第五十一話
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まず、目を奪われた。そして心を奪われかけた。
抜群のプロポーションを誇るその肢体が、ネグリジェの様な半透明の薄い布のみで覆われ、俺達の前に惜し気も無く晒されている。
並の男なら、彼女のこの姿を見ただけで理性を崩壊させるだろう。男の中の雄を雄に変え、本能が叫ぶのだ。目の前の女を愛せ、と。
「待たせたねぇ」
「っ!」
息を呑む美しさ。比喩では無く、文字通りの意味で。ついでに、生唾を呑み込み喉が鳴る。
「フ、フィロメーナさん……」
虜になり茫然自失といった風に、彼女に向かってフラフラと近付いていく。
「うふふふ。おいで、坊や」
それを優しく受け止めるかのように。両手を広げ構えるフィロメーナ。
「ああ……っ!」
受け入れてもらえる。その事に喜色を浮かべた顔でさらに近付いていく。視界の端に、意識を失ったかのように崩れた所をサンドラに支えられる、クロエの姿を収めながら。
「フィ…ロ……メ……ナ……さ………」
フィロメーナの目の前にまで来た所で、彼女の大きく柔らかそうな胸目掛けて顔を突っ込むように、前のめりに倒れる。や、柔らかい。
そのまま、クロエ同様意識を失ったかのように眠ってしまった………フリをした。
「ふぅ~、思ったより時間が掛かったようだねぇ」
「申し訳ありません。こちらのメイドが『ジュース』を飲まなかったので、香を焚く時間が必要でした」
あの飲み物の苦味は、睡眠薬が原因か。そして、この香にも睡眠作用があったと。どうりで、異常にリラックス出来た訳だ。
そんな会話をしながら、二人は俺とクロエを抱えベッドに並べる。力が完全に抜けているのだからそれなりに重いはず。それなのにそんな素振りを全く見せない二人に、やや戦慄が走る。魔力が動いた気配も無いのだ。
「如何なさいますか?」
「そうねぇ。取り敢えず、いつも通り『夢』を見せるよ。情報はその後に頂こう」
夢?どういう事だ?
そんな疑問を浮かべる俺を余所に、フィロメーナが『夢』とやらを見せる為の行動に入る。魔力を纏った手を近付けてくるのだ。
ここまでか。この魔法がどういったモノか分からない以上受ける訳にはいかないし、触れられればもしかしたら気付かれるかもしれない。『夢』と言っている以上、彼女の魔法と思われる物は寝ている者にしか作用しないはず。寝たフリがばれるのは必至だろう。
さて、向こうがこういった手段に出てきた以上、こちらも実力行使と行こうじゃないか。幸いクロエの目も無い。
「うふふふふ。寝顔も綺麗だこと。私が普通の娼婦だったら、相手してあげても良かったかもねぇ……え?」
「それはどういう事なのか、是非とも聞きたいなっと」
フィロメーナの手が俺の額に触れる、まさにその瞬間に彼女の手を掴み取る。そのまま流れるように体を起こしながら掴んだ手を引き寄せ、フィロメーナの美しい体を後ろから抱く。あ、良い匂い。
「なっ!?」
「「「っ!?」」」
「はい、動かない」
「な、なぜ……っ?」
この有り得ない事態に、一瞬呆けていたサンドラや監視達の機先を制し、その首に指輪から取り出したバタフライナイフを添える。
「わ、私をどうするつもりだい?」
そう言うフィロメーナの声は震えている。こういった状況には慣れていないのだろう。それでも気丈にあろうという姿は、好感が持てる。
「さあ?それはお前達次第だな。ああ、ご自慢の怪力でどうにか出来るとは思わないで欲しい。こちらも身体強化は施しているんでね」
身体強化が施された様子が彼女達から見られなかったので、あの怪力は素だろう。だとすると、彼女達は恐らく人族以外の種族。ダリル・コナーが、この娼館を利用している事を考えると、彼女達が噂の魔族の可能性もあるか。
「……貴方の目的は何ですか」
サンドラがこちらの隙を窺いながら聞いてくる。この問いは時間稼ぎも兼ねているのだろう。証拠に、不可視の監視達の気配が徐々に近付いて来る。
「勘違いしている様だから言っておく。今、俺と交渉が許されるのはフィロメーナのみだ。監視を含めお前たちは、ただそこで黙って見ていろ。気を付けろよ。俺の腕は機嫌を損ねると、勝手に動く事があるんだ」
「くっ!」
言外に下手な動きをすれば、フィロメーナの安全は保障しないと警告する。
その言葉の中に、俺の本気度を感じ取ったのだろう。皆が一瞬動きを止める。
「そう、動くなよ。天井に隠れている奴も、壁の裏に隠れている奴も、床の下に隠れている奴も。全員で五人か?サンドラを含めると六人か」
「「「っ!?」」」
息を呑む気配が伝わる。
「おい、右斜め後ろのお前。そう、今足を止めたお前だ」
「ひっ!」
「動くな、と言っている。ほら見ろ。お前が余計な動きをしたせいで、フィロメーナの首が少し切れちゃったじゃないか」
そして、フィロメーナ首にはバタフライナイフがやや食い込み、薄っすら血を流している。このまま、力を入れれば首が掻っ切られるのは想像に難くない。
「っ待て!待って!待って下さい。大人しくします。だから、フィロメーナ様を傷つけないで……」
「サ、サンドラ……」
悲壮な覚悟で悪に屈した様子のサンドラと、そんなサンドラを悲痛な表情を浮かべながら見つめるフィロメーナ。
まるで、俺が悪役みたいだ。さしずめ、攫われた姫に助けに来た女勇者、そして魔王か
……なんでやねん。
「さて、これで話し合いが出来そうだね。良かった良かった。異世界初の殺しが、貴女方みたいな綺麗な方にならなくて」
「っ……!あ、貴方は……っ!」
心底悔しそうな表情のサンドラ。先程、交渉出来るのはフィロメーナだけだと言ってあるので、それ以上言葉は続けない。だが、その瞳は涙を溢れさせながらも憎悪に染まっている。
先に手を出して来たのはそちらなのに、随分な態度だ。
「そうそう、お前達に出来るのは黙って見ている事だけだ。さあ、建設的で理性的な話し合いを始めよう。覚悟は良いかい?フィロメーナ」
「……っ!」
青褪め震えるフィロメーナ。
そんなに俺を悪役としたいのなら、仕方がない。魔王のように君達と接しようじゃないか。
魔王だからな。取り敢えず、偉く悪そうに振る舞おう。
「さて、まず何を聞こうか……。ああ、先にお前達の疑問に答えといてやろう。俺に薬も香も効かなかった理由が気になるのだろう?」
「……」
「簡単な事だ。俺には睡眠薬は勿論、痺れ薬や毒薬にも絶対的な耐性がある」
「っ!?」
異世界の物まで耐えられるとは思わなかったけどな。
幼少の頃より毎日のように、あらゆる毒薬等を少量ずつ飲まされた。勿論、虐待等では無く耐性を付ける為。殺し屋になる為の修行の一環だ。
祖父には力ずくで、祖母にはニコニコとした笑顔で、親父にはニヤニヤとした笑顔で有無を言わさず飲まされた。おかげで、トリカブトすらこの体には効かない。恨みもあるが、感謝の方がでかい。この件に関しては胸中複雑なのである。
「そんな訳で、お前達の用意した『ジュース』も苦味を感じたぐらいだな」
「……」
先程から震えたままのフィロメーナ。驚く気力も無いらしい。このままじゃ、何か聞いても応えは貰えないだろうな。
それにこの怯えようは異常だ。今は客を取っていないと言っていたから、昔は取っていたはずだ。つまり最高級娼婦である彼女が、この態度はおかしい。個人差はあるだろうが、もう少し強かに媚びを売ったりするもんじゃないのか?
昔、ハニートラップが得意な女殺し屋を捕らえた時は、鬱陶しい位に擦り寄ってきたぞ。娼婦と殺し屋は違うだろうが、それでももう少し……ああ、前提条件が違うのか。
この部屋に至るまでの情報、この部屋に至ってからの情報。そこに過去の記憶と経験が重なり、隠されたものが顕わになっていく。
……モンハン楽しー(´▽`*)




