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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
144/213

キクチ 改造されていた?

完全に(意味深)健康な体を手に入れたキクチは軽やかに通路を歩いていく。

体重移動を行えば自動で運んでいく機能は使わず、スタスタとゴンダバヤシがいるであろうプールコーナーへと足を進めていた。

「機嫌良さそうですねキクチさん」

キクチの様子にライトが声を掛ける。

「ああ!体中に張り付けられていた鉛が剝がれたような気分だよ。頭痛はしないし胃も痛くない。霞んでた視界もハッキリ見えるぞ!これだけで此処に来た意味があったってもんだ!」

はっはっは!と笑うキクチ。

その様子に、どんだけ体調悪かったんだよと思う2人。

「体の治療以外にも様々な改善を施していますよ。長時間座りっぱなしでの作業が多いのでしょう。背骨や骨盤の軟骨量低下や微量に発生していた血栓の問題も解決しましたし、思考スピードの上昇も起こっているはずです」

「血栓?」

「エコノミー症候群と言う言葉は知っていますか?長時間体制を変えずにいると血管中に血の塊が発生し、毛細血管に詰まると血液不巡が起こります。これが脳や心臓に起こると死に直結しますので注意が必要です」

キクチはかなりヤバイ状況であったらしい。

「しかし、今後は血栓の発生を抑える処置を行いましたので問題ありません。細胞分裂の最適化も行いましたので癌化のリスクも排除されました。今のキクチであれば外的要因が無ければ常人の2倍は長生きできるでしょう」

「ほ~、そうなのか。それ有り難い・・・・・・ん?」

イデアの言葉に不穏な言葉が混ざっていたことに気付くキクチ。

「・・・ねえイデア。それってキクチさんの寿命が延びたって事?」

ライトがキクチの代わりに質問する。

「はい、そうなります。人体の細胞分裂の回数は決まっていると言われていますが、最効率化を行えば老化を抑えることが可能になります。シドやライトの使用した身体拡張ユニットにもその機能は標準的に備わっていますよ」

さらっと衝撃発言を行うイデア。

現文明での老衰による平均死亡年齢は95~115歳。

老衰で死ぬ人間など、大企業の役員クラスがほとんどの為サンプル数は非常に少ないが、キクチは誰かに殺されない限り200年以上生きる事になるということだろう。

シドやライトもユニットの効果により同じような効果が発揮されているらしい。

なかなかな衝撃発言に3人は固まってしまう。

「・・・・・・聞いてねーぞ?」

キクチは放心状態でそう呟く。

「承諾書に記載されていますよ?127ページ57行目です」

イデアはそういうとキクチが治療開始前にサインした承諾書を表示すると、そこには遺伝治療に対する効果が書かれており、寿命の延長に対する事もしっかりと記載されていた。

「・・・」

「この時代でも高額の回復薬を常時服用する高ランクワーカーには実年齢よりも遥かに若い肉体年齢を持つ者達がいるそうですね。これは回復薬に含まれるナノマシンが遺伝子レベルでの治療を行った結果であると推察できます」

確かにそういう話は聞いたことがある。

高ランクワーカーになればなるほど実年齢から考えれば若々しい見た目をしているものは多い。

その理由は精力的に動き回る仕事内容と、成功者特有の精神的な効果であるとの意見が多かったが、回復薬の効果だとは考えられていなかった。

「現文明の回復薬は旧文明のナノマシンを培養して構成されている様です。シド達の体内にあるナノマシンに類似した効果があるのは当然ではないかと思われますが」

現文明の製薬会社は、独自の回復薬を開発しようと躍起になっているがその進捗状況は芳しくないと聞く。

人体を構成する細胞や遺伝情報を修復するナノマシンの開発が遅々として進んでいないのが現状だった。

凶悪犯罪者を使った人体実験も行っているが、そうそう都合よく凶悪犯罪者が捕まる訳でもない。治験をしようにもその結果が悲惨な物になることが多く、一般人に対して行う事は全ての管理企業からきつく禁じられていた。


よって、回復薬を製造している製薬会社も、ワーカー向け等に販売している回復薬が真にどの様な効果を発揮するのかを完璧に把握はしていない。

使う側も、死ななければOKという大雑把な考えでいる為、科学的に良く分かっていなくとも飲めば助かるとなれば飲むのである。

人の命が様々な場所で消費されているこの世界でまかり通っている倫理観だった。


「・・・・回復薬の効果検証を進める様進言しておく・・・・」

キクチはなんとかそのセリフを口から押し出し、再度廊下を歩き始めた。

今までならこの時点で胸を押さえ、腹を抱えて蹲っていても可笑しくないのだが、セントラルとイデアの処置で鋼の心臓と胃を手に入れたキクチは耐えられることが出来た。


この治療(改造)の結果をゴンダバヤシに報告するかどうかを考えながらプールコーナーへ向かっていくキクチだった。




プールコーナーへたどり着くと、膝丈の水着を着こみ、プールサイドに豪華なビーチベットに横たわってトロピカルドリンクを飲んでいるゴンダバヤシが居た。

いつもは数人に囲まれているハズの彼が単独でのんびりしているの姿は非常にレアであったのだが、それを知る者はこの場にはいない。

年齢的には50を回っているはずだが、その体はかなり鍛えこまれている事が一目でわかる程隆起している。

シドは大企業の幹部でも戦う事があるのか?などと考えていた。


ゴンダバヤシは近づいて来る3人に気付くとドリンクが入ったグラスを掲げて声をかけてくる。

「お~~、キクチ。体調はどうだ?」

「はい、新品になったような気分です」

キクチはゴンダバヤシにそう言って笑顔を見せる。

「・・・・・そうか、それは何よりだったな」

ゴンダバヤシは一瞬探るような視線を見せたが、直ぐにいつもの豪快な笑顔で3人を迎える。

「そういやおっちゃん。デンベさん達は?」

いつもゴンダバヤシの傍にいるハズのデンベがいない事を不思議に思うシド。

「あ~、あいつらは流れるプールで泳いでるぞ」

ゴンダバヤシの言葉に、そちらの方向に目を向けるとプールを逆走しながら泳ぐ5人の姿が目に映る。

シドが泳いでいた時よりも速い流れに逆らいながら高速で上流に泳いでいくデンベ。

その後ろを追従していた4人だったか、1人は力尽きたのか流れに負けて下流へと流されていく。追いかけるようにドローンが飛んでいったので、あれが救助用のドローンなのだろう。

「全く・・・・こんな所まで来て鍛錬する必要ないだろうに・・・」

呆れたようにつぶやくゴンダバヤシ。

<発想がシドさんと一緒・・・・>

<性格は正反対の様ですが、思考は似ている様ですね>

ライトとイデアが抱えるデンベへの印象は脳筋で固定されたようだ。

「おっちゃんは泳がないのか?」

「もう一頻り楽しんだぞ?ウォータースライダーは面白かったな」

ガハハハ!と笑いながら感想を述べるゴンダバヤシ。


「さて、そろそろ夕食の時間だ。食事の前に入浴を済ませてきたらどうだ?」

シド達の前にセントラルが現れ、そう提案してくる。

「ふむ、風呂か。わかった」

ゴンダバヤシは立ち上がるとお供達に声を掛ける。

「おーいオメー等!風呂の準備が出来たってよ!入りに行くぞ!」

するとプールを一周してきたデンベは泳ぐ勢いに任せてプールから飛び出してくる。

空中で一回転したのちスタッと着地を決め、素早くゴンダバヤシの元に参じた。

「承知しました。お供します」

冷静に見えるが、先ほどまでの様子を見ると彼は彼なりに楽しんでいたらしい。

ゴンダバヤシの護衛筆頭を務めるデンベは、その立場に相応しく、正しく戦士として完成された体をしていた。

「他の奴らは?」

ゴンダバヤシがそういうと、流れるプールの方から残り4人を搬送してくるドローンが飛んで来る。

その様子を見たデンベは少し眉間を寄せると小言を言い始める。

「おいお前たち。上級兵でありながらなんて体たらくだ」

デンベはそう言うが、あのペースで泳いでいたら足の一つも攣って当然である。

「そう言うなって。ほらお前等。風呂に行くぞ」

「「「「はい・・・・」」」」

4人も立ち上がるとゴンダバヤシに付きしたがってセントラルに案内されていく。

「オメー等も来いよ。纏めて入った方が時間の節約になるだろ」

そういうゴンダバヤシはウキウキをいった感情を隠そうともしていない。

もう仕事とか喜多野マテリアルから与えられた役目等関係なしに全力で楽しむつもりのようだ。

「わかったー。ほら行こうぜキクチ」

シドはそう返事をするとゴンダバヤシの後ろをついて行き、イデアも追従する。

「・・・・・・・」

「・・・行きましょうキクチさん」

聞きしに勝るゴーイングマイウェイっぷりに開いた口が塞がらないキクチに、ライトは声をかけ行動を促すのであった。


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