少年ライト
前回登場した少年はだいたい15歳くらいの年齢で考えています
遺跡を後にし、都市に帰る為荒野を歩いている。
<シド、彼をどうするつもりですか?>
<ん?別にどうもしないけど>
<しかし彼は、遺物の在処を知っています。あの地下への階段を開けるのは難しいとは思いますが、不可能ではありません。それに、この情報がドーマファミリーとやらに伝わるのは避けた方がよいかと>
<そうなんだよな~・・・でも今から口封じってのは流石にやりたくない。ん~どうしたもんかな~>
シドは色々考えてみるが、いい案は思い浮かばない。
もう本人に聞いてみることにした。
「なあ、お前これからどうするんだ?」
「え?」
少年はいきなり話しかけられ困惑する。
「いや、これからどうすんのかと思ってさ。このまま組織の所に戻ったところで殺されるだけじゃないのか?」
「・・・・どう・・・すればいいですか?」
「俺に言われてもな・・・正直な所、このまま組織に帰らせてあの場所の事をばらされても困る」
「そうですよね・・・」
「そんで、俺はお前に黙っててくれって言って信用できるほどお人よしでもない」
「・・・・・」
「で?どうすんだ?」
「あの、ボクを雇ってもらえませんか?」
「ん?」
シドの足が止まり、少年に振り返る。
「ボクは情報系の機械と相性が良いみたいです。この情報収集機も組織じゃボクしか使えませんでしたし。遺跡探索にも力になれるかと・・・・」
少年の言葉がだんだん尻すぼみになっていく。
シドは少年を頭から足先まで眺めた。 どうみても遺跡探索が出来る様には見えない。自分も同じような体格だったが、イデアのおかげでかなり強化されている。そのお陰で遺跡探索が出来る様になったのだ。少年には無理がありすぎると考えた。
「無理だろ。索敵は任せられても、銃も打てないようなヤツを連れて遺跡になんか行けない」
「じゃあ、銃を貸してもらって・・・」
「この銃は無理だぞ。小型に見えるけど、反動はあいつ等が持ってた銃とは比べ物にならない。お前が撃ったら反動で腕がぶっ壊れるだろうよ」
「えっと・・・その・・・」
何もできないヤツを連れていけない。そういわれて少年は項垂れる。だがここで諦めたら、自分は野垂れ死ぬか組織に殺されるかの二択だ。
「足手まといにならない様頑張ります!荷物運びでもなんでもやりますので!お願いします!」
少年はシドに頭を下げ、願いでる。
「荷物運びね~・・・それじゃ、こいつを自由市にまで運べたら考えてやる」
シドは、背からバックパックを降ろし、少年に渡した。
バックパックを受け取った少年はその重さに驚く。両腕で受け取った際に危うく落としそうになった。だがシドは、それを片手で渡してきたのだ。自分とは根本的に体の力が違うのだろう。
少年は気合を入れてバックパックを背負う。これを運びきれなかったら、自分は死ぬ。大げさでもなんでもなく事実として。
「・・・大丈夫です。行きましょう」
「・・・いい根性だな。よし!帰るぞ」
もう太陽が地平線に隠れようとしている。
シド達は漸く自由市にまでたどり着いた。ここまで時間が掛かったのは、少年の歩みが非常に遅かったからである。
それもそのはず、重量操作機構が付いているとはいっても重さそのものが軽くなる訳ではない。重量は重量としてしっかり装備者に降りかかってくる。
大型のバックパックいっぱいに遺物が詰められているのだ。当然それなりの重量になる。
それを15歳前後の子供が担いで歩くのは重労働以外の何物でもない。
だがやり切った。少年は自由市まで遺物を運びきったのだった。
「おつかれさん」
シドは少年の背中から遺物を取り上げる。急に背中の重みが消え少年はたたらを踏んだ。
「ぜぇ ぜぇ ぜぇ ・・・これで・・・雇って貰えますか?」
「そうだな、前向きに考えるよ。それより先に遺物の換金だ。さっさと来い」
そういってシドは、ミスカ達のトラックまで歩いていく。
少年はぶっ倒れそうになる体に鞭を打って付いていった。
「まいどあり~」
ミスカは本日最後であろうお客を見送った。彼はシドがミスカに卸した遺物を買いに来た中小企業の社員だった。
あれから数日、口の堅い企業の担当者を見繕いメカ系の遺物を手に入れたと連絡を行った。一度に捌くと混乱が起きるのは目に見えており、企業毎に欲しがりそうな遺物を選別し小出しにして商談を行っていた。
そして今日、さっきのお客が最後の客。ようやく全ての遺物を捌ききったのであった。
「おわった~~~!あーしんど。儲けはでかいけど暫くはこないな事しと~ないわ~」
「おつかれさん。そんな事いうとると、またシドがぎょーさん持ち込んでくるで~」
「はっはっは。あないな量の遺物。そうそうある訳ないやん」
ミスカはガンスの言うことを笑い飛ばす。
「ほんじゃ今日はもう店じまいに・・・」
「すみませ~ん」
「・・・・・・・」
噂をすれば影が差す。ミスカはトラック後方の扉の方をみるとそこには・・・
「また遺物の買取お願いします」
シドが大型バックパックを持って立っていた。
「おっふ・・・・」
ポンっと肩に手を置かれる。そちらを見るとガンスが良い笑顔でこう言った。
「おつかれさん。ま、がんばれ」
サムズアップをし、トラックの上部へと消えていった。
シドはミスカにバックパックを渡し査定をお願いする。
バックパックを受け取ったミスカはいい笑顔で了承を示し奥へと消えていく。
心なしか笑顔が引きつっていたような気がするが気のせいだろう。
<遺物はこれでいいとして。コイツどうしようか?>
シドは足元に崩れ落ちて口から魂が覗いている少年の事をイデアに相談する。
<いいのではありませんか?暫くはトレーニングを中心に活動させ、ある程度体力が付いたら同行させればいいかと>
<それって何時までかかるんだよ・・・>
<・・・おそらくそれ程時間は掛からないかと。ある程度の投資は必要ですが、回収できる見込みはあります>
<その心は?>
<後で説明します。まずは彼と話をしてください>
「おい、お前・・・大丈夫か?」
「だ・・・大丈夫です」
「そうか、で お前名前なんていうんだ?」
「ライトです」
「んじゃ、ライト詳しい話は明日するとしてだな。今日は俺が泊ってる宿まで来い。飯くらい食わせてやるから」
「いいんですか!?やった!!」
「ああ、もうちょっとだから頑張れ」
「はい!」
<さて、今日金だけ受け取って帰ればいいかな?>
<そうですね。回復薬を購入してもいいと思います>
<回復薬?俺には必要ないよな?>
<ライト少年には必要かと。かなり無理をしてここまで来ていますので、筋肉組織の炎症を起こしていると思われます。それと、明日からのトレーニングでの超回復にも利用できます>
<なるほど、わかった・・・今回は幾らになるかな~>
<前回ほどは行かないと思いますよ。小物ばかりですし、もうあの場所には価値の高い遺物は少ないでしょう>
<そうだな~大体回収してきたしな~。次はもっと奥まで行ってみるか>
<それも選択肢に入れるべきですね>
「おーい、シドー 査定おわったで~」
「あ、はい。今行きます」
シドはライトをその場に残しトラックの奥にすすんだ。
「今回もぎょーさん持ってきたな~」
「はい、次からはそこまでにはならないと思いますけど」
「そうか~?なんかやらかしくれそうな気ーするけどな」
ミスカは笑ってそういう。
「んじゃ、今回は1400万コールってところやで、かまへんか?」
「はい、それでお願いします」
シドはライセンスを渡し振り込んでもらう。
「今回はなんも買ってかへんの?」
「いえ、回復薬を売ってもらえたらと思ってます」
「回復薬か・・・ちょっと待っといてや、持ってくるさかい」
ミスカはトラックの二階部分に上がっていく。
<なあ、回復薬って言ってもいろいろあるよな?どんなの買えばいいんだ?>
<一箱100万コール程度の物を3つ買っておけばしばらくは問題ないかと>
<結構な金額だな・・・>
<それだけの価値はあると思いますよ?情報系に相性がいいのなら、遺跡のシステムデータの回収などで活躍できそうです>
<それってイデアでも出来るよな?>
<できます。しかし、シドが単独で動いていると他者からはシドが自力で回収してきたと考えるでしょう。その場合どうしても不自然さがでてしまうと思います>
<それでアイツの出番って訳か>
<広範囲の情報収集機の扱いも出来るようですし、情報・索敵担当として雇うのは理にかなっています>
シドとイデアがライトの今後の扱いについて相談していると、ミスカが回復薬を持って降りてくる。
「ウチに置いてるんはこんなところやけど、どれにする?」
ミスカがカウンターの上に回復薬を置く。いろいろな種類があって、一番安い物で6万コール、高額の物で250万コールと言ったところだった。
「もっと高性能ってなると今うちにはおいてへんな~」
「いえ、これで十分です。この100万コールの物を3つお願いします」
「はいよ、まいどあり~」
シドは決済を済ませ、回復薬を受け取る。それを返却されたバックパックに入れ宿に帰ろうとした。すると
「うあぁぁぁ!」
外からライトの叫び声が聞こえた。
シドは急いでトラックの外にでる。そこには複数の男に囲まれ、引きずられていくライトの姿があった。
「おい、何やってんだテメー等」
シドは男たちに声をかける。
「あぁぁ?なんだお前は?」
「なんだはコッチのセリフだ。そいつは俺が雇ったんだ。勝手に連れて行こうとすんなよ」
「雇っただ~?バカ言うんじゃねー。コイツは俺らドーマファミリーの所有物なんだよ」
「所有物・・・?」
「そうだ、今まで飼ってやってたんだ。今更他所に行くなんざ許されるわけねーんだよ。関係ねぇ奴は黙ってろ」
ライトに目を向けると、その目は必死に助けを求めていた。
「いや無理だな。そいつは今後俺に協力してもらう」
シドはイデアの勧めもあり、ライトをこちらに引き入れることにした。それにこのままドーマファミリーの連中に連れていかれるのも都合が悪い。
ドーマファミリーとの潰し合い。その最悪の展開まで覚悟を決める。
「・・・はぁ~。てめ~、ドーマファミリーに喧嘩売ろうってのか?」
「いや、売って来たのはお前らの方だ。俺は買った側だな」
「はぁ?何言ってんだ?」
「お前らの組員が今日、遺跡で俺に絡んできたんだよ。そいつだけは使えそうだったんでな。生かして連れて帰って来たわけだ。だから、連れていかれたら困るんだよ」
「・・・・・・・・そうか、お前がシドか。ギースの奴等はどうした?」
「そういや名前聞いてなかったな。まぁ死んだ奴等の事はどうでもいいじゃないか」
「お前状況わかっていってんのか?それは俺たち、ドーマファミリーと敵対するってことだぞ」
「俺だって積極的に揉めたいわけじゃないんだぞ?でも、お前らのほうからかかってくるんだから仕方ないだろう?このままライトを放して帰れ。そして二度と関わるな。それでお前らは死なずに済むし、俺も無駄弾を撃たずに済む」
「シド・・・俺の名前はキサラギって言うんだ・・・」
「ん?急に自己紹介か?」
「ああ、自分を殺した相手の名前くらいは知っておきたいだろう?」
そういうとキサラギは大振りのナイフを抜いてこちらを見据える。そして周りの奴等も、ライトを掴んでいるヤツ以外は全員得物を持ち、シドを半円で囲んできた。
全部で15。流石に自由市で対モンスター用の銃を撃つわけにはいかない。とは言え剣で切っても血がまき散らされて掃除が大変そうだ。
シドは、彼ら全員を素手でぶちのめす事にした。
<イデア、全力で殴ったらあいつ等死ぬかな?>
<はい、今のシドが全力で殴れば確実に死にます>
シドはこの後、ドーマファミリーまでの案内役として、キサラギだけは生かし他は死んでもかまわないくらいの積りで攻撃しようと考えた。
別に合図があった訳でもなく、キサラギがナイフを構え突っ込んできた。他の男たちもそれに続き襲い掛かってくる。
シドは落ち着いて迎え撃つ。ラクーンの突進と比べればなんのプレッシャーも感じない。突き出されたナイフを左手で逸らし、キサラギの顔面に右拳を叩きつける。キサラギはその衝撃で後ろ向きに一回転して地面に崩れ落ちた。
ここからは特に加減をする必要はない。シドは遠慮なく男たちを叩きのめした。
ある者は首を蹴り砕かれ、ある者は掌底で内臓を破壊され、吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
物の十数秒で一方的な暴力が終わり、立っているのはシドとライトを掴んでいる男だけだった。
「おい、ライトを放して消えろ」
男はそう言われ、ライトから手を離すと大慌てで逃げていった。
「シドさん・・・」
「ライト、とりあえずお前は今から俺のパートナーだ。まともに仕事が出来るように成ってもらう」
「は・・・はい!頑張ります」
ライトは足が笑い立ち上がれなかったが、しっかりとシドの目を見て返事を返す。
「俺は用事ができた。これ飲んでじっとしてろ」
そういい、ライトに回復薬を一箱投げ渡す。そして振り返り
「ミスカさん、料金払いますんでコイツ。今晩だけ面倒見てもらえませんか?」
ミスカにそう問いかけた。
「ええよ。ちゃんと明日には回収しにきてや?」
「はい、8時くらいには迎えに来ます。そんな訳で、ライト、お前はミスカさんの所にいてくれ。俺はあいつらと話を付けてくる」
シドは少しミスカと話したあと、14人の死体を一纏めに括り、キサラギと一緒に引きずって運んでいった。
シドは昔からドーマファミリーの構成員に稼ぎを奪われたり暴力の的になった経験があり、良い感情は一切もっていません。
よっとちょっと極端な選択をしがちです。
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