第五十八話
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元々、そんなに早く歩いていた訳では無かったので、クロエにはすぐに追いついた。
「……良かったのですか?あの態度。彼は親切心からだったと思いますけど」
若干下心有りな気もするが。最後に見た彼の目は、恋する者の目だった。
「構いません。彼は第三騎士団の者です。接触は避けるべきでしょう」
そう言えば、甲冑の胸の辺りに金色の三本線があったな。あれは、騎士団の所属を示すものだったか。他にも紋章とかもあるんだっけ?どんなのだったっけな。
そんな事を考えていると、いつの間にか『天使の涙』に着いていたらしい。
「貴様!!また来たのかっ!?」
こちらも同じ気持ちだよ、バックス君。また居るのか。
目の前ではあの時の門番が、顔を真っ赤にして立っていた。何故この門番はこうも突っ掛かって来るのか。
昨日帰る時もだった。クロエを背負って出てきた俺を見ると、『何故貴様の様な子供がフィロメーナ様に選ばれる!?』とかなんとか叫んでいた。鬱陶しかったから、相手にしなかったけど。というか子供じゃないと言っとろうに。
「……通して貰えます?」
「通すものかっ!貴様にここは相応しくないっ!!」
はぁ~、君こそ門番に相応しくないよ。客を選ぶ事は仕事じゃない、とそう言われたじゃないか。
「……また、怒られますよ?」
「黙れっ!俺は不埒者を追い返しているだけだっ!!」
うわーもう、めんどくせぇ。マジめんどくせぇ。
「……じゃあ、サンドラさん呼んで貰えます?」
「断るっ!!」
クロエの目も段々据わってきた。無表情にこの目は迫力がある。
「はぁ~……分かりました」
「分かったなら、さっさと帰れ!!」
ここで待とう。これだけ騒いでれば、昨日のように出て来てくれるだろう。
「何事ですか?」
ほら。
「サンドラ様!?こ、この不埒者がですね……!」
「これは、グレン様。お待ちしておりました」
「え……!?」
出てきたのはサンドラだった。相変わらず黒服姿がカッコいい。
「うん、フィロメーナさんは?」
「既に私室でお待ちしております」
「そうですか。では、すぐに窺っても?」
「はい。参りましょう」
呆然としているバックスを余所に、話を進めていく。
「なっ!?お待ちくださいっ!」
本当に鬱陶しい奴だな。俺の何が気に食わないんだ?
「何ですか?バックス」
サンドラの目が冷たい物に変わる、しかし、興奮しているバックスは気付かない。
「何故その男がフィロメーナ様と!?何故こうも特別扱いされるのですか!?」
「特別だからです」
「っ!?」
あんな事あったんだし、特別なんだろうけども……。こうもストレートに言わなくても。バックス君、口をパクパクさせちゃってるよ。
「そう言う訳ですので、貴方は貴方の仕事をしてください」
私達の事に口を出すな。言外にそう伝える。
「ぐっ……っ!」
「では、参りましょう」
「は、はい」
昨日同様、背中にバックスの憎しみと殺意の籠った視線を受けながら中に入った。
「「「「おはようございますっ!!!」」」」
「うおっ!?お、おはようございます?」
なんだなんだ?中に入るなり、娼婦として働く夢魔族一同に揃って挨拶をされる。彼女達のその目には、俺を敬うようなものが見られる。
綺麗な娘達がキラキラとした目で見てくるのは、何ともむず痒いものだ。これまで色んな視線に晒されてきたが、全てが尊敬一色は初めてだ。照れるな、これは。
「……グレン様、昨日何があったのですか?」
「あ、あははは。何があったんでしょうねー?」
言えない。言えたとしても言いたくない。姫様の時と同様、熱が入ってカッコいい事言っちゃったなんて。後から物凄く恥ずかしいから、あの癖治したい。
「フィロメーナ様、グレン様をお連れしました」
昨日の【蘭の部屋】とは、また違った装いだ。私室と言っていたし、客を寝かす為の部屋とは造りが違うのは当然か。
「お入り」
「失礼しまぁむぐぅっ!?」
サンドラが開けてくれた扉を通った途端、視界が肌色一色に染まり、物凄く柔らかいもので顔を包まれた。そして良い匂いだ。
「うふふふふ。ホントに来てくれるとはねぇ。嬉しいよ」
「ふが……っ!く、くるじい……!」
本当に苦しい。でも柔らかくて気持ち良さも……!
「おや、済まないねぇ」
楽しそうな声で謝罪しながら、頭を解放するフィロメーナ。確信犯だ。
やはりと言うべきか俺の顔は、すっぽりとあの豊かな胸に埋もれていたらしい。……ご馳走様、と言っておこう。
「ぷはっ……はぁはぁ。ちゃんと来ますよ、約束しましたからね」
「うふふふふ」
もう一度強く抱き締められる。今度は普通にだ。と言っても俺の方が低いので、顎の中は再び包まれる。
「……不潔です」
「はっ……!?」
クロエの冷たい声で我に返る。マズいな、フィロメーナの胸の虜になりかけていた。危険な胸だ。けしからん。
「うふふふ」
「えっと、フィロメーナさん離れてもらえます?クロエさんも居ますし」
「おや、そのメイドが居なかったら離れなくても良かったのかい?」
これは分かってないのか?
「そうゆう事じゃありません。……フィロメーナさん」
「分かってるよ。ちょっとしたお茶目ぐらい良いじゃないか」
そう言って、離れていくフィロメーナ。
「私だって不安だったのさ。本当かどうか、ねぇ」
あんな背景があるのだから仕方ないのかもしれないけど、もう少しやり方ってのがあるだろ。おかげで、クロエに不審がられている。
「大丈夫ですよ。約束は守ります。だから、コナー家の情報を」
「せっかちだねぇ……分かったよ。取り敢えず、中に入って落ち着こうじゃないか」
促された彼女の私室は、【蘭の部屋】とは比べ物にならない程簡素な造りだった。
「さて、何から話したものかねぇ」
フィロメーナの私室のソファに腰掛ける。フィロメーナが隣に座り、しな垂れかかってくるのはご愛嬌だろう。クロエの視線が冷たいのもご愛嬌だ。
ナンシーの時はこれ程では無かったのだが……やはり、胸か。
「コナー家と手を組んでいる魔族の正体。そして、コナー家が魔族と手を組んでやっている事。取り敢えずこの二つで」
なぜ彼女達が、これ程情報に通じているのか。
寝物語に、と言っても限度があるし、そもそもそう迂闊に喋らない者もいる。答えは『夢見の魔法』にある。
この魔法はある程度、夢を誘導出来るのだ。『吸精』によって至上の快楽を得、スッキリした男達は抗えない。色々な事を喋ってしまう夢に。そして、喋ってしまった後はその事すら忘れてしまう夢を見る。
どんな夢でも見せられる夢魔族は、その名の通り夢に関しては最強なのだ。夢の内容によっては殺す事も出来るから。
「魔族の正体は……夜魔族だよ」
「「っ!?」」
夜魔族。吸血鬼族という血を好む種族から派生し、力の強い生物の血を取り込み続けた事で進化した種族。魔族の中でも三本指に入る程の武闘派で、それに相応しい実力も兼ね備えていると言う。
元々吸血鬼には、吸血した者の力を僅かであるが自分の糧にする特性がある。その特性を持つ吸血鬼族が、力の強い者ばかりから選って吸血するのである。進化する程強くなるのは当然だろう。
そして、血を取り込むのは吸血ばかりでは無く、婚姻においてもだった。男も女も伴侶に選ぶのは強者ばかり。そこに、種族の拘りは無かった。強ければ、何族でも良かったのだ。結果、遺伝的にも強い種族となる。これも、進化の一因だろう。
しかし代償、は言い過ぎだが、デメリットもあった。
夜にしか、夜魔族としての本領を発揮出来ないのだ。とは言え、昼間でもそこは魔族。魔族として、相応の力は発揮できる。夜魔族を相手にするなら、日が落ちてからは避けるべし。そうゆう話だ。
「夜魔族が何の目的を持って、コナー家と手を組んでいるかまでは分からないよ」
フィロメーナの声が、次第に冷たい無機質なものになっていく。
ああ、彼女知っているんだろう。あの男達が何をしているのか。
「ただ分かるのは………コナー家の男は十にも満たない幼子に対して、性的欲求をぶつけている事だよ」
「っ!?」
「寝物語でダリル・コナーに直接聞いたらしいから、信憑性は高いだろうねぇ」
やはり、そうだったか。俺の推測は間違っていなかった。裏が取れた。取れてしまった。
俺の中の歪んだ正義が、静かに蠢き始めた。
モンハン、神アプデ来たー\(゜ロ\)(/ロ゜)/




