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第九十話

ブクマ・評価ありがとうございます。

 どうやら、サンジェル達はルフィーナの結婚相手として俺を認めたらしい。

 だから、あれほど血を吐きながら嫌々、だったのだろう。暢気に面白がっていた、30分前の俺をぶん殴ってやりたい。


「何だキサマ。まさか……今更嫌だとは言うまいな?」


 断ったら、殺される。そう思わせるだけの迫力が、今のサンジェルにはある。ヤバい、逃げ出したい。チョーメンドイ。


「嫌では無いんですが……」

「ああん!?男ならはっきりしやがれ!」


 もうそこに父親はいない。いるのはヤクザだ。男の顔だから、あまりじっくり見なかったけど、厳ついな。ヤクザと言うより、山賊辺りが似合いそうだ。


「ええと、結婚するつもりはありませんよ」

「「「「あ゛!?」」」」


 ほら、山賊じゃん。


「キサマ……娘を誓約で所有しながら、責任を取らねぇつもりか……?」

「い、いや。責任も何も、何もしていませんし。責任を取るような事は、何一つ」

「な~にぃ~!?」

「ホントですよ!?手は出していません!誓ってぐぇっ!?」


 胸倉を掴まれた。そして、持ち上げられる。締め方が上手い。料理人の腕じゃないだろ、これは。何で料理人が、首の絞め方知ってるんだよ。


「……そいつは、娘に手を出すほどの魅力が無ぇって言いたいのか?」


 恐ろしい声だった。何か、切っ掛け一つで爆発してしまいそうな、そんな恐ろしい声。


「いえ、そ、そんな事は……」

「だったら、何で手を出さねぇ……?」


 ダレカタスケテ。


「……出して良かったんですか?」

「良い訳無ぇだろうがっ!」

「ぐぇっ!」


 なんて理不尽な。


「だが……だが!娘の様子を見てれば、分かる。キサマに惚………ぐぅ……惚れ……がはっ………惚れているのはなぁ!ぐはぁっ!ぢ、ぢぐしょぅ……」

「「「親分!」」」


 親分て。そこは料理長だろ、普通。マジで山賊じゃん。それと、血を吐き過ぎだ。そろそろ、貧血になるぞ。


「だ、だから!料理で俺に勝ったキサマなら、認めてやろうと……!それを……!」

「ぐぇぇぇっ!」


 セバスは当然のようにこちらを見ず、ルフィーナは俺に褒めてもらおうと料理に集中。助けは望めないようだ。


「ふんっ」

「あべ!げほっげほっ……」


 投げ捨てられた。


「……本当に手は出していないんだな?」

「ええ、全く」

「なら、誓約は破棄しろ」


 首を絞めて落ち着いたようだ。静かに言葉を紡ぐ。


「破棄ですか……」

「色々言ったが、娘も良い大人だ。今更俺が口を出すつもりは無い。無いが……ちゃんと向き合ってやってくれ」


 そこには、父親が戻って来ていた。


「ええ、そうしたいのは山々何ですが……」

「娘にやっと来た春だ。祝福してやりたい。頼む」

「!?」


 そう言って、頭を下げるサンジェル。次いで、他の料理人達も頭を下げていく。

 なるほど、ルフィーナもサンジェルも相当慕われている様だ。だが、俺はこの思いには応えられない。


「ええと、すみません無理です」

「は?」

「………き、貴様!親分が頭を下げているのに……!」


 話を最後まで聞いて欲しい。


「以前俺から破棄を申し出たんですよね。ですが―――」


 それは、ルフィーナが俺の物になって、暫く経った時の事。ぎこちなさを解消し、二週間ほど経った頃の事だった。

 ある程度教える事は教えたし関係も良好なものになったので、これ以上誓約で縛る必要は無いと思い、破棄を申し出た。そしたら泣かれた。


『捨てないでくれ』


と、そう泣きながら縋り付かれた。そんな反応など想像していなかった俺は、慌てふためきながら前言を撤回した。それでも、落ち着くまで時間が掛かった。

 落ち着いた頃に話を聞けば、その誓約を俺との繋がりとして大事にしたかったらしい。自分は既に34歳。22歳の俺とは不釣合いだと、常々思っていたようなのだ。完全に俺の落ち度だった。いくつになっても、女性の事は学ぶべき事が多い。それを忘れていた。

 普段の快活な姿に、彼女の内面をしっかりと見る事をしていなかったのだ。だから、俺はこう言った。


『捨てないよ。俺としては、対等な関係になりたかっただけなんだ。でも、それでお前が不安になるなら、誓約はそのままにしておこう。ルフィーナ、お前は一生俺の物だ。だけど、もし対等な立場で向き合いたくなったら、誓約はいつでも破棄しよう。そして、改めて俺の物にしてやる』


 ってな。泣かせてしまった以上、ここまでやるのが当然の流れ。それが、どれだけ自分の心を追い詰める事になるのか分かっていても、だ。後の事は考えない。今、笑顔にする事だけを考える。母の教育の結果、こうなったのだから仕方ない。


「―――そんな訳で、無理です」


 一連の流れを、サンジェル達に説明する。一部血を吐き、血の涙を流しているような気がするが、気のせいだという事にしておこう。ツッコむのも面倒臭い。


「ぐぬ……っ!なぜこんなスケコマシ野郎に、娘は……!」


 うるさいやい。放っといてくれ。


「がはっ……顔か……!?男はやはり顔なのか……!?」

「くそっ…!!俺も、そんなカッコいいセリフ言ってみたい……!」

「止めとけ………怖いって、泣かれるだけだ。……俺みたいにな。そして、自分も泣く事になる………グスッ」

「お前……」

「俺だって……言われてみたい……!泣きながら、縋り付かれてみたい………!」

「おぉぉん。おぉぉぉん。俺の方がお嬢の事を………!お゛おおおぉぉぉん!!」

「ひっ!や、止めろ!!ムサイ男に縋り付かれても、気色悪いだけだ!!」


 何も言わないぞ。ツッコまないし、気にしない。見なくても、混沌(カオス)が広がっている事ぐらい分かるからな!


「おい、小僧!甚だ不本意だが、キサマが娘を大事にしてくれている事は分かった。だから、誓約の事は目を瞑ってやる!」

「はぁ、ありがとうございます?」

「だが、娘に対して誓約を盾にし、卑猥な事をしたら殺す!いいな!」

「しませんよ。そんな事」


 キャメロンと同じ、クズに成り下がってしまう。それは、俺の正義に反する。


「性的接触は当然、手を繋ぐのも駄目だ!頭も触るなよ!話す時は、十メートルは離れろ!」

「んな無茶な」

「当然!対等な関係になりたいとか、そう偉そうに宣うなら、そんな心配は無いと思うがな!」

「……当たり前です」

「……ムンッ!ムンッムンッ!ムンッムンッムンッ!」


 いきなり、筋肉を動かし始めたサンジェル。ご丁寧にポーズも決めている。何だよ、ウザいな。


「ええと、何です?」

「俺の筋肉が、キサマは嘘を吐いていると囁いている!!」

「は?」


 可笑しな事を言い出した。流石の俺でも、顔が引き攣るぞ。


「キサマ、嘘を吐いているな!吐け!娘にナニをした!?」

「いやいや、何もしてませんて!てか、筋肉って。何言ってんの!?」

「俺の筋肉は、娘に関して嘘を吐く者に反応するようになっている!!」


 んな馬鹿な。


「さあ、吐け!ナニをした!?手を繋いだか!?」

「……いえ」


 はい、繋ぎました。買い物行く時に、離れたらいけないからって。ルフィーナさんから。


「ムンッ!頭を撫でたか!?」

「……いえ」


 はい、撫でました。料理の褒める時は、専らこれです。


「ムンッ!十メートル離れるどころか、むしろ近付いて話したんだろう!?」

「……いえ」


 はい、話しました。それはもう至近距離で、耳元でも囁きました。


「ムンッ!……性的接触は無いだろうな?」

「……ありません」


 はい、ありました。一度だけですが、あの豊かな胸をがっつり鷲掴みました。


「ムンッ!…………」

「……」

「……」

「……」


 冷たい汗が流れる。


「……こんの、腐れ外道がぁぁぁ!」

「いやいやいやいやいやいや、こんなんで嘘がばれる訳無いでしょ!?」


 筋肉なんて、どう考えても自分の匙加減じゃん!ムンッ!ってする度に、ポーズ決めてるし!いくら何でも、これでキレられるのは理不尽だろ!……いや、まあ全部嘘なんだけど。


「俺の筋肉を舐めるなよ!小僧ぉぉぉ!!」

「ひっ!?」


 修羅の形相で迫るサンジェル。俺は王城故広い、この厨房内を必死に逃げ回る。

 埃が立つかもしれないが、仕方ない。アレに捕まったら、確実にミンチになる未来が見えている。それに、ここは王城の厨房。普段から超清潔なはずだ。魔法もあるし。


「……何やってるさね、クソオヤジ」

「っ!?」


 修羅の形相から一転、大量の汗が噴き出、見る見る青くなっていくサンジェル。その様子に立ち止まり、ホッと胸を撫で下ろす。

 しかし、またしても顔が引き攣る。今度はルフィーナが修羅になっていたから。

 ああ、まだ騒動は続きそうだ。

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