第七十五話
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麻袋の中から出てきたのは、手足を縛られた初老の男。
ヘレン達夜魔族に協力を仰ぎ捕縛した、コナー家の執事・ギルだ。
緊急事態だと称し、執事及びコナー家に詰めていた夜魔族の男達を呼び出す。何も知らない奴らは、ノコノコと疑う事もせず登場。そこを一気に蹂躙。呼び出された男達は死に、ギルは呆気なく気絶させられ捕まった。長い間コナー家と夜魔族間に、不和は生じれど決定的な決裂は無かった為疑われず、上手くいったらしい。
ヘレンの傍らに見慣れぬ男、つまり俺がいた事に驚き悟った夜魔族の彼らは、次の瞬間には俺に対して罵詈雑言の怨嗟の嵐を浴びせてきた。悪ノリした俺は、『フハハハハハ』なんて高笑いをし、傍にいたヘレンを初めとする夜魔族の女性陣をこれ見よがしに抱き寄せて、それはもう最高に悪い顔をしてやった。
『宴』に関わっていたのは確定のようだったので、俺の手でプチッと行きたかったが、ヘレン達の面目もある以上彼女達に任せるのが道理だった。だから、奴らの死を嘲笑う事で貶めてやった。俺の正義も大分歪んでるな、と再認識した一幕だった。
ギルは麻袋から放り出されると、落ち着いて周りの様子を窺っていた。クロエに担がれていた時は、状況も分からず、興奮状態だったのだろう。今は俺達の話声が聞こえていたのもあってか、随分と落ち着いている。
これならスムーズに本題に入れそうだ。
「やあ、ギルさん。お久しぶりです」
猿轡を外しながら、にこやかに声を掛ける。
「……誰ですか、あなたは」
「おや?分かりませんか?……ほら、これでどうでしょう」
指輪から面頬を取り出し、装着する。
「!?お、お前は!商会の!?」
「はい、グレンと言います。以後お見知りおきを」
ま、今後があるかどうかは分からないけど。
首だけを動かして姫様を見ると、驚きの中に納得したような表情になる。
「そうですか……貴方が噂の迷い人だったのですね」
「はい。それで、本題ですけど何の用か分かってますよね?」
「……ええ」
自分を捕らえたのが、夜魔族だなんて事は十分に理解している事だろうからな。
「では、協力をお願いしたいのですが?」
「……私に話せる事は無い」
そりゃ、素直には話さないわな。悪い事をしているのは理解しているだろうし、何より今この場にいる面子が面子だ。コナー家次期当主の婚約者とその配下。
「そうですか。では、とっておきの情報を一つ」
「何?」
「お昼頃には、ダリル・コナーは捕縛される事になってます」
「「「っ!?」」」
ギルだけでなく、姫様達も驚いたような表情になる。この件に関する情報が、しっかりと統制されている証拠だ。
「だ、誰に捕まると言うのですか……?」
「オスカー・ルゥ・ガルシア。近衛騎士団長様にですよ。彼らは既にグラーノ入りしていますから」
コナー家の治める領地、グラーノ領。そこは、小麦の名産地らしい。
「は?」
それはヴィクトリアの口から漏れた声。
「な、なぜ……?あのお方は今、若い騎士を連れて演習に……っ!?ま、まさか……!」
思考停止はしていないようだ。
「はい。それは表向きの理由ですよ。真の目的はダリル・コナーの捕縛」
「そ、そんな「及び、囚われ凌辱されているであろう女性達の保護」……っ!」
「「「なっ!?」」」
皆が驚き、目を見開いている。思い思いに喋って騒がしいが、今は後回しにしよう。聞きたそうな顔をしている者も、既に疑問を口にしている者もいるが後回しだ
それにしても、若い騎士というのは思い浮かばなかった。確かに、演習と言う名目を信じさせるにはベストだ。この辺は、オスカー若しくは王様の長い経験によるものか。
「こ、近衛騎士団が動いているという事は………。へ、陛下が……」
「ええ、近衛騎士団は陛下にしか動かせませんから」
弟子だと言うキャメロン・コナーだったら葛藤もあっただろうが、その父親だったら彼の心にも負担は少ないだろう。一昔前までのダリル・コナーの評判は、最悪だったと言うし。
「なぜ、陛下を動かせる……。たかが、奴隷如きに……」
「?」
ああ、そう言えば俺奴隷だったっけ?最近忘れてた。
奴隷紋も既に無いし、奴隷としての扱いが思ったよりソフトだった為、すっかり忘れてた。もっと、鞭とかでバシバシ来るのかと思って、それなりに覚悟とかしいてたからな。いくら商会が相手を選んでると言っても、見えない所ではどうかなんて分からないし、現にコナー家はお得意様のはずが、深い闇があった。
あ、姫様にも一度鞭で……ブルルルッ。嫌な茶番を思い出した。
「……ヴェディさん、いますか?」
「はい」
「「「っ!?」」」
突然聞こえた声に、皆が慌てふためく。しかしそこは、流石騎士。即座に姫様を守るような位置につく。
「紹介しますね。陛下お抱えの暗部の一人です。声だけなのは特殊な魔法です。ヴェディさん、オスカー様は?」
虚空に向かって話しかけるのも、随分と慣れてきたな
「本来の作戦内容も全騎士に説明を終え、既に準備は万全との事です。後はこちらのタイミング待ちです」
「そうですか……若い騎士という事なので、想定より時間が掛かるかもしれませんね。準備が終わっているのであれば、突入してもらっても構いませんよ。オスカー様に、お願いしますと」
「畏まりました」
となると、こちらも少し急ぎましょうかね。
「と、まあ、こんな感じで陛下とは太いパイプがあったりしますので」
「な、な……」
開いた口が塞がらないとは、こういう事を言うのだろう。ギルが得体の知れない物を見る様な目で、こちらを見ている。姫様達も、展開に付いて行けていないようだ。
「……何の話をしている?」
一瞬の静寂。故に、その声は小さいながらも良く通った。
「ヴィクトリアさん?」
「何の話をしている……?コナー侯爵の捕縛……?父様が……?陛下もご存じ……?一体何の話をしているんだ………?」
そこには虚ろな目をして呟く、ヴィクトリアの姿が。こちらは考える事を止めてしまっている様で、言葉を呟くだけだ。
「何って、決まってるじゃないですか」
「やめろ……」
止めるものか。止めて良いはずない。
「今話してるのは……」
「やめろ……!」
「キャメロン・コナーという、王国に巣食う大罪人を捕まえましょう、って話ですよ?」
「ああぁぁぁっ!!!違う!違う!!違うっ!!!」
叫びながら、何度も頭を振るヴィクトリア。その姿は見ていて、とても痛ましい。
「……トリア」
「キャメロンが大罪人だと!?ふざけた事をぬかすな!!よしんば侯爵がそうだったとしても、キャメロンは違う!あいつは、この国の為に命を懸けてきた英雄だっ!!」
本当に何が、彼女をそこまで頑なにさせるのかね。キャメロンとの過去話とか、改めて興味出てきちゃったよ。
だけど、今は何を話しても無駄だろうし、時間も勿体ない。ちょっと、強引な手段を取らせてもらおう。
「……ヴィクトリアさん、邪魔です。引っ込んでいてください」
「あ?」
そんな事を言われるとは思っていなかったのだろう。恐ろしい声が、疑問の体でヴィクトリアの口から漏れる。
「「「!?」」」
誰もが馬鹿かこいつ、そういう目で見てくる。まあ、今のは明らかに火に油な発言だしな。
「……ふざけるなよ。娼館に入り浸っていたような、ゴブリン擬きがっ!!」
「ひえっ……!?」
「……はぁ~」
相変わらず怖いなー。そんなに殺気をぶつけないでよ。グレン君はビビッてちびっちゃいますよ?
それと、クロエさんは溜息なんて吐かないで。
「殺す……!………っ!?」
殺気を纏いながら近付いて来るヴィクトリアの前に、一枚の紙を掲げる。その紙を見た、ヴィクトリアが動きを止める。
「せ、誓約紙の内容を忘れましたか!?し、し、し、神罰を受けますよ!?」
『キャメロン・コナーの件に関して、間接的にも直接的にも邪魔をしない』。良かった。ちゃんと憶えていたようだ。誓約紙様様だ。
それにしても、神罰って何なのだろうか。資料じゃ、黒焦げになるらしいけど。
「くっ……」
悔しそうに、唇を噛むヴィクトリア。
「そんなにキャメロン・コナーを信じたいのなら、信じていればいい。ただ、私の邪魔はしないで下さい。今は口での警告ですけど、これ以上は本当に邪魔だと判断しますから」
気丈な態度で宣う、その膝は震えている。
「……ちっ!」
俺としては、本当に神罰なんて物があるのか疑問だが、この態度を見るに本当なのだろうな。いつか見ておきたいものだ。
「さてと……」
話が大分逸れたな。ギルの件に戻さないと。今一度、縛られ転がされているギルの方へ向き直った。
暑くなってきたなぁ……
コロナだけじゃ無く、熱中症とかも気を付けて下さいね(^^)/




