第八十二話
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俺、何かしたか?いやまあ、したんだけど。ここまで露骨になるかよ。いやまあ、俺は露出したんだけど。
「え、えーっと、皆さん目が怖いですよ?」
「近寄るなぁっ!」
「ひぅっ!」
ヘラっとした笑みを浮かべながら近付くと、先程より強い拒絶の叫びが返ってきた。
「いいか、それ以上私達に近付くんじゃない。それ以上近付くようであれば……殺す」
本気だ。マジだ。なぜこんなにも……。
「え?え?わ、私何かしました?いや、確かに脱ぎましたけど」
「その後だ!!」
「後?」
「手で押さえていただろう!?」
「?」
何の話だ?
「だから、お、おち……っ!こ、股間を素手で押さえていただろうがっ!!」
「……ああ」
確かに抑えてたな。痛みで。
てか、ち○ちん言おうとしたよね。お○んちんって。
美人の口からおち○ちんとか、是非とも言わせてみたいけど、ここで突っ込んでいけば確実に殺られる。というかこの思考変態そのものだな。自重しないと。
「その手のまま近付くな!汚らわしい!どうしても近付く必要があるなら、その腕切り落とせ!!」
んな無茶な。まあ、今の俺なら、腕くらい何の施術も必要無くくっ付けられるけど。
「ええと、手なら洗いましたよ。魔法で。ほら、ほら、ほら」
しっかりと確認してもらえるよう手を見せながら、洗浄魔法を三度発動させる。今の俺の手は、世界で一番綺麗なのではなかろうか。
「そういう事じゃない!そういう事じゃないんだ!!」
ヴィクトリアだけじゃないもんな。騎士達どころか、姫様も距離を取っている。流石の俺もちょっと傷付く。
「その、今の貴方は生理的に受け付けないのよ。えっと、女として」
躊躇いがちな姫様の声。その声からは、申し訳無さが感じられる。一応罪悪感みたいなのは感じている様だ。だから何って話なんだけど。生理的にって、物凄く傷つく言葉の一つだぞ。
「はぁ~~~……いいですよーだ。どうせ俺汚いもん。汚らわしいもん。はぁ~~……頑張ったのになぁー。俺ちょー頑張ったのになぁー。怖さも恥ずかしさも堪えて、俺にはあんな事ぐらいしかできないから、ヴィクトリアさんには死んで欲しくないから。ちょー頑張ったんだけどなぁー………。なんか、俺の頑張りって全然認められないよなぁー。クロエさんと一緒に、殿下の為に頑張ったんだけどなぁー。信じても貰えないよなぁー。娼館に入り浸ってたなんて思われるし。情報収集してたのになぁー。はぁ~……何で俺ここにいるんだろう?男ってだけで、屋敷の人には冷遇されてるに。それでも、コツコツ頑張ってるんだけどなぁー。夜魔族の時なんて、ホント死にかけたのになぁー。はぁ~……」
勿論、ポーズである。彼女達の気持ちも分からない訳では無いので、今は甘んじておこう。ただ、やっぱり少し傷つくので、少々意趣返しだ。根が優しい娘達なので、罪悪感を覚えてくれるだろう。
鬱々とした雰囲気で聞こえるようブツブツ呟きながら、キャメロンを縛っているロープを引っぱり引き摺って、例の部屋に向かう。高級魔法薬は転がしておくか。
「あ……、その……」
「グレン……。あの、その……」
洗浄魔法を掛けながら、高級魔法薬を拾ったヴィクトリアが何か言おうとしているが、放っておく。姫様も放置だ。取り敢えず、今は屑共の事を片付けないと。
部屋は簡素な装いだった。
「はぁ~~……あ、誰か水魔法使えます?」
「わ、私が」
進み出てきたのは、先程の奴隷紋の指摘をした娘。チラ見の娘。
「じゃあ、これ水一杯にしてください」
指輪から取り出したバケツを床に置く。幼女達と泥遊びした時に、使ったものだ。ピカピカの泥団子作ったんだっけ?楽しかったなぁ~。
いかんいかん。ポーズのつもりだったが、本当にテンションが下がって来た。
「は、はい」
恐る恐る、俺の様子を窺いながらバケツに近づく。あれ、警戒されてる。
「す、水球」
バケツの上に水の玉が現れ、ゆっくりバケツの中へ入っていく。そして、バケツの底に到達すると同時に、パシャッとバケツ内に水が広がり一杯になった。
「……ありがとうございます。はぁ~……あ、私やる事あるんで。皆さん、地下への隠し通路開いておいてください、手順は憶えてますか?」
「は、はい…」
代表してか、チラ見娘が答える。
「じゃあ、お願いします。あ、何名かは部屋の外を警戒しておいてください。大丈夫だとは思いますけど、何が起こるか分かりませんので」
使用人達も震えていただけだから、今更何かするとは思えないけど、彼らは『宴』の事で、何か知っていたりするのだろうか。
「そ、その……お前は何をするんだ」
遠慮がちに声を掛けてくるヴィクトリア。そういえば、彼女気付いているのだろうか。その槍の石突きは、俺の股間に触れているという事に。
はっ!?良い事を思いついてしまった。
「あ、ヴィクトリアさん天井に穴開けてくれません?槍ならぎりぎり届きますよね?」
天井はそこそこ高い。ヴィクトリアの身長なら、槍の端を握れば届くであろう距離だ。
「良く分からんが、分かった」
俺に対して僅かに罪悪感を覚えているからこそ、こんな注文にも応えてくれる。
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ……こんなもんか?」
天井が抜けない程度に、穴が開けられる。
「ぷくっ……あ、ありがとうございます」
地味にドヤ顔なのが、面白い。
「?何の意味があったんだ?」
「い、いえ、念の為なので……ぷくくっ」
「……何が可笑しい!?」
だって、貴女今俺の股間を間接的に触った事になるんですよ?これが笑わずにいられますか。
「その、トリア……言い難いんだけど……」
「姫様?」
俺の目的が分かったらしい姫様が、ホンットーに言い難そうにヴィクトリアに話し掛ける。
「えっと、その槍でさっき……その、グレンのこ、股間つ、突いてたわよね?」
突いてた、なんて可愛らしいものじゃ無かっただろ。アレは、完全に俺のムスコを殺しに来てた。
「……?……~~~っ!!!??」
ゆっくりと姫様の言葉を理解していったヴィクトリアは、声にならない悲鳴を上げる。
「ぷくくくーっ。!ねぇ、今どんな気持ち!?汚いと距離を置いたモノに、間接的にとは言え素手で触ってしまった気持ちって、どんな気持ち!?ねぇ、ねぇ、ねぇ!洗浄魔法なんて使ってませんよんね!?だって俺、見てたもん!ぷくくくーっ!」
ここぞとばかりに煽ってみる。
「ぐっ……!キ、キサマ……ッ!」
羞恥と怒りで全身が赤くなっていくヴィクトリア。このまま何もしなければ、槍で貫かれる事だろう。だが、俺の手元には切り札がある。
「シネ!「キャメロンバリアー!!」……っ!?」
俺に向かってきたヴィクトリアの前に、気絶し縛られたキャメロンを掲げる。そして、寸前で槍が止まる。その位置は、正確に心臓を狙っていた。
「危なっ!?」
あれ、ヘレンの気配。しかも背後から。
「ちっ……!この外道がっ!」
「えー、この程度の事で殺しに来るような人に言われたくないんですけど……。まあ兎に角、今私は最強の盾を持っている訳ですね。キャメロンごと私をぶち抜く時は、契約の関係上夜魔族も出てきますよ」
残念な事にまだ契約は生きているからな。俺がキャメロンを抱えている限り、盾として使える訳だ。
それにしても影魔法って便利だな。背後にいきなり気配が湧いたって事は、俺の影に潜むかなんかしてたって事だろう?これ使われてたらもっと確実に心臓抉られてたりしたんじゃ?それとも条件とかなんかあるのかな。まぁ、この辺の考察は別に良いか。
てか、もしかして裸見られてたか?見せるつもりが無かった者に、不意打ち気味で見られっとなると別種の恥ずかしさがあるな。
「くっ……卑怯者がっ!」
声を荒げ槍を収めるヴィクトリア。その表情は実に悔しそうだ。
そして、おもむろにタオルの様な布切れを懐から取り出すと、石突き部分と手をゴシゴシ擦り出す。洗浄魔法も合わせて使っている模様。布切れが擦り切れそうな勢いだ。
「あの……手荒れちゃいますよ?」
キッと俺を一睨み。
「……憶えていろ」
嘗て無い程に底冷えする低い声だった。忘れてしまおう。怖いもの。
ガコンッ ゴゴゴッ
何かが動く音がする。どうやら、隠し部屋への扉が開いたようだ。




