第四十六話
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クロエと二人、屋敷に向かって歩く。今日はこのまま解散だ。
あの後、憤慨して要領を得ないベルハルトの説明と、丁寧なカールの説明によって、本当にベルハルトが結婚する事を理解した。とんだ物好きも居たもんだ、とその時は感心したが、よくよく考えてみれば何気に優良物件なんじゃなかろうか。
名実ともにトップランクの、Aランク冒険者パーティ【麒麟の角】のリーダー。≪獅子王≫の二つ名も持ち、英雄として名を馳せる。若い冒険者の兄貴分として、カリスマ性も持つ。
こうして挙げてみるとアレだな。誰だこれは。
普段のベルハルトとのギャップが激しい。ギャップ萌えだ。俺は萌えないが。
【麒麟の角】の面々は王都を活動拠点とし、王都内に屋敷もありそこで4人一緒に暮らしているらしい。そう4人。もう1人はベルハルトの妻になる女性だ。
話によるとその女性は、同居している三人の衣・食・住の面倒をほぼ一人で見ているらしい。それも自ら進んでだ。料理も一流(この世界レベル)で洗濯・掃除もこなす。お母さんというよりかは、寮母という言葉がピッタリだろうか。
「そういえば……」
高校の寮母は元気だろうか。俺自身寮に入っていた訳では無かったが、数少ない友人の一人が寮生だったので何度か、と言うより結構な頻度で顔を合わせる事があった。
ベルハルトの妻(仮)同様、気立ての良い女ではあったのだが、何分酒癖が悪く彼氏無し歴=年齢だった。今はどうしているだろうか。酒乱がなければとても良い女なんだが。
聞いた話ではその寮母と同じ雰囲気を持つ人のようだし、ベルハルトにはもったいない人なんだろうなぁ。幼馴染とも言ってたし、何気にあいつ勝ち組じゃないか。ベルハルトのくせに。
「グレン様、ぼーっとしてどうしました?もうボケですか?屋敷に着きましたよ」
「ほへ?」
どうやら、気付かぬ内に屋敷に着いていたらしい。そしてサラッと毒が。
「すみません。考え事をしてました」
「はぁ。考え事は構いませんが、あまり気を抜かないでください。王都にも不逞の輩はいます。現に何度かスリ等に狙われていました。私の方で対処しましたが」
「え゛。す、すみません」
気付かなかった。それだけ、ベルハルトの嫁話題に気を取られていたのか。おのれベルハルト。
ぶっちゃけ、気付かぬ内にスリに手を出されても、本能に刻み込んである自動防衛が働くので問題ないのだが、これを見られると流石に言い逃れが出来ないので今回は要反省だ。
「まあ、グレン様なら気付いていてもいなくても一緒でしょうけど……。明日からは如何なさいますか?」
またさらっと毒を吐かれる。
「え、えっと、そうですね……一週間後ぐらいに娼館の方へ行こうかと思います。それまでは、ただ王都内をぶらぶらするだけになると思いますが、何があるかは分かりませんし一応意味ある行為ですので、明日以降もクロエさんとは二人で行動したいです」
「わかりました。それでは明日も朝からお迎えに上がりますので」
「あ、はい」
俺の方が迎えに行っても良いんだけどな。屋敷内でヴィクトリアと鉢合わせないようにするためなのだろうか。だとしたら、案外俺の事を気に掛けてくれているのかもしれない。そうなると、毒を吐くようになったのも彼女なりの友愛の証なのかもしれない。
彼女がどう思っているかなんて、ホントの所分かる訳も無いのだがな。でも、そう思わないとちょっと悲しい。
孤児院に戻り日課となった幼女達の洗礼を受け、その後シスターと夕飯の準備に取り掛かる。
「今日はシチューを作ってみたいと思います~」
彼女にもルフィーナ達同様、地球の料理のレシピ・知識を授けてある。料理人では無いシスターは、失敗しながらもゆっくりとされど着実に腕を上げている。
夕飯を皆で食べた後はこれまた日課の風呂。シスターを含め全員の体を洗っていく。最初は羞恥で震えていたシスターもいまや、ノリノリで俺の前に来る。隅々まで洗わせ、俺の理性の壁にひびを入れようとして来る。正直慣れもあって動じはしないが、心労が溜まるので勘弁して欲しい。
それとは別に、リナを初めとする年長組の数人が恥じらいを覚えたらしく、最近もじもじするようになった。イラッと来た俺は誘ったのはお前らだぞ、と遠慮無しに洗っていくのである。
風呂を上がると幼女達の遊びに付き合わされ、眠そうにする子が出だしたら皆で布団の準備をし、全員で横になる。ここでの生活にも慣れたもんだ。
幼女が一人残らず寝静まった所で布団を抜け出し、皆が寝ている部屋を後にする。
遊び部屋に布団を敷き直し、トレーニングを始める。監視が無いのが孤児院の中しかない以上、どうしてもこの時間・この場所になってしまう。この間もシスターやリナ達に見られないよう、気配に気を配っている。
主なトレーニング内容は筋トレと柔軟。ベルハルトのような筋肉ダルマにならない様に抑えつつ主に体幹やインナーマッスルを鍛え、新体操選手ばりに体を柔らかくする。作るのはしなやかな筋肉と柔らかな肉体。
必要なのは筋力じゃない。必要なのは最大限の可動域と柔軟性。どんな状況でもどんな態勢でも、頭に思い描いた通りに動かす為の体作り。それが俺のトレーニング。
最近は体を動かす機会が少ないので、特に念入りにやっている。
そして、それが終われば今度は魔力トレーニング。
属性魔法を使えない俺は、魔力操作を怠ってはいけない。元々魔法・魔力なんて無い世界から来た身としては、魔法なんて使えなくてもさして気にはならない。憧れはするけど。
でも魔力はあった。だったらそれは完璧しなくちゃダメだろ。体内だけでなく、体外でも。
体外での魔力操作は不可能。それがこの世界の常識。体内の魔力も一歩外の出てしまえば、別の魔力。だから、体外での魔力操作は不可能。
意味が分からん。
魔力に属性を与え魔法としての事象に変換する。それが属性魔法。その属性魔法は体外でも操れる。例えば、今日のナンシーの風の刃。彼女はそれを操り、威嚇として使った。他にも、炎で龍を作り意のままに操る魔法等もあるらしい。
なら、何故。何故、体外での魔力操作が行えない。怠慢だ。思い込みだ。この世界の人間の。
体の隅々まで魔力を行き渡らせる。足の爪先から髪の毛先まで。なんとなくでは無く、意識して。細胞レベルで浸透させる。
―――身体強化・極
「うん、問題ない」
そのまま部分強化へと移っていく。腕のみ足のみ、各感覚器官のみ。順繰りに淀みなく行っていく。続いて魔力を掌に集め、魔力で球体言わば魔力球を作る。空中に霧散しそうになるそれを緻密なコントロールでその場に留める。
大量の脂汗が浮かぶ。毎度の事ながら、物凄く神経を使うな。
魔力球が安定したら今度はそれを動かす。右に左に、前に後ろに。そして、次第に掌から離していく。
「くっ……!」
3cmほど離れた所で魔力球が霧散する。今はこれが限界だ。最初の頃は全く出来なかったのだから、大した進歩だと言えるだろう。これが何になるのかと言われたら、今の所何にもならない。だが、何度も言うように属性魔法が使えない以上、魔力操作を完璧にするのは当たり前。
いつか来るかもしれない『もしかしたら』の為に、出来る事を増やしていく。後悔しないために。
何度でも繰り返す。魔力操作の練度を上げるために。
「ふぅ~~」
一連のトレーニングで掻いた汗を洗浄魔法で綺麗にし、布団に横になる。これが寝るまでのルーティン。
さぁ、明日も頑張ろう。




