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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
101/207

遺跡探索実戦訓練 決定

ヤシロが訓練に参加した日から1週間が経った。

レオナもギルドに帰らねばならないという事で、リン・フォワードだけを残し、2人揃ってギルドに帰っていった。


高負荷の訓練と高ランクの回復薬、そして宿での食事の効果でリンは目覚ましい成長を見せる。

最初の頃はワーカー志望組・スラム組と一緒に訓練していたが、4日後からはワーカー組で訓練を受けるようになっていた。

体力もかなり上昇しており、今はワーカー組と車座になって食事を取っている。

この後の戦闘訓練はシドが担当することになっており、全員が如何に生き延びるかの相談に余念がない。


ヤシロの体験参加後、シドとライトが交互に戦闘訓練を受け持っており、この9人はライトが相手の場合は何とか食らいついていける所までの成長を見せていた。

当然ライトも成長し、エネルギーシールドで銃を保持する方法も上達してきており、まだ倒すところまでは至っていない。

しかし、全滅する事は少なくなってきており、ファーレン遺跡の中層なら問題なく活動できるくらいのレベルには十分達している。


<この様子なら一日休暇を取って遺跡に向かってもいいと思います>

<そうだな、訓練の最後には実戦も行うべきだな>

シドはそう思いながら素人組の方を見る。

<ライト、そっちのメンバーはどんな感じだ?>

<そうだね、油断さえしなかったら浅層くらい行けると思うよ。引率は必要だと思うけどね>

<それはそうだろう。あくまで訓練の一環だからな>

<一度全員を複数のチームに分けて遺跡に向かいましょう。失敗と成功の体験をさせればさらに能力向上が見込めます>

<わかった、後でキクチにも連絡入れとくよ>



午後2時になり、いつもと同じように戦闘訓練が開始される。

ワーカー組は慣れたように岩場に駆け込んでいき、それぞれがシドを迎え撃つためにポジションについていく。

<リンさんもだいぶ板についたよな>

<そうですね。センスは悪くありません>

10分が経ち、シドは9人を撃破する為、岩場の中に駆け込んでいく。


「動いたよ!」

ユキが情報収集機で全員にシドが動いたことを知らせる。

「「「「「「「「了解!」」」」」」」」

この3週間、毎日過酷な戦闘訓練を繰り返してきたメンバーは個々の練度と一緒に連携も強化されていた。途中参加のリンも彼らの行動に合わせられるようになって来ており、足手まといになることは無い。

何時も通りに高速で突っ込んでくるシドの反応を睨み付け、全員が銃を握りしめた。

シーカーのユキを司令塔として動き、目に付けたコンタクト型ディスプレイに表示される作戦通りに行動を開始する。

今回のシドは左側に配置されている人員から狙っていく方針の様だ。

ユキはシドの動きを見て、全員に指示を送る。両サイド中央に移動能力に長けたラインハルトとミリーを配置し、前面には耐久力の高いタカヤとキサラギ。後方にはバランス型のアズミとアリア。中央に自分とサポート役のリンを配置していた。

これならシドがどこを狙っても迅速に対応が可能になる。

まずはキサラギから狙ったシドを包囲する為、タカヤにキサラギのフォローを指示し、ラインハルトとミリーにシドの背後に回り込む指示を出す。アズミとアリアは直進的にシドの元に向かわせ、シドの隙を見てスナイパーライフルを持たせたリンが狙撃で第一撃を叩きこむ作戦を立てた。

シドはスピードだけでは無く、耐久力も常軌を逸している為、スナイパーライフルの一撃で仕留める事は出来ない。だが、この布陣で囲み、隙を作ることが出来れば撃破は出来なくともダメージを与えることくらいは出来るだろうと考えていた。


ユキは既に戦闘が始まっている現場の情報を収集し、効率的にシドを狙え、かつ反撃を受けにくいポイントにリンを誘導していく。

タカヤとキサラギの奮闘のお陰でシドの包囲が完了し、総攻撃の合図を送る。

先ほどまでは消極的な攻撃しなかったタカヤとキサラギだが、ユキの指示で積極的に攻勢に出る。

前に出て来た2人を仕留めようとしたシドだが、4方からラインハルト・ミリー・アズミ・アリアの攻撃を受け、そちらの対処に気を取られてしまう。

「今!」

ユキはリンに指示を出し、リンはシド目掛けてスナイパーライフルの引き金を引いた。

高速で飛んでいく弾丸は正確にシドに向かって飛翔していく。

この短期間で様々な銃を使える様になったリンの才能は本物だろうとユキは考える。しかし、狙いは正確でも弾丸を回避するシドにはそう簡単に当たらない。

当たるかと思われた弾丸をシドは体を捻ることによって回避してしまった。

「次に移動です!」

結果を見届けたユキは次のポイントへリンを誘導していった。



<お~危ね~~。ユキもだいぶん狡猾になって来たな>

<そうですね。今の弾丸が当たっていれば袋叩きになっていたでしょう>

<そうだな、しかし、タカヤとキサラギの耐久力は異常じゃないか?>

シドは最近A60では無くS200を装備して模擬戦を行っている。他の7人ならば一撃入れられればキル判定に持ち込めるのだが、タカヤとキサラギは3・4発撃ち込まなければキル判定まで持ち込めなかった。

先ほども撃ち込むことが出来たのだが、直ぐに他のメンバーから援護射撃が入り止めを刺すことが出来ない。

それらの対処をしている間に回復薬で回復されてしまい中々撃破するのに手間取るようになって来ていた。

<確かに彼らの成長は著しいですね。他のメンバー達もそれぞれに成長が見られます>

ラインハルトとミリーは攻撃力と移動能力の成長率が高く、アズミとアリアは射撃能力の向上が著しい、少しでも隙を見せれば正確に弾丸が飛んでくる上、シドが避けようとするコースに置き弾をしてくる。

<全員体感時間圧縮が出来るようになったのか?>

<まだそこまでのレベルには達していません。しかし、これから成長していけばその領域に届くでしょう>

イデアと話しながらも周囲の状況を探っていたシドは、一歩逃げ遅れたキサラギに対して銃弾を撃ち放つ。しかし、キサラギは避けるそぶりを止め、身を固めて防御態勢を取った。

多数の銃弾がキサラギを打ちのめし、吹き飛ばす。しかし、シドは自分の失策を悟る。

<あ、やっちまった>

<釣られましたね>

ユキの指示だろう。キサラギの動きに釣られたシドは、自分に向かって飛んで来るリンの弾丸がすぐそこまで迫って来ている事に気づく。

訓練の為に制限された身体能力では避けられないコースになっており、避けられたとしても他のメンバーの弾丸を食らう事になるだろう。

リンの弾丸を受けたシドはその衝撃で飛ばされ岩山に叩きつけられる。

そのまま地面に落ちて死んだふりをしようかと思ったが、落下中のシド目掛けて容赦なく弾丸が飛んで来る。

<やっぱ騙されないか>

<何度も同じ手が通じる相手ではありませんね>

シドは苦笑いをしながら宙を蹴り、跳んで来る弾丸を回避する。

防御態勢を取ったからとは言え、S200での攻撃を複数食らったキサラギは気絶している様だ。弾幕が1人分減った為、先程よりも自由が利く。後は丁寧に追い詰めていくだけだ。

<確実に仕留めていくか>

<そうですね。ですが、タイムアップまでに全滅させられるかどうかはギリギリです>

<・・・そうだな>

シドはこの3週間で成長した皆に賞賛の声を心の中で上げながら1人ずつ撃破していった。



模擬戦終了後、生き残ったメンバーはユキ・リン・アリアの3人。

今までで最高記録だった。

「今回はキサラギさんの挺身とリンさんの狙撃が良い感じにはまりましたね」

「そうね、でも次からもうまくいくとは限らないわ」

「・・・イテテテ・・・あの銃で撃たれると体に響いて動けなくなるな・・・・本当に非殺傷弾なのか?」

「・・・・それは間違いねーよ。実弾なら俺たちは木っ端みじんだからな・・・」

複数の弾丸を撃ち込まれたキサラギとタカヤは顔をしかめたまま追加の回復薬を頬張る。

「君たち、良く起き上がれるよね。私は一発で気絶したのに・・・」

ミリーはタカヤとキサラギの頑丈さに呆れる。

「俺達は俊敏に欠けるからな。食らっても耐えられる方向に成長したんだろう・・・・ってライトが言ってた」

キサラギはまだ体の芯に残る痛みに顔をしかめながらそういう。

「さて、次の模擬戦に向けて対策を話し合うわよ。時間は有限。のんびりしてる暇は無いわ」

アズミがそういい、作戦会議を始める。

リンは何度やられても直ぐに次の事を見据えて話し合うメンバーを眺めながら、ワーカーとはどんな人種なのかを学んでいった。


シドは言っていた。

死にさえしなければ次がある、その次を得るための訓練だ。遺跡から齎される理不尽な死に対抗する為の訓練だから死ぬ気でやれ。

そう言っていた意味が分かって来た気がした。



今日の訓練が終わり、全員が宿に帰って来た。

全員自分の部屋に戻り、今日の汚れを落とした後はお楽しみの夕食となる。


訓練を受けている者たちは、自分が食べられる限界まで注文し、それぞれがミールの料理を楽しんでいた。

「ここの料理は本当においしいですね」

ミックスフライ定食を頼んだリンは、色々なソースを試しながら食事を楽しんでいた。

「この価格でこの量と味ならワーカーには嬉しい食堂よね。これに慣れると防壁内で外食するのは少し戸惑うわ」

アズミはそういいながらクリームパスタを口に運んだ。

「そうだよね~、防壁内でも美味しいところは沢山あるけど、値段は倍以上するもんね。ユキが料理出来てホントに助かったよ」

ミリーとアズミは料理スキルに乏しく、自炊をすることを諦めた経験があった。

「シド君たちはどうしてるんだろうな?弁当生活なんだろうか?」

ラインハルトがシド達の食生活に触れてくる。防壁内にはリーズナブルな弁当も売られているが、彼らの食事量から考えたらバカに出来ない出費になるだろう。

「あのコンビの場合はシドさんが飯作るらしいぞ」

カツ丼とマーボー丼を目の前に置き、交互にかっ込んでいたタカヤがそう発言する。

「「「「「え?!」」」」」

タカヤ以外の全員が、驚きの声を上げた。

「え?シドって料理できるの?」

アリアがタカヤに確認を取る。

「らしいな。飯の準備はもっぱらシドさんがやってるってライトが言ってたからな」

「意外だな。彼が料理をするところが想像できない」

ラインハルトもそういい、目の前のカレーライスを見る。シドが料理?彼の中でシドは、凶悪な身体能力を持ったバケモノのイメージが強すぎる様だ。

「そうだよね。まだライトが作ってるって聞いた方が納得できるよ」

ユキがそういい、全員が頷く。まだライトの方がそういう事に対して興味がある様な印象があった。

「料理をしようって言いだしたのはライトみたいだけどな。ライトが作った料理を一口食って、シドさんは死にかけたって言ってた」

タカヤは2つの丼を完食し、新しく親子丼を注文する。

「「「「「・・・え?」」」」」

再びの驚愕であった。

ライトがメシマズ君だったことも意外だが、スナイパーライフルで撃たれても平気なシドが死にかける料理とは一体どんな物だろうかと皆が想像する。

「米を炊くのだけは上手だから、飯炊きだけはライトが担当なんだとさ。シドさんの料理か~、いっぺん食ってみてーな」

タカヤは届けられた親子丼を頬張りながらそういう。

皆はエプロンをして包丁を持つシドを想像しようとするが、上手く想像できなかった。

「ライト君の料理は興味ないの?」

ニヤニヤしながらミリーがタカヤに聞く。

「いや、俺はまだ死にたくないんで」

「そうだね。ボクももうアレは勘弁してほしいよ」

「ング!!!」

タカヤの背後からライトの声が聞こえてきた。タカヤは飲み込もうとしていた所に咽てしまい、口の中の物が喉に詰まってしまった。

息が出来なくなったタカヤはワタワタと慌て、急いで水を飲む。

「そうそう、それの100倍くらい苦しかったね。シドさんが救護してくれなかったら本当に死んでたかも?」

タカヤが振り返ると、笑顔で立っているライトがいた。

「いきなり背後から話しかけんなよ!ビックリするだろう?!」

「食事中も周りの気配は感じないとね」

ニコニコと笑いながらタカヤをからかうライト。

「ここは遺跡じゃねーよ!」

ライトとタカヤのやり取りを見て、全員が笑い声を上げる。

「アハハハ・・・それで、ライトはどうしたの?」

ユキがそうライトに聞いた。シドもライトも食事を終えて部屋に戻っていると思っていたからだ。

「うん、明日からの予定を連絡しておこうと思ってさ。明日は一日休みにして、明後日から遺跡探索訓練にしようって事になったんだ」

ライトの言葉を聞き、全員が表情を引き締める。

「・・・中層?」

アズミがライトに聞くが、ライトは顔を横に振り否定する。

「ううん、まずはワーカー志望とスラム組のメンバーの護衛をお願いしたいと思って」

ライトはそういい、全員の顔を見渡す。

「リンさんはヤシロさんと一緒に潜った事があるみたいだよね?キサラギさんは初めてだろうけど、ここに居る人は遺跡経験者だ。未経験の人たちを遺跡に連れて行って、全員を無事に生還させてほしい。これが皆の訓練内容だよ」

「この全員で護衛するわけ?」

アリアが当日の事を質問する。未経験組で残っているのは20名。ここの8人と合わせて行けばかなりの大所帯になるだろうと思われた。

「5人ずつを2人で護衛する形で行こうかと思ってるよ。それなら丁度4組で割り切れるし、浅層の探索なら問題ないと思ってる。この訓練に参加してる人達ってシーカーがユキだけだから、モンスター討伐がメインになるかな。訓練終了の時間はシドさんが決めるみたいだからそれまでは彼らに付いて遺跡を回って欲しい」

ライトが説明を行い、全員がシチュエーションを想像する。そこで問題になるのがキサラギが配置される組だ。実質経験者1人で5人の初心者を見ることになる。

「俺が配属される組はどうなるんだ?実質経験者は1人だけだろ?」

「キサラギさんが入る組はシドさんが護衛につくよ。遠目からね。ボクは全体を見ながら危なそうな所にフォローに入るって感じかな」

キサラギはそれならば安心できると考える。

「でも油断しない方が良いよ。シドさんは本当の緊急事態でしか動かないから。戦闘に手を出してくるのは誰かが死にそうにならない限り手は出さないよ」

やはりシドはスパルタだった。

「とういう訳で、当日はキクチさんに頼んでワーカーオフィスの車で送迎してもらう事になったんだ。装備も全力で戦えるように準備よろしく。回復薬の補充も受け付けてくれるらしいから、残り少ない人は当日申し出てくれって言ってたよ」

「わかった。他に連絡事項は?」

「朝6時30分に出発するから、遅れない様にってことくらいかな。それじゃ、皆さんよろしくお願いします」

ライトはそういうと、ワーカー志望者組の方へ歩いていく。後でスラム組にも説明に行くのだろう。

訓練は後5日間、いよいよ大詰めに入ったと言う事だ。

今のファーレン遺跡の危険度は跳ね上がっている。しっかりと準備しなければ浅層でも死にかねない程に。

全員が気を引き締めて明日の使い方を相談するのだった。


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