第四十五話
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何故だろう。彼女が『口止め』と言うと、BAD ENDな未来のイメージしか湧かない。現に、彼らの口元も引き攣っている。
「ベルハルト、喋るなよ?」
「おう!分かってる……って俺だけかよ!?」
「お前が一番心配だ」
密かにお仲間が頷いている事に彼は気付かない。
「……俺お前とは一度、とことん話し合う必要がある気がする」
「気のせいだ」
これまでのベルハルトの行動を考えるとなー。俺ととことん話し合う前に、今一度己の行動を思い返して欲しいものだ。
「ベルハルトは脳筋だけど、脳足りんではないわ。それに、喋らない様に私とカールで見張ってるし、大丈夫よ」
「うん。じゃあ、ナンシーとカールに任せるよ」
「任せて!」
そう言って、慎ましやかな胸を張るナンシーの頭を撫でる。気持ち良さそうな表情をするナンシー。
この世界に来てから、撫でスキルが上がっている気がする。しょっちゅう、と言うか毎日幼女達の頭を撫でているからだろうか。まあ、それは置いといて。
「クロエさん、彼らなら大丈夫ですよ。口は堅いです。現に私を瀕死まで追い込んだ魔物の正体は、一切伝わってないようですし」
「そうですか……。姫様には何の魔物に襲われたか分からない、とそう言っていた気がするのですが」
クロエの俺を捉える視線が、再び鋭くなる。嘘が気に入らないのだろう。
「あはははは。私にだってプライドがありますからね。流石に女性の前でそれを言うのは……。今更なんですがね」
「本当に今更ですね……。分かりました。聞かなかった事にします」
「あははは。ありがとうございます」
これで勘違いしてくれるだろう。『女性の前では口にする事が憚れるほど、弱い魔物にやられた』と。
取り敢えず、内緒話は終わりかな
「それでよ~、俺が――――」
内緒話が終わった頃には良い時間になっていたので、そのまま昼食を彼らと共にしていたのだが…………
「――――ってわけだ。がはははは!」
初めの内は互いに当たり障りない範囲で近況を話していたのが、気付けばベルハルトの自慢話になった。エールという酒が入ってからというもの。口の回る事回る事。正直鬱陶しい事この上ない。話も下手だし。
「……ベルハルト、俺達はこの辺で失礼するよ」
これ以上は辛い。
「ああん?こっからが良いとこなんだぜぇ?酒も飲まねぇしよぉ。ノリ悪ぃなぁ」
「あははは。仕事中だと言ってるだろう?また今度暇な時付き合うよ」
暫くはそんな時間無いだろうけど。
「絶対だぞ!いいな!?」
「はいはい。カールもまたな」
「はい。グレンさんなら大丈夫だとは思いますが、困った事があったらいつでも頼ってください」
今日はあまり話せなかったが、向こうはあまり気にしていないらしい。いつもの様にニコニコとした表情でそう言ってくる。
「その時は頼りにさせてもらうよ。じゃあ、ナンシーもまたね」
「うん、あまり王女様とかに色目使っちゃダメだからね!」
「あはは。分かってるよ。さて、行きましょうか」
「はい。それでは失礼いたします」
「……?」
いつも通りの丁寧な態度。だけど、その目はベルハルトのみを捉えている。まるで、ベルハルトに対して敬意を払っているかのように。
「?……あぁ、嬢ちゃんは公爵家の娘だったな」
当のベルハルトは首を傾げた後、そう小声で呟いた。
なんだ?それが何の関係が?昔、冒険者として公爵家の依頼を受けたとかだろうか。まあなんにせよ、今の俺には関係無い事か。気にはなるが。
「じゃあなっ!娼館楽しんで来いよ!」
部屋を出る瞬間、そう声を掛けられる。
この男は……。
ナンシーの目がまた吊り上がったぞ。殺気のが余程効いたのか、何も言ってこないけど。
「……今日は行かないよ」
「ん?行かねぇのか?なんでだ?」
「幾らか日を跨いで行くつもりさ。積極的に動きすぎると、何に目を付けられるか分からんからな」
「はぁ~、用心深ぇこった」
たぶん俺らはかなり目立つだろうからな。余り活発に動き過ぎれば、人々の興味をひいてしまう。今は静かに事を為したい身としては、それは歓迎できない状況だ。
そこで、ふと思った事を聞いてみる。
「その娼館の無料券なんだけど、本当に良かったのか?結構高価なんだろ?」
「良いんだよ。俺にはもう必要無い物だしな」
ん?ベルハルトはまだ30代だったよな。それなのにもう必要ないっていう事は……そういう事なのだろう。
「そうなのか……。良いか?ベルハルト」
「んだよ、急に真面目な顔して」
真面目な話をするんだよ。
「良いから聞け。男の価値っていうのは、それだけで決まるもんじゃない。例え出来なくても、将来の家族計画に支障が出たとしても、必ず、そう必ず『それでも貴方が良い』と、そう言ってくれる娘が現れるはずだ、だから、自棄になったりするんじゃないぞ。いつか……」
「ち、ちょっと待て!」
引き攣った声で大事な話を遮られる。
「ん?どうした?」
「おまえは一体何の話をしてるんだ?」
「お前のナニが役に立たなくなったという話じゃないのか?」
「「ぶっ!」」
「ちげぇよ!」
カールとナンシーが吹き出し、ベルハルトが憤慨する。クロエは言わずもがな。
「結婚するんだよ!!娼館行けなくなるのは当然だろ!」
ケッコンスルンダヨ?ケッコンスルン、ダヨ?ケッコン、スルン、ダヨ?けっこん……。
「はぁ~!?結婚~!?」
「おうよ!」
「ベルハルト……」
そこにはドヤ顔のベルハルト。
なんて可哀想な奴なんだ。
「なんだよ。その顔は」
俺は今物凄く憐憫の宿った眼をしているんじゃなかろうか。
「良いか?ベルハルト。筋肉とは結婚できないんだぞ?」
「は?」
「「ぶっ!?」」
「いくらお前が筋肉好きと言っても限度がある。流石に結婚まで考える様になってしまえば、それはもう一種の病気だ。すぐにでも頭を診てもらうべきだろう」
恐らくこの男はどこかで拗らせたのだろう。女に相手にされず、娼館で無聊を慰め、いつしか己の筋肉を愛するようになった、と。
なんと可哀想な男だろうか。
「誰が筋肉と結婚だっ!」
「……お前だろ?」
「しねぇよ!ちゃんと相手は女だよ!」
オンナ?ま、まさか、ここまで堕ちていたとは……。
「ベルハルト。今すぐ自首するんだ」
「は?」
「「ぶふっ!?」ぷくくく」
ナンシーとカールはなぜ笑っていられるのだろうか。仲間が犯罪に手を染めたのならば、最悪殺してでも止めるべきだろう。
「お前はAランクパーティで人望もあるらしい。自首すれば幾らか罪は軽くなるかもしれん」
「誰が犯罪者だっ!」
「……お前だろ?流石に女性を攫って妻にするのはダメだろ」
「攫って無ぇよ!ちゃんとした関係の幼馴染だよ!」
オサナナジミ?そ、そうか。それは悪い事を言ったな
「……すまん。悪く言うつもりは無かったんだ。気を悪くしたようなら謝る」
「やっと分かってくれたか……」
「でもな、実在しない女性に懸想するのは止めて置いた方が良いぞ」
「「「は?」」」
今度は【麒麟の角】の面々が揃って呆けた表情になる。
「それに、いくら幼少の頃から好きな物語の魅力的な登場女性だからって、幼馴染と呼ぶのは違う気がする。ああ!馬鹿にするつもりは全然ないんだ!ただ、その、人の趣味は、ほら、それぞれだから、さ……」
そこで、オタクだった数少ない友人の一人、佐久間の事を思い出す。彼もまた、時折アニメなどのキャラクターを嫁と公言する男だった。理解は出来なかったが、受け入れられないものでも無かった。引きはするが。
ベルハルトも佐久間と似た様なものなのだろう。俺はこの世界で出来た最初の友人として、ちゃんと彼を受け入れるつもりだ。
「ぬがぁぁぁ!俺の話を聞けぇぇぇ!!!」
「「あっはっはっはっはっはっ」」
ベルハルトの絶叫とカールとナンシーの笑い声が、部屋に響いた。




