第八十六話
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『ダリル・コナー及びキャメロン・コナー、婦女子拉致監禁容疑により捕縛』
この一報は、瞬く間に国中、いや国外にまで知れ渡った。誰もが耳を疑い、そして附随する情報に驚いた。
今回の件を主導したのは、婚約者たるアリシア王女。そして、新しく配下となった『迷い人』のグレン・ヨザクラ。すぐに情報の収集が始まった。しかし、それはすぐに終わる。カーネラ王家が、進んで情報を開示したからだ。
普通ならこのような不祥事、何が何でも隠し通す。王女の婚約者で、国の英雄ならば尚更だ。だが、王家は積極的に情報を開示した。その理由は、開示された情報にもあった。
『王家は長年、コナー家にある疑いを懐いていた。その疑いとは、ダリル・コナーが当主となってからコナー家は婦女子を拉致監禁し、凌辱の限りを尽くしているのではないか、というものだった。しかし、それらしき情報は手に入るものの、決定的な証拠は掴めないでいた。そこで王家は大胆な策を実行する。国の英雄として名を馳せ始めていた、コナー家の嫡男キャメロン・コナーをアリシア王女殿下の婚約者とする事にしたのだ。勿論それは、表向きの関係。アリシア殿下は、国王より密命を賜っていた。それは当然、コナー家の調査。近付けば見える物もある。苦肉の策だった。しかし、そんな王家を嘲笑うかのように、調査は進展しなかった。そろそろ年齢的にも、アリシア殿下とキャメロン・コナーを結婚させねばならないか、と王家に絶望が漂い始める。そこに救世主が現れる。『迷い人』グレン・ヨザクラの登場だ。この男はこの世界に来てマフション商会に拾われた後、アリシア殿下に能力を買われ引き抜かれていた。そして、アリシア殿下及び国王陛下にこの一件を頼まれると、瞬く間に証拠を揃えた。引き抜かれてからというもの、周りに悪し様に言われ、下種な噂を流されても、この男は耐えた。そして、証拠を揃えて見せた。引き抜かれてから、三ヶ月も経たない内の事だった』
そして、コナー家の悪行に関する情報も同時に開示された。
『先代コナー家当主より、当主の座を引き継いだダリル・コナーは、己の欲の為にその地位を活用する事にする。女奴隷を買い漁り凌辱するのは当然、使用人や領民にも地位を傘に手を出した。それは、己が欲を満たす為だけの汚らわしい行為だった。次第にコナー家は悪名として流れ始める。この当時の事は知っている者も多いだろう。そして、ダリル・コナーが結婚し子供が生まれた。その子供が十になる頃、ダリル・コナーの凶行がピタリと止んだ。そして、その子供キャメロン・コナーが、騎士として頭角を現しだした。コナー家が変わった。そう思う者もいた事だろう。しかし、そんな事は決してなかった。上手に隠す術を覚えただけだった。やがて、キャメロン・コナーは騎士団長にまで登り詰め、騎士として人を助け、凶悪な魔物を狩り、英雄として名を馳せる様になる。だが、それは英雄としての姿を隠れ蓑にする為だった。勿論相応の実力もあったのだろう。しかし、キャメロン・コナーにもダリル・コナーと同様の醜い欲が、その身に渦巻いていた。そして、キャメロン・コナーの業は更に深かった。キャメロン・コナーの欲は、十にも満たない幼子にのみ向けられていたのだ。またダリル・コナーとキャメロン・コナーの両者は、王都及び領地の屋敷の両方で、『宴』と称した醜悪なパーティーを開いていた。今後は、これらに関わった者達の洗い出しが焦点となるだろう』
誰もが情報の真偽を確かめ、その結果に唸った。何一つおかしい部分は無かったから。二人が婚約してから、全然結婚しなかった事も、浮いた話が出なかった事も、その情報の真実味を増した。
そしてもし、今回の件をただの不祥事として処理していれば、王家の威信は地に、とまでは言わないまでも、落ちていた事は確実だ。しかし、そうはならない。上記の通り真実味が増しているから。流れていたグレンの悪評も、少し調べればデマだと分かるから。
結果、≪賢王≫の名も高まる。王女の努力も讃えられ、グレンも≪英雄の卵≫として名を馳せる事になる。
しかし、それは『宴』に関わり、利用していた者達のヘイトを集める事になる。そしてそれは、専らグレンの身に集まっていた。悪意と興味が混ざった、不気味なヘイトが。
そんなグレンはと言うと――――
目の前が真っ赤に染まっている。勿論怒りでも無いし、血でも無い。真っ赤な絨毯の赤だ。
「面を上げよ」
「はっ」
俺は二度目の謁見を果たしていた。
今回は、前回のように限られた人だけで無く、他の貴族や姫様達も同席している。好意、敵意、興味。様々な視線に晒される。
キャメロンを捕縛してから、一週間は経った。忙しい一週間だった。
キャメロン捕縛の一報が広まると同時に、屋敷を出れば顔見知りだけでなく、見知らぬ人にまで真偽を尋ねられた。それ程の事件だったのだ。
他にも、親父から上手くいったと報告を受けて安堵したり、私はこのままコナー家に仕えて良いのか、と悩みだしたギルを説得し、何も知らずいつも通り元気の有り余った幼女達の相手をさせられ、本当に忙しかった。
そして、論功行賞として城に呼ばれたわけだ。既に姫様は褒美を貰い、今度は俺の番と言う訳だ。来たくなかったが、俺も立役者の一人だし。俺の予定以上に、俺の名が世に知れ渡っているし。無駄だろう。陛下よ、やり過ぎだ。
「此度の一件、大儀であった」
「はっ」
「戦える力が無くとも、お主は頭脳を用いてコナー家の悪事を暴いた。儂の密命があったとは言え、解決に導いた期間も方法も賞賛に値するものである。故に、褒美を取らせよう。望む物を言うが良い」
顔は至って真面目だ。だが、どこか面白がる雰囲気がある。親父や母さんから聞いて、良く知っているはずだ。俺が、褒美を望まないだろうという事は。意地の悪い人だ。
「……過分なお言葉、有り難き幸せ。しかし今回は、謹んで辞退させて頂きます」
「ほう」
この言葉に、周りの貴族達が声を荒げる。俺を忌々しそうに睨んでいた奴らだ。『無礼』『下賤』『不敬』、そんな言葉が聞こえて来る。
そこへ王様が片手を上げると、苦々しそうにしながらも口を噤む。
「如何なる理由か?」
「はっ、恐れながら申し上げさせて頂きます。私はただ、ゴミ掃除をしたに過ぎません」
「「「っ!?」」」
俺の物言いにギョッとする物数名、息を呑む物数名。姫様達は呆気に取られながらも、どこか納得しているようにも見える。ある程度、俺の事を理解し始めたのだろうか。
「大きめのゴミを二つ。ゴミ掃除如きで褒美を貰っていては、恥ずかしゅうございます。それに私は、今後も姫様の下で働く所存です。この程度の事で褒美を渡していては、いずれ褒美が無くなりますよ?」
「貴様無礼であるぞっ!!」
「陛下の御心をなんと考えるか!!」
「下賤がっ!!」
貴族たちの怒りが爆発したようだ。口々に俺を罵ってくる。王様の前なのに。こういうのって、良いんだろうか?
「ふはははははっ」
「へ、陛下……?」
突然笑い出した王様に、皆がキョトンとする。
「そうかそうか!では、此度の報酬は無しだ!お主の今後の活躍を期待しよう!」
そういえば、隣にジョゼが居ないな。何故だ?もしかして、又はっちゃけそうだからだとか?流石に、王妃がそれは無いだろう。無いよな?
「しかし、陛下……!この者は余りにも無礼です!!罰するべきでは!?」
「良い」
「しかし……!」
「良いと言った」
「……!はっ……」
言い募った貴族は悔しそうに下がる。そして、忌々しそうにこちらを睨む。
馬鹿だな。この状況じゃ、『宴』の関係者だと、自ら言っているようなものだろうに。
「では、グレンよ下がれ」
「はっ」
「皆も大儀であった」
「「「「ははっ」」」」
気になるのは、ずっと値踏みするように見てきた人。敵意も好意も無く、ただ観察されていた。なんとも不気味な視線だった。
ちなみに、屋敷に帰った後の事。
謁見の間での事で、姫様には怒られ、クロエには呆れたように冷たい目で見られ、ヴィクトリアには殴られた。流石に、褒められた行為じゃ無かったらしい。
ただ、姫様の機嫌が良かったのは何故だったのか。褒美で貰った金が、そんなに嬉しかったのだろうか。




