、構えを解くデンベの姿が映り、シドの意識は急速に薄れていった。




