第四十話
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冒険者。それは冒険者ギルドという組織を介し、魔獣や魔物の討伐を主とする様々な依頼を受ける者達。昔は人類未踏の地が多かった為、そこを冒険する者としての意味合いが大きかったが、今では何でも屋のような形になっている。
彼らは名誉を求め時に無茶をする事もあるが、基本的に命を第一に考える。そんな彼らに必要になってくるのは命を守るための実力、そして何より命の危機を出来るだけ回避するための情報収集能力。
「そう言う訳で、まずは冒険者ギルドの方へ行ってみようと思います」
「……はい」
硬いよなぁ。能力は認められてるみたいなんだけど、男である以上仕方ないのかなぁ。護衛してもらう意味で協力を頼んでるんだけど、もしかしたら上手く見殺しにされるかも。必要に応じて危ない橋を渡るつもりなんだけど、心配だなぁ。
「では行きましょうか」
「はい」
冒険者ギルドに向かって中央通りを進む。
多くの冒険者が利用する宿や武器屋や酒場等が立ち並ぶだけあって、すれ違うのも冒険者と見られる人が多い。多種多様の武器を携え、着ている物も魔獣や魔物の革などだろうと思われるものが多い。そしてその強さもマチマチだ。
シスターやリナ達幼女と普段通っている商業通りとはまた違った活気があり、新鮮でとても良い。
「っと、ここか……すごいな」
木造建築で周りの建物より飛び抜けて立派だ。この世界の文字で『冒険者ギルド』と書かれた看板が掲げられており、中からは喧騒が聞こえ頻繁に冒険者が出入りしている。
「邪魔だよ!入るんならさっさと入りな!」
「おっと!すみません」
ほど良く日に焼け、健康的な褐色肌のお姉さんに促され中に入る。
「…!……っ!」
「……で………しな!」
「……ー…わり……!」
「すごいな」
再び同じ感想が口に出る。
中では受け付けと思われる場所に並ぶ冒険者や、併設された酒場と思わしきスペースで飲んだくれる冒険者たちが見られる。ざっと見た所、それなりに強そうな人達もいる様だ。
そのほぼ全員がそのままの調子で、一斉にこちらの様子を窺っている。普段見かけない顔ぶれに警戒している様だ。時折聞こえる舌打ちは、俺に対するものだろう。美人連れてるし。それらに気付かない振りをして、サッと全体に視線を配る。
「……いないか」
だが、目当ての人物はいなかった。流石にそう上手くいかないか。約束していた訳でも無いし。
即座に目的を変更し、受付の方へ足を進める。
「わお」
美人が多い。ギルドに入った時から気付いてはいたが、近くで見るとより分かる。お偉いさんの趣味だろうか。
「初めまして、ですよね?依頼ですか?登録ですか」
凄い。完璧な営業スマイルだ。しかも、俺の見た目にも何ら反応を示さなかった。
「ある冒険者パーティに伝言を頼みたくて」
「伝言ですか。畏まりました。では、相手の名前とその内容、そして貴方様のお名前をお願いします」
差し出された紙を受け取り、書き始めた所で声を掛けられる。
「おいおいおいおい、にいちゃん。随分とキレイな姉ちゃん連れてるじゃねーか。ぎゃはははは!」
「てめーみてーな軟弱ヤローには似合わねーよ。姉ちゃん置いて、てめーはどっか行きな!ぎゃははは!」
「ぎゃははは!そうだそうだ!俺達でちゃんと可愛がってやるからよ!」
……なんて頭の悪そうな人達なんだ。見た目も含めてチンピラにしか見えない。冒険者詐欺じゃないのか?
「……屑が」
「っ!?」
クロエさん!?その意見には激しく同意だけど、下手に刺激しないで!聞こえてたら、対話も不可能だよ!
「えっと。そう言うのは困るかな、と」
「ああん?俺達はお願いしてるんじゃねーよ!その女を置いて行けと命令してるんだ!」
「ぶっ殺されたいのかオラァ!」
えーー。何でこんなのが普通に出歩いてるの!?この言動、完全に賊じゃん!
チラリと受付嬢に視線を送ると、冷めた目で彼らを見ていた。
「お二人とも、ギルド内での騒動はご遠慮くださいといつも申しているはずです」
なるほど、常習犯だな。普通に素行が悪いだけか、何かしらの権力持ちか。
「ああん?うるせーな。こっちこそいつも言ってるだろーが!俺達にゃ、≪剛腕≫の兄貴が付いてるんだぜ!」
「ぎゃははは!兄貴に楯突くつもりか!?どんな目に遭っても知らね~ぜ~!」
何だ唯の威を借る三下か。堂々と馬鹿な事やってるもんだから、何かしらの権力持ちかとも思ったが杞憂だったか。
「ギルドを脅すつもりですか!?」
ギルド側も面子があるのだろう、受付のお姉さんも一切引かない。怖くないって事は無いだろうに。
とは言え、このままじゃマズいよな。
「ああん?誰もそんな事言ってねーよ!ただ最近物騒だからな!何があっても不思議じゃねーぜ?」
周りからの視線も集めてる。またか、という表情に、苦虫を噛み潰したような表情。どうやら、こいつらには日頃から頭を悩ませている様だ。
「それでにいちゃんや。どうするんだ?おめー最近噂の迷い人だろ?だったら痛い目見る前に置いてけよ。賢く生きようぜ?」
「あ、あの知っているのですか」
下卑た顔を浮かべる男達に、怯えたように問う。
「ああん?当然だろうが。あちこちで噂してるぜ!第二王女サマが弱っちい迷い人を拾って来たってな!ぎゃははは!」
「一体ナニをしているんだろーな!第二王女サマは!ぎゃはははは!」
こいつらホントに馬鹿だ。俺が迷い人だと分かってるのなら、傍のメイドも姫様の配下だって分かりそうなもんだろ。
ああ、ほら。クロエさんから殺気が漏れ出しちゃってるよ。
「ぎゃははは!ナニって、そりゃナニだろ!」
「「ぎゃははは!」」
クロエの殺気に周りが視線を逸らし、距離を取り始める。だが、目の前の男達は気付かない。
「……殺します」
≪剛腕≫とやらどれほどの人物かが分からない以上、それは悪手だ。ここにいる冒険者達が、こいつらに対して実力行使出来ないぐらいなのだから。
「待って!あ、あの!殿下への悪口は……っ!」
「ああん?いい加減うぜーんだよ!!この雑魚が!」
「ひっ!?」
イラついたように怒鳴り、腕を振り被る男。
「おっと。てめぇら、何やってんだ?」
男の拳が振り下ろされた瞬間、クロエが動くよりも早く、一人の筋肉が俺の前に飛び出しその拳を受け止めていた。
目の前に広がる男の逞しい背中………の筋肉。
「ったく依頼から帰ってみれば……またてめぇらか」
「ぐっ…≪獅子王≫……っ!」
「ぷっ……」
おっと、笑っちゃだめだ。この筋肉もといベルハルトは、俺を助けに来てくれたんだろうから。
「いくら≪獅子王≫と言えども、≪剛腕≫の兄貴に楯突けばどうなるか……ぐぁぁっ!」
「おうおう。そんときゃあ、いつでもかかって来いよ。相手になってやるぜ」
突然、拳を掴まれたまま膝をつく男。どうやらベルハルトが男の拳を握り潰したようだ。
「ブレイン!?てめぇ!」
「ん?やるのか?」
何の気負いもなく、そう言うベルハルト。事実、彼らの実力差は天と地だ。男達もそれは分かっているのだろう。
「ちっ!覚えてやがれ!」
そう吐き捨てると、二人の男は逃げる様に去っていった。
「……何でああいった輩の捨て台詞は、どれも似通っているのかね。まあ、何はともあれ、ベルハルト久しいな。それとありがとよ、助かった」
周りがギョッとした表情を向けてくる。
「おう、久しぶり。何、俺とおまえの仲じゃねぇか、気にするな」
さらにギョッとした表情を向けてくる。何なんだ?さっきから。
「あ、お姉さん。伝言の件は大丈夫です。用があったのは彼らのパーティなので」
「!【麒麟の角】の皆さんと面識が!?」
鳩が豆鉄砲ってこんな表情なのだろうか。
「ん?え、ええ」
ああ、そう言えば彼らはAランクパーティって奴で有名なんだっけ。周りの視線は、そんなベルハルトと親し気な態度を取る事に対する怪訝なものか。
「なんだ俺に用か?俺ぁてっきり登録に来たんかと」
「あはははは。ベルハルトは俺が弱い事、十分に知ってるだろう?おかしな事を言うじゃないか、なぁ?」
これは念の為の警告。余計な事を喋るんじゃないぞ、と。
「あ、ああ!そうだったな!なんせ魔物に襲われて瀕死だった所を助けたのが俺らだったからな!」
微妙に冷や汗を浮かべるベルハルト。どうやら忘れていたようだ。
俺が許可を出すまでは念入りにやった打ち合わせ通りに、って何度も言ったんだけどなー。筋肉には難しかったか?
見ると、周りの様子が納得したかのようなものに変わる。同時に、俺を嘲笑うような雰囲気が流れ、一部が疑問顔を浮かべる。大方、なぜベルハルトと対等に話しているのか、とかその辺りだろう。
特に答える必要も無いので、早速本題に入る。
「ベルハルト、聞きたい事があるんだ。内緒話をするのに適した場所は無いか?」
視線を彷徨わせていた筋肉が、真面目な表情になる。
それにしてもベルハルトのこの態度あからさま過ぎる。クロエには何か勘付かれているかもしれないな。これも踏まえて行動するか。
「分かった。良い場所がある。付いて来い」




