【殺し屋と四星】 其之肆
やらかしました。
完全に私のミスです。
今年分は全部、予約投稿済んでると勘違いしてました。
今日開いてビックリΣ(゜Д゜)
……時間を巻き戻したい。
取り敢えず、今書き溜めている分は予約投稿で投げときます。
誠に申し訳ありませぬ。
そうして手に取ったのは、レイピア。そう、カルローナ・アレンと同じ武器。
「は?」
「え?」
「ん?」
『俺の力を彼女達に見せる』これはそもそも俺の目的じゃない。
『彼女達が俺の力を見る』これはそもそも彼女達の目的だ。
「うん、『しっくり』きた」
適当に流されていたが、この仕合にも俺なりの意義を見出さなくてはいけなかったのだ。それが違和感の正体。普通に仕合って力を示すのではなく、ここに俺の指導を加える。彼女達の武器を使って、お手本を見せる訳だ。
「レイピアで良いって事?」
「取り敢えずはね」
「?」
アリシアの疑問を余所に、俺はカルローナ・アレンに向き合う。
「相手してもらって良いか?少し体を温めたい」
「……それは僕への当てつけかい?」
ややこめかみをヒクつかせながら、イラついたような声を出すカルローナ・アレン。彼女と俺はそこまで親しくない、というかそもそもそんなに話した事が無い。だから彼女にとっては気に障って仕方が無い事だろう。体を温める為の前座に選ばれ、それも自身と同じ武器で相手をすると宣言されては。
「『星騎士』の意味を知った。だからこそお前達は気になるのだろう。俺がどれほどの力を持っているのか。それに任命されるだけの力を、オスカー・ルゥ・ガルシアやヒルダに並ぶだけの力があるかどうかを。それを見せてやる」
「それは是非見せてもらいたいものだね。それだけ傲慢な態度を取れるんだ。口だけでは無い事を祈るよ」
「……アレン。あくまでそいつの力を見極めるのは私の役目だ、熱くなりすぎるな」
一応という感じで、ヴィクトリアがカルローナ・アレンを諫める。しかし、それに効果は無い。既に彼女の怒りは臨界点に達している。
「分かってるよ。でも僕に倒される程度なら、そもそも隊長が相手する間でも無いさ。勿論『星騎士』にも相応しくは無い」
「……グレンは本当に良いの?アレンの実力は本物よ」
「だからこそ、意味がある」
確かに実力があるのは認めよう。それはこうしてパッと見ただけでも分かるし、先程のヴィクトリアとの手合わせでも見ている。だけど本物じゃない。彼女の力が偽物という意味では無いが、『本物』の意味を知るべきだろう。
本物の実力者というものがどれほど隔絶した場所にいるのかを。
「分かったわ。良く分からないけど分かったわ」
「それで良いかと。グレン様の意味の分からない行動には、必ず意味がありますから」
「お互い怪我だけは無しよ」
アリシアの言葉など彼女の耳には入っていないだろう。既に離れた場所に移動し、俺を待ち構えている。最初から本気で、全力で俺を叩き潰さんと気合十分だ。
「しないし、させないから安心しろ」
そう言って俺もカルローナ・アレンの方へ足を進め、彼女の前に立つ。その距離約5m。それなりの実力があれば、一息で踏み込める間合いだ。
「何処からその自信は来るのよ……」
実力から。
「グレン様。シスター・ジェシカの結界魔法で、ここに届く目はかなり限定的になっております。御存分に」
「そっか。ありがと」
シスターの結界魔法はそういう使い方も出来るらしい。便利な魔法だ。
「……いつの間に」
驚いた顔でクロエを見るアリシア。どうやら彼女の独断らしい。俺の感謝の言葉に軽く頬を染めている己のメイドに、アリシアは頬を引き攣らせている。
「では開始の合図は私がしよう。……両者構え」
「……」
「……」
そんな二人を余所に、一気に緊張感が高まる。相対するカルローナ・アレンの瞳には、殺意すら見えるような気が。良くも悪くも最初は興味すらなかっただろうが、今の俺は彼女にとって気に入らない存在となっている事だろう。何にせよ、意識してもらえて光栄だな。
「……」
「……」
「…………始め!」
場が静寂に支配され皆の緊張が限界まで達した瞬間、それを割るようにヴィクトリアによって開始の合図が下された。
「シィッ!」
一撃必殺。カルローナ・アレンの狙いはまさにそれ。魔力による身体強化で一瞬にしてトップスピードまで加速し、こちらに何の反応もさせずに決着。実力差を突き付けるなら、理想的な決着だろう。だが相手は俺だ。
躱す?否。防ぐ?否。下がる?否。弾く?否。否。否である。只々止める。そう、止めるだけ。但し、圧倒的実力差を見せ付けながら。
そもそも星騎士とは何か。
それは形骸化して久しい役職。この国のみならず、この大陸に存在する全ての国に置いてある役職。その役目は、言うなれば『核』。それは腕力であり、魔力であり、知力であり。いずれかの圧倒的『力』を持ち、その国の為に働ける者が任命される。
つまり戦時に於いては矛や盾として、平時に於いては抑止力として。その歴史はとても古いらしく、この大陸に最初に出来た国が設置した役職らしい。名前の由来は伝わっていないが、『星』と付く限り相当な理由があるのではなかろうか。
とは言え特別な権利など名誉がある訳でも無い為、『国』に携わる者のみが認知している程度。普通の貴族なら『聞いた事があるような』という程度、平民に至っては『お伽噺?』という程度だ。だから俺も知らなかった。ナンシー達にこの世界について学んでいる時も、この言葉は一切出なかった。先日この手合わせが決まった後に戻って来たヘレンも、全く知らない様子だった。長く生きる彼女が、だ。
だが、この星騎士決して伊達では無い。
政治的役割はしっかりと持つ為、その選考に独断と偏見があってはならないのだ。もしも他国との戦争が勃発した時、もしも国を亡ぼすだけの魔物が出現した時、もしも未知なるモノが国に害を為さんと現れた時。その役目をしっかりと果たせなくてはならない。
現時点この国では、オスカーとヒルダを含め4人が任命されている。
だからヴィクトリアは過敏になっている。己の父と並びうる力を、グレン・ヨザクラは本当に持つのかと。彼女は娘であるからこそ、オスカーの本当の実力を知っているだろう。そして俺は一度手を合わせたからこそ知っている、彼の本当の実力を。あの時も一切手は抜いていなかったはずだ。本気ではあったはずだ。だが、全力では無かった。これは勘。第六感とも言うべき部分が叫んでいた。『本当の殺し合いになれば、こう簡単にはいかない』と。オスカー・ルゥ・ガルシアには何かある。切り札というべき何かが。
だから俺もそれに準ずる何かをヴィクトリアに見せなくてはいけない。別に『星騎士』になりたい訳では無いが、もしかしたらそれが役に立つ事もあるかもしれないから。
だからまずは、本物を見せ付ける。圧倒的高みにいる、『本物の実力者』というものを。
「は……?」
「えぇっ!?」
右足を前に半身になり、右手でレイピアを垂直に掲げる。それだけ。たったそれだけ。
音も無く、衝撃も無く。互いのレイピアの切っ先が寸分の狂い無く合わさり、カルローナ・アレンの刺突は静かに止まった。




