第九十五話
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キャメロン達が既に死んでいる事を、姫様達だけでなくユーゴ達も知らなかったようだ。彼らなら知っているものと思っていたのだが、王様はあえて伝えていなかったように見える。
「下手人は、幾人か目星を付けておる」
「「「!?」」」
「……誰なのですか?」
ユーゴは、比較的落ち着いているようだ。
あ、そうだ。思い出した。そう言えば、ジョゼ達と色々やっていた時に、親父が一度席を外していたような気がする。そして、暫くしてユーゴを連れて戻って来ていた気がする。ジョゼと母さんの対応で一杯一杯だったので、殆ど意識は向いていなかった。この記憶も合っているのか、疑問が残るくらいだ。
「悪いがこの件は、暗部のみで専有するものとする。先走る奴が出れば、余計な騒ぎになるかもしれぬからな」
この記憶が合っているなら、恐らくユーゴは政務から手を離せなかったのだろう。ただでさえこの会食で、王様も政務から離れているのだ。王様と宰相が、揃って政務から離れるのはマズいだろう。
文字通り、王様の抜けた穴を一人で埋めて来たという訳だ。
「それは……そうかもしれませんが」
「それに両名の死体は、徹底的に破壊し尽くされていた。恨みある者の仕業なのか、はたまた『宴』に関する情報漏れを嫌った者の仕業なのか」
「破壊とは……?」
それはヴィクトリアの弱弱しい声。聞かずにはいられなかったのだろう。
「ダリルは四肢を切り落とされ、首を刎ねられておった。キャメロンに至っては……細切れの肉塊であった」
「「「「っ!?」」」」
「鋭利な刃物で切られたとしても、およそ人の仕業とは思えない光景が、地下牢には広がっておった」
その情報に誰もが息を呑む。一番ショックを受けているのは、ヴィクトリアだろう。時間があった時に、フォローして一応立ち直るきっかけは与えたつもりだが、そう簡単には吹っ切れない。人とはそういうものである。それは、俺も同じ。
「城の地下牢に侵入し、このような凶行に及べる者など、数は限られてくる。しかし、証拠が無い。だから、この件は秘匿する。分かったな?」
「「「「……はっ」」」」
納得しきれない部分もあるだろうが、全員が一応返事する。もし、どうしてもと言うのであれば、後程奏上でもなんでもすればいい。取り敢えずは、王様がこれまでと言っているので、ここでの話は終わり。そういう事だ。
「何にせよ、『宴』に関わった者は処罰せねばならい。近々、大粛清を行う」
「……?」
何故か、一度俺に視線を向けてくる王様。
「下手人も場合によっては、粛清の対象として含まれる事になろう。それが分かる人間は限られてくるがな。この国に仇為す者は、王として儂が許さん。皆心しておけ、過去最高規模の粛清となるであろう」
「「「「はっ」」」」
王様のその言葉に、皆が頭を下げる。そんな中、俺だけは頭に疑問符を浮かべていた。
……それって、俺も粛清対象に入っているって事?意味深な視線の意味が分からない。
俺が、粛清される訳ない。国に仇為すような事はしていない筈だ。まさか、俺を危険視して排除するつもりなのか?いや、それも有り得ない。
キャメロン達の死をユーゴ達に伝えなかったのは、彼らが俺を危険視して、排除しようと早まった動きをさせないため。王様の言葉から、それは窺える。だとしたら、他の意味があるはずだ。
「グレン……」
キャメロン達を捕らえた後、王都の屋敷及びグラーノ領の屋敷には、徹底的に捜査の手が入っている。その詳しい内容は知る立場にないので分からないが、『宴』の参加者などの情報が得られているはずだ。だから、粛清と言う話に繋がったのだろうし。
「グレン」
『宴』は派閥の結束を固める目的もあった。その参加者。やはり、コナー家と近しい者、懇意にしていた者達が有力だろう。
奴が団長を務めていた、第三騎士団の騎士。若しくはその父兄。第三騎士団と言えば、第二王子の派閥。となると、その派閥の奴らも怪しくなってくる。当然、第二王子も。
そして、次に気になるのが、どのタイミングでどのような手を使って、行うのかという事。
大粛清という事は、それなりにでかい規模になるという事。下手を打てば、大部分に逃げられるだろう。だから、タイミングと手段が重要になってくる。
王様は俺の計画を知っている。あの視線は、俺の計画を利用するという意味なのか、はたまた俺の計画に組み込んでくれという事なのか。それとも、単純に協力してくれと言う意味なのか。どれも有り得そうだから困る。
取り敢えずは、何も言われてないので頭の片隅にでも追いやって、後は――――
「グレン!」
「……はい?」
大きく俺を呼ぶ声に振り向けば、そこには怒った顔に姫様がいた。ヴィクトリア達も怒り、呆れた表情になっている。
「随分考え込んでいたみたいね。私の声が聞こえなくなるくらい」
「あ、すみません。陛下の言葉が気になったもので」
「あら、粛清の話は貴方に関係ないのではなくて?それに、どんな理由があろうと、王城をボーっとしながら歩くのは馬鹿のする事よ」
なんか、当たり強いな。八つ当たりか?実際のその通りだから良いんだが、もう少し言い方ってものがあるだろ。
ジョゼの説教が、相当堪えたと見える。
「あはは、すみません」
「ふん!そうゆう態度が気に入らないのよ。貴方のせいで、お母様にも怒られるし」
あれは、自業自得だと思うんだけどな。
「だいたい、器を見せるって何なのよ。そんなの分かる訳無いじゃない。ヴィクトリア達は昔から付いて来てくれるわ。他の騎士団の娘達も、自然と忠誠を誓ってくれる。下心を持った男達も、自ら傅いて来る。なのにこの男は何なの?『お前を気に入っている』とか言いながら、そんな素振り見せないし。そもそも、私達が着飾っているのに、一言も無いなんてどうかしてるわ。それに、あの時の態度から考えると、私の事なんかちっとも敬っていないのよね。ともすれば、見下されてすらいるわ。それを繋ぎ止めようと、あれこれ策を講じるのはそんなに愚かな事かしら。悔しいけど、能力が高いのよ。知識に関しても、そう。手放すなんてありえないわ。でも、どうしたら良いのか分からないのよ!褒美は断られた上に、上から目線で器量を示せみたいな事を言ってくるし。ああ、思い出したらムカついて来たわ。何で私がこんなに悩まなくちゃいけないのよ。お母様にも皆の前で怒られるし。ホント、最悪ね。てか、何であんなにお母様と親し気なのよ。お父様も何も言わないなんて、とても不自然だったわ。それに、あのメイドとも仲良さそうにくっ付いていたわね。年上好きなのかしら?やっぱり、ルフィーナ辺りとくっ付けた方が?はぁ、何で私が一人の男にここまで振り回されなきゃならないのよ。迷い人って、こんな面倒なのしかいないの?そもそも私が―――」
ぶつぶつと、恨み言やら愚痴やらが零れている。強化された耳が、その全てを拾う。顔が引き攣りそうだ。
色々と溜まってらっしゃるようで。俺に腰掛けるだけじゃ、発散されなかったらしい。
ヴィクトリアはその様子を見て『お労しや……』とか呟いている。クロエは冷たい視線だ。誰もが、原因はお前だ、そう言っている気がする。
その一切を無視して、俺は気になった事を姫様に問い掛ける。
「あ、あの、姫様……?」
「あ゛?」
お姫様が、と言うか女の子が出して良い声じゃない。
「ひぇ!い、いえ、あの……こちらに向かってくるのは誰かなー?と」
廊下の先から、5人の集団が迫って来ている。強化された目が、事細かにそれを捉える。
先頭を歩くのは肥満体の男。まだ若く、豪華な衣装に身を包んでいる。その一歩引いた所には、渋いダンディ。どこか王様と似た雰囲気を持っている。後は護衛の騎士だろう。
「……?……っ!?」
向こうから近づく存在を認識した途端、姫様の表情が強張った。




