保留状態の報酬
その後、9人で風呂に入り癒し空間を満喫した後、全員が同じ部屋に案内された。
そこは大広間になっており、最初の夕食にシド達が案内された部屋よりも豪華な内装になっている。
その部屋を軽く見渡したゴンダバヤシは「ほ~・・・」と声を漏らす。
「木材をここまで贅沢に使用しているとはな。現代では考えられん」
今の時代、木材は非常に貴重だった。
西方都市から少量運ばれてくる以外は北方で切り出された木材が高級品として扱われている。
その為、テーブルや椅子に加工されることが殆どで、建物に使用できる量を確保しようとすると凄まじい金額になってしまう。
「本日の食事は鍋を用意させてもらった。この人数で食べるのなら最適だろう」
セントラルは全員を卓に着くよう促す。
先ずはゴンダバヤシが席に着き、その両隣にデンベ達お供の者達が着席する。その向かい側にキクチ、シド、ライトが腰を下ろし目の前の料理を見る。
4品の小鉢と少量の刺身、白身魚の焼き料理が置かれており、その奥には大きな鍋が2つデンッと鎮座している。
その隣には数種の野菜や甲殻類の脚、胴体が置かれた籠が置かれており、これを鍋で煮て食べるのだろう。
「鍋の管理はアンドロイド・・・・君たちの言うオートマタが行う。それでは楽しんでくれ」
セントラルがそう言うと、紙でできた引き戸が開き皇国の民族衣装を着たオートマタが静々と入って来る。
イデアや戦闘用オートマタとは違い、一見すると人間と変わらない見た目をしていた。
3体のオートマタは女性型で、2体はゴンダバヤシ達の両隣に、1体はシド達の横に控える様に座ると長い箸で籠の中身を鍋の中に入れていく。
「鍋か。いろんな具材を鍋に入れて食うからそういう名前なんだろうな。よし!具が煮えるまで他の料理を楽しませてもらおうか」
ゴンダバヤシが先陣を切り、箸で料理をつつき始める。
それに続きお供達も料理を口に運び始めた。
「・・・・・おっちゃん。その棒って使いやすいのか?」
シドはゴンダバヤシ達が使っている箸に疑問を持った。
「ん?コレか?これは箸って言ってな。最初は苦労するが使い慣れたら便利だぞ」
ゴンダバヤシはそう言いながら箸をワキワキと動かす。
シドはゴンダバヤシの指の動きをじっと見つめ、自分用に置かれていた箸を手に取る。
見よう見まねであるが、ゴンダバヤシと同じ持ち方をし、ゆっくりとだが動かしてみる。
「・・・・むぅ・・・・・結構難しいな・・・・」
「・・・・最初はそんなもんだ。使い慣れたら飯粒くらい簡単に掴める様になる。麺とか食う場合に便利だぞ」
「わかった」
シドは拙いながらも箸を操り刺身を挟んで口に放り込んでいく。
そして、鍋が煮える頃にはスムーズに箸を操りパクパクと料理を片付け始める。
「・・・・・・慣れるのが早すぎないか?」コソ
「そうですね。身体的な学習能力は非常に高いようです」コソ
ゴンダバヤシとデンベはシドの様子を観察しながらコソコソと話をする。
「明日、アイツの報酬の件、分かってるな?」
「はい、問題ありません」
2人が料理をつつきながら話しているとシドが中央崇拝者の事を聞いてくる。
「そういやさ、中央崇拝者の件でどうなったんだ?」
「ああ、本社の方から兵隊が派遣されて掃討戦真っただ中だな。見つかったアジトを虱潰しに当たってるが潰しきるまでだいぶ時間が掛かるだろうって話だ」
ゴンダバヤシは少し苦い表情をしながらシドに言う。
「オメー等がぶっ潰したアジトは末端だったみたいだな。他にも大きなアジトがあるだろうって事で探してる段階だが、あいつらは雲隠れするとホントに上手く隠れやがるんだよ。西に逃げられたら追うに追えなくなる。その前に出来るだけ潰しておきたい」
「西方に逃げられたらマズいのか?」
「西方を管理してる沼江乃って企業があるんだが、自分の管理下でドンパチ騒ぎは絶対にさせないって考えでな。ワーカーや他の企業が越境する際に武器は全部取り上げられる。車に搭載されている兵器で取り外しが困難な場合は車も越境禁止だ。その対応に例外は無い。その分、そのルールに従えば越境するのは簡単だ。中央崇拝者でも武器の所有さえしてなければすんなりは入れちまうんだよ」
その分、密入領が発覚した場合は完全武装の衛兵隊が本気で殺しにかかって来る。
犯罪等に対する罰則も厳重で暴行事件でも発生させれば即刻牢屋に入れられ、他領の人間であれば持ち物全没収の上で放り出されることになる。当然、二度と西方地域に足を踏み入れる事は出来ない。
その処置を徹底してる為か、西方地域の治安は非常に良好であり、中央崇拝者のテロ等も過去数十年で1度も発生していない。
「飛行機械での越境も禁止だ。どこの誰だろうと防衛基地に一回降りて検疫を受けなきゃ入れない。無理に飛んでいこうとすればミサイルの群れに追い掛け回される事になるってこったな」
「へ~・・・すげー話だな・・・武器無しで歩いて大丈夫なんだな」
「向こうは遺跡の脅威から解放されてるからな。モンスターと戦う必要も無ければ危険な野生生物もいない。だから外部からの防衛に全力で当たれるんだよ」
「でも、中央崇拝者って企業の敵ですよね?沼江乃の対応って批判されないんですか?」
ゴンダバヤシの話を聞いてライトが疑問に思った事を質問する。
「当然最初は非難轟轟だったぞ。でも中央崇拝者を支援してる訳でもないし、テロも起こっていない。その実績の前じゃあまり強く言えねーってのが実情だ」
ライトはなるほどと納得し、再度料理を食べ始める。
「ダゴラ都市の幹部達はどうなるんでしょうか?」
今度はキクチが質問する。
「あいつらは一度本社へ移送する事になる。まあ治験に回されるか首が飛ぶか中央送りかの三択だろうな。製薬会社の連中が涎垂らして待ってるだろうぜ。臨時の運営チームも本社から派遣されて来週あたりから通常運転を開始する予定だ。でも引継ぎも何もあったもんじゃねーからな。真面に動くのはまだまだ先の話だろうよ」
ゴンダバヤシは甲殻類の脚に齧り付きながらそう話す。
「・・・モグモグ・・・まあ、俺達の仕事はセントラルとの交渉だ。今はそっちに集中しようぜ・・・・てか、これ美味いな」
「それは越後蟹と言われる甲殻類の脚だ。皇国時代に越後と呼ばれていた地域の海で取れていた種類になる」
「カニか~・・・西方の蟹は体はもっと細長くて脚も細いんだが・・・こいつは食いでがあるな!」
ゴンダバヤシはそういうと新しくよそわれた蟹爪の肉に食いつく。
「バキバリ!・・・ゴリゴリ・・・・うん、殻も歯ごたえがあって美味いぞ」
シドは殻ごと噛み砕いて飲み込んでいた。
「・・・・・そんな食べ方出来るのシドさんくらいじゃない?」
「口から鳴って良い音じゃねーぞ・・・」
ライトとキクチは呆れた顔をしながら料理を平らげていった。
セントラルが用意した料理も無くなり、〆の雑炊を平らげ全員が息をつく。
「いや~うまかった!最後のリゾットも最高だったな!うちの料理人でも作れねーかな?」
「どうでしょうか?材料さえ揃えば作れるとは思いますが」
ゴンダバヤシもセントラルの御持て成しに満足したのであろう。膨らんだ腹をパンパン叩きながら笑顔を浮かべている。
「さてと、明日の予定だが午前中は適当に過ごさせてもらってだな。昼からはトレーニングルームを使わせてもらって構わないか?」
「問題ない」
ゴンダバヤシがセントラルに質問し許可を得るとシドに向き直る。
「シド。訓練内容の公開報酬だ。明日の昼からやろう」
「!!」
ゴンダバヤシの言葉にシドは立ち上がって驚く。
「・・・・でも、俺・・・1億もらってるぞ?」
「かまわん。こっちにも損は無い話だからな」
ゴンダバヤシはそう言い、ニヤリと笑う。
シドはゴンダバヤシの隣に座るデンベに目を向けると、彼もうっすらと笑っていた。
デンベもシドとの模擬戦を少なからず楽しみにしているのだろう。
「よっしゃーー!!!明日の昼からだな?!」
「ああ、そうだな・・・昼めし食って1時間後でどうだ?」
「わかった!!ありがとうおっちゃん!」
無期限での保留。
そう言われ、状況が状況の為仕方ないと諦めていた報酬が舞い込んできた。
全員が解散し、各々の部屋へ帰った後でも興奮が収まらない。
シドはワクワクが抑えられず中々寝付けない夜を初めて経験するのだった。




