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第六十二話

ブクマ・評価ありがとうございます。

 来た時同様、娼婦姿の夢魔達が手を振ってくるのに応える。彼女達は一様に、俺に手を振った後ギョッとする。原因は傍のフィロメーナとサンドラ。二人とも揃って女の顔をしているのだ。

 フィロメーナは分かる。宝石だし、渡す時も誤魔化す為に頑張った。だけど、サンドラは?そりゃあ喜んでいたが、女物とはいえ執事服でなぜこんな顔になるのか。あの男装に何か意味があったのかね。

 まあ、いいや。二人とも顔が輝いていて綺麗だし。


「フィロメーナ様!お疲れさ……貴様!?」


 ああ、またお前か。暖かくなっていた心が一瞬にして冷めた。一々相手するのも億劫なので、無視する事にする。


「バックス、お客様だよ。口の利き方に気を付けな」

「っ!も、申し訳ありません……」


 冷たい声でそう言ったフィロメーナは、すぐに興味を失ったかのようにこちらを向く。


「さて、お前さん明日も来てくれるんだろう?」

「ええ」

「なにっ!?」


 あと三日は通う事になるかな。


「……そうかい」

「そんなに心配しなくても、例の件が終わってもちゃんと会いに来ますよ」

「本当かい?」

「はい、私とフィロメーナさんの仲じゃないですか」


 契約を交わした仲、それを言外に含める。


「うふふふ、そうだったねぇ。確かに私達の仲だ」

「なっ!?」

「そういうことです。なので、そろそろ私の事も名前で呼びませんか?『お前さん』も親しみは感じますが、少し寂しいので」

「貴様、調子に乗るなよっ!」


 なんか外野が騒がしいな。


「な、名前!?そ、それは……っ」

「ダメですか……?」


 ちょっと上目遣。美人のそれは効果絶大だ。


「~~っ!だ、ダメじゃないけど。は、恥ずかしいねぇ」

「じゃあ、『坊や』でもいいですよ。フィロメーナさんのそれは嫌では無かったですし」


 事実、彼女に『坊や』と呼ばれる事は嫌では無かった。実際、彼女からしたら俺なんて本当に『坊や』だし。


「そ、そうかい?なら坊やと呼ばせてもらうよ」

「はい」


 その呼ばれ方には背徳感と言うか、妙な興奮がある。


「ぐぅっ……」

「じゃあ、また明日。坊や」

「ああ、また明日。フィロメーナ……ちゅっ」


 今の俺達、物凄く絵になっているんじゃないか?ともに美人だし。


「あ゛ぁぁぁぁっ、貴様ぁぁぁぁっ!!!ぐへぇぇっ!?」


 フィロメーナの手を取りサービスで手の甲に口付けていると、その視界の端で何かが奇声を発した後、面白いように転がりながらぶっ飛んで行った。


「……一体、何です?……あれは、バックスですか?」


 乙女のように顔を赤くしながら、自らの手の甲を眺めるフィロメーナを一先ず置いておき、『ぶっ飛んで行った何か』の方へ視線を向けるとバックスだった。そのこちら寄りには、サンドラが拳を振り抜いた状態で静止していた。渾身の一撃を放った後の様だ。

 離れた所には剣も転がっている。もしかして、俺命狙われた?存在そのものを無視してたから、全く気付かなかった。まあ、もしもの時は誰か動いてくれるとは思っていたからだけど。


「お客様に狼藉を働こうとは……一体、どういう了見ですか?」


 あ、サンドラさん怒ってる。激おこだ。


「ゲホッ、ゴホッ……。そ、その子供(ガキ)がフィロメーナ様に……っ!」

「今朝も言いました。この御方は特別です」


 腹を抑えながらも、その瞳に力強い憎悪を宿すバッカスにサンドラは、あっさりとした感じで告げる。


「っ!?何でそんな子供(ガキ)が……っ!?」

「それを貴方に詳しく説明するつもりはありません。……ただ簡単に言えば、私達(・・)はグレン様に何をされようと受け入れます。そして、そこに幸福を感じるでしょう。それこそ、殴られようと犯されようと、です」


 え、何それ……怖い。確かに、昨日はそんな感じの事は言ってたけど……。ちょっと重いぞ。いやまあ、受け入れるけど。引きはするけど、拒絶する程人間小さくないし。


「……グレン様、本当に何があったのですか?」


 こっちも怖ぇ。朝は誤魔化せたけど、こうもサンドラが俺に対して敬う態度を見せてるんだから、もう無理だろう。正直に話そう。


「彼女達の秘密にも関わる事なので勘弁してください。すみません」


 話せないという事を。


「……隠し事が多くなれば、それだけ信用を失いますよ」

「分かっているつもりです。ですから、いずれはちゃんと話すつもりです」

「……はぁ~」


 俺の頑なな態度に、追及を諦めてくれたらしい。色々協力して貰っている手前心苦しいが、納得してもらう他ない。


「フィロメーナ様!」

「……ん?なんだい?」


 あ、また彼の事忘れていた。


「私じゃ……俺じゃダメなんですかっ?」


 ああ、あいつフィロメーナの事が好きなのか。だから、あんなにも突っ掛かってきたのね。や、分かってはいたけど。正直男の色恋に興味ないし。

 だからって、今それを聞くか?タイミング的に最悪だろ。目の前で、俺に害を為そうとしたのに。


「ダメ、だねぇ」

「っ!!」

「お前の気持ちは分かってたつもりだよ。応えるつもりは無かったけどねぇ」

「っ!?な、なぜ……っ!?」

「この坊やはねぇ、私だけでは無く私達を幸せにしてくれる男だからさ。『天使の涙(エンジェル・ティア)』の全員をねぇ」


 え?そうなの?俺、それ初耳。

 確かに『守ってやる』とは言ったけど、幸せにしてやるなんて一言も……。もしかして、やっぱり昨日の宣誓みたいなのがそうなの?やけに仰々しかったけど。寵愛とか無理だよ?

 なんか逃げられないような、追い込まれていくような状況になってきている気がする。


『カカカッ、今は例えるなら、種を蒔いて水や肥料を与えておる段階じゃ。もう一つキッカケがあれば………』


 いやいやいやいやいやいや、だから無いって。別に振り回されている訳では無いもの。


「は、ははは……なんだよ、それ……」


 同感だ。最高級娼館の最高級娼婦達が、たった一人の男のものって最早笑うしかないよな。


「あ~……っと」


 ここで、俺が何か言うのも違うよな。最悪、火に油だし。今更みたいだけど。


「うぅっ……うわぁぁぁぁっ!!!!」


 そしてバックスは最悪の選択肢を選んだ。

 再び剣を取り、雄叫びを上げながら俺に向かってくる。しかし、その剣は俺に届く事も無く、どこからともなく現れたフィロメーナの護衛達に叩きのめされた。


「……ギルドには依頼破棄として報告しておきます。今日まで、ありがとうございました」


 既に意識の無いバックスへ、サンドラが告げる。言葉こそ丁寧だが、その端々からは怒りが感じられる。


「グレン様、申し訳ありませんでした」

「い、いえいえ、なんか私の方こそすみません……」


 サンドラが頭を下げてくるので、こちらも頭を下げ返す。


「あの男を雇った私共の落ち度ですので。ネイ、ギルドへの報告ついでに捨ててきなさい」

「はい」

「うわぁ~~……」


 俺に対する敬意がハンパない。結構マジで敬われてる。なんかむず痒い。

 そしてバックスの扱い……。ネイに引き摺られるようにして、持っていかれた。一応手でも合わせておくか。合掌。

 ネイには最後ひと睨みされたが、可愛いだけだった。


「……」

「……帰りましょっか」

「……はい」


 フィロメーナ達に手を振られ、『天使の涙(エンジェル・ティア)』を後にした。




 もうすぐ屋敷に着く。と言うか、目の前だ。

 改めて二人きりになると、なんと気まずい事か。お互い無かった事にしたとは言え、記憶から無くなる訳では無い。寧ろ、こうして二人きりで黙っているせいで、余計思い出される。それはクロエも同じだろう。

 やはり何か言っておくべきか。彼女の心を少しでも癒せる事を。


「……色々とすみませんでした」

「……何の事ですか?」


 恍けるか……。まあ、無かった事だしな。


「色々とですよ」

「そうですか」


 この数日で縮めた距離が、また離れた。これは埋めておきたい。


「……今の私……俺には出来る事、話せる事が少ない。アリシアに目的があるように、俺にも目的がある。その為に、必要な事だと思ってる」

「グレン様……?」


 俺の口調が丁寧じゃなくなっているのに、疑問を覚えたようだ。それはまるで、昨日のようだ、と。

 少しだけ素を見せよう。こんな俺に、協力してくれている礼として。


「その目的が果たせたら、必ず話す。アリシアには話すつもりが無い事も、クロエには話す。だから、今はそれで納得してくれ。俺は嘘吐きで卑怯な、最低男なんだ」

「……」

「……」


 暫し見つめ合う。

 やっぱり綺麗だよなぁ、クロエ。胸は寂しいけど。


「……分かりました。と言うか、何の事か分かりません」

「フッ、そうだったな」


 無かった事なんだから。


「そもそも、私が勝手に妬いただけですから……。それでは失礼します」

「……お疲れ様でした」


 最初の呟きは、小さくて聞き逃していた。聴力を強化していなければ。

 あの無表情と言うか何と言うか……ああ、クールか。クールな感じで、あんな事言われたら流石に照れる。

 彼女の耳が赤かったのも、今の俺の頬が赤くなっているのも、あの赤い夕陽は関係無いのだろうな。

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