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【殺し屋と四星】 其之参

ブクマ・評価ありがとうございます。

「それでは姫様、行って参ります」

「ええ、ゆっくりしてきてね」


 出立の意を示す代表の者に倣い、総勢50名越えの麗しき乙女達も礼をする。彼女達の顔には緊張などは無く、どことなく浮ついたフワフワしているような雰囲気がある。

 あれから二日。予定通り彼女達ロゼリア騎士団の面々は、『部隊長がいない場合の護衛演習』を名目とした慰安ピクニックに行く訳だ。中身は兎も角建前は演習である為、若干ではあるものの騎士団の出立はこうして仰々しくなる。

 これから彼女達は約半日、景色や眺めの言い所でお茶をしたり、魔物を狩って軽く体を動かしたりと各々の発散方法で、ストレスを解放してくるのだろう。


「さて、それじゃあ私達も行きましょうか」


 人々の黄色い声援を受けながら小さくなっていく騎士団を見送りながら、アリシアが言う。その目には、薄化粧で隠してはいるが軽い隈がある。今回の演習に関する方々への連絡が、遅くまで掛かったせいだろう。騎士団員とは言え貴族令嬢ばかり。然るべき筋を通さないと後々面倒になる事は明白だ。

 ここにいるのはそんなお疲れのアリシアとクロエ、そして俺だけだ。ついでに言えば門番もいる。ヴィクトリア達が何処に居るのかというと、彼女は一足先に修練場だ。今頃、カルローナ・アレンと軽く汗を流している事だろう。

 彼女達はここに居なくて良いのかって?本当は良くない。だけど『貴様に任せる』と言われ代わりに俺がここに立つ事になり、自分達は騎士達に一言二言声を掛けると奥に引っ込んでしまった。おかげで、何でアンタがいるの?という乙女達の冷ややかな視線を浴びる事に。

 実際一部の者達の中で、俺の評価はガラリと変わった。しかしそれは、今回のディエゴの一件で俺の働きを直接見た者達に限られている。それ以外の者達にとっては、話は耳に入って来ていても物凄く疑わしい。そんなところだろう。彼女達の反応からそれが如実に分かる。

 王都市民の中にもそういう者達はいる。流石に詳しい話が彼らの中に浸透している訳では無いが、俺が何かをしたという事実と第二王子と公爵の一人が失脚したという事実が噂に噂を呼んでいる。いわゆるミーハーな人達は兎も角、それ以外の人達にとってはどれもこれもが信じられないもの。つまり、街を歩けば詐欺師でも見るような目で見てくる人達がいるということだ。

 肩身が狭いという事は無くなったが、未だ俺の立場は微妙なモノだ。とは言え世間の評価はミーハーが多い事もあり、割と友好的なモノが多いのも事実。まぁ、結局は俺の今後の行動次第という事だな。

 信用が無いせいで事がスムーズに進まない事もあるが、選んだのは俺だ。あの日(・・・)ディエゴの悪行の一端をこの目で見て、自分で決めたんだ。実力を隠し懐、とは言わないでも出来るだけ近付き、必ず惨たらしい結末を迎えさせると。


「……」

「セイッ……!」

「ハッ……!」


 気合の入った掛け声と金属同士のぶつかる音で、明後日の方へ逸れていた思考が引き戻される。

 ヴィクトリアはお馴染みの槍を、カルローナ・アレンはレイピアを。修練場では各々が得意な武器を手に、準備運動だと明らかに分かる動きで汗を流していた。


「!?……姫様!」

「ん?……あぁ、もう時間か」


 いち早く気付いたヴィクトリアが動きを止め駆け寄り、遅れてカルローナ・アレンがこちらに気付く。彼女は随分と集中していたようだ。彼女も実力は高い方だがヴィクトリアには二歩ほど劣る為、軽い手合わせでも集中の度合いが変わってくるのだろう。


「後はグレンが準備するだけって感じかしらね」


 二人の様子を見たアリシアが、こちらを見てそう呟く。


「そうみたいですね」


 ヴィクトリアは十分に温まっているようだ。

 正直俺には準備運動なんて(そんなもの)必要無いのだが、それを言っても厭味にしかならないか。お言葉に甘えて、形だけ体を動かしておくか。


「……」


 とは言え、こういう場合は何をするのが正解なのか。

 ストレッチ?何か違う気がする。ストレッチだけして終わりましたなんて言った際には、舐めてるのかと怒鳴られそうだ。だからと言って武器を振るうにも、得意な武器がある訳でも無し。地球ではやっぱり銃器の方が多かったからな。一通りどんな武器でも使える事には使えるが……。


「……」


 銃の類を使わない事にしている身としては、やっぱり徒手格闘がメインになるんだよな。殺し合いじゃない手合わせなら特に。『血垂桜』は血を吸えなかったら不機嫌になるかもだし。伊達で【妖刀】名乗ってはいない。


「ま、合わせるのが賢明か」


 小さくそう呟く。

 臨戦態勢とは違うが、どんな時でもどんな場合でもどんな状況でも、体はちゃんと動くようにしてある。敵地に潜入する事もスパイのような事をする事もザラであった身としては、当然のスキル。例え寝起きだろうと意識が無かろうと、体は動くように幼少期から徹底的に叩き込まれている。殺し屋として裏の世界に身を投じた時点で、準備運動は終わってるも同然なのだ。

 だから、これはポーズ。

 準備運動をしない事で舐めていると思われて、神経を逆撫でしないように。少しだけ彼女達の意識を俺の準備運動から逸らす為の。


「あら、刀と言ったかしら。カエデのと似たような剣の。あれは使わないの?」


 アリシアの不思議そうな声。こうして彼女達の意識は逸れる。

 手首を回し肩を回し、腰を捻りながら近付いたそこには無造作に置かれた複数の武器。手入れはされているようだが刃こぼれもあり、お世辞にもあまり良い状態とは言えない。その中から一つ、俺の片腕より少し長いくらいの両刃剣を手に取る。


「いえ、これらが気になりまして」

「廃棄直前の武器だ。今からの仕合には、お互いここから選んだものを使う。降参の宣言以外にも、武器の破損によって仕合の終了とする」

「なるほど……」


 この仕合はあくまで俺の力を見る事が目的。必ずしも勝敗が仕合の決着にならなくて良い訳だ。互いに熱くなり過ぎてしまい止め時が見えなくなっても、武器が壊れれば強制的に熱は冷める、か。殺意が無ければだけど。ヴィクトリアの様子を見るにそんな心配は無さそうだな。とても落ち着いている。寧ろ別人に見えるくらいだ。

 鍛練用の刃を潰した武器では無いのは、緊張感を失わないようにする為。武器の状態故に大怪我はしないかもしれないが、それ故に痛みは大きいだろう。鋭く斬られるか、鈍く抉られるか。そんな違い。


「武器はそれで良いのか?」


 両刃剣を軽く振る俺に、ヴィクトリアが問うてくる。さて、どうしたものか。

 使う機会こそ少なかったものの、俺には一通りあらゆる武器の知識が叩き込まれている。そしてこれまでの経験が、武器の形状・特徴などから戦い方そのものを教えてくれる。この両刃剣を手にした時も、それは脳裏に鮮明な映像(ビジョン)として現れているのだが……。


「う~ん、馴染まない」


 『しっくり』 こない。違和感がある。俺の体に、手に合わないと言うよりはそう、状況だ。状況に合っていない。槍を持つヴィクトリアの前に立つ、両刃剣の俺。その光景を思い浮かべた瞬間、『そうじゃない』と思ってしまった。


「……」


 両刃剣、短剣、槍、弓矢、レイピア、斧、その他諸々。

 仕合、手合わせ、試合、腕試し、決闘、勝負……勝負?


「グレン様?」


 考え込んでいた俺に、クロエから声が掛かる。何だかんだ一緒にいる時間の長かったクロエ。俺が何かに気付いた事を察したのだろう。


「ああそうか。そうか。じゃあ俺の武器は、まずコレ(・・)だ」

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