第五十二話
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ここの娼婦たちに感じた不自然さ、眠らせた後に見せられる『夢』、最初は気丈だったフィロメーナの変化、その他いくつかの情報を繋ぎ合わせる。そして出来上がる正解の欠片。
「そうか……お前達は娼婦ですらないのか」
そこに知識も加わっていく。
「「「っ!?」」」
コナー家の魔族が関わっているという情報を得てから、ここ数日魔族について詳しく調べた。種族ごとの特徴、文化、思想等を頭に叩き込んだのだ。何かの役に立つだろうと。
その中の一つに、彼女達の正体であろう種族の事もあった。
まず特徴として、その種族には女しか生まれない。そして生まれる女達は総じて美しいと言う。その為、いつの時代でも男の醜い欲望に晒されて来た。
魔族らしく強大なポテンシャルをその身に秘めながらも、戦う事が苦手な彼女達は特殊な方法でその身を守る。
『夢見の魔法』と『吸精』だ。
『夢見の魔法』は眠っている相手に夢を見せる、彼女達だけに伝わり彼女達だけに扱える、彼女達の為だけの魔法である。眠った相手に、夢とは分からぬほど精巧な夢を見せ、そして『吸精』。精を吸うのである。
つまり、眠った相手が男だった場合、エッチな夢を見せた後に『吸精』すれば、女を抱いた後の様に満足感を男は得るのである。
その種族の名は―――
「夢魔族、だな」
そして考察も加わり、解を導き出す。
「「「っ!?」」」
この反応は正解か。となると、本来戦う事が苦手だと言う夢魔族がサンドラのようにこうも鍛えているのは、そうせざる得ない状況まで種族的に追い詰められている可能性もある、か。
いきなり睡眠薬を盛られたせいで頭に来ていたとは言え、これはやり過ぎたかもしれない。腕の中で未だに震えるフィロメーナには、悪い事をした。
彼女達に感じた不自然さは、恐らく彼女達が処女だという可能性に原因があると思われる。これまで、娼婦として働きながらも『夢見』と『吸精』で済ませてきたであろう彼女達は、処女である可能性が高いのだ。その男を知らぬ彼女達が、男を熟知している雰囲気を纏うちぐはぐさに、俺は不自然さを感じていたのだろう。
フィロメーナも処女だとすれば、俺のした事は彼女に恐怖を与えるのに十分だっただろう。
「あー、悪かった」
「え……?」
取り敢えず、フィロメーナを解放する。ついでに、ベッドのシーツを剥ぎ彼女に纏わせる。流石にこのままは、目の保養どころか毒になる。魔法薬も渡しておこう。
「怖がらせて悪かったな。警戒し過ぎていたせいで、過剰反応してしまった。許してくれ」
「あ…え……?」
首の傷を治し、目に溜まった涙を拭う。
俺の変化にも、展開にも付いていけないのだろう。呆けたようになされるがままになっている。
「サンドラも悪かった」
彼女にはハンカチを投げ渡す。本当は彼女の涙も俺が拭ってあげたいのだが、それを許してくれそうにないのが一人いる。
「ネイ!?」
先程も果敢に、隙あらば俺を討とうとした娘だ。
「よっと」
死角から突っ込んできたネイと呼ばれた少女は、ククリ刀の様なナイフを手にしている。狙いは首のようだ。
真っ直ぐに突っ込んでくる、彼女の力をそのまま利用して、合気の要領で背中の上から抑え込む。
「くっ、離せっ!」
「え?嫌だけど。離したら、また攻撃してくるでしょ?」
「当然だっ!フィロメーナ様を傷付けた罪は、死を持って償って貰うっ!」
怖いなー。てか、この娘も夢魔族なのかな。やけに、好戦的だけど。大切な人を傷付けられたのなら当然か?
「ネイ、おやめ」
「っ!?しかし!フィロメーナ様!」
「ネイ、分かっているだろう?。私達じゃその男には敵わないよ。束になってもね」
「分かりました……っ!」
いち早く落ち着きを取り戻したフィロメーナの言葉で、素直に大人しくなったネイを解放する。もう暴れるつもりは無いようだが、離れ際に殺気の籠った憎しみの視線を頂いた。
「怖い娘だこと」
しかし、このネイって娘にサンドラを始めとして、潜んでいた護衛達のフィロメーナに対する忠誠心?のようなものが厚い。夢魔族内での彼女の立場は相当上なのでは無いだろうか。
「……お前さんは何者なんだい。それほどの実力をどうやって隠していたのかも、私らの正体に気付いた頭の速さも異常過ぎる」
異常て。失礼な。ちょっと豊富な人生経験と勤勉さがあれば、このくらいなら誰でも出来る事だ。
「そうですね……まず、私がここに来た理由を話しておきましょうか」
まあでも、敵対する必要は無い相手だと分かったんだし、口調は丁寧なものに戻しておこう。
「理由……?」
「ええ。気付いているとは思いますが、私がここに来たのは女を抱く為ではありません。コナー家についての情報を得る為です」
「「っ!?」」
驚いた様子のフィロメーナとサンドラ。さり気なく姿を現し、フィロメーナを守るように立っていた護衛達は疑問符を浮かべている。彼女達は知らないのだろう。
「その反応、もしかして貴女方がコナー家に協力している魔族ですか?」
「……そうだ、と言ったらどうするんだい?」
探りを入れるように聞いて来るが、その必要は無い。
「だとしたら、色々と喋って欲しいですね。最終的には、キャメロン・コナーもダリル・コナーも殺すつもりでいるので」
「「なっ!?」」
実にあっさりと俺はそう答える。ここに関しては駆け引きは必要ない。ただの最終確認だ。
「……そうかい」
驚いてはいる様だけど、納得しているかのような雰囲気だな。これはやっぱり白かな。黒だった場合が、あまりにお粗末すぎる。フィロメーナ以外が読み易いのだ。こちらが主導権を握ってからというもの、コロコロコロコロ表情が変わる。素直に正直と言うべきか、そこにバカを付けるべきか。
因みに、全てが計算し尽くされた演技という線は無い。俺は嘘を吐く事もだが、見抜くのも得意だ。
「その様子じゃ違うようですね。でも、その事に関してそれなりに深く知っている、と。そんな感じですか?」
「……まだ何も喋ってないのだけどねぇ」
「あはははは」
コールドリーディング。表情の変化などの外観及び、会話から多くの情報を読み取り、あたかも何でも知っているかのように見せる話術。それの応用だ。
「お前さんの言う通りだよ。その件に私達は関わっていない。だけど、色々と知ってるよ」
「なら、それを是非とも教えて貰えませんか?」
「……タダってゆう訳にはいかないねぇ」
調子を取り戻してきたようだな。気丈さが戻ってきている。
口調を丁寧にし、牙を再び隠したのが良かったのかな。
「へえ。力ずくで聞いても良いんですよ?」
「「「っ!?」」」
俺の挑発するような過激な発言に、サンドラ達に再び緊張が走る。
「お前さんは、そんな事しないだろう?」
本来の調子に戻りつつあるフィロメーナだけは、動じない。頭の方も随分と動くようになってきたらしい。これならちゃんとした交渉が出来そうだ。
さあ、建設的で理性的な話し合いを始めよう。




