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第八十七話

ブクマ・評価ありがとうございます。

 ここは王城の地下牢。


「クソッ、クソッ!!アバズレがっ!!」


 薄暗い中に男の罵声が響く。


「……父上、落ち着いてください」

「落ち着いてなどいられるか!!なぜワシがこんな目に遭わなければいかん!!」

「父上、大丈夫です。直に殿下(・・)の使いが来るでしょう」

「!?おお!そうだな、そうであった!」


 二人は親子だった。そして、大罪人であった。

 ダリル・コナーとキャメロン・コナー。王都中、いや国中、いや国内外問わず、話題となっている大罪人であった。

 罪状は『婦女子拉致監禁の容疑』。キャメロン・コナーは第三騎士団長としての、又国の英雄としての側面もあったため、この話題は一週間以上たった今も、全く色褪せる事は無い。


「ここを出たら、まずは復讐をしましょう。確実に排除しなければならない男がいます」

「うむ。例のグレンとやらの仕業なのであろう?」

「はい、忌々しい男です」


 静かに首肯する息子の方、キャメロン・コナーの目には、暗い憎悪が宿っていた。


「では、其奴を一番に片付けるとしよう」

「ええ、まず………」

「うむ、うむ………」


 ここには二人しかいない。見張りは扉の外だ。この会話は、誰にも聞かれる事が無いはずだった。


「そんな機会は来ねぇよ、馬鹿共」

「「っ!?」」


 驚いて声の方を見る二人の大罪人。扉の前に一組の男女がいた。声の主は、男の方のようであった。


「キサマは……っ!」

「!!そうか!貴様が……!」


 キャメロンの反応に、父親の方、ダリル・コナーが納得したように叫ぶ。

 それに対した反応も見せず、二人組は牢の中に入る。


「貴様のせいで……!」

「黙れ」


 ドゥゥゥゥンッ

 小さな爆発音が響く。


「ぐがぁっ!?」

「父上!?」


 ダリルの足に穴が開き、そこから血が流れている。男が何かしたようだ。


「痛いだろう。このままじゃ死ぬかもしれんな」

「キ、キサマ……!こんな無法が許されると……!」

「許されるさ。お前らは大罪人だからな。それに、陛下からは許可を貰っている」

「っ!?」


 絶句するキャメロンを余所に、男が何かを取り出し、それを柵の前で掲げて見せる。赤いラベルの瓶だ。


「さて、ダリル・コナー。今から言う事に従えば、これをくれてやる」

「!!そ、それは……」


 痛みから脂汗の浮かぶ顔を上げ、それを目にした途端、その目に僅かな希望が宿る。


「じ、条件は何だ……?」

「父うむぐぅっ!?」


 父親であるダリルの行為を咎めようと、声を上げたキャメロンの口を黒い何かが塞ぐ。同時に暴れる四肢をも抑える。

 ダリルはそんな息子の姿を一瞥するが、すぐに視線を瓶へと戻す。その体は脂肪で覆われ、醜く肥えている。痛みに耐性が無いようだ。鍛えた事も無いのだろう。目の前の希望に醜く縋る。


「な、何でもする。そ、そうだ!情報もくれてやる。だから……っ!」

「じゃあ、夜魔族との誓約を破棄しろ」

「!?そ、それは……!」


 今までの勢いは何処へ行ったのか、男の言葉に口を閉ざす。無理も無い。この男達は、夜魔族との誓約のおかげで命を保証されているのだから。

 コナー家と夜魔族の間には、いくつかの取り引きが誓約によって交わされていた。その一つである『王都内で互いに危機が迫れば必ず力を貸す』。これにより、コナー家の人間に生命の危機が生じた場合、夜魔族が介入する事が決まっている。

 もし、この二人の大罪人の処刑が決まった場合、夜魔族が二人を助けるべく動くだろう。つまり、その制約の破棄を求められるという事は、事実上の死刑宣告に他ならない。

 だから、口を閉ざす。誓約は大切な命綱の一つ。この状況なら尚更。


「……そうか。断るか」


 ドゥゥゥゥンッ


「ぐぎゃぁぁ!?」


 ドゥゥゥゥンッ


「あぁぁぁあああっ!?」

「むーっ!むー!?ーーーっ!」


 次々とダリルの足に穴が開く。その光景を見たキャメロンがもがく(・・・)が、黒い拘束は一向に外れない。


「……はぁ……!…はぁ………!き、きさ、貴様、夜魔族が怖くないのか……っ!」

「はぁ?怖くなんかねぇよ。もしかして、この程度で彼女達が出張ってくるとでも思ってんのか?お前……馬鹿だろ」

「なに……っ!?」

「最初の一発で、彼女が動かないのは確認済みだよ。ずっと立ってるだけだからな。それどころか手伝ってもくれてるぞ?」

「「……!?」」


 その言葉に、二人の意識がようやく女の方へ向く。そして、その姿を視認し驚く。


「き、貴様は……!」

「何だ、今頃気付いたのか?薄情な奴らだな。一応、協力者だろ」

「直接会うたのは二度目じゃからの。それも仕方あるまいて」

「夜魔族の長……!?」


 夜魔族とは、魔族の中でも最強の一角を担う程の実力を持つ一族である。その長ともなれば、相応の実力が求められる。事実、今代夜魔族の長・ヘレンはユニーク魔法の使い手という事も相まって、夜魔族どころか、魔族の中でも最強クラスに名を連ねる。


「き、貴様!ワシ等を助けろ!!」

「嫌じゃ」

「何!?」

「たかが足の一本や二本、無くても生きて行けるじゃろ」


 ドゥゥゥゥンッ ドゥゥゥゥンッ ドゥゥゥゥンッ

 ヘレンの言葉の後、男が立て続けにダリルの足に風穴を開ける。


「……っ!!?んぎゃぁぁ!?あ゛ぁぁぁぁぁあああ!?」

「足に穴が開こうと人は死なぬ」

「ぐぎぎ…っ!キザマ……!?」


 おびただしい量の血が流れている。足の方も、元の形の見る影もない。最早、立つ事も出来ないだろう。


「で、どうする?ダリル・コナー」

「ぐぐぅっ……」

「むーっ!ーーーっ!!むーーむぐぅっ!?」

「黙っておれ」


 再び騒ぎ出したキャメロンの拘束が、今一度強まる。


「……」

「ぐ……っ」

「……歩けなくなるぞ?」

「ぐぬぅっ………。……き…る」


 絞り出すようなダリルの声。


「あ?」

「…き……する」

「聞こえねぇよ」


 苛立ったように、男はダリルの足を踏みつける。


「ぐ!?夜魔族との誓約を破棄する!!」


 その瞬間、ダリルとヘレンの間の空中に、漂うように一枚の紙が現れる。そして、それは一瞬発光したかと思うと、あっと言う間に燃え尽きてしまった。


「……うむ。誓約の破棄がなされたのじゃ」

「……そうか。ほらよ」


 男が、ダリルの足に最高級魔法薬を掛けていく。見る見るうちに、傷が塞がっている。


「お…、おお……!!ごぽっ……え?」


 治っていく足に歓喜していたダリルの口から、大量の血が溢れ出す。その胸には、赤い刀身の刀が刺さっていた。


「な…なぜ……?」

「そりゃ、お前達をこの手で殺す為の、誓約の破棄だからな」


 そう言って、男が刀を数度振ると、ダリルの四肢が綺麗に切り落とされる。首だけが繋がった胴体が、ボトリと床に落ちる。


「や……止め…………死……くない……っ!!」

「……皆そう思っただろうな」

「ぎひゅっ……!?」


 ダリルの首が飛ぶ。赤い刀身の刀は、真横に振られると、綺麗にダリルの首を切り飛ばした。


「むーーっ!!???」

「ヘレン、もういいぞ」

「うむ」

「……ぷはぁっ」


 キャメロンの黒い拘束が解かれる。すると、キャメロンは距離を取るように、瞬時に後ろへと飛ぶ。しかし、ここは狭い牢屋の中。後ろは壁だ。


「……キサマ、何者だ」

「見て分からねぇか?奴隷風情だよ」


 嘲るように男、グレンが言う。


「ふざけるな……。あの忌々しき奴隷は、キサマのような奴では無い……!」

「まぁ、演技してたからな。実力を隠す、な」

「何だと……?」

「ま、そんな事はどうでも良いんだ。分かってると思うが、次はお前の番だぞ」


 心底どうでも良い風にそう言って、男がゆっくりキャメロンへと近付いていく。


「くっ……!?この腕輪さえなければ……!」


 この国の罪人は、捕まると必ず『魔力封じの腕輪』を付けられる。その名の通り、魔力を封じる為の腕輪だ。これを付けられると、魔力を操作する事も出来なくなる。つまり、身体強化も各魔法も使えなくなるという事だ。

 キャメロンの腕にも、例に漏れず『魔封じの腕輪』が付けられていた。


「はっ、そんなもん有ろうと無かろうと、同じだ。俺の方がお前より強い」

「なに!?」


 その言葉は、キャメロンのプライドを傷付けた。顔を赤くし激昂する。


「言ったろ。夜魔族の長を口説いたって。夜魔族は強き者の血を求める一族だぞ?」


 ヘレンが男の傍らに立ち、しな垂れかかる。


「っ!?」


 男の言葉に驚き、そして二人の姿に理解する。


「口説いたんだよ。圧倒的実力で、このヘレンを叩きのめしてな」

「!?……ありえない………っ」


 それは自分でも出来ない事。その言葉を頭が否定したがる。しかし、目の前の光景はその言葉を肯定していた。


「…ルナ………!……ケルナ……!…ザケルナァ……!…フザケルナァァァァ!!」


 騒ぎ出すキャメロン。


「何だ、これは……!なぜ、こんな事が許される!?俺は、キャメロン・ルゥ・コナー。この国の英雄だぞ!!?」

「違うな。お前はただの悪だ。そして俺が正義」

「何が正義だ!裏で、コソコソと!どうせ、あの小娘も知らないんだろう!?キサマの方が醜悪だ!!嘘で塗り固められた、キサマの方がな!!少なくとも、俺の英雄としての姿は、本物だった!!」


 ヘレンがその言葉に怒りを見せる。しかし、男の表情は一切変わらない。いや、キャメロンを嘲笑っているようにも見える。


「だから、何だ。お前の意見なんぞ、知るか。英雄だとかの話なんかしてねーよ。ただ、お前が悪で、俺が正義、それだけだ。お前が俺を悪と呼ぶなら、それでもいい。気にしないからな。俺は、俺の信じる正義を貫く。正しい事を行うのではなく、正しくあろうと努力する事。それが、俺の正義」

「っ!?ゴミクズがぁぁぁ……っ!!!!」

「ゴミもクズも、お前だ」


 男が刀を構える。仄かな蝋燭の火が、赤い刀身を照らし出す。


「これより、我が正義を為す。巨悪よ、覚悟は良いか?」

「クソガァァァァッ!!!!……ッ!?」


 キャメロンが、男に飛び掛かる。キャメロンの手が、男に届かんとした、その瞬間。男が目にも留まらぬ速さで、何度も刀を振った。


「地獄で永遠に贖い続けろ」


 キャメロンの体が、細切れになる。

 英雄として名を馳せた男は、大罪人として歴史に名を刻む事になる。そしてその最期は、人としての形も残らない、無数の小さな肉塊だった。






『カカカッ、一気に芽吹いたのう!もう、蕾に成っておるぞよ!!楽しみじゃ、楽しみじゃ!!』

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