第六十六話
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「ふむ……、皆がほぼ一撃か……。良い腕じゃ」
「「っ!?」」
背後から突然聞こえてきた女の声に、条件反射で思わずその場から飛び退く。
「これをやったのはお主か?」
見ると、女がいた。美しい女だ。その女は屈み、倒れた者達の様子を診ていた。
背中を冷たい汗が流れる。気付かなかった。これだけ感覚を強化していて、接近にすら気が付かなかった。
マズイ。マズイ。マズイマズイマズイマズイ。
油断した?違う。目の前の奴らに気を取られ過ぎた?違う。この女は、俺達の背後に突然現れた。まるで、降って湧いたかのように。
空間魔法?いや、ユニーク魔法は同じものが同時期に現れる事は無い。今の空間魔法の使い手は親父だ。忌々しい事に。なら、似て非なる魔法か?気配を完全に殺せる魔法?くそっ、分からん。
何にせよ、無事に済みそうにない感じだ。オスカーを超える強者の予感。ここまで肌がピリつくのは麒麟以来。謎の魔法?が加わるとなれば、勝てるビジョンが見え難くなる。
「……そうだ」
「ほう……。そっちの奴らは怪我が酷い様じゃな。ん?男ばかりか?」
今の所、敵意とかは無い。会話で何とかなるか?俺だけなら何とかなるだろうが、クロエを抱えながら相手をしたくない。
「家のメイドを厭らしい目で舐め回していたんでな。因果応報だろう」
ピクリと反応するクロエ。だがその体は震え、怯えが見て取れる。
彼女の気持ちも分かる。あの女がその気なら、俺達はあの瞬間死んでいた。
「……そうか。やはり、こ奴らは………っ」
そん表情は暗い。後悔とか嫌悪とか、そんな感情が織り交ざった表情。
「……長」
出迎えの女が呟く。
長、か。この女が夜魔族の頭。このまま本題に入れればいいのだが。そう簡単には行かないだろうな。
「セーラ。この女子は妾に任せよ。お主達は下がっておれ」
「はっ、お気を付けて」
そう言って、先程まで俺と相対していた女達は下がる。言葉と態度がちぐはぐだ。長と呼ばれた女の事を、これっぽっちも心配している様子は無い。まあ、あんなものを見せられれば納得だ。
それにしても、久しぶりに女に間違われたな。
「待て、まず俺は男だ」
「ほ?そうか、それは済まぬ」
どいつもこいつも、そもそも声で分かるだろ。
「いや、いい。それより、話があって来たんだ」
「……うむ、聞こえておった。じゃが、セーラが言ったように聞くつもりは無い。特に男の話はの……」
その表情はやはり暗い。
コナー家の事だろうな。自分達が協力している家の事は、しっかり理解しているのか。そして、それを後悔してもいると。そんな感じか?深い事情がありそうだ。
「そうか……仕方ないな。力ずくでも、聞いてもらう」
クロエを抱えたままじゃ不安が残るが、彼女の身の安全を考えれば下手に離れるよりはいい。
改めて彼女の体を抱き寄せる。
「ほう、人一人抱えたまま妾を相手にするつもりとは……。舐められたものじゃ」
「舐めてなんかねぇよ。寧ろ、その逆だ。あんたを相手している時に、クロエ……メイドを狙われたら守り切る自信が無いのでね」
「……妾達はそのような卑怯な真似はせぬ」
怒らせてしまったみたいだ。こちらは最悪を想定して、その可能性を一つでも多く潰しているだけなんだけどな。
「そうか。……クロエ、離れていてくれ」
「え?」
彼女の腰に回していた左腕を離し、解放する。
「夜魔族は誇り高い種族らしい。一先ず、守る必要が無くなった」
「っ!?で、では、私も共に……っ!」
「悪いけど、足手纏いだ」
一瞬ショックを受けた様な顔になるが、すぐに気を取り直しさらに言い募る。
「し、しかし!あの長と呼ばれた女だけじゃなく、他の者も加わったら……っ!」
「それは無いよ。夜魔族は誇り高いようだからね。そんな卑怯な事はしないさ」
この瞬間に襲って来ないのが、良い証拠だ。
それに、もしクロエの懸念が当たるような事態になったら、俺の全てを持って対処する。
「っ!わ、分かりました……」
不安そうな顔で一応下がってくれるクロエ。
彼女の為にもサクッと終わらせるか。
「随分と煽ってくれる。いい度胸じゃ」
「まあな。この位しないと、アンタ相手には不安なんでね」
これでクロエに手を出せば、『夜魔族は誇りも無い卑怯な種族』という事になる。牽制ぐらいにはなるだろう。
「よく言うわ。儂はお主が怖くて敵わんとゆうに……お主、噂の迷い人じゃろう?」
「ん?そうだ。噂通りではないがな」
互いに距離を測る。和やかに会話しながらも、相手の出方を窺う。僅かな隙が致命的なものになるから。
「くくくっ、確かにその様じゃ。『子供にすら勝てそうにない程貧弱で、女と見紛う程の美貌を持つ王女アリシアの情夫な迷い人』。宛てにならん噂じゃな」
「所詮、噂だからな。それに、意図的に狙ってやってる事だ」
「ほう、何の為に」
「目的の為」
「目的、とな」
内容は言うつもりは無い。話すなら、本来の用事を済ませて協力を取り付けられたら、だ。
「そうさ。……ところで、夜魔族の長よ。俺達は今から一戦交えるんだよな」
「そうじゃな。妾も一族の者をここまでやられて、笑っていられるほど愚かでは無い」
一戦交える前に、一つ確認しておかなければならない事がある。
「それは、一対一でやってくれるんだよな?」
「勿論じゃ。その為に皆下がらせた」
「じゃあ、今俺達の周りを囲うようにいる奴らは何だ?伏兵か?」
この長と共に、二階にいたであろう実力者達だろう。その配置はまるで、この建物から絶対に逃がさないようにする、という意志が透けて見える。
「なんじゃ、気付いておったか。そ奴らには、事が済むまでは誰も外に出さぬよう指示してある」
それは、俺にとって都合が良いが……。
「逃げられたら敵わんからの。我らの秘密を知っている以上、生かしては帰さん」
「何だ?もう、勝ったつもりか?」
「妾に勝てるつもりか?」
暫し睨み合う。
「「くっくっくっくっ……」」
「夜魔族の長よ、俺が勝ったら否が応にも話を聞いてもらうぞ?」
「迷い人よ、妾が勝ったらそこなメイド共々葬ってやる」
「「くくくっ、くはははははははは……っ」」
久々に楽しい戦いになりそうだ。こんなにも高揚するのは麒麟以来か?そうだ、ついでに教えといてやろう。
「夜魔族最強の実力を見せてやるのじゃ」
「こちらは地球最強クラスの実力を見せてやろう。分かり易く言えば、神獣・麒麟相手に魔力・魔法ともに使えない状態で生き残り、尚且つ血を流させ、その上友誼を結べるほどさ。これ事実な」
「は?」
「え?」
「っ!?」
俺のカミングアウトに、誰もが驚愕の表情を浮かべる中ドンッと音を立て、音速にすら迫る速度で夜魔族の長の懐に飛び込んだ。
驚いた表情の長の顎を狙い、拳を放つ。突然現れたあの魔法?を使われたら、キツイ。先手必勝だ。しかし、長も相応の実力者。少々焦りながらも、容易く躱す。
それを予想していた俺は、手を休める事無く次の攻撃に入る。八割の本気とは言え、既にほぼ音速だ。反撃の暇さえ与えないその攻撃を、手で捌き体で捌かれ躱される。
やや焦りを感じ、もう少し本気を出すか?と悩んだ瞬間、突然目の前が炎に包まれた。
「炎壁」
「っ!?」
後ろに飛び、炎から距離を取る。そこには炎の壁が出来上がっていた。




