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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
11/200

行商人の紹介

シド達は都市の第三区画まで帰って来た。

ビルからすればやっとの思いで生還した心地である。


「よし、さっそくワーカーオフィスで契約を結んでしまうか」

「そうだな・・・それってどうやるんだ?」

「ん?知らないのか?オフィスの総合受付で登録してくれるんだよ。ま、お互いの約束事をワーカーオフィスが確認して保証人になるって感じだな。破るとえれー事になるって話だ」

「へ~、じゃオフィスの総合受付だな。とっとと行くぞ」

「了解」

ビルは帰り道、ある程度シドと会話を行い、シドの人物像を固めていた。

それほど長い会話があった訳ではないが、[理不尽な感じでは無く、不義理さえ働かなければいきなり殺しに来ることは無い]程度の理解までは進んでいた。

不必要にビクつく必要はないが、積極的に関わりたいとも思わない。そんな相手として認識した。


二人はそのままワーカーオフィスまで行き、契約を交わす。内容は

1.ビルは不必要にシドに干渉しないこと。

2.今後はシドの指示を最優先に行動すること。

3.シドは今回のいざこざに関して上記の内容以外の要求をビルに行わないこと。


と簡単な契約書を作成。ワーカーオフィスを通した正式な契約として登録した。

商人の紹介に関しては契約書には書かなかった。それに関してはワーカーオフィスからすると面白くない内容だからだ。イデアの助言で、契約内容から省かれる形となったが、契約内容の2.の部分で問題ないと判断された。ビルもその約束を破るつもりなどない。身体拡張者に付け狙われるなどごめんである。


ワーカーオフィスを後にしてシドが声を上げる。


「よし、次は商人の紹介だな。どこにいるんだ?」

「ちょっと待ってくれ。今は無理だ」

「・・・・・・・」

シドがジト目でビルを睨む。

「待て待て、紹介はするよ。そういう約束だからな。でも今は無理だ、あいつがこの辺りに居ないんだよ」

「どういうことだ?」

「この辺りでワーカー相手に商売してるヤツってのは全部行商人だ。ここいらで買った物を他所に持って行って売りさばいてる。その利益で他の都市の物を買い込んでくる。そしてそれらの商品をこの都市のワーカーに売ってを繰り返すんだよ。だから今は別の都市に行っててこの辺りにはいねーんだ」

「なるほど、それじゃーそいつはいつ頃此処に帰ってくるんだ?」

「この前もらった連絡内容だと3日後だったな。何もなかったらそれくらいだろう」

「3日か・・・それなら連絡先を交換しておくか。そいつが帰ってきたら連絡をくれ」

「わかった。それでいいのか?」

「これから3日も見張ってるわけにはいかないからな。それで逃げられたら・・・まあその時に考えるよ」

「あいつを紹介するのを嫌がってバックレる事なんかしねーよ。・・・それじゃ、また連絡する」


そう言ってビルはその場を離れて行った。


シドも今日の疲れを癒すために宿に戻る。


疲れを癒すためには肉がいい!ということで、今まで碌に食べたことのない肉を注文する。


本日はステーキセット。ぶ厚い肉を豪快に鉄板で焼き上げた逸品、スープは飴色玉ねぎを使用したコンソメスープ。そしてもはや何も言わずとも付いて来る、つやっつやの白米。それを今日は最初から2セット頼む。

全てが揃い、準備が整った。


それでは今日も・・・・いただきます!!!


シドはステーキセットを3つ平らげた後、満足そうに部屋を戻っていった。


本日もとても美味しかったです。料理人の方々ありがとうございます。


入浴中に寝落ちして溺れ死にしそうになった所をイデアにたたき起こされるという何とも締らない最後でシドの一日は終わった。





翌日、シドは情報端末を睨みつけ唸っていた。


今朝イデアと今日の予定を決めるべく話していたのだが、金銭に余裕があることからビルの言っていた商人がダゴラ都市に帰ってくるまで、勉強をしようと言う話になった。


シドは文字が読めない。


数字くらいは読めるのだが、文章になるとサッパリ分からなかった。これからワーカーとして生きていくなら、契約書の内容くらいは自分で読めて判断しなければならない。


そういった事から、イデアの監修の元、情報端末に教育資料をダウンロードし文字の勉強を行っていた。


防壁内の子供が使う教材で、使用される文字と文法等が書かれており、取り合えずこれさえ理解できれば日常生活は問題ないと評価されている物をイデアは選定していた。


<手で書きながら覚えた方が頭に入りやすいと言われていますよ>


そういい、ノートとペンを視界内に表示する。

この時代、紙に手で書くなんてことはほぼなく、データに残したくない秘密のメモなどに使われ、あまり一般的ではない。その為、紙やペンなどはほとんど手に入らないのだ。

よって拡張視界の中にそれらしく表示し、それに書く という手段をとっていた。


<けっこう難しいな>

<文章を音読し、その言葉を文字で書いてください。そうすれば自然と覚えられます>


何も一日で覚える必要はない。時間はいくらでもあるのだ。イデアはそれくらいの感覚で取り組んでいたが、シドは昨日ビルとの契約の際、言葉では理解できていても、文章で表示されると何が何だか全く理解できなかった事に少し焦りを覚えていた。


<とりあえず文字くらいは読めないとな・・・何時足元を掬われるかわからない>

<重要な内容は私が読み上げますから、そこまで焦る必要はありません。しかし、シド自身が読み書きを習得することは大事でしょう。ゆっくりとでも良いので理解を深めて下さい>

<わかった>


こうして3日間の集中教育が実施され、シドは一般教養を少しずつ修めていった。




それから3日が過ぎ、いい加減シドの頭がショートしそうになっている時、情報端末が鳴りビルから連絡がはいる。

『よう、シド。今大丈夫か?』

「ああ、大丈夫だ。・・・商人が帰って来たのか?」

『ああ、今日の14時にこの都市で店を開くそうだ』

「14時だな。わかった。何処に行けばいい?」

『都市の防壁、東門付近の広場だ。そこは行商人が自由市を開く場所なんだが、そこに出店するらしい』

「東門の広場・・・わかったそこに行けばいいんだな?」

『そうだ。到着したらまた連絡をくれ。顔つなぎをするからな』

「了解。じゃ、14時に東門で」


そういい、シドは端末を置く。

今から昼食を食べて向かえば、大体それくらいの時間には東門につくだろう。


<よし、勉強終わり!飯食って向かおうか>

<そうですね。その商人が信用出来そうな相手なら、遺物を売って装備を買いそろえましょう>

<楽しみだな!!>


シドは少し浮かれながら宿の食堂に向かった。




時間は13時50分。

シドは昼食をすませ、東門付近にある広場に来ていた。

そこにスラム街の屋台といった店舗形式ではなく、大型トラックをそのまま店舗として利用してるようだった。


たまに荒野の遠くを走っているのを見かけていたが、近くで見ると本当に大きい。

荒野を駆けまわる為、屋根の上に機銃が取り付けられているのは基本として、グレネードや迫撃砲の砲身が付いている物もあった。

モンスターや野盗対策らしい。この辺りの荒野は比較的安全だが、東の方にいくと野放しの遺跡などが多くなり、強いモンスターが徘徊している事もあるようだ。

そのトラックの周りで商人達がワーカーを相手に商売をしている。


「ほ~~・・・これはなかなか・・・」

<シド、ぼうっとしていないでビルに連絡を取りましょう>

<わかった>

情報端末を取り出し、ビルに連絡をいれる。

場所の共有を行い、ビルが居る場所が表示され、その場所までシドは歩いていく。


「よう、来たな」

「ビル。ちゃんと連絡くれてほっとしたよ」

「そりゃーな。怒り狂ったお前に追い掛け回されるのはごめんだ」


ビルはダークグリーンにカラーリングされた大型トラックの前に立っていた。

その隣に立っている少し小柄な女性が声をかけてくる。


「まいど~。君がウチと取引したいって言うワーカーさんかいな」


彼女は赤髪で身長160cm前後で、ほっそりした体型をしている。

目はクリっと大きく愛嬌のある美人といった風体だった


「シドと言います。宜しくお願いします」

「ほほ~ぅ。ワーカーにしては可愛らしい顔してるんやね。なんやもったいないな~。ウチのトラックに乗らへん?」

彼女は冗談っぽくそう勧誘してくる。

「ええ~っと・・・」

「おいミスカ。冗談はほどほどにしとけ。コイツ見かけによらず結構すげーんだぞ?」

「あ~見かけに騙されて襲い掛かったんやっけ?」

彼女、ミスカは笑いながらビルにそういった。

「ちげーよ。ワッカのバカが欲に目を眩ませて先走りやがったんだよ」

「はっはっは!よ~生きとったなホンマに。でもま、あんたがヘタこいたおかげでウチは商売相手が増えたんやから感謝しといたるわ(笑)」

「笑いごとじゃなかったんだよ、コッチは(ボソ)」

「あの~、それで、遺物の買い取りとかして貰えるんですか?」

「あ~はいはい、やっとりますよ。だいたいのモンは買い取れるで?」

「装備の取り扱いとかは・・・」

「それもやってるで。銃・防護服・パワードスーツ・その他の備品に回復薬に、弾薬も大体の種類には対応しとるよ。乗り物系はちょっと他の商売仲間に手~回さんとあかんから時間かかるけど」

「なるほど・・・」

シドは商売人特有の笑顔を見つめ、その内心を探ろうとするが、流石は都市を跨いで商売する商人だ。

上手く取り繕われ、内心が見えない。

「ライセンスでの支払いは可能ですか?」

「出来るで。ワーカーさん相手やったら、ライセンスからの引き落としは基本やからな~」

「わかりました。とりあえずバックパックをお願いします。予算は15万までで」

「お!早速やね♪了解。ちょっとまっといてや~」


そういうとミスカはトラックの中に入っていった。

「・・・女の商売人なんだな。なんとなく、おっさんだと思ってたんだけど」

「まぁ、行商人で女ってのはめずらしいな。でもよ、女だてらに荒野を駆けまわってんだ。そんじょそこらのヤツよりヤリ手だぞ。どうだ?気に入ったか?」

「まだわからんな。何回か取引してからって感じだよ」

「ま、そりゃそうだな。とりあえずお前との契約はこれで完了したと思っていいか?」

「ああ、助かったよ。まぁ・・なんか用事が出来たら連絡するさ」

「はいよ。基本俺からアンタには繋げねーから、何事もない事を祈ってるよ。んじゃ、俺は行くぜ。後はそっちでやり取りしてくれ」

「わかった。じゃーな」

「ん」

そういってビルは自由市のトラックの合間あいまを抜け消えていった。


「お待ちど~さん。これでどないや?」

ミスカが持ってきたのは、前回シドが持っていたものと同じ大きさのバックパックだった。

「なかなかええ品やで?カスタムパーツを追加したらもっと便利になっていくねん。長年使える優れモンや」

前の物と同様に、装備者の動きに合わせて、衝撃を逃がしてくれる機能もありカスタムパーツを取り付ければマガジンに弾薬を自動補給してくれる機能などを追加できるタイプの物だった。


「いいな。これがいい」

「おっしゃ、まいどあり~。お代は初回特典でちょいオマケして14万8000コールでどないや?」

シドは即OKを出し、ミスカにライセンスを渡す。ミスカは機械にライセンスを読み込ませ、支払いが完了したことを確認すると、シドにライセンスを返却する。

「んで。遺物の買い取りはどうすんの?」

「今はないのでまた持ってきます。いつまでここにいるんですか?」

「ん~、不定期やねんな~。コード交換しとこか。ウチがここから離れる時と戻って来る時の連絡入れるわ」

「そうですね、お願いします」


シドとミスカは情報端末の連絡コードを交換する。


「でも、なんでウチに遺物おろすん?オフィスに売らんとランクあがらんやろ?確かにウチ等に売った方が値段は上がるけどさ」

「・・・・まぁ、ちょっと事情がありまして・・・」

「ふ~ん、まええわ。聞かんとく。妙な詮索はマナー違反やしな~」

「ありがとうございます。また、2.3日の間には来ますんで、その時は買い取りお願いします」

「はいは~い。今後共ご贔屓に~」


ミスカは手を振ってシドを見送った。



ミスカ視点


ミスカはシドを見送り、トラックの中で今日の売り上げを計算していた。

今のところは順調に売り上げを伸ばしている。

わざわざ危険な東部の都市まで仕入れに行った甲斐があったというものだ。


防壁内のワーカー達にも売れる商品を買い揃え、意気揚々とダゴラ都市に着いたのは昨日の事。

懇意にしているワーカー達に連絡を取り、取引を行う準備をしている所にビルから連絡が入った。

ビルは第三区画出身のワーカーで、ひょんなことから取引をする様になっていた。

だいたいは安価な回復薬や弾丸を売るくらいだったが、前回の取引ではそこそこの値段の情報収集機を購入していった。

なかなか堅実な探索をしている様で、もしかしたら常連として付き合いが長くなるかもと思っているワーカーである。

次はどんな取引の話かと思い通話にでると、相方が遺跡で、もめ事を起こし殺されたと言うのだ。しかも相手に見逃して貰うために自分を紹介したいと言っている。

なかなかの爆弾話を持ち込んでくれたものだと思ったが、詳しく話を聞いていると興味が湧いてきた。


相手はまだ子供のワーカーで、おそらく身体拡張者であり、ワーカーオフィスに大量の遺物を持ち込んで職員ともめていたと言っている。

そのせいで、ワーカーオフィスでの遺物の換金や、装備の補充ができずにいるのでは無いかと言う情報を聞いたのだった。


子供で身体拡張者。大量の遺物を持ち込む。この時点で普通では無い。

防壁内のボンボンがワーカーとして活動する際に、身体拡張やサイバネティックを施すという話も聞いたことはあるが、スラム出身であると言う事を加味すると普通はありえない。


これは何かある。というか儲けの匂いがする。


今日、直接会ってその予感は確信に変わった。

バックパックの購入予算が15万コール。ランク10以下のワーカーがポンと出せる金額ではない。

そして何の気負いもなく、2.3日の間に遺物を持ち込むと言ったのだ。


彼には絶対何かがある。

今は防壁内に行っている相方にも、ちゃんとこの情報を共有しておかないと。

誠実な取引を行って贔屓にしてもらおう。遺物を売ってもらってオイシイ、装備を買って貰って二度オイシイ。

そんな間柄になれれば更に私たちは大きく成れる。そんな予感がする。


降って湧いた儲け話にミスカは顔を緩ませるのだった。


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