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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
10/201

もう一人の襲撃者

ビル視点(少し時間が遡る)


ワッカがビルの中に入っていくのを見送る。

しばらくはここで入り口を見張り様子を見ようと考えていた。

ワッカは粗暴だが、頭は悪くない。組み始めてから1年と少し、一緒に行動してきたのだ。ある程度の力量は把握している。

(流石にガキ一人相手に下手うたねーだろ)

あのガキは一人で遺跡から遺物を持ち帰った。それだけで、その辺のスラムのガキとは違う事がわかる。もしかしたら組織から支援を受けている可能性もあった。

だが、それでもワッカが負けるとは考えづらい。

ワーカーを数年続けるという事は、それだけ戦い抜いてきたという事だ。最近登録したばかりのルーキーに負けるとは思えなかった。可能性があるとすれば、他者の増援くらい。それは自分が見張っているため、誰かがくれば直ぐに連絡すればいい。


そう考え、物陰で待機していると、ビルの中から銃声が聞こえてくる。

「!!」

もしかすれば、ワッカが激高しガキを撃ち殺したのかも知れない。そうすれば、ヤツの知っている遺物の情報がパアになる。

ビルは急いでワッカに通信を繋げた

「おい!何があった!」

『ガキに逃げられた!あの野郎!ぶっ殺してやる!』

「何やってんだよガキ一人に・・・俺もいってやろうか?」

『いらねーよ!そこで待ってろ!』

そこで通信が切れる。

(ワッカのヤツ、えらいキレてんな・・・殺すのは情報を聞き出した後にしてくれよな・・・)

情報収集機はワッカが持っている。非常に高価な為、二つ用意するのは難しかった。

ビルは中を詳しく知ることが出来なかった。


自分の情報端末を取り出し、ワッカの位置情報を検索する。

ワーカー同士で仕事を行う際、お互いのコードを交換して位置情報のやり取りを行うのは基本だった。


(3階に行ったか)

ビルはワッカが居るであろう場所に目を向け考える。

(これはどういうことだ?アイツが逃げられるって・・・どんな状況だよ。こりゃ~ひょっとするな・・・)

ビルは万が一の時はワッカを見捨て、撤退する事も視野にいれる。

こういう場合の取捨選択を誤ると命に係わる。その事をビルは今までのワーカー生活で知っていた。


いざという時の為に気配を殺し様子を窺う。

しばらく何の動きもない。ワッカから連絡も来ない。

どう判断するべきか・・・そう思案していると、3階の窓から何かが飛び出してくる。

それは地面に落ち、2回3回と跳ね停止する。


よく見ると、それはワッカの頭だった。

「!!!!!!」

それを見た瞬間、ビルは逃走を選択した。

(あのガキ!俺たちの事に気づいてやがった!!気づいた上で建物におびき寄せて殺すつもりだったんだ!!!まんまと釣られた!!!)

ビルは脇目も振らずに遺跡の外を目指す。遺跡の中は障害物が多い。子供の体格の方が有利だ。


だが、荒野まで出れば遮蔽物は少なくなる。銃を持つ自分の方が射程距離の関係で有利に戦えるはずだ。

追って来なければそのまま逃げかえるつもりで一心に走る。

(あと少し!)

もうすぐで遺跡の防壁にまでたどり着く。その時背中に衝撃が走った。


その勢いのままに飛ばされ地面に転がる。背中に痛みが走り上手く体を動かせない。が、このまま倒れていると死んでしまう。必死で体を起こし顔を上げると、そこに居たのはワッカの銃を自分の額に押し付けたガキだった。


シド視点(またちょっと戻る)


ワッカを殺し、ひとまず一人仕留めたと安堵する。

<さて、あと一人・・・どうするかな?>

<見逃すという選択肢はないのですか?>

<無いな。コイツの様子を見るに防壁の中の人間じゃない。スラム出身か他の都市から流れてきたワーカーだと思う。逃げられてそのまま何処かに行ってくれるなら構わないんだけど・・・付け狙われるのは嫌だからな>

<なるほど、その可能性は否定できません>

<それに、コイツ等は殺すことを前提にしてきた。殺す気できたなら、殺される覚悟を持つべきだ>

<確かにそうですね。しかし、あまり殺し過ぎるのも問題です。相手と時と場合を考えて選んでください>

<わかってるよ>


シドはワッカの頭を持ち、もう一人がいる側へと歩いていく。

相手はこの建物の入り口を監視しているらしい。

そして、相手に見える所にワッカの頭を放り投げた。


空間把握で様子を窺うと、もう一人はすぐさま身を翻し逃げ出したのだ。

<あ、逃げた>

<逃げましたね>

<よし、追うぞ>

と言いつつ、シドはワッカの死体の所に戻り、銃とマガジンを剥ぎ取った。

<そんなものどうするのですか?>

<戦利品>

憧れの銃を手に入れ、少し嬉しそうな声で答えるシド。

<・・・・・追うなら早くしたほうがいいと思います。遺跡の外に出られると面倒では?>

「おっとそうだった」

シドは慌てて逃げた男を追う。

だいぶ距離が開いており、シドの索敵範囲からは外れてしまっていたが、男が逃げた方向に駆けていく。



しばらく走ると、前方に男が走っているのが見えた。

しかしまだ距離があり、このままでは壁の内側で捕まえるのは難しそうだった。

シドは走りながら瓦礫の破片を拾い、男に向けて投げつけた。破片は男の背中に当たり、その衝撃で男を吹き飛ばす。男が痛みに耐えながら起き上がろうとしている隙に一気に距離を詰め、男の額に銃口を押し当てた。


男は固まり、目を見開いてシドを見つめる。男は持っていた銃を、倒れた拍子に手放しており、他の武器を持っている様子もない。だが、至近距離での相対の為、警戒を解かず男に話しかける。


「で?お前だれだ?」

男はシドに命を握られている状態だ。誤魔化すこともせず、正直に答える。

「ビルだ。ワーカーオフィスに登録してる正式なワーカーだ・・・」

「ランクは?」

「7だ」

シドと同じくペーパーだった。このランクは数値に差があっても基本的に横並び扱いを受ける。後どれくらいで10になる 程度の目安でしかない。

「お前らの目的はアイツに聞いた。・・・・どこで俺の事を知った?」

「昨日ワーカーオフィスで職員に突っかかってる所を見た」


シドはワッカが言っていた通りだった理由にため息をつく。昨日の騒ぎが無ければこんな事にはならなかったのだと。ようするに全部イザワが悪い。絶対に仕返ししてやる と心に決める。


「そうか。んじゃもういいかな・・・・殺しにかかって来たんだ、殺される覚悟くらいあるだろ?」

そう言われ、ビルは焦る。

「ち・・・違う!殺すつもりなんて無かった!」

「でもお前の相方は殺すって言ったぞ。素直に吐かないと死なない程度に痛めつけるってな。遺跡の中じゃそれは殺すってことと同じだろ?」


それはそうだろう。モンスターのうろつく遺跡で半殺しでは、殺すと言っている事となんら変わりない。


「お・・・俺は違う!本当だ!」

「ならなんで俺の後をつけて来たんだ?」

「確かにお前の後をつけたよ!それは謝る!・・・でもそれはお前に付いていけば遺物のおこぼれにあずかれるかもってだけだ!こういう事はワーカーなら珍しくないだろう!?」

「なら遺物の取り合いでの殺し合いってのも珍しくなさそうだな?」


シドは銃口をビルの頭に強く押し付ける。

このままだと殺される。ビルは必死に考える。なんとかこの窮地を脱する方法を・・・


「・・・・・助けてくれ・・・もうおm・・・あんたには関わらない。邪魔もしない。ワーカオフィスで正式に契約してもいい・・・俺にできることなら何でもする・・・・頼む・・・」

ビルは泣き落としを選択した。だが、口から出まかせでは無く本心で訴える。

「・・・俺はお前の仲間を殺したんだ。復讐しようとなぜ考えない?」

「・・・あいつは仲間って訳じゃない、ビジネスパートナーってヤツだ。遺跡に行くタイミングがかち合ったら一緒に行動するって位の間柄だ。命かけてまで敵討ちしようなんて考える仲じゃない」

「・・・・・」

(実際コイツには襲われてないんだよな~。どうしよ)

<なあ、コイツどうする?>

<ワーカーオフィスでの正式な契約は強い拘束力を持ちます。もし反故にするような事があれば、ワーカーオフィスへの敵対と見られ、懸賞首などの処置を取られる場合があります>

<それって本当か?>


昨日の出来事でシドは、ワーカーオフィスにかなり不信感を募らせていた。


<はい、これはワーカーオフィスのメンツに関わる事ですので、あの支部だけでは無く、本部が動く可能性がある話になります。>

<ふーん、なるほどね>

<それと、彼に商人の話を聞いてみるのはいかがでしょうか?>


「おい、お前 ワーカー相手に商売してる商人って知ってるか?」

「あ?・・・ああ、何人か知ってる」

「遺物の扱いとか装備の購入も出来るヤツか?」

「そうだな・・・一人手広くやってるヤツを知ってる・・・」

「そいつを紹介しろ。そしてこれからは俺の指示通りに動け、ワーカーオフィスでの契約もだ。それを条件に今回の事は見逃す」

「わかった。言うとおりにする・・・」


シドはビルの額から銃口を外す。

「・・・・・ありがとう」

ビルは九死に一生を得た気分だった。




シドは機嫌よく手に入れた銃を眺めている。これの持ち主を殺し、その相棒だった男が近くにいる事など考えていない。

あの後ビルは遺跡から出るまでの間だけ銃を持つことを許されていた。

流石に遺跡内で丸腰は危ないと考えたからだ。

だが、シドの前方を歩かされ警戒を行っている。


「~~~♪」

憧れの銃を手に入れ上機嫌のシド。

<銃を手に入れて上機嫌なのはわかりますが、あまり気を抜かないでください>

<分かってるって。ちゃんと周りの把握はしてるから>

<・・・・・>

イデアは何か言いたげであったが何も言わずにいた。


「ん・・・モンスターだな」

シドの警戒網にモンスターが引っかかる。

「なに!?」

シドの声にビルは警戒心を高め辺りを見渡す。すると左前方の建物の陰から一体のラクーンが出てきた。

「ち!」

ビルは舌打ちをして身をかがめ、銃を構え狙いを付ける、が

「俺がやるよ。お前は隠れてろ」

と、シドが声をかける。

「!・・・・わかった」

ビルは瓦礫の裏に身を隠し、シドの戦いを見物しようとした。

シドは銃を構えモンスターに照準を合わせる。

<・・・・・シド>

<いいじゃん!やっと手に入れたんだぞ!撃ってみたいんだよ>

<・・・お好きにどうぞ。油断だけはしないでください>


ラクーンが雄叫びを上げ突っ込んでくる。そして背中に生えた機銃がシドの方に向けられ発砲された。


シドは飛んでくる銃弾を、ゆっくり動く世界の中で正確に視認し避けていく。

そして引き金を引き絞りラクーンに向けて発砲した。

シドの目には自分の放った銃弾が正確に見えていた。ラクーンが放つ銃弾よりも遅く、相手に届くまで結構時間がかかる。

それはそうだ、ワッカとの戦闘の際自分で散々避けていた弾丸と同じなのだ。

ラクーンの弾丸を避けながら撃ち続け、相手の頭にヒットさせ続けた。

シドが放った弾丸は、ラクーンの皮膚を貫き頭蓋骨を削っているがなかなか貫通しない。

このままではラクーンがこちらにたどり着いてしまう。シドは銃での討伐を諦め、銃を上に放り投げる。

そして腰の剣を引き抜き、一息でラクーンとの距離を詰め一閃する。

ラクーンの頸椎を切断したのを確認し、時間圧縮を止める。

ラクーンが崩れ落ち、走っていた勢いのまま転がっていく。


落ちてきた銃を掴み取り、盛大な溜息を吐いた。


「はぁ~~~~・・・よっわ・・・・ナニコレ?」

<その銃でラクーンを仕留めるには一点に集中して弾丸を当て続けるしかありません。それかモンスター特化の弾丸を使う必要があります>

<なんだよそれ・・・・ガッカリだ・・・>

<銃を手に入れたら、射撃の訓練も必要ですね。まずは動く相手ではなく、静止した的に正確に射撃する事に集中するべきです>

<なるほど、銃を手に入れたら・・か。アイツが紹介してくれるっていう商人に期待するか>


シドはビルが隠れている瓦礫に目を向け声をかける。


「おーい、終わったぞ。早く出てこい」


そして、ビルが瓦礫の陰から出てきた。


「んじゃ、もう帰るぞ。約束通り、俺の前を歩けよな」

「わ・・・わかった」



ビル視点


遺跡の外にでて、荒野を都市に向け歩いている。今は銃をシドに渡し手ぶらだった。

ここまで来れば基本的にモンスターの心配は要らない。過度の警戒を解き、ビルは先ほどの戦闘を思い出していた。


ワッカと組んで探索をしていた時、自分たちは基本的にモンスターと戦わない。

自分たちが持っている銃はワーカーオフィス出張所で売られている物・・・の中古なのだ。

対応する弾丸の種類も少なく、カスタマイズするパーツも少ない。荒野に出るには最低限これくらいは持っておけと言われる程度の品質である。

荒野に稀に出現するモンスターは、基本的に遺跡内での生存競争に負け、住処を追われた者たちがほとんどだ。要するに、遺跡にいるモンスターと比べると弱い部類に入る。

そのモンスターに対抗するための銃であり、遺跡に行くにはかなり心もとない品質と言わざるを得ない。

だが、丸腰で遺跡に行くわけにもいかない。モンスターと出会えば、死が確定してしまう。


どうしてもモンスターと戦わなければいけない場合は、物陰に隠れ一撃で仕留められる様、細心の注意を払って急所を狙い撃つのだ。


シドが行った様に真正面から撃ち合うような真似は絶対行わない。

ランクが10を超え、防壁内に入ればもっと高品質の装備が手に入るだろう。ラクーン程度なら遭遇した時点で撃ちまくれば軽く撃ち殺せる銃が山ほど売られている。これがランク10以下は横並びの扱いを受ける理由だった。ラクーンも正面から倒せない半端者・・・と。

自分たちはランク10 ワーカー達の間で言われている壁越えを目標に、今まで這いずり回ってランクを上げてきたのだ。


先ほどの戦闘は、その努力をあざ笑うかの様な内容だった。


ラクーンの突進と銃撃を真っ向から迎え撃った。嵐のような銃弾を躱し、自分の撃った銃弾をラクーンの頭に当て続け、近づかれたら銃を放り投げ剣の一振りで倒してしまった。


正直に言えば、ビルはシドの動きを目で追えなかったのである。最後の踏み込みはシドが消えたと思ったらラクーンの向こう側に移動していて、首をブラブラさせながら転がっていったラクーンを見てアイツが何をしたのかを察しただけである。


(化け物だな・・・)


高ランクのワーカーには、身体拡張者という強化人間がいるのは知っている。

強化ナノマシンで体の機能を強化し、機械の補助を必要とせずに超人の様な身体能力を誇るらしい。

だが、その施術は非常に高額で、定期的にナノマシンを補充しないと効果が切れてしまうデメリットが存在する。

スラムのガキが出来る様なものではない。

だが、目の前にいるシドはどう考えても身体拡張者だった。いったいどうやって施術を受けたのか。ナノマシンの補充はどうしているのか。そんな者が何故あんなところで職員ともめていたのか。

様々な疑問が頭に浮かぶ。


が、それをシドに聞くわけにはいかないだろう。シドの機嫌を損ねれば今度こそ殺されるだろうから。


ビルはワーカーオフィスでの契約と商人の紹介をさっさと済ませ、なるべく関わらないようにしようと考えていた。


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