第七十三話
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ヘレンの話を聞いて最初に感じたのはコナー家に対する憤り、そして夜魔族に対する呆れだった。
その先代との間にどんなやり取りがあったかは知らないが、些か詰めが甘すぎる。契約を結ぶなら、あらゆる可能性を考慮して一つずつ詰めていかないと。だから、そんな目に遭うのだ。
とは言え、それを口にはしない。夜魔族も必死だったんだろうし、何やら事情もあったかもしれない。今言えるのは、コナー家を一秒でも早く滅ぼしたい、という事。
「予想通り、いやそれ以上か……ありがとな、ヘレン」
「礼には及ばぬのじゃ。協力すると約束したからの」
後はいくつか確認しないと、だな。場合によっては計画の変更もある。
「確認したいんだが、ダリル・コナーは領地だから良いとして、キャメロン・コナーを王都内で殺すと言った場合、夜魔族としては介入せざるを得なくなる。これは間違ってないな?」
「うむ。『王都内での危機』じゃからの」
「じゃあ、捕縛はどうだ?」
これがダメだったら、王都内から連れ出さなくてはいけなくなる。そうなると手間も時間も掛かる上に、近衛騎士団との同時作戦の意味が無くなる。ダリル・コナーの捕縛の方が先に済んでしまえば、必ずキャメロン・コナーの耳に入り警戒される。それは避けたい。
「それは恐らく大丈夫じゃ。生きる者にとっての危機は『命』に関わる事が、第一に来るじゃろうからの」
「そうか…‥‥」
作戦の変更は無し。後はタイミングだな。
「では計画通り、例の執事を捕らえますか?」
「いや、まだ確認したい事がある。ヴェディ、いるな?」
夜魔族と戯れている時も、ずっと気配を感じていた例の暗部の娘に、声を掛ける。色々と見られただろうし、親父からもそれとなく聞いているだろう。今日は、このままの口調でいく。
「……はい、ここに」
「「「っ!?」」」
驚くヘレン達。彼女達も気付いていなかったようだ。この暗部の人の隠形スキルは訳が分からない。どうやって、俺だけに気配を知らせているのか。やはり、魔法か?
「どこじゃ!?」
戦闘態勢のヘレン。他の夜魔族も彼女を囲う様に立ち警戒している。
「あ~~、ヘレン。大丈夫だから。この人、王様の配下の暗部の人。協力者だ」
「……全く気配が感じられぬ。この国の王は、こんな者まで飼っておるのか……!」
何か失礼な言い方だ。まあ、時間も惜しいし放置だ。
「クロエ、予定している作戦の説明をヘレン達にしといてくれ」
「……はい」
クロエの説明を受けるヘレン達を尻目に、俺は虚空を見上げる。
「それで、ヴェディ。オスカー達の動きは?」
「順調の様です。早くて今日のお昼頃、遅くても今日の午後には突入できるかと」
「では少し急いで貰って、作戦決行は昼に、とそう伝えてください」
「……畏まりました」
……どうやって伝えるのだろうか。やはり、魔法か?ああ、羨ましい。ユニーク魔法を目の当たりにしてから、その想いが再燃してしまった。羨んでも仕方ないのに。
「上手くいっている……」
大丈夫。慎重に時間を掛けたんだ。上手くいくのは当然。後は一気に、畳み掛ける。
「グレン様」
クロエの声に振り向くと、どうやら説明が終わった様子だった。
「ヘレン、この作戦に不都合は無いか?」
「無いのじゃ。『命』の危機が無い限り、妾達は介入せぬ」
「そうか、良かった」
「ただ、一つ問題があるのじゃ」
「何?」
何か見落としがあったか?
「恐らくじゃが、一族の男の中に『宴』に参加た者がおる」
「っ!……あいつらかっ!?」
脳裏に過るのは、クロエを下卑た視線で舐め回すように見ていた男達。
あの状況でそういった事が出来るのは、それだけ性根が腐っている証拠。そして、普段から女をそういった目で見てるという事。
あの時、殺しておくべきだった。いや、それだと夜魔族と完全に敵対していたかもしれない。くっ、ままならないな。
「そうじゃ。お主が痛めつけた奴らじゃの。それと他にも数名」
「ここにおる者達に関しては既に殺したのじゃ」
「そうか……ここに?」
「うむ。コナー家に常時張り付いてる者達がおる。警戒・監視と連絡員と言う名目じゃが、殺した男達含め全員男じゃ」
はぁ~~、ホントどうしようもない奴らだな。どうしてこう、下半身で生きてるようなのが存在するのか。そんな奴らがいるから、『男って奴は』などと一括りにされるんだ。
「是非とも俺の手で殺してやりたいが、実力を隠している身としては難しい。頼めるか?」
「元よりそのつもりじゃ。そのつもりなのじゃが、ここで問題の核心じゃ」
「何だ?」
もしかして、ヘレンでも手に負えないとかか?
「一族の男が減るのじゃ」
「……だろうな」
男ばかりを殺す事になるのだから、当然だ。
「うむ。そうなると、子孫を残す事が難しくなってくるのじゃ」
「……」
何が言いたいのか読めた。
「強い者の血を求める種族としては、一族の弱い男などどうでもいいが、やはりここは「グレン様」……ちっ!」
鼻息を荒くして語るヘレンのセリフに、割って入るのはヴェディの声。先程断ったのに、逞しいと言うか何と言うか。
「どうかしたか?」
「準備が整ったとの事です。今は、コナー家の館のある街周辺で演習擬きをやって、待機中だそうです」
早かったな。
「分かった。じゃあ、一時間後に突撃するよう頼んでくれ。それと、もし魔族の男がいたら、殺すようにも伝えてくれ」
「分かりました」
オスカーの方はこれでいいか。後は任せるだけだ。こちらもそろそろ動き出すとしよう。
「それじゃ、そろそろ……ヘレン?」
何やら考え込んでいる様子のヘレン。
「む。ヴェディと言ったか?お主のそれは『感覚魔法』か?」
「……」
「感覚魔法?何だそれは?」
「ユニーク魔法じゃ」
またユニークか!!良いもん。羨ましくなんて無いもんね。無いったら無いもんね!!けっ!
「……良くご存知でしたね」
「くくくっ、伊達に長くは生きてはおらぬのじゃ」
「それで、感覚魔法ってのは?」
「その名の通り、感覚に関する魔法を使えるのじゃ。視覚を飛ばす事も出来るし、遠くの音を拾う事も出来る。他には、遠くに声を届けたり、それこそ気配すらも遠くに飛ばす事が出来るのじゃ」
それって……、正しく今の状況じゃないか。気配や声の位置を正確に捉えられなかったのは、この魔法によるもので本人は遠くにいたのか。地味だが、かなり便利だな。
「逆に感覚を殺す事も出来ますね。視覚や聴覚とか」
便利どころじゃない。恐ろしい魔法だ。
「昔、こんな話を聞いた事がある」
ヘレンが語ったのは、こんな話だった。
『昔々ある所に、大陸を征服しようと目論む悪い大国があった。その国は、次々と周辺国を侵略し、前線には常に大軍が砦を構えていた。その勢いは、止まる事知らず。しかし、ある時不思議な事が起こった。砦の兵が、一夜で全員息絶えたのだ。それも一度のみならず、何度も何度も。そしてある時、やっと一人が生還した。
「奴が来る」
生還した兵はそればかりを口していた。仕方なく、回復を待って話を聞くと、こう口にした。
「夜になると、目が見えなくなるんだ。そして耳も。だけど、耳元では常に何か囁き声が聞こえるんだよぉぉ。他の音は聞こえないのにぃぃ。それで今度は気配がするんだ。真後ろにピッタリと。振り返ってもそこにはだれも……あああぁぁぁぁ!!!」
暗闇の中、一人が狂乱すればそれは伝染する。ただでさえ、得体の知れない恐怖の中で極限状態になっている所に、それは起爆剤のようなものだったのだろう。最終的に砦には、数多の死体が転がる事になった、との事だった。そして、唯一帰還した兵もその後発狂死したらしい。
「私今、あなたの背後にいるの」
それが、正気を失う寸前に聞き取れたセリフだと言われている』
「……」
「……」
「それが『感覚魔法』の使い手の仕業だったと伝わったのは、結構後の事じゃったらしいの」
リアルメリーさんじゃねぇか。やべぇ、マジでリアルな想像しちまった。今日寝れるか?
「あ、あー、まぁ、凄い魔法って事だな!」
「あの、グレン様……」
「じ、時間も惜しいし、そろそろ作戦の方に移ろうか!」
「グレン様!」
「うん?どうした?」
やや赤くなりながらの訝しげな視線。
「……何故私の手を握っているのですか?」
全力で視線を逸らす。
「…………」
怖いからです。
それから暫くの間、妙に生温かい視線としつこい追及が止む事は無かった。




