第八十三話
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抱えていたキャメロンを逆さにし、頭が下に来るようにする。そのまま頭を乱暴に、水で一杯にしたバケツの中に突っ込んだ。
「……!?……っ!?……がぼっ!……げぼっがばっ!!がぼっごぼっぼぼぼぼっ!!!?」
暴れるキャメロンを意地でも押さえ付ける。全然起きないなー。
「おい!何をしている!?」
「え?いつまでも寝ているので、起こそうかと」
「ごぼおぼっ!かぼるっっ!!?」
イヤー、ホントゼンゼンオキナイナー。
「やめろ!殺す気か!?」
殺したいんだけどねぇ。ヘレン達が出て来ないなら、事故に見せかけて殺してるだろうよ。
「それはダメですね、よっと」
名残惜しさを感じつつも、キャメロンの頭を引き上げる。
「……げほっげほっげほっ!ごほっ、ゴロス……っ!?」
咳き込みながらも、殺意に染まった眼で睨み付けてくるキャメロン。元気そうだな。無言でもう一度抱え上げる。
「やめろと言っている!」
「……分かりました」
抱えていたキャメロンを放る。
「ぐぅっ……クソッ………!」
悪態を吐くキャメロンの、足を縛るロープを引っぱり引き摺って歩く。向かうは地下。
「キサマ……ッ!」
「黙れ、大罪人。行きましょう、殿下」
「……やり過ぎよ。歩かせなさい」
俺の行動が目に余るらしい。姫様は険しい瞳で、俺を睨んでいる。
「はぁ~~……まだ、そんな甘っちょろい事を言うのか、お前は。良いから黙って付いて来い」
「「「!?」」」
「貴様、口の利き方に……!」
「五月蠅い。邪魔をするな。ヴィクトリア・ルゥ・ガルシア」
「っ!?」
開いた隠し通路への扉から、微かに声が聞こえてくる。
すすり泣く声。狂ったように笑う声。何かを呟く声。何かを叫ぶ声。嘆願の声。その全てが弱弱しい声だ。
強化された聴力が、正確にそれらの声を拾う。感情が溢れ出す。これを聞いて普段通りになど、いられるはずがない。
「アリシア・フォン・カーネラ、そしてお前達も」
姫様、ヴィクトリア、そして騎士達を見回す。
「確とその目に焼き付けろ。この地下に何があるのか。このゴミ屑が何をしたのか。この先にあるのは、女にとっての地獄の一つ。覚悟が無いなら、見たくないなら、信じたくないなら、ここにいろ。目を閉じ、耳を塞ぎ、現実から意識を逸らし、のうのうと夢に生きていればいい」
嘗て無い、俺の剣呑な雰囲気に皆が呑まれる。生唾を飲むかのような表情の彼女達を置いて、キャメロンを引き摺りながら地下への階段を先に降りた。
真っ暗な闇に階段を下りる音と、引き摺られているキャメロンの頭を打つ音、そしてそれに呻く声が溶けていく。背後からも足音は聞こえて来る。どうやら、しっかりと付いて来ている様だ
やがて、扉の前に出る。
中からは多くの人の気配。そして、弱弱しい声。後ろを待たずして、俺は扉を開ける。
「っ!」
まずは、強烈な匂いが鼻についた。淫臭。濃密な性の匂いだ。地下の秘密の隠し部屋ゆえに、換気も儘ならないのであろう。これまでの匂いが籠り、熟成されているかのようだ。
そして、強化され夜目となった眼が、中の様子を捉える。
「…………っ!」
叫びそうになった。怒りの余り暴れ出しそうになった。感情の赴くままに、ゴミを殴殺しそうになった。だが、今はダメだ。だから堪える。理性を総動員させ、耐える。
夜目を頼りに、電灯タイプの魔道具の起動装置を探す。そして、壁に埋め込まれたそれを見つけ、起動させる。
部屋に明かりが灯り、夜目で見ていたその光景が鮮明になった。
「ひっ……」
「……っ」
「……」
「……」
悲鳴を上げる、怯える、無感情、呻く。部屋に入ってきた俺に、彼女達がそれぞれの反応を示す。
改めて、中の様子を見渡す。
中にいるのは、全て女。それも、一目で齢十にも満たない事が分かる程に幼い娘が多い。人族からエルフ、獣人まで。様々な種族の幼子達。そして、誰一人として衣服の類は身に着けていなかった。
口にするのも憚られる程の凌辱の後。目を逸らし、覆い隠したくなる惨劇。この部屋は狂気で溢れ返っている。
「……なんだこれは?」
「これは……!?」
「ひどい……!」
「なっ……!?」
茫然といった様子のヴィクトリアの呟きを皮切りに、部屋の惨状を見た姫様達も口々に呟く。誰もが、この光景を理解出来ないでいた。
激情を抑える俺の元へ、比較的年齢の高い幼子がやって来る。
「……あ、あの。お、おとこの人ですよね?ごほうしさせていただきます……」
その子はそう言うと、膝をつき俺のズボンに手を掛け始めた。
「「「!?」」」
その行動に俺達は、言葉を失った。
「お、おい……。……!?」
何かを言おうとしたヴィクトリアの前に手を翳し、目で『俺に任せて』と伝える。彼女は一瞬何か言いたげな表情をしたが、俺の顔を見たその瞬間、目が最大限に見開かれた。まるで、UMAでも見たかのような顔である。一体、何なのだろうか。
腰辺りで齢十にも満たない幼子が、たどたどしい手つきでズボンを脱がそうとしている。目的は自ずと見えてくる。
愕然とした。このような幼子が、怯えながらも媚びを売り、男の性器に手を伸ばすのだ。そういう風に教育、否、調教した者が居るのだ。無邪気に笑って、周りに幸せを振りまいているべき年齢の娘を、こういう風にしたヤツが。
「あ、あれ?も、もうすこし、おまちください……っ!」
俺の今の格好は、例のシングルスーツ。腰には当然ベルトが巻かれている。どうやらこの娘は、そのベルトに苦戦しているようである。
チラッとしか見た事は無いが、この世界のベルトにはバックルが無い。所謂タイベルトというやつだ。対して俺が巻いているのは、バックル付きのベルト。外し方など分からなくて当然であろう。
苦戦する幼子の頭に、優しく手を置く。
「ひっ…あ、あの!わ、わたしがしますから……!だ、だから、ほかの娘には……!」
「!」
この娘は、守ろうとしているのだ。自らを犠牲にし、その小さい体に男の肥大した欲望を受け止める事で。他の娘達を。
「助けに来た」
「?わたしのどこを使ってもいいですから……!」
俺の言葉が理解出来なかったらしい。小首を傾げ、尚も言葉を重ねる。
この娘の中からは既に、『助けが来る』とういう希望が無くなっているのかもしれない。だから、俺の言葉が理解出来ない。心が張り裂けそうになる。
『助けに来た』
魔力を薄っすらと広げる。そして、そこに言葉を乗せる。何の効果も無い。単なる思い付き。言葉が、彼女達の心に上手く浸透すれば良いな、なんて事を思っての。俺の魔力には、神力も混じっていると言うし。何か作用すれば、儲けものだ。
「「「!?」」」
突然の魔力に姫様達が驚く。
「え?」
膝を折り、目の前の幼子に視線を合わせる。手は頭に置いたままだ。
「君を、君達を助けに来た」
目の前の娘を思いっきり抱き締める。
「…あ、わ、わた、わたし……」
「もう大丈夫だ。『それ』をする必要は無い」
「う…うあ……」
恐る恐る、という風に手が回される。そこには不安がある。
「よく頑張ったな」
だから、さらに力を込める。
「うぅ……うぁ………うわぁぁぁぁんっ!!!」
耐えていたものが、堪えていたものが、堰を切ったかのように涙となって溢れ出る。年長だからと、常に気を張っていたのだろう。この娘がどんな目に遭って来たかなんて、俺には想像するしか出来ない。そして、その想像すらも霞むような事をされて来たに違いない。これだけは確実だ。
この泣き声を皮切りに、俺の言葉が聞こえていた娘達が続くように泣き出す。それは所詮泣き声でしかなかったが、俺には悔しさや怒り、嬉しさや悲しさなど様々な感情が込められているように思えた。




