第五十話
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豪華な外観に相応しく、内装もこれまた豪華だった。
過度な装飾こそ無いものの、娼館として雰囲気を盛り上げるような造りになっている。その店内には、あちこちに今は客を取っていない休憩中、若しくは待機中の娼婦が見られる。
彼女達も高級娼婦の名に相応しく、皆美しい。だが、こうして見てみると良く分かる。目の前のフィロメーナは別格だと。
「フィロメーナ様、そちらは?」
黒服姿の女性が進み出てくる。男装執事っぽい格好の、物凄くカッコいい人だ。騎士団にいるイケメン女騎士と並び立ったら、その辺の女達は歓喜の余り卒倒するんじゃなかろうか。
それに、物凄く強い。親父とも良い勝負しそうだ。
「私の『客』だよ」
「っ!?畏まりました。部屋は如何なさいますか?」
フィロメーナが客と言った瞬間、どよめきが起こる。男装執事も驚きに息を呑み目を見張るが、そこは流石と言うべきかすぐに取り繕う。
「そうねぇ……」
髪をかき上げるフィロメーナ。
「【蘭の部屋】にお願い。それと飲み物の準備と、お客様のご案内も」
「畏まりました」
「グレン、だったかしら」
「え、あ、はい」
まあ、名前ぐらい知ってるよな。彼女の目の前で、クロエにも呼ばれたし。
「先に部屋に行ってて貰えるかい?案内は彼女、サンドラに任せるのでね」
「フィロメーナさんは?」
「うふふふふ。女には色々と準備があるのさ」
そう言うと、俺の肩から胸の辺りをくすぐる様にひと撫でし、去って行った。
ああ、そっか。情報収集として来ていたから失念していた。そりゃ準備いるよな、娼館だもんここ。
それにしても、彼女の仕草は一つ一つがエロいな。エロ過ぎて、どこか不自然さを感じるぐらいだ。
「それでは、お部屋の方へと言いたい所ですが、そちらの方は如何なさいますか?よろしければ別室を案内させて頂きますが」
そう言う、サンドラの視線の先にはクロエが。
「あー、出来れば彼女も一緒で」
「一緒にですか。そういったプレイは、当店では取り扱っていないのですが……」
やや困った様子のサンドラ。
「サンドラ様、私はグレン様の監視ですので」
「……それならば、恐らく問題ないでしょう」
暫くの逡巡の後、困り顔のままサンドラはそう口にする。
一方クロエは、手を出して来たら殺す。チラリと盗み見た彼女の目は、そう物語っていた。
「では、こちらです」
【蘭の部屋】とやらに向かうのだろう。先を歩く彼女に遅れないように、クロエと二人後に続く。
そんな俺達に店内の娼婦たちの視線が刺さる。
メイド連れが珍しいのか、迷い人が珍しいのか、それとも美人な俺に興味津々なのか。はたまたそれ全部か。時折、目が合うとニコリと手を振ってくるので、こちらも手を振り返す。
格好も仕草も、その全てで男を誘っている彼女達。だがやはり、フィロメーナ同様不自然さがある。男が女装しているという訳でも無いし、何なのだろうかこの感じは。
そうやって歩いていると、【蘭の部屋】と書かれたプレートのある扉の前に着く。
「どうぞ……。暫く中でお待ちください、お飲み物を用意致しますので」
「あ、お構いなく」
そんな日本人的反応は見事にスルーされ、サンドラは一礼すると飲み物を取りに行った。
取り残された俺達は、仕方なしに部屋へと入る。
部屋に入ってまず目を引くのは、大きなベッド。まるで、ラブホテルのようだ。次に、お洒落なテーブルセット。
そして、気になるのが複数の視線。1・2・・3・・・4・・5・・・・・6。6人か。最後の一つはいつも感じているもの。暗部の者だろう。その他の五人は、恐らく、俺が相手にするフィロメーナがここのオーナーという事と無関係ではないだろう。
少々落ち着かないが、ナニスル訳では無いので気にしない。
暫く部屋を眺める事数分、サンドラがその手に飲み物を携え戻ってきた。
「お待たせしました。そちらのテーブルにお座りください。当店の説明をさせて頂きます」
指示通り席に着く。クロエは俺の傍に立ったままで、サンドラは対面だ。渡された飲み物を口にしながら、説明に耳を傾ける。
この飲み物甘いけど、後味が若干苦いな。精力剤でも入れてるのかね。
どうやら、ここは金を払って女を抱く、そんな普通の娼館とは違うようだ。
サンドラの説明によると、決まり事が幾つかあるらしい。
一、料金は前払い。
二、抱く前には必ず娼婦を口説き、雰囲気を盛り上げる。
三、雰囲気が盛り上がらなかった場合は、娼婦によるマッサージとなる。この場合料金は半額に。
四、プレイ以外で無理矢理事に及ぶのは厳禁。破った場合一回目は厳重注意、二回目は出禁。
五、当店を利用する際は一~四を了承したものとする。
「『忘れる勿れ。娼婦は奴隷には非ず。癒しを与える者也』という事だそうです」
「ほへ~」
偉い人の言葉だろうか。
「では、この部屋に監視が三人もいるのは、娼婦の方に何かあった時の為ですか?」
珍しくクロエが口を挟む。
六人だけどね。
「お気付きでしたか。そうです。ただ、フィロメーナ様はここのオーナですので、普段より厳重に警戒させております。お気を悪くさせてしまったら申し訳ありません」
「あははは。大丈夫ですよ。私、監視がいるなんて分からないので」
それにしても、暗部の人はどうやって隠れているのか。クロエに気付かせない上に、この娼館の監視にも気付かせないのは凄すぎる。俺がいつも気付くのは、俺の感知能力が高いからなのか、それともあえて俺だけが気付くようにしているのか。どちらにせよ、相当な力の持ち主だ。やはり、ユニーク魔法だろうか。
「一つ気になったのが、『雰囲気を盛り上げる』ってあるんですけど、これって娼婦が客を選ぶという事ですか?」
もしそうだとしたら、批判があるだろうに。何が目的なんだろうか。
「よく似た様な勘違いをなさる方がおられるのですが、そういう事ではありません。あくまで、雰囲気が盛り上がれば本番行為へと移れる、そういう目安です。マッサージの方も性感マッサージですので、お客様は十分に満足してお帰りになられます。それに、一度目がダメでも、二度目三度目と指名されれば、娼婦も気分が良いのです。その辺りの駆け引きも、男女間の色事では楽しむものかと」
「はぁ~、すごいですね~。そこら辺が、『天使の涙』が最高級娼館足る所以なのでしょうね~」
「有り難い事です」
そして、料金は一番安くても星貨一枚と最高級娼館らしくかなりお高め。無料券は月間利用が十を超えた者が貰える物らしい。
結婚するからとコレをくれたベルハルトの行動は一見誠実そうだが、この話を聞くと何とも微妙な気分になる。
ちなみに、銅貨・銀貨・金貨・白金貨・星貨をそれぞれ円で分かり易くすると―――
銅貨 ―― 一円玉
銀貨 ―― 百円玉
金貨 ―― 一万円札
白金貨―― 一千万円札
星貨 ―― 一兆円札
―――あくまで、分かり易くしたものではあるが、このような感じになる。貴族に関しては星貨をジャラジャラ持ってはいるが、億万長者と言う訳では無い。あくまでも目安である。
「もうそろそろフィロメーナ様もいらっしゃると思うので、香を焚かせて頂きます」
一通り説明が終わると頃合いと見たのか、爽やかな香りの香を焚きだす。心身共にリラックス出来る、落ち着いた香りだ。
香りが部屋中に広がった頃、控えめなノックと共にフィロメーナが入ってきた。




