第七十二話
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ヘレン達の表情は、どこか覚悟を決めたような雰囲気が見て取れる。
「いつから……」
クロエが驚いている。ほぼ完全に気配を殺していたし、気付かないのも無理ない。
無理ないのだけど……クロエって戦闘力含めてそこそこ能力高そうだけど、穴が多いと言うかバランス悪いよな。メイドの方がメインだからか?
「早速コナー家との事について、と言いたい所じゃが……、その前に一つ、頼みがある」
「頼み?何だ?」
「妾達をお主の庇護下に入れて欲しい」
夜魔族の事は黙っていて欲しいとか、そういうお願いかと思っていたのだが、全く違ったようだ。
庇護下というのは、要は守って欲しいという事か。夢魔族と同じ扱いと考えれば、拒否する理由も無い提案だ。だが……
「その必要があるのか?お前達は強い。魔族でも三本指だと言うし」
「……魔族だからじゃよ」
その瞳は哀しげであった。
「そんなになのか……?」
魔族と他の種族との間にある確執は、それとなく理解している。カールとの会話でも、それは強く感じた。だけど、声高に魔族を害悪だと言っている訳では無いし、確執自体種族が違えば当然存在するものだ。
何がそこまで魔族を追い込んでいるのか。
「出自じゃよ」
「出自……」
魔族は、魔物が進化した種族。
「そうじゃ、魔族が元々魔物であるという一点のみだけで、妾達は畏怖の対象となる」
ああ、これはまたしても俺の認識不足。
魔物と相対した事が無いから、その恐怖等も分からない。話は聞いた事あるし、軽くだが調べてもいる。やはり、それだけでは魔物を知る者とは認識に差異が出るか。
夢魔族の時もそうだけど、コミュニケーションをとれる知能があれば、種族なんて関係無いと思うんだけどな。
「……悪い。俺の認識が甘かったようだ」
「良い。お主は迷い人じゃからの。それで、先の返答や如何に?」
その瞳は揺らいでいる。恐らく、不安に。俺にも拒絶されるかもしれない、とでも思っているのだろう。
全く見縊られたものだ。
「そうだな。いいか?俺はお前達より強い。圧倒的にな」
「……それは、今関係あるのかの?」
「お前達は元々魔物、つまり化け物だ。だが、お前達より強い俺の方がもっと化け物だ」
前半の言葉に傷付き、後半の言葉に呆気に取られる。そんな表情のヘレン達。
「な、何という極論じゃ」
「だから、俺が守ってやる」
「っ!」
息を呑むヘレン達。
俺は言う。傲岸不遜に。夢魔族の時同様に。
「下心持って近付いて来る者から、悪意持って近付いて来る者から、そして時に国さえも相手にして、その全てから守ってやる。俺にとっては、全ての種族が等しく異世界人だ。魔物だとか魔族だとか、知った事か」
あれ?この感覚は……また?
意図してやってるつもりだったけど、止まらなくなってきた。
「老若男女問わず俺が守ってやる。だが、俺は一方的な関係と言うのはどうも好かん。だから、お前達も力を貸せ」
ヘレン達の前に立ち、手を差し出す。
「あ……」
「ただ守られているだけ、そういうのは許さん。俺の後ろに『隠れて』いるだけ、そういうのは許さん。どこでも良い。それこそ、俺の後ろだろうと良いから『立て』。支えてやる、、守ってやる。だから、自らの意思で、自らの足で『立て』。卑屈になるな。甘受するな。抗って見せろ、夜魔族よ」
「「「っ!」」」
その目は驚きに染まり、大きく見開かれている。こんな事、言われた経験が無いのだろう。戸惑いも見て取れる。
奇しくも、と言うかうっかり、夢魔族の時と同じような展開になってしまった。俺の言葉を理解し受け入れていくにつれ、こちらを見る目に熱が籠りだしている。
また、やらかした?
「……くっ……くくく、やはりお主は最高じゃ!!偉そうに言うておるが、その実内容は対等だと、妾達魔族に対して対等だと!同時に発破も掛けるか!くくくくっ、喜んで手を取らせてもらうのじゃ!!」
そう言って、差し出した手を握ってくるヘレン。
止めて欲しい。勢いで言った言葉の隠れた真意を、そうも大きな声で解説しないで欲しい。照れる。
「のう、グレン?やはり妾の婿にならぬか?妾の体を好きにして良いのじゃぞ?」
「……なんだその誘い文句は」
それに、体で言えばフィロメーナの方がそそる。ヘレンも決して悪くは無いが、アレと比べたら霞むよな。あぁ、最低の思考だ。
「それに、妾の婿になるという事は、一族の女達に手を出し放題じゃ!!」
「……だから、何だその誘い文句は」
「くくくっ、強い雄の血は大歓迎じゃからの。半ば義務みたいなものじゃが」
ああ、種族特性か。だから、セーラ達はあの時あんな顔していたのか。直接俺と戦った訳では無いから、素直に受け入れ難いとかそんなところか。
まあ、何にせよ答えは決まっている。
「……悪いが、断る。今の俺に、そんな余裕はない」
「ふむ、そうか。なれば、気長に待つとするのじゃ。これからは一緒じゃからの」
「?その気にさせてみるんだな。俺は簡単には落ちんぞ」
「くくくくっ、その辺りの駆け引きも楽しむ事にするのじゃ」
妙な言い回しが気に掛かったものの、大事ではないと判断する。
そんな事より、コナー家の話について詰めなければ。光が差し込んでいるという事は、既に夜が明けたという事。予定では、作戦の決行は今日なのだから。
今から50年程前、王都でひっそりと暮らしていた夜魔族に一人の男が接触した。その男は先代のコナー家当主だった。その者は、当代当主ダリル・コナー及び次期当主キャメロン・コナーとは違い、“ノブレス・オブリージュ”を地で行く立派な人物であった。
しかし、そうであったが故に敵も多かった。その事に頭を悩ませた先代は、小耳に挟んだ夜魔族に助力を求める事にした。当初は難航した交渉だったが、労が功を奏し夜魔族と契約を結ぶ事に成功する。
その内容は、『夜魔族とコナー家は相互協力関係を結ぶ事とする。一つ、王都内で互いに危機が迫れば必ず力を貸す。一つ、互いを直接害する事は出来ない。一つ、この契約は当代より三代目までの契約とする』、といったものだった。
『王都内』としたのは、夜魔族が分散するのを避ける為。『直接』としたのは、夜魔族の力がコナー家に直接向かないようにする為、コナー家に不信感を抱いた時に夜魔族が付け入る隙を作る為。『三代目まで』としたのは、先代が教育出来るのは孫までだから、それ以降は責任が取れないから、という事であった。
先代と夜魔族は、良い関係を築けたと言っても過言では無かった。しかし、その関係は唐突に終わった。先代が病で急死したのだ。そして、ダリル・コナーが当主となる。そこから、両者の関係は歪み始めた。
当主となったダリル・コナーは、先代から夜魔族について色々と話を聞いていた。奴はそれを利用した。奴が目に付けたのは、魔族であるが故の境遇。そして、種族特性である若い素体なら血を持って夜魔族に変ぜられる、と言う情報だった。
ダリル・コナーはまず、夜魔族に贈り物をした。奴隷商で購入した、若い女奴隷だった。まだ関係は歪んでいなかった為、夜魔族は喜んだ。同族が増える、と。しかし、それは罠だった。
ある時、知ってしまったのだ。その女奴隷達はほんの一部で、残りの女奴隷達は夜な夜なダリル・コナーに『宴』と称され凌辱されている事を。
コナー家と夜魔族は、女奴隷を取引材料として繋がっている。実際はそんな事無くても、夜魔族が魔族である事がそうさせる。下手に『宴』の事を漏らせば、捜査の段階で必ず夜魔族にも目が向き、『魔族だから』そういう扱いを受ける事になる。いくら夜魔族が強いと言っても、国は相手に出来ない。共犯となった瞬間でもあった。
先代との契約により、直接害する事は出来ない。そして、間接的にも出来なくなった。それどころか、守る必要性が出てきてしまった。コナー家の破滅の仕方次第では、自分達にも手が伸びて来る事になってしまうから。
それからズルズルと関係は続く。自分達ではどうする事も出来ない。だからと言って、他人は信用出来ない。だから、耐える事にした。
夜魔族は長命種。人族の二世代分など、あっと言う間。そう言い聞かせて。実在しない暗殺ギルドを隠れ蓑にし、さらに深い闇に溶け込む事で、その時が来るまで、耐えるつもりであった。
俺、グレン・ヨザクラと出会うまでは。




