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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
13/202

襲撃者再び スラムの住人

宿に戻り、シドとイデアは本日購入した装備の微調整を行っていた。


主に調整するのはKARASAWA A60の弾丸選択装置である。切り替えは手動での切り替えか情報収集機と連携させ、使用者が今撃ちたい銃弾を選択できるようになっているのだが、イデアはその機能を、シドの情報収集器官と接続し、シドの意思一つで切り替えが可能なように調整を行っていた。


説明を聞いたシドは

(あいかわらず、なんでもありだな・・・)

と旧文明の技術力の高さに感心する。


<そういやさ、このKARASAWAってイデアのデータにあったってどういう事だ?>

<旧文明に似たようなハンドガンがあったのです。主に警備会社などが携帯する暴徒鎮圧用の装備ですね。今日遺物を持って帰ったあの警備会社にあるのではと期待していたのですが、全て持ち出されてしまっていました>

<あ~なるほど。それで仕方なく双剣にしたって感じか?>

<はい、その通りです>

<明日は銃を使っての遺跡探索か?>

<いいえ、シドには基本的な射撃の知識しかインストールしていません。なので、まずは射撃訓練から始めたいと思います>

<ほう、訓練か>

<まずは最大有効射程の600m離れた動かない的に、正確に命中させられる様に訓練しましょう>

<わかった。話では扱いにくそうな銃だったからな。しっかり訓練しないと遺跡に行くのは危険か>

<はい、ハンドガンの訓練が終わったら、スナイパーライフルの訓練も行いましょう>

<そうだな。よろしく頼むよ>

<はい、お任せください>




次の日、シドは荒野で射撃訓練をおこなっていた。


ハンドガンを両手で持ち、イデアが表示しているターゲットマーク内の石に当てる訓練だ。

他のハンターが使い物にならないと言っている通りに、一発撃つごとに凄まじい反動がある。

最初の一発目を撃った時は、後ろに吹っ飛びこそしなかったが、両腕が跳ね上がり上体が起き上がってしまった。当然打ち出された弾丸は全く違う方向に飛んでいき、彼方へ消えていった。

あのクソザコ銃とは、比べ物にならない威力を持っていることは疑いようがない。

シドはインストールされた知識を引っ張り出し、正しい射撃姿勢を取る。イデアが神経を操作し、姿勢の微調整を行いながら訓練を続けていた。

午前中ひたすら打ち続け、なんとか600m先の目標に当てられるようになった。

だが、まだまだ精度は粗く、10発撃って3発当たるかどうかと言った具合だ。

イデアからは、まだ実践では使えませんねと言われてしまった。


一旦休憩しようと、昼食を取る。


<唐沢重工はなんでこんな銃作ったんだろうな?>

<自分達で旧文明製に匹敵する物を作り出したかったのでは?>

<いや、それでも試作した段階でボツ案件じゃないか?>

<ロマンを追い求めたのでしょう>

<・・・・それでも使い手がいなきゃ意味ないだろ・・・・>

<それでも、旧文明製よりも機能としては優れています。3種の弾頭に対応し、任意で切り替え可能とは・・・なかなか優秀な技術を持つ企業の様です>


意外にイデアからは高評価の唐沢重工。

趣味と仕事が混同し、さまざまなキワモノ製品をリリースするこの企業は、ワーカー達からは両極端な評価を受ける企業だった。

ピーキー過ぎる製品に、こんな物を待っていた!と、こんなもん使えるか!との意見に真っ二つに割れている。

シドとしてはどっちかと言うと、こんなもん使えるか!派なのだが、買ってしまったものは仕方がない。使いこなせるように訓練に励むしかなかった。


一日中撃ちまくり、両手の感覚が無くなってきた辺りで本日の訓練は終了する。


宿へ戻り、疲労した体を回復させる為食事をとる。


本日のメニューは揚げ鳥定食。


骨付きモモ肉を豪快に揚げたもの・山盛りサラダ・コーンスープ・そして山盛りの白米。

皮がパリッパリに揚げられジューシーな鶏モモ肉に齧り付き。肉を食いちぎる。皮の食感と肉の食感の二重奏を、シドは目を瞑り堪能した。

白米をかっこみ、鳥の油との共演を楽しみ、サラダに手を付ける。

サラダは細切りにされた人参・角切りにされカリッと揚げられたポテト・ちぎったレタス・スライスしたトマト、それにピリリと辛いドレッシングが掛けられ、食欲がさらに加速する。

コーンスープは優しい甘さと柔らかい風味で暴走気味の食欲を宥めてくれる。


シドは本日も、素晴らしい食事を提供してくれた宿と料理人に感謝をささげ、3セット完食した後、部屋に戻り就寝した。




ここ数日、シドは毎日射撃訓練を行っていた。


最初の頃は両手で保持しないと満足に命中させることが出来なかったが、今では片手持ちで600m先の石に当てられるようになっていた。


<ようやく満足の行く命中率になりましたね>

<ああ、最初はどうなるかと思ったけどな・・・>


これは、毎日の訓練で体を酷使し、十分な栄養を補給した結果。体内の治療ナノマシンが、今の負荷に耐えられる様に体を治療した効果が出てきたのだ。

腕のみならず、全身の筋肉が鍛えられ、KARASAWA A60が放つ反動を吸収し、抑え込めるようになってきたのである。


<これでようやく遺跡に・・>

<次は2丁持ちでの射撃ですね。それが出来る様になれば動体に対する訓練です>

<・・・・・>

シドの思惑を遮り、イデアは更なる訓練を課そうとする。

<でも、そろそろ稼いだ方がいいんじゃないか?>

<まだ資金には余裕があります。昨日宿も延長しましたし、十全に動けるようしっかり訓練しましょう。訓練で動けても、実践で動けるかはまた違いますので>

<・・・・そうですね>



この後、両手に銃を持ちひたすら射撃訓練を行う。右手と左手の命中率にかなり差がでており、それを矯正できるまで訓練はつづくのであった。



さらに訓練を続け、両手で満足のいく命中率に達したシドは、ようやく遺跡探索に繰り出したのだった。


前回と同様、あの元警備会社の遺物を回収しようと遺跡の中を進んでいく。


すると道中に5体のラクーンがいた。よく見ると食事中である。ラクーンに負けた哀れなワーカーが彼らの糧となっていた。

<さて、銃を使っての初戦闘だな>

<はい、まあ相手はラクーンですので、気負わずに行きましょう>


シドは瓦礫の影から飛び出し、両手の銃でラクーンに狙いをつける。

大口径から発射された弾丸は正確にラクーンの頭に大穴を開けた。他の3体も同じように射撃する。

全て狙い通りの場所に弾丸を打ち込み、満足の行く結果となった。


<お~、石ころ撃っても威力はわからなかったけど。こりゃスゲーな>

<はい、一発一発がMKライフルと変わらない威力の様です>




シドはいつもの所で遺物を集め終わり、建物から出ようとした所で、空間把握に人の気配を見つける。

<・・・・こりゃ~・・・>

<囲まれてますね>


シドは意識して範囲を広げると、確実にこちらを包囲している集団を見つけた。

<つけられてたって事か・・・>

<そのようですね。かなりの広範囲を索敵できる情報収集機を所持している様です>

<目的は遺物か・・・>

<恐らくは・・・如何しますか?>

<相手の出方しだいだな・・・たぶんスラム街の連中だろうけど>

<浅層とはいえ、遺跡の中に入ってくるのです。それなりの戦闘能力を持っていると思われます。注意してください>

<そうだな、もしもの時はよろしくな>

<はい、サポートはお任せください。全員のマーキングは終わっています>

頼もしい限りだ。シドはそう思いながら、建物から出て相手と接触する。

建物から出ると、シドの足元に銃弾が撃ち込まれた。そちらに目を向けると見知った相手を見つける。

「動くなシド。銃を捨ててこっちに来い」

それは以前シドが住んでいたエリアを縄張りとしていた組織の構成員だった。

「何の用だ?」

「聞こえなかったのか?銃を捨てろって言ったんだよ」

「遺跡のなかでそんな事できるか」

「お前の都合なんざ関係ね~んだよ。ハチの巣にされたくなかったら言う通りにしろ」

男がそういうと、周りを取り囲んでいた連中が姿を見せる。気配を感じるのは11人、姿を見せたのは10人、もう一人は少し離れた場所に隠れたままだった。

シドは周りの男たちを見渡す。全員がニヤつき、シドを見下しているのは明らかだった。

隠れている一人を除き、全ての人間にターゲットマークが表示されているのを確認した後、シドは思考を完全に戦闘モードに切り替えた。そして問う。

「で?何の用だ?」

男は舌打ちし用件を告げる。

「お前が持ってる遺物だよ。組織への上納金が滞納してるからな」

「俺はお前らの組織に所属してるってわけじゃない。上納する理由なんてないだろう?」

「バカなこと言ってんじゃね~よ。お前が今まで生きて来れたのは、俺たちがシマを守ってたからだろうが」

「俺はお前らに守ってもらった事なんてない。稼いだ金を取られたことはあったけどな」

「それが上納金だっつってんだよ。最近羽振りがいいのは知ってんだ。どんな手使ったのかしらねーが、きちんと払うもんは払って貰わねーとな」

「断る」

「・・・・そうか。んじゃ、俺たちへの反逆と見なして処刑だ。やれ」

男がそういった瞬間。周りの男たちが銃を構える前にシドが攻撃する。時間圧縮を最大限まで高め、リーダー以外の人間に狙いを付けて発砲する。

両手のハンドガンの連射機能を使用し、一人一発づつ胴体に着弾させる。

モンスターの頭すら貫通する弾丸に撃ち抜かれ、全員胴体を千切れさせ吹き飛んでいく。

時間にして一秒未満、打ち出された弾丸を全て命中させ、意図的に撃たなかったリーダーに銃を向ける。

リーダーの男は仲間が瞬殺され、何が起きたのか分からなかった。だが、シドがこちらを銃で狙っているのを見て、慌てて銃を構える。

しかし、シドが撃った弾丸が銃に当たり、それを持っていた両手毎吹き飛ばした。その衝撃で男も飛ばされ、両腕を失った激痛でのたうち回る。

「ぎゃああああ~~~!!!」

こんなはずは無い。あいつはつい一ケ月くらい前までは、搾取される側の屑鉄拾いだったはずだ。なぜ、こんな事ができるのか。混乱する頭で考えるが、激痛で頭が回らない。

あまりの痛みに蹲り、傷を手で押さえようとするが、両腕が肘先から無くなっているためそれもままならない。

両腕から血が噴き出し、男は自分の命が短いことを悟る。

「おい」

シドに呼びかけられ、そちらに目を向ける。

「これはお前の独断か?それとも組織からの命令か?」

「・・・・・クソが・・・ドーマファミリーに喧嘩売ってただで済むと思うなよ・・・」

「俺の質問に答えろ。どっちだ」

「せいぜい怯えて暮らせ!!!テメーは見せしめの為にバラバラにされるだろうよ!!!」

「・・・そうか」

シドは男の頭を撃ち、止めを刺す。

頭を失った体は地面に倒れ、痙攣すると動かなくなる。その体は自ら流した血だまりの中に沈んでいった。


<あと一人だな>

<はい、この人物は最初から動いていませんね>

<行ってみればわかるさ>


別視点


少年は瓦礫の隙間に身を潜め、情報収集機を凝視していた。

おそらくは、シドより年下であろうか。明るい茶髪の髪を目元まで伸ばし、体は小さく十分な栄養が取れていないことを見て取れる。彼は、ドーマファミリーの下っ端として拾われ。今日まで飼われていたのだ。

情報系の装置と相性が良く、その操作能力を買われて今まで生きて来られたのである。

彼がここに連れてこられた理由も、広範囲の情報収集機を扱える人間が組織に居なかったからだ。


シドが随分稼いでいるとの情報を仕入れた組織は、あのリーダーの男に命じてシドの稼ぎを奪う事にした。

しかし、シドは基本ワーカー達の泊まる宿に滞在していて、そこを襲撃するのは無謀であった。

そこで、シドが遺跡探索に出向く際に捕まえて締め上げるつもりだった。

広い遺跡でシドを見つけるのは人力では無理がある。しかし、情報収集機があれば話は変わる。組織から広範囲の情報収集機を借り、シドを発見する為、収集機を扱う要員として連れてこられたのだった。

いくら組織の戦闘員が10名参加するとはいえ、危険な遺跡になど行きたくない。だが断れば、彼が頷くまで物理的な説得をして来るのは想像に難くない。

そういった理由が有り、彼は半ば強制的に今回の襲撃に参加していた。


最初はシドを見つけ、順調に彼が入っていった建物を包囲できたのだが、シドが再度姿を現し、リーダーとの交渉が決裂すると、思いもよらない事態が起こる。


情報収集機から送られてくる情報から、ほぼ一瞬で9人の生体反応が消えた。


唖然とし、情報収集機を注視する。するとリーダーが吹き飛び、その近くまでシドが移動していく。

おそらく話をしているのだろう。しばらくそのまま動かなかったが、リーダーの生体反応が消えた。


全滅した。


今自分は危険な遺跡に丸腰で一人きり。生還は絶望的である。なにも考えられなくなり、ただ情報収集機を見つめる。

すると、シドがこちらに真っすぐ向かってきた。

人の移動する速さじゃない。とっさに逃げようとするが、遅かった。

瓦礫の隙間から這い出て、立ち上がろうとしたら目の前にシドが銃をこちらに向け立っていた。


シド視点


<なんだコイツ>

<情報収集機を持っています。彼が索敵要員だったのでしょう>

「おい、お前。あいつ等の仲間か?」

シドは分かり切ったことを聞く。

「ぁぅ・・・・ぁ・・・・その・・・」

「もう一度だけ聞くぞ。あいつ等の仲間か?」

最後通牒だった。しかし、仲間だと言っても同じ運命を辿るだけ。少年は頭をフル回転させ嘘にならない様返答する。

「あいつ等に連れてこられました・・・・」

「なぜ?」

「・・・・・ボクしかコレを扱えなかったからです・・・・」

少年はシドに情報収集機を見せる。

「・・・・」

ぱっと見少年に脅威は無いように思う。体は貧弱そうで丸腰だ。

放置しても問題ないが、ここに置いていくと確実に死んでしまう。それがどうしたと思わないでもないが、無理やり連れて来られ、モンスターに食い殺されるのは少々同情してしまう。

「・・・自分の意思であいつ等についてきた訳じゃないんだな?」

「・・・・!はい!それはもちろん!」

少年は、生き残れそうな気配を感じ、細い蜘蛛の糸に縋りつく。

「俺の遺物を横取りしようとは思ってないな?」

「ないない!ないです!」

「・・・・そうか。わかった。とりあえず。ここで殺すのは止めておく」

少年は安堵の息を吐き、全身の力が抜け崩れ落ちた。

「言っとくけど、妙な真似したら速攻でぶっ殺すぞ」

「は!はい!」


少年はハッキリ返事をし、妙な真似は起こさないと誓った。


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