第七十六話
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既に自分でどうにか出来る段階は過ぎていると、そう理解しているのだろう。ギルは目と口を固く閉じている。
「……素直に協力して欲しかったんだけどな」
聞いた話では、彼は先代コナー侯爵に多大な恩があると言うし、忠誠心も相当のようだ。その辺から切り崩していくかな。
「……何も話すつもりはありません。拷問されようと、殺されようと」
「あははは、そんな事しませんよー。それに、聞きたい事は無いですし」
その辺の情報は、フィロメーナやヘレン達の協力のおかげで、既に得られている。
「……では、何の用です?」
「だから、協力してもらいたいだけですよ、殿下達の前で、ね」
「舐めないで欲しいですね。私はコナー家に仕える執事、主家を売るなど言語道断!」
主家ねぇ、主君では無いんだな。
「おお、見事な忠誠心です。だけど、このままではその主家が潰れてしまいますよ?」
「っ!……そんな事はさせない」
「縛られている人が何を言いますか。それに、お忘れですか?既に陛下のお耳にも入っているんですよ、色々とね。今は私が任されているから、積極的に動いていないだけですよ」
「くっ……」
そう、ギルに出来るのは指を咥えて眺めているか、主家の為に出来る事を見極めるか。
「当然、裁くのは陛下です。ですが、今回のこの件に関しては、私の意見も反映されると思いません?なんせ、こうして先頭に立って事に当たっている訳ですから」
「……何が言いたいのです」
その表情は、僅かな希望を見つけた事を物語っている。
「分かっているでしょう?このままでは、コナー家は間違いなく取り潰しになる」
王に貴族位を与えられ、その義務を果たさなければならない者が、逆賊紛いの人道に反する事をしているのだから。
「……」
「そう言えば、侯爵夫人と御令嬢は学都におられるそうですね」
『学都』、それはカーネラ王国の誇る都市の一つ。国内のみならず、他国からも身分・年齢問わず人が集まる、複数の学び舎が集まる都市。貴族の子女ならば、社交に必要なスキルやマナーなどを学ぶ事になる。
「貴様!?まさか、お二人を……っ!?」
「え?いやいやいやいや、違いますよ?」
殺意を込めて睨み付けてくるギルに、慌てて否定する。二人を害するつもりだと、疑われたようだ。この状況じゃ、そう思うのも無理ないか。
「ただ、確認しただけですよ。そのお二人がいれば、コナー家の男はいなくなっても、家は存続できますよね?」
「っ!?そ、それは……」
その逡巡は、迷いの証。もう一押しかな。
「ヴェディさん、話は聞いていましたね。コナー家に対する裁量を、任せてもらえるよう陛下にお願いしたいのですが」
「はい、既に話は通しました。『好きにせよ』との事です」
「っ!」
さすが、王様、話が分かる。ヴェディも有能だ。
「と言う訳ですが、どうしますか?ギルさん」
「わ、私は……っ」
むむ。これでも、躊躇いますか。あの日商会で、奴隷を買う際に葛藤をその顔に見たから、こうして脅したりせずに話をしているのに。その善性を信じてあげている、俺の思いにも応えてもらいたいな。
「貴方が守りたいモノは何ですか?ダリル・コナーですか?キャメロン・コナーですか?それとも、大恩ある先代が遺して逝った、誇りあるコナー家ですか?」
「あ……」
ここまで言えば、気付く。自らが大切にしていたモノを。命に代えても守りたいモノを。
「協力してくれますか?」
「……分かりました」
折れた。
「ありがとうございます。……貴方の勇気に敬意を。自分を責める必要はありません。貴方が仕えているのは、ダリル・コナーでもキャメロン・コナーでも無く、コナー家そのものだった。寧ろ、胸を張ってください。貴方の勇気に救われる、幼い命があるのだから」
きつく唇を噛み締めるギルに、そう言葉を掛ける。少しでも、心の負担が軽くなれば何よりだ。
あ、拘束も解いておいてあげないと。
「……では、本題に入りましょうか。殿下、そして皆さん。良く聞いていてください。これが、コナー家の闇です」
そう言って、俺は説明を始めた。ギルの確認を取りながら、コナー家の『宴』に関する話の説明を。
皆が三者三様の表情をしている。
説明している間も、呻いたり息を呑んだりと様々な反応を示していた。姫様もある程度覚悟していたようだが、その険しい表情から察するに予想以上だったようだ。
「嘘だ……」
「夜魔族、ね……」
「やはり、男はペットにするのが一番ですわ!オーホッホッホッ」
「むむ。某の調査ではそんな事実一つも……」
「フッ、英雄と持て囃されようと結局は男。やはり、信用ならないね」
説明は終えたし、早速行動しないと。
「そう言う訳ですので、殿下には騎士団を動かして頂きたいのですが?」
「……分かったわ」
この表情の険しさは、ようやく事の重大さを理解したってところか。やはりその辺は、俺の対する信頼度とキャメロン・コナーに対する信頼度の差から来てるんだろうな。当然俺の方が低い、と。納得がいかん。頭では理解しているんだけどな。
幼い頃から知っているってのは、それだけで補正が掛かるものだ。
「嘘だ……」
ヴィクトリアの思い出にも、補正が掛かってるのかもしれないな。
「ヴィクトリアさん。『宴』の事、夜魔族の事。貴女の立場を考えると、信じられないのも無理ありません。だから、後は自分の目で判断してください」
「私の目で……?」
大丈夫か?ボーっとしてるけど。出来れば彼女に、キャメロン・コナーは捕まえて欲しいんだけどな。
「今から、王都のコナー家の屋敷に乗り込みます。そこで決めてください。私を殺すか、キャメロン・コナーを捕縛するか」
「……」
ヴィクトリアの表情は暗い。さて、何を考えているのか。
「さて、で「グレン様」……おや?どうしました?ヴェディさん」
準備に取り掛かるようお願いしようとした所で、ヴェディから声が掛かる。もしかして、もう終わったかな?
「ダリル・コナーの捕縛及び女性の保護が完了しました」
「「「っ!?」」」
「おお、そうですか。流石、オスカー様です」
「それと、三人の夜魔族の男を殺害、との事です」
三人か。ヘレンもそう言ってたし、取りこぼしは無いかな。
「……分かりました。夜魔族には伝えておきましょう。オスカー様に『お疲れ様でした。ありがとうございました』と、そうお伝えください」
「はい」
さて、こっちもそろそろ動かないと。
「殿下」
「……ええ。フィオ、カエデ、アレン。部隊を整えなさい。十分後には出るわ。」
「オーホッホッホッ」
「承知」
「了解だよ」
思い思いの返事。そこは、膝をついたり一礼をして『はっ』とかじゃないのか?フィオランツァなんて、返事ですらないぞ。
準備に取り掛かる為部屋を出て行くフィオランツァ達を見送った後、姫様は残りの一人に向き直る。
「ヴィクトリア」
「……」
「トリア」
「……」
「トリア!!」
「!?」
声を荒げる姫様を、驚いたように見るヴィクトリア。今の絶対聞こえてなかっただろ。
「いい加減、シャンとしなさい。グレンはこれだけの証拠を揃えてきたわ。魔族と接触したって事は、下手したら命の危機もあったのでしょうね」
「……」
ええ、ありましたとも。下手したら死んでいましたとも。なんせ、心臓を貫かれたんですから。
吐き出したカプセルは、回収済みだ。復元魔法と洗浄魔法で、もう一度使えるようにし、既に口の奥に入れてある。魔法薬の方も補充しておかないと。
ヘレンの治療のおかげで死に難くなったけど、何が起こるか分からんからな。
「貴女も覚悟を決めなさい。誓約したのは貴女よ」
「っ!は、はい。……失礼します」
部屋を出て行く前に一度頭を下げたヴィクトリアの表情は、上げられる頃には騎士の顔になっていた。大分影はあるが。まぁ。この分なら大丈夫そうかな。
さて、俺達も準備しないとだな。さっさとキャメロン・コナーを捕縛して、休みたい。昨日からの心労もあるし。孤児院に帰ったら、普段以上に幼女達をモフるとしよう。
姫様の何か言いたげな視線を受けながら、そんな事を考えた。




