第五十五話
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何が楽しいのか、物凄くニコニコとした表情の姫様。
「随分と仲良くなったのね」
「……そう言う訳じゃ」
「あら、クロエをおんぶして帰ってきてたのでしょう?」
「うっ」
早すぎる。皆ゴシップネタ好きすぎだろう。クロエをおんぶしている時、チラッと視界の端に女騎士が見えた気がしたのは気のせいじゃなかったか。まあ、だからって何が出来たって訳でも無いのだけど。
「……姫様。私共は仕事を一緒にしていただけで」
「そうね。グレンに付くように言ったのは私だものね」
「……はっ」
どこか緊張した面持ちだったクロエは、その言葉に安堵する。だが、それも一瞬。
「でも、ナニをするまで仲良くなれとは言って無いわよ」
咎めるような口調で下ネタを口にし、その顔には意地の悪い笑顔を浮かべている。鞭で叩かれた時から思っていたが、楽しそうには見える。
「……姫様。そういう事を口にするのは、著しく品位を損なうのでお止めくださいと、あれほど……」
「あら、時と場所は選んでいるつもりよ」
クロエの苦言にも、反省した様子の見られない姫様。クロエが頭痛を堪えるようにこめかみを抑える。
「……姫様」
うん、なんかお疲れ様です。キャメロン・コナーの一件が終わったら、ケーキでも作って差し入れよう。
「……殿下、報告があります」
「報告?クロエと結婚でもするの?」
「しません!姫様!」
「ふふふ。そんなに慌てちゃって。珍しい姿が見れたわ」
いちいち反応するから面白がるのだろうに。俺もSっ気があるから、今の姫様の気持ちは良く分かる。だからって、相手してやるつもりは無いけど。それに、姫様にはちょっと説教したい事もある。
「殿下。キャメロン・コナーの件について、進展がありました」
「!?……聞かせてちょうだい」
俺の言葉に姫様の纏う空気が変わる。冗談を言っている場合では無いと理解してくれたのだろう。
「その前に人払いをお願い出来ますか?」
今この部屋には数人のメイドと、護衛であろう者達が潜んでいる。
「分かったわ。お前達は下がりなさい」
「「「はっ」」」
メイド達が一礼して、部屋を出て行く。が、護衛の気配は残っている。
「……クロエさん」
クロエを一瞥すると、分かっていると言う風に頷く。ここまでは打ち合わせ通り。
「姫様。護衛を含めて全て下げてください」
「そこまでする理由があるの?貴女だって護衛はいつも傍に置け、と言うじゃない」
「お願い致します」
姫様に頭を下げるクロエ。角度は90度。綺麗な礼だ。
「……分かったわ。下がりなさい」
護衛らしき気配が離れていく。一つを残して。
クロエをもう一度見ると、再び頷く。今度は、大丈夫という風に。
一つ残った気配、これはいつも通り暗部の者だ。こうして、俺だけにその存在を知らせているのは、やはりわざとだろうか。連絡員という名目なんだし。
王様に情報が伝わって勝手な動きをされると困るから、彼(彼女?)にも下がって欲しいのだが、気付いているのが俺だけである以上指摘するわけにもいかない。暗部の長が親父である事に賭けて、察してくれるのを祈っておこう。
「コナー家は、王都に身を潜める魔族と組んで良からぬ事をしています」
「っ!魔族!?」
流石に驚くか。
「最高級娼館『天使の涙』にて、その情報を入手しました。さらに詳しい話は、明日もう一度聞くつもりです」
「それで娼館に……?」
女を抱きに行っていたと思われていたのだろうか。だとしたら、心外だ。
「クロエさん、【麒麟の角】に聞いた話を姫様に」
「はい。姫様、冒険者の間でコナー家は一種のタブーとなっています。理由は――――」
話を聞く姫様の顔が驚きに彩られていく。この反応を見るに、クロエは俺の頼み通り黙っていてくれていたようだ。
「信じられない……!?それに、この短期間でどうやって!?」
ぶっちゃけコネだな。ベルハルトのおかげだ。一応自前で策も用意していたが、こんなにトントン拍子にはいかなかったはずだ。
「クロエさんから、キャメロン・コナーを調べたという二度の調査方法について聞きました」
「……え?それが何なの?」
驚きから一転、キョトンとした表情。
「全くもって、愚かとしか言いようの無い内容でした」
「なっ!?」
「……グレン様」
クロエの咎める様な声を黙殺する。
聞いたのは、ベルハルト達と会った二日程後。そこそこ腕の立つ者が揃っている騎士団が、コナー家には魔族が関わっている、なんてとんでも情報を掴めないのはおかしいと思っての事だった。
「王都周辺での評判を聞き、奴の領地を調べ、身辺調査をする。なるほど、方法としては王道で理にかなっています。しかし、精度が低すぎますね。コナー家の屋敷に忍び込む事も無ければ、冒険者や裏家業の人間に聞き込む事も無かった。……そんな調査なぞ児戯に等しい」
「っ!?随分と好き勝手「私達は」……っ!」
「私達ははたった数日で、それもたった二人でコナー家の闇に関わる情報を入手しました」
「っ!」
出来た者と、出来なかった物。結果が全てを物語っている。
「何故、殿下がこれらの情報を得られなかったのか。原因は二つあります」
「原因……?」
姫様自身、そして周りも気付いていない要因がそこにはある。これで、意識改革がなされなかったら、姫様には失望するかもしれないな。
「一つは殿下とキャメロン・コナーとの心的距離」
「なっ!?キャメロンのことは別に好きでも何でもないわ!」
分かりきっている事だ。別に俺もそんな事は言っていない。
「ええ、分かっています。でも、かなり信頼されていますよね?」
「それは、昔から知っているし……」
「それです。ヴィクトリアさんの幼馴染であるという事は、幼少の頃より殿下に仕えるヴィクトリアさん同様、キャメロン・コナーとも長い付き合いがあるという事。幼少の頃のキャメロン・コナーがどういった人物だったのかは知りません」
もしかしたら、将来英雄と呼ばれるに相応しい少年だったのかもしれない。高い志を持ち、確かな正義をその心に宿す。そんな英雄の卵。
「だけど、人は変わる」
「っ!」
そう、どんな人間でも切っ掛け一つで変わる事がある。
「殿下はそれを理解していません。簡単な調査だけで『キャメロンなら、そうでしょうね』、そんな感じで終わらせたのでは?まるで、身贔屓ですね。それとも、ヴィクトリアさんへの配慮もあったんでしょうか」
せせら笑うように言う。
「全くもって愚かしい」
「っ!」
唇を噛み、震える姫様。それは怒りによるものか、それとも羞恥か屈辱か。
「そして、二つ目は【幻の占い師】の占い結果」
「っ!?クロエ!?」
「……申し訳ありません」
ああ、この様子喋ってはいけない事だったのか。あの時のクロエは、やや興奮気味だったしな。うっかり口を滑らせたのか、それとも俺に対する信頼か。後者だったら喜ばしいが。
「ああ、クロエさんを責めないで下さい。私も【幻の占い師】に会ったので、その時話の流れで教えて貰ったのです」
「貴方も!?」
「内容に関しては、後でクロエさんに教えて貰ってください」
自分で言うのは恥ずかしい。それに、折角のシリアスな雰囲気がぶち壊れる。
「話を戻しますが、『今後関わるであろう男の中に、おぬしにとって重要な位置付けとなる者が現れる。ゆめ手放すでないぞ』でしたか……。姫様には大きな目的があるのは理解しています。だから、この占いに期待するのも分かるつもりです」
「……」
「だけど言わせてもらいます。下らない、と」
「「なっ!?」」
当たると言う【幻の占い師】の占い。才ある者のみが選ばれるという、一種の名誉ですらある占い。それが、下らないと否定された事に、二人の顔が驚きに染まった。
二人共驚きに言葉が出ないようだ。呆気に取られている様にも見える。
好都合だ。口を挟まれないのなら、このまま畳み掛けよう。
「クロエさんにも言いましたが、『重要な位置付けとなる者』これが必ずしも殿下の目的の役に立つ人物であるとは限りません。命の恩人に将来の夫、これらだって重要な位置付けでしょう?」
「あ……」
クロエ同様、姫様も気付いてなかったか。思った通り、視野が狭くなってる。
「殿下にとって、その目的が大事なものである事は理解しています。ですが、そのせいで『重要な位置付けとなる者』が目的の役に立つ人物であると思い込み、キャメロン・コナーに対してやや慎重になってしまったのでは?と私は考えます」
「それは……ある、かもしれない」
王国の英雄として名を馳せるキャメロン・コナーに、異世界の知識とそれを上手く活用する俺。目的の内容を完全に理解している訳では無いが、俺とキャメロン・コナーのどちらでも姫様の役に立てるのだろう。
キャメロン・コナーには人望や騎士団長を務める程の実力を兼ね備えているし、自分で言うのは恥ずかしいが俺もクロエに思わず期待させる程だし。
「殿下にとってはどちらでもいいのでしょう?私とキャメロン・コナー、どちらも役に立つだろうから。だから、どちらも信用・信頼するし、どちらもいざとなったら切り捨てられる。私とキャメロン・コナーがぶつかっても、どちらか片方は手元に残る。後は占いの結果たる運命が決めてくれる、とそんなぬるい事を考えているのでは?」
「そ、そんな事……」
口では否定するが視線は彷徨い、明らかに動揺している。
「……グレン様、少々口が過ぎ「黙っていろ、クロエ」っ!?」
「っ!?」
強い口調で咎めてきたクロエのセリフを、それ以上に強い口調でぶった切る。
話している間に、頭に血が昇って来た。どうやら、姫様に怒りを感じ始めているらしい。口調も荒くなる。だが、自分でも分かる。これは八つ当たりだ。
いや、正確には苛立っているのか。俺は姫様を認めているのに、姫様は俺を侮っている状況。屑であるキャメロン・コナーと、曲がりなりにも正義であろうとしてきた俺が天秤にかけられている状況。日々のストレスが溜まっている状況。その他諸々。
自分で狙ってやっている事でもあるし、姫様にとっては理不尽だと感じるものもある。要するに、ちょっと爆発したのだ。色々溜め込んでいたモノが。
理性が頭の片隅で、そう分析する。しかしもう止まらない。苛立つ本能が口を動かす。大丈夫、ちょっとだから。全てを曝け出す訳では無い。あくまでちょっと素で当たるだけだ。
「失望させるなよ、アリシア・フォン・カーネラ。俺はあの時からお前の事は気に入ってんだ。その強い意志を宿す瞳を気に入ってんだ。絶対当たる占い?知るか、んなもん。男の一人や二人、占いなんぞに頼らずお前自身の目で選べ。目的があんだろ。だったら、お前の目で見極め、お前の足で進め。道は俺が整えてやる」
「え……?あ……」
「それじゃあな。今日は、これで失礼するぞ」
そう言い放って、俺は彼女達の反応を待たず部屋を後にした。




