第六十九話
ブクマ・評価ありがとうございます。
妖刀≪血垂桜≫。
夜桜家に代々伝わるその刀は、家宝として奉られながらも、妖刀としての一面も併せ持つ。その名の由来は呼んで字の如く、多くの血を浴びてきたのだ、この刀は。常に、血を垂らすくらいに。嘘か真か、その影響で刀身も赤くなったという。そんな夜桜家の刀。昔はもっと、至極まともな名前だったらしいが。
そして、妖刀と言われる所以が、刀身が赤く染まった事の他に主なものがもう一つ。使い手を選ぶのだ。まるで意思があるかのように、相応しく無い者には不幸を与える事で。分かり易く言えば呪いだ。その為、使い手が現れるまでは祠に祀られていた
俺の先代は、曽祖父。どうやら、これを持って戦争にも参加していたらしい。親父もクソジジイも、もれなく呪いに遭った。ただ、勘違いしてはならないのが、呪いと言ってもそれ程重いモノじゃない。精々、事有る事に≪血垂桜≫が自分に刺さるだけだ。死なない程度に。
親父達も何度か手にしてきたが、その度に足に刺さったり、手に刺さったり、額に軽く刺さったりと地味なれど散々な目に遭ったらしい。それのどれもが、壁に掛けていたのが落ちてきてとか、立て掛けていたのが倒れて来てとか、そんなのばっかりだ。
俺が受け継いだ時は、そんな呪いとは無縁だったから半信半疑だった。しかしある時、ふと呪いを検証してみようと渋る親父に一時的に預けてみれば、目の前で笑える位呪いをその身に受けていた。
本当に呪いがあったと暫くブルったが、今では切れ味も良いし重用している。切れ味で思い出したが、この刀砥がなくても良いのだ。理屈は分からないが血を纏う度に砥がれ、更に洗練されていく。あらゆる手入れが必要無し。なるほど、妖刀だ。
そんな妖刀に使い手として選ばれるのは、一生血を浴びるような者。だと思われる。妖刀には未来が見えているのか、決まってそういった者を使い手として選ぶのだ。
俺の前は曽祖父、そしてその前は戦国時代乱世まで遡る。夜桜一族が侍だった頃だ。そこから見えてくるのは、使い手となった者はかなりの数の人間をその刀で斬って来たであろう、という事。
侍であったご先祖様は言わずもがな、曽祖父は戦争で、斯く言う俺も麻薬カクテルやマフィアなど、いくつかの組織を壊滅させている。人数で言えば、相当数だ。
対して乱世後は、時代の流れと共に必然『殺し』の機会も減り、クソジジイも殺し屋家業より土いじり、親父も早々に引退した。だから≪血垂桜≫には選ばれなかったのだ。
まるで、未来を視通しているかのように使い手を選ぶ。それが、妖刀≪血垂桜≫なのだ。
目の前には唖然とした表情でこちらを見る長、改めヘレン。しかし、その周りには油断なく影が蠢いている。容易には攻められない。
「お主……。一体何をした……?」
「……」
無言で、先程吐いた血の方へ視線を向ける。
「血?……と、何じゃ?」
その中には、血に混じって何か違う物が見える。
「そいつは口の中に仕込めるカプセル……小さな容器でね。中には、予め最高級魔法薬を入れておいた」
ホント、念の為準備していて良かった。カプセルも復元魔法で何度でも使えるし、今後も重用させてもらおう。
「なっ!?で、では……っ!」
「ああ、心臓を貫かれた後すぐにそれを飲んだ。死に掛けの演技をしながら薬が回るのを、会話で稼がせてもらった」
「だから、あんな動きが……っ!」
ヘレンの腕を、≪血垂桜≫で切り落とした時の動きを言っているのだろう。
「まあな」
「な、何という……。ま、待つのじゃ!そのカプセルとやらの量だけでは、例え最高級魔法薬と言えど穴の開いた心臓を……っ!?ま、まさか、先程の行為は……っ!」
「穴の開いた心臓に直接最高級魔法薬を塗るのが、その時の最適・最善だったのでな」
彼女達の俺を見る目、それは畏怖。自分でも、改めて口にすると化け物染みていると思う。
「じゃが、魔法薬は即座に割ったはず!一体何時の間に……!?」
「その割られた時に握り込んだんだよ。その時から右腕は、一切使って無かっただろ?」
「あ……!?」
思い至ったのだろう、よくよく思い出せば不自然な俺の行動に。声はヘレンが漏らしたものだが、他の面々も畏怖の視線が増した。
「まあ、量が限られていたからな。直接心臓に塗り込むしか、方法が思い浮かばなかった。お前の動きも含めて、全て賭けだったんだが上手くいって良かった」
「賭けじゃと……?お主は、先の流れを予測しておったのか?」
「そういう訳じゃ無いけどな。魔法ってのは、俺にとって未知だから。時に、理不尽だと思うような攻撃が来る事もある」
今回や麒麟の時みたいに。そう言えば、共に体が貫かれてるな。
「だから、常に頭を働かせている。死にたくないし、死なせたくないからな」
「……くくくっ、そうか……そうか!」
暫く唖然としていたヘレンだったが、いきなり笑い出すと何かを呟き始める。
人がいきなり笑い出すのは、見ていて不気味なものなんだな。俺も偶にするけど、今の俺と同じような心情で、彼らは俺の笑っている様子を見ていたのだろうか。
それと、この会話のおかげでそれなりに時間が経ったし、そろそろヘレンも良い具合に血を流したんじゃなかろうか。少しぐらい弱ってもらわないと、今の俺にはキツイ。諸刃の剣で、俺の方も絶えず血が流れちゃっているんだけど……。
「そろそろ再開しないか?お互い流れている血の量も馬鹿にならないし」
「くっくく、妾が笑いこけている間に来ても良かったのじゃぞ?」
「少なくとも、俺は敵だとは思っていないからな。あくまで、俺がしたいのは話し合いだ。出来れば禍根を残すような事はしたくない」
と言いつつも、思い返せば不意打ちばかりやってるな、俺。
「くくくっ、いい……っ!のう、グレンよ。一つ賭けをせぬか?」
「賭け?」
「うむ。妾が勝ったら婿になれ!」
「は?」
「っ!」
「長っ!?」
突然何を言い出すんだ、こいつは!?
「お主が勝てば……そうじゃな。コナー家と手を切り、お主に協力する事を誓おう」
「なっ!?」
「……なんだ、やっぱり俺達の目的に気付いていたのか」
クロエは驚いているが、セーラ達は兎も角ヘレンの行動には色々と疑問が多かった。
この建物から一人たりとも逃がさない事について、何やら尤もらしい事言っていたが俺達に都合が良すぎた。影魔法なんて、最初から使っていれば楽勝だったろうに、それをしなかった。ヘレンはずっと俺の事しか意識しておらず、クロエなんて全く見ていなかった。等々だ。
「うむ。お主が迷い人だと分かれば、後は容易い。第二王女から繋げれば良いからの。それに、そこなメイドも有名じゃからの」
「まあ、そうだろうな」
公爵令嬢だし。この数日すれ違う騎士の中には、クロエに敬礼している人もいたし。
「それで、どうするのじゃ?」
「長っ!私は反対です!」
「セーラ、この者は久しく見ぬ強き血じゃ。妾達一族が常に求める、の」
「うぅ……キッ」
うわー、睨まれてる。それも、自らを掻き抱くようにして。
佐久間が見せてきた、エロ同人の『体を好きに出来ても、心までは……』の表情そっくりだ。セーラだけでなくその周りの娘達も。何故なんだ?解せぬ。
「……クロエ?」
冷ややかな視線を感じて振り向けば、冷たい視線のクロエ。ちょっと前までテレテレだったのに、その面影は無い。
「……なんですか?」
「い、いや……何でもない」
何か口にしたら、色々と取り返しのつかない事になりそうな気がする。止めて置こう。
今考えるべきは、ヘレンの賭けに伸るか反るか。
「で、どうするのじゃ?」
「……心臓に空いた穴は塞げたが、流れた血は元に戻らん。このままじゃ、出血多量で俺は死ぬ。目も霞んできたしな。だから、短期決戦で本気を出す。お前に勝ち目はないぞ?」
「ほう、言いよるわ。ならば、妾も影を駆使してお主を下そう。そして、妾の献身をその身に刻んでやるのじゃ」
「「くくくくっ、くははははは……」」
互いにドンッと音を立て、床を蹴る。
ギィィィィンッ
赤と黒が勢い良くぶつかり、派手な音が響いた。




