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不殺の勇者  作者: 鱈の煮付け(仮)
1/1

前勇者は次の勇者に全てを託すようです

ガラガラと馬車の音が響く。

「はあ…なんで私なんかがこんな大役を…」

よく晴れた日、照りつける日差しに肌を焼かれながら操馬席に座る私はうめいた。

この流れをこの遠出の中で何回繰り返したことだろう。すでに答えが出ている問いを繰り返すのは任された任務による緊張からかそれとも自身が選ばれた理由からか…

「切り替えないとねラフィ、そんなんだから私は落ちこぼれなのよ」

そう、この私、サラ・ラフィ・ルエルクスは騎士養成学校に通う生徒の中でもかなり下位に属する、言ってしまえば落ちこぼれだった。

数日前、学校の理事長室に呼ばれ、その役を告げられた私は大いに驚きそして疑問に思った。なぜ私のような落ちこぼれを、と。

というか思わずそう聞いてしまった。


『なぜ私なのですか?!もっとふさわしいものはこの学内に多くいるはずです』

そう問われた理事長は一度そのキリリとした目を閉じたかと思うとやさしい笑みを持ってこう答えた

『君が一番彼に気に入られ“なさ”そうだったから』

『ーーー一層なぜ!?」


思わず叫んでしまった。結局どうして私を選んだのかわからないままこうして向かっている。

勇者に会いに。


_________________________



この世界は大きく分けて二つの土地に分けられる。

ひとつがこちら側、緑が生い茂り生命渦巻く人間界。そして人類界に対をなす不毛の大地、魔界。

魔界には魔族が住み、人間界に住む人類とは土地をめぐって数千年の間争い続けていた。国力に富み、統率力のある人類と、人類をはるかに越す力を持つ魔族。

両者の勢力は拮抗していた。がある時、その拮抗を崩す存在が現れた。

魔王 ローグ・ニルヴァレン。

統率力を得た魔族はその力を振るい、人間界の土地を次々に奪っていった。

窮地に立たされた人間界の王族は人間界から精鋭を集め魔王に対抗すべくある部隊を結成した。その部隊を率いた人物はこう呼ばれた。

勇者と。

それからの勇者率いるパーティの快進撃は凄まじく、奪われた土地を奪い返し、そしてついに魔王を打ち倒した“らしい”


(魔王がいなくなってから60年…)

目的地の街にたどり着いた私はあたりを見渡す。

ここは魔界との境の近くにある街、フィフシア。魔王討伐後にとある理由から作られ、魔界の玄関口として栄えた街…のはずなのだが…


「誰もいない…」

整備された道、作られ手間もないだろう綺麗な木造の住宅、手が加えられているだろう花壇。あまりにも生活感の溢れる街は、だが人っ子一人いないことによって異質な雰囲気を醸し出していた。


(まぁ…仕方ない、か)

魔王が打ち倒されて60年。平和な時間は、しかし長くは続かなかった。

数週間前のことだ。とある情報が王宮に入った。

すなわち、魔王が復活した、と。


そうなるとこの街は安全ではない、その結果がこの人のいない街ということだ。

しかし最後まで残ろうとした人がいたのだろう、まだ街は綺麗な様相を保っていた。


大通りを馬車で進む。

なぜこの街に私が来たのか、それは勇者に会うためだ。理事長によると魔王を倒した後、勇者はここに家を建てそこで過ごしているらしい、のだが…

「本当にいるのかな…」

一抹の不安を抱えながら町の奥地へと馬を進める。


そもそもなぜ今勇者を訪ねるのだろうか…

ふと浮かんだ疑問に思考が吸われていく。

(魔王を倒してから60年経っているのよね…つまり勇者様は若くても80歳。きっともう一線を退いているだろうし…っっていうか勇者様って今生きてるの!?もしかして…)


「あ、ついた」

そんなことを考えていたらいつのまにか目的の家に着いていた。

「地図によるとここらしいけど…」

馬車から降りて家を見上げる。それはさすが勇者の家というべきか、とても美しい城のような大きな家だった。

ゴクリと喉を鳴らして、意匠の凝らされた扉に手をかけ、ノックを、した。

コンコンと深い音が響く。緊張から心臓が早鐘を打つ。私は勇者様にーーー


ーーーーーシーン…


「まさか本当に死んーー?!」

「どうかされました?」

「ひっきゃあああああああ!!!」


ただでさえ緊張から過敏になっているというのに、突然“横から“声をかけられたことで驚き思わず叫んでしまう。

振り向くと、そこには1人の青年がいた。

 

「うっわびっくりした…」

「それはこっちのセリ…いえ、なんでもないわ」


急に気恥ずかしくなってきた私はコホンと軽く咳をしてその青年に向きなおる。

見た目と背丈からして16歳ほどだろうか、あまり私と歳は離れていないように見える。髪は男にしては長く、余った髪を後ろにまとめており、年齢に反して大人びた雰囲気を感じる。


ここでようやくあることに私は気がついた、つまり

「なんでまだこの街にいるの?」

そう問うとその青年はあぁと声を漏らした

「ここにしか住む場所がないし」

「…そうなのね」

さも当たり前のようにそう答えた青年に、少し心が痛くなる。

王都に連れ帰ろうか…学校に空きの部屋があったはずだそこなら…

と思考していると青年が「それで」と続けた。

「ここの家の人にどうかした?」

「え、えぇ。この家の人に伝えないといけないことがあって…もしかして…もう居ない?」

「あぁ数日前にいなくなりましたね」

「そ、そんなぁーー」

思いもよらない、いや少しずつそんな気がしていたが目を逸らし続けていた可能性が目の前に現れたことに思わず膝をついてしまう。

この数日間の旅が無駄に…いやそれより任務が…

「どうしよう…」

「えっ…と、うちでお茶でも飲む?」

「飲みます…」

_________________________



「ここが僕の家だよ、あ馬はそこにやって」

「あ、はい。わあ…!」

町のはずれより酒井に近くなった場所に構える彼の家だというそこは、広大な農園だった。高低様々な食物が生い茂り、区画ごとに分けられているのだろう農地にはみたことのない野菜が生き生きとその顔を覗かせていた。

門を通り真ん中の道を行く青年に続き私も農園に入る。

道の先には彼が住んでいるのだろう小屋があった。

「驚いた?結構なもんでしょ」

「はい…すごいですこれを一人で?」

「そうだね、まぁ少しズルはしてるけどね」


ズルとは…?と一瞬思ったが、どうであれすごいことに変わりはない。素直に感心しながら歩いているといつの間にか小屋に辿りついていた。

「はいどうぞ」

「どうも」

彼に促されるまま小屋に入る。内装は丸太でできた外装から想像できないほど整えられており、物が少ない。なんだか私と変わらない歳の青年とは思えないほど大人びた部屋であった。

そこに座って待っておいて、今お茶を入れるから。と部屋の真ん中にあるテーブルに備え付けられた椅子を指さされる。手伝おうかと言ってみたがやんわりと断られてしまった。


____「はいお待たせ」

数分後、別室のキッチンであろう場所から二つのティーカップを持って戻ってきた彼は、私の前に片方置いて、私に向き合って座る。

私は微かに湯気の立ち上るカップを手にして顔に近づけると、ふわりと優しい香りが鼻を撫でる。いい匂いだ。少し口に含み下の上で温かい液体を転がすと、香りに恥じない豊かな風味が広がる。これは…

「美味しいでしょ」

「はい…というかこの茶葉…」

「お、気づいた?自家製なんだよねこの茶葉は、どこのお茶とも違うでしょ」

そう言って笑った彼は一口口に含むと味わうように目を閉じる。


…なんというか…

農園に自家製のお茶っ葉、やたら大人びた内装に所作…

(大人びたというよりなんというかおじs)

一瞬よぎった失礼な思考を振り落とすように頭を振る。


「そういえばさあの家の人になんの用事だったの?」

「あ、えっと…」

これは…いってもいいことなのだろうか…

「えっとですね」

言っても問題ないと判断した私はこれまでの経緯を語り始めた。


「私は騎士養成学校に通う騎士見習いなんですが、ある日その学校の理事長に言伝を頼まれたんです」

「ほうほう」

「その人はこの街にいるとおっしゃっていたので準備をして数日かけてここにきたんですが…」

「それは大変だったね」

「はい…そこからはあなたも知っている通りで…目的の人はこの街にもうおらず、任務の失敗をどのように伝えようか思考を巡らせているところです…」

「あらら。でちなみにその目的の人というのは?」

「あぁ、この街にいるという勇者様に会いにきたんです」

「それ僕のことだね」

「へ?…は?!え?!えぇぇぇ?!!!?」


彼は今なんといった?!突然告げられた衝撃な事実に思わず椅子を蹴飛ばして立ち上がってしまう。お、落ち着くのよラフィ!

「え?え、ええぇぇ?!」

「いや落ち着けよ」

「え、ええ…」

いまだに理解が追いつかない脳を置いておいて、言われるがまま座った私は目の前の彼を注視する。

(彼が勇者…?いえ、あり得ないわ、だって勇者はーーー)

「こんなに若いはずがないって?」

「ーーー!」

思っていたことを言い当てられ驚いてしまう。そんな私を置いて彼は再びお茶を口に含むと、こともなげに言う。

「僕は他の人より老化が遅いんだ」

「老化が遅いってそんなレベルじゃ…だ、だって魔王が倒されて60年経った今勇者様は少なくとも80は超えているはず」

「大体78くらいだね今」

「…」


本当ならあまりにも出鱈目なことに思わず口をあんぐりと開けてしまう。

「信じられない?」

「え、えぇ。そうですね」

「ん〜…そうだな…」


悩むように腕を組み考え始めた彼は、十数秒後「あ、そうだ」と言ってこちらに向けて放った一言は、私に今日何度目かの驚きをもたらした。


「模擬戦をしようか」


_________________________


「制限時間はなし、フィールドはここら一帯、魔法あり、相手に一撃を与えたら勝ち…ってところでいいかな?」

彼の家の裏にやってきた私たちは模擬戦の準備をしていた。

「あの、模擬戦をするなら模擬刀が必要かと思うのですけど」

準備といっても私は着の身着のままここにきていた。もちろん私は模擬刀なんて持っていない。

「君は、これを使って」

そう言うと彼は物置から持ってきていたのだろう木の剣を私に投げ渡す。

「え、でもそれじゃ一本足りないんじゃ…」

「僕が使うのはーーーー」

彼は近くの木に歩み寄ると、「よっと」と軽くジャンプをして掴んだ木の枝を根元から折りとる。何をしているのか疑問に思いつつその光景を眺めていた私は、彼が枝の先の細い部分を折り、無駄な枝葉を落として整形していく姿に、まさかと息を呑む。


「ーーーーこの木の棒だ」

彼の手に握られていたのは三十センチほどに調整されたただの木の棒だった。

はぁ?と困惑の息が私の口から漏れる。冗談よね?と一瞬思ったが、彼の顔は真面目そのもので、

「これで十分」

剣を持つ相手に木の枝で十分と言い切り、あまつさえ勝つ気でいることに、私は困惑と、微かな怒りを感じていた。


今まで何度も蔑まれてきた。何度も舐められてきた。落ちこぼれと何度も自分の弱さに打ちひしがれてきた。自分の弱さは知っている。

(でも…)

ここまで下にみられたことはなかった。


「わかりました。それで構いません」

私は腰の剣を抜き、構える。

彼は木の枝を持つ手を垂らし、構える気配はない。


「それじゃあ、始めようか」

「よろしくお願いします」


(必ず見返してやるのよ、サラ・ラフィ・ルエルクス!)


私は決意と共に剣を握り締め、力強く大地を蹴った。

彼との距離、約五メートルを剣を右手に構え駆け抜ける。草原を踏み締め猛然と迫る私に、だが彼は動く様子はない。

(上等じゃない…!)

「はあああぁ!!」

間合いに入ったと認識した瞬間、私は彼めがけて上段から切り伏せる。

しかし振り下ろした刃はただブウンと空を切る。どうやら上半身の僅かな捻りによって最小限の動きで回避されたようだ。

まだ!

足に力を込め、地面へと向かう剣を無理やり空中で静止させ、切り返す刃で胴体へと再び切り込む。が、上体を反らした彼に、これも虚空をなぞる。

(まだ…私の間合い…!)

彼は完全には体勢を戻すことができておらず、ここからなら踏み込めば確実に当てられる!

振り切り伸ばした右手を体の正中線上に素早く戻し、両手で握り、彼の体に向けて思い切り振り下ろしーーーー



「ーーーーーッッ!」

一瞬、コンマ数秒にも満たないほどの、“躊躇”

僅かにぶれた剣先を彼の鋭い目が見逃すことなどなく、右手の枝を剣の横腹に当て、剣の軌道を逸らした彼は、逆方向に体を動かし、当たるはずだったその剣は彼の服の襟を掠るのみに終わった。

まずい…!

渾身の一撃を避けられ、地面にうずくまるような体勢になっている私はまさに隙だらけだ。このままではやられてしまう。

足の力で無理やり慣性を振り解き、後ろに飛び退く。すると先ほどまで私の体があった空間を木の棒が抉る。

間一髪攻撃をかわし、勢いのまま彼との距離を取る。


(…危なかった…)

冷や汗を左手で拭い、ふう、と溜まっていた息をはく。

(でも、あと少しで取れそうだった!次はもっと彼との間合いを意識して、彼の攻撃範囲の外から剣を届かせるイメージでいこう。さっきのような動きができる回数は限られているからできるだけ早く決着をつけないと…)

彼の立ち住まいを注視しながら次の攻撃の算段を立てる私の思考は、だがーーー


「うん、ちゃんと動けるんだね、じゃあーーー」



「ーーー今度はこっちから攻めようか」


ーーーひどく甘い考えだったと思い知る


騎士養成学校ではまず最初に三つのことから教わる。

一つ目に剣の握り方を。二つ目に歩き方を。そして三つ目に“戦闘中に瞬きをしないこと“を。

瞬きなどしていなかった、彼の動きには細心の注意を払っていたはず、しかし“彼が目前に迫っているという事実”にかろうじて私の脳は気がついた。

「ーーーーっ!?」


こちらに向かう勢いのまま放たれた水平方向の切りは、私のお腹に届く直前、たまたまそこに構えていた模擬刀に吸い込まれ、ガン!!と鈍い音を響かせる。

あまりの衝撃に耐えきれず私の体は後ろへと飛ばされる。

「っおもッ」

これまでに感じたことのない重みに腕がジンと痺れる。これまでに様々な剛腕、豪剣の者と撃ち合ってきたがこれほどの重みはなかった。それもあんな枝切れで…


「ーー!しまっ…」

驚きで彼から視線を外してしまった!急いで辺りを見回すが


「いない…?」

「ここだよ」

上ーーー!?

頭上を見る余裕などなく、慌てて前方へと転がる。すると背後から彼が剣を振り下ろしたのだろう風切り音が響いた。

体を反転させ彼の姿を視界に収める。彼の姿を確認すると同時に私は駆け出す。

(攻撃に転じさせてはダメだ、攻め続ける!)

「はあっ!」

横、斜め、縦、突き、と様々な方向から仕掛ける剣は、だが彼の枝に全て受け流されるかかわされてしまう。

その時、振り下ろされる私の剣に合わせるように放たれた彼の枝は空中で私の剣を捉え、私の剣を上方へと弾き返した。


「あ…」

「動きは悪くないけど、それじゃあ僕には勝てないかな」


笑みを浮かべながらそう言った彼は、手に持つ枝を左腰に構え、私の横腹を目掛けて抜き放つ。

「お疲れ様」

回避も防御も間に合わない。そう察した私は、これから私を襲うであろう衝撃に目を閉じた。


ぽんっ


…………?


数秒はたっただろう。しかし私に伝わることのない衝撃に疑問を浮かべつつ目を開けると、そこには満面の笑みを浮かべた彼と、私のお腹に当てられた、すなわち超ソフトタッチで当てられた木の枝があった。


_________________________


「はい、どうぞ」

木陰に腰を下ろした私は、彼に差し出された水とタオルを「どうも」と会釈をしながら受け取り、飲む。この日差しの中激しく動いたためであろう、乾いていた喉を潤し、流れていた拭き取る。

「ふう…」

「随分と疲れたみたいだね」

そう水を片手に言う彼はというと、見る限り全く汗をかいていないようだった。

身体強化の魔法もなしに見せたあのスピードに膂力、おまけにこの体力…

(本当に人間なの…?)

その私の視線に気づいてか気づかずか、彼は「そうだ」と今回の模擬戦を行った原因である本題を切り出した。

「これで僕が勇者だってわかってくれた?」

「…はい」

「よかった」

満足げに笑い水を飲む彼を尻目に、私は手に持っていたコップとタオルを地面に置き立ち上がると、彼に向けて深々と頭を下げた。

「何も知らずに勇者様を疑ってしまい、申し訳ありませんでした」

「いいよいいよ、きっと僕が君の立場なら同じように疑っただろうしね」

顔は見えないが笑っているのだろう柔らかい声に、私は内心ほっとして顔を上げる。


「ん…?」

怪訝とした表情で空を見上る彼を不思議に見つめていると、ぽつ、ぽつぽつと空から水の球が落ちてくる。その球は次第に数を増やしていき、瞬く間に雨へと変化した。

「夕立か…」

「ゆ、勇者様濡れてしまいます!早くこちらに!」

手で雨を受け止めつつそうつぶやくかれに、私は慌ててそう呼びかけると、彼は小走りでこちらに向かってくる。

「濡れていませんか?」

「大丈夫大丈夫」

「そうですか…」

そう言って幹に腰掛ける彼に習って、その隣、少しスペースを開けたところに私も座る。雨音はだんだんと激しさを増していき、地面に粒が落ちる音が耳にクリアに響く。


(…一体何を話せばいいのだろう)

横に座る彼とのそこはかとない気まずさに、太ももの下に手を入れ抱き締める。

沈黙を破るために話の種を色々考えてみるが、何も思いつかない。

ただでさえ舐められて負けて少し気分が下がっているというのに、明るい話など思いつくはずもなかった。


「そういえばさ」

沈黙を破ったのは彼だった。

「はい」

この気まずい空気を払拭してくれる話題を期待して続きを促すが

「なんで魔法使わなかったの?」

その質問に私は少なくない落胆を覚える。この質問はこれまでに何度も聞かれたものだったからだ。そのため、私はそれにいつも通りなんでもないように答える。

「私は魔法が使えないんです」

「ーーー!」

私の告白に彼の目が微かに見開かれる。当然の反応だ。この世界で魔法が使えない、それは文明人が火を使えないことに等しく、そしてそれこそが私が落ちこぼれと称される理由でもあった。

なんとなく彼の顔を見るのが辛くて私は目を伏せて続ける。

「身体強化の魔法すらもかけることができない私は学校でも落ちこぼれで、自分の身体能力のみを頼りに、かろうじてみんなに食らいついている状態です」

彼は何も言わない。

言葉を失っているのだろう、そりゃそうだ。

「なので、先の模擬戦では魔法を使わなかったのではなく使えなかったんです。

…身体能力だけが売りなのにそれでも負けてちゃ世話ないですよね」

そう自虐的に笑う私に、しかし彼からの反応はない。

流石におかしいと思った私は膝を向いていた目線を上げ、彼に目をむけ、固まった。


そこにいた彼の表情は、これまでの幼さを感じるものとはひどく異なっていた。

目を見開き、口元に手を添え、冷や汗すらを浮かべる彼は、笑っていた。だがその笑みは、まるで長年探していた答えが見つかったような…そんな獰猛さが含まれていた。


数秒経った頃だろうか、その異様な表情に何も言えないでいると、突然彼がハッと正気に戻る

「ど、どうかされましたか…?」

「…いや、すまないなんでもない」

おずおずと問う私に、彼はそう手を横に振る。


「…そういえば、聞いていなかったね」

「な、何をですか?」

今までにない真剣な表情を向ける彼に思わずたじろいでしまう。しかし彼はそんなことを気にせずに続ける。

「ここにきた要件。僕への伝言とやらだ」

「あ」

いろいろなことがあって完全に忘れていた。

私は彼に向き直り正座をして、真剣な表情でもってその言を伝えた。


「魔王が復活いたしました。どうかそのお力で魔王を再び打ち倒してください」

「やはりかうん断る」

「は。え、はぁ!!??」

超速で下された断定に、脳の理解が追いつかない。

断る…って言ったの…?

困惑とともに理由を正そうと口を開こうとする私は、だが突然立ち上がった彼に妨げられてしまう。彼はやはり真剣な表情でこちらを見据えると、私に告げた。


「君が次の勇者になるんだ」





はじめまして!鱈の煮付け(仮)です。こんな名前ですが鱈の煮付けは食べたことがありません。美味しいんですかね?

さて、不殺の勇者いかがだったでしょうか。私の処女作ということもあり、かなり拙いものになっているとは思いますが暖かく見守ってくれると幸いです。

実はこの作品を書くにあたっての裏話が二つほどございます。

一つ目はプロローグの長さです。

みなさん、読んでる時にこう思いませんでしたか?

「え、長くね?プロローグだよね」と。

えぇ、えぇ、そうなんです。本当なら3000字程度でまとめようと思っていた不殺の勇者プロローグですが、私の技術力の無さと構想の浅さが祟り8000字超というプロローグというよりプロロロロロロローグになってしまいました。軽ーいプロローグを想像していた方にはこの場を借りて謝罪をさせていただきます。

実はプロローグに書きたいことまだ半分も書けてなかったんですけどね(ボソっ)

なので第二話もプロローグのような内容になるかもしれません。ならないかもしれません。


二つ目にこの作品を書いた理由です。

実は私には幼少期から脳内で温めている作品がございまして、それをいつかどこかの賞に出してみようかと考えています。なのでこの不殺の勇者は言ってしまえば練習の場ということなのです。

で、あるからして不殺の勇者は私にとって色々なチャレンジをしていく話になります。もしチャレンジに失敗したら笑って指差して指摘してください。


長くなりましたが以上で後書きとさせていただきます。

次回の更新は未定ですが一週間ほどで出せたらいいなぁ...と考えております。

それでは、またどこかで会いましょう。


感想ご意見募集中です。皆様の言葉が私の燃料となり糧となります。


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