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第百五十五話

ブクマ・評価ありがとうございます。

 最後は少し早口だったから、どうせ照れ臭くなったのだろう。似合わない事をするからだ。可愛い奴め。


「ただ、『旦那様』はまだ認めてないんだけどな……」


 相手にするのが面倒臭いと無視していたのだが、そのせいで夜魔族内では『旦那様』が浸透しつつある。ちょっとマズいかもしんない。


「さて、リカルドさん。ディエゴ()殿下を連れていってください」

「あ、ああ。……そう急に変わらないでくれないか?慣れてないから心臓に悪い」


 驚いたように一瞬遅れて、リカルドが返事をする。小さな文句付きだ。他の数名の騎士は目を白黒させている。彼らとは殆ど接触してないからな。リカルド同様借金とかお家の事情とか、色々あって仕方なくデェイゴに付いていた者達だが、殆どリカルドに任せていたから、俺の為人がまだ掴めていないのだろう。


「あはははは、すみません」


 これ以上気を張り続ける必要は無いだろう。気を抜くわけじゃ無いが、この場の空気を完全に支配している俺がいつまでもピリピリしてちゃ、息がし辛いだろうから。一旦、このヘラっとしたのを挟んだ方が良い。


「……では、陛下。叛徒ディエゴを地下牢に連れていきます」

「うむ」


 リカルド達が進み出て、王様の前に跪く。床に流れている血で汚れるのもお構いなしだ。


「我々も望まぬものだったとは言え、叛徒ディエゴに従ったのは事実。ヘンリー様同様、その罪は重いかと」

「……うむ、であろうな。お前達にも罰を与えなければなるまいて」

「「「「はっ」」」」


 ヘンリーも獄卒として『監獄都市』行きになった。これ程は重くないだろうが、彼らにも罰を与えなくては筋が通らない。


「事情が事情である故、減俸が妥当であろうな。減俸期間は追って連絡する。そしてその命を持って、今後も国に忠義を尽くす事を期待しよう」

「「「「……っ!?はっ!有り難き幸せ!!」」」」


 胸に手を当て深く深く礼をする騎士達。一部涙ぐんでいる。

 どれくらいそうしていたか。練習でもしたのか?と思うくらいに全員が綺麗な所作で立ち上がり、ディエゴを担ぐ。それぞれ歪んだ両足と腰。そして腕が無い為、その辺りの衣服を捩じり上げるようにして持ち上げる。そして一人が魔封じの腕輪を足に取り付ける。


「クソッ!離せ!クソがっ!」


 当然黙っているディエゴでは無い。叫び暴れるが、身体強化もしている彼らはビクともしない。既に魔力を使えなくなったディエゴには、以下に動けるデブであろうとどうにも出来ない。


「リカルド、貴様!これで良いのか!?誰のおかげで貴様の母が生き延びていられたと思っている!?大事な母を殺すつもりか!?貴様らもだ!俺のおかげでこれまで騎士でいられたのだろうが!!その恩を仇で返すつもりか!!?」

「……母はグレン殿が助けてくれる事になっています」

「えっと、確実じゃないですよ?あくまでも可能性です」


 そこを勘違いしてもらっては困る。未知の病?症状?に自信を持って治せるとは言えない。


「分かってる。それでも、その言葉を信じるに値するものを今日は見せて貰った。もう元殿下に恩はありません。私だけでなく、彼らもです。グレン殿が手を打ってくれる事を約束して下さった」

「っ!?また……!また貴様か!!」

「はいはーい。またまた私ですよー」


 首だけを必死に捻り、俺を睨んでくるディエゴにお道化て手を振る。人の首って、自分であんなに回せるもんなんだな。学生時代に佐久間に見せてもらった『作画崩壊』みたいになってる。


「あ゛ぁぁぁぁぁああああああ!!貴様だけは!貴様だけは許さん!!覚えておけ!必ず、必ず地獄に叩き落としてやるぅぅぅぅっ!!」


 リカルド達が叫ぶディエゴを連れていく。その叫びは彼らが玉座の間を出、扉が閉まっても聞こえてきた。途中で『むぐぅっ!?』という声を強化された耳が拾ったので、恐らく奴の口を何かで封じたのだろう。迷惑極まりないし、良い判断だ。


「また出来もしない事を言って。それに、もう忘れましたよ」






 所変わって、王城にあるアリシアの部屋。

 アリシアを始め、暗い顔のヴィクトリアと沈んだ表情のクロエ。思案顔のヘンリーに、嬉々とした表情のフィオ。そして、美人な俺だ。

 ディエゴが連行された後、エイミーが限界という事で即解散となった。文官・武官や貴族は今後の事をそれとなく話しながら出て行き、オスカーの鋭い指示で騎士達は即座に持ち場に戻った。

 アルベルトは『今度ゆっくり話がしたい』とだけを言い残し、騎士達と去って行った。一番謎だったのがヒルダで、しばらくジッと俺の事を見ていたかと思うと『再見』と中国語のような事を言って消えた。ヒュンッ、と。魔力の動きを感じたので、魔法なのだろう。≪宮廷魔導士長≫の称号は伊達では無いようだ。

 そして一番気になったのがジョゼ。恐らく気のせいだと思うし、気のせいのはずだし、気のせいであって欲しいのだが、手に何か持っていた気がするのだ。小型のタブレットみたいなのを。いや、ホント気のせいだと思うんだけどね。


「グレンよ。先の話だが……」

「ああ、帝国の事か?」

「うむ」


 早速とばかりに口を開くヘンリー。彼にとっては何よりも優先して片付けたい問題らしい。まぁ、当然か。


「残念だが、俺が掴んでるのは複数の密約を交わしていたって事だけだ。それ以上は暗部、王様に聞いた方が良いだろう」

「そうか。なら早速……いや、ユーゴの方が良いか」


 エイミー王妃の衰弱振りから考えるに、王様は暫く彼女の傍を離れまい。短時間だったが、幼少期からの付き合いだという仲睦まじさが窺えた。


「お父様?」

「……ああ、フィオはグレンと共にいなさい。お前もそうしたいだろう?」

「当然ですわ!」


 胸を張ってそう答えるフィオ。大きな胸がたゆんと揺れる。


「では、儂は………シア」

「な、何かしら!?」


 部屋を出て行こうとしたヘンリーが直前で振り返り、アリシアに声を掛ける。声を掛けられたアリシアは、噛みながら上擦った返事を返した。


「済まなかったな。仕方なかったとは言え、ディエゴに付いていた儂はお前に辛い思いをさせてしまった」

「そんな事無いわ!?私だって、一切声も掛けずにずっと無視して……っ!」


 確かに無視していたな。一番最初に王城で擦れ違った時なんか露骨に、話しかけなかった。


「……グレンとは仲良くな。お前の目的には必須だろうから。頑張りなさい」

「っ!叔父上も!『監獄都市』は大変だろうけど……!」

「あぁ、大変であろうな……」


 一気にテンションが下がり、遠い目をするヘンリー。哀愁とでも言うのだろうか、背中が煤けて見える。


「?……??」


 頭一杯に疑問符を浮かべるアリシア。


「では、な」


 そう言って今度こそヘンリーは部屋を出た。アリシア達が今後彼と会う事は、殆ど無いだろう。つまり今のは、彼女にとって今生の別れのようなもの。『監獄都市』がどういう所か理解し、そしてヘンリーが『監獄都市』で何をするのかを知らないからだ。


「すみません、姫様。私も少し父の下に」

「トリア?」


 ヘンリーが出て行ってすぐ、今度はヴィクトリアがそう言う。その顔は何かを思い詰めていて、見ていて危なっかしい。


「父に確認したい事がありまして……」


 しかしヴィクトリアは扉には向かわず、俺に近付いて来る。


「どうしました?」

「!?あ、いや、あの……」


 意味を為さない言葉ばかりが彼女の口から漏れる。目も泳いでいる、というよりかは俺の事を真面に見れないって感じか。


「オーホッホッホッホッ!脳筋が悩んでいますわ!らしくありませんわよ!」


 茶化す?叱咤する?良く分からん事を言うフィオ。いつもなら怒りそうなものだったが、今のヴィクトリアは大人しい。


「脳筋か。そうだな。私には似合いの言葉だ……」

「ちょっとトリア?本当にらしくないわよ?どうしたの?」

「違いますでしょ!?もっと、こう……!……。」


 これには流石にアリシアも心配になって声を掛ける。フィオも思った反応が返って来なくて、狼狽えている。


「私は……私には…………」


 ギュッと槍を握りなおすと、何やら覚悟を決めたヴィクトリアの瞳が俺を射抜いた。


「後で時間を作ってくれ」

「へ?」

「姫様すみません。一旦失礼します」

「え、あの?」


 一方的に言った後は、俺の事を一切見る事無くアリシアに礼をして、さっさと出て行ってしまった。彼女らしいっちゃらしいが、何か腑に落ちん。取り敢えず、希望どおり時間は作っておこう。


「……何かみんなの様子がおかしいわ」

「ですわ!汚豚さんもいなくなったのだから、もっと喜ぶべきですわ!」


 確かにその通りだが、お前は喜び過ぎはしゃぎ過ぎだ。気持ちは分かるが、もう少し落ち着いてくれ。

 二人の視線が自然とクロエへ。それに俺もつられる。


「っ!?」

「クロエ?貴女も何かあるんじゃないの?少し変よ」

「……大丈夫です。少し疲れただけですから」


 見え見えの嘘。しかし、アリシアはそれに乗る。嘘を吐くだけの理由があり、なによりクロエの事を信じているから。


「なら先に帰って休む?」

「いえ、ヴィクトリア様もいない以上、私まで離れるのは……」

「思えばここ最近ずっと働き尽くめよね?休むべきだわ。ここなら大丈夫よ。グレンだっているし」

「っ!?」


 その言葉でクロエの表情が完全に変わった。何かの強烈な痛みに耐える表情に。


「そ、そうですね。折角なので休ませてもらいます。――――ゎ……は…ゃ……なら……ょぅ…」


 最後の言葉はとても小さく、俺の耳ですら殆ど聞き逃し掛けた声とは言えない声。虫食いで聞こえた声を、脳内で補完する。『私は邪魔にしかならないでしょうし』


「っ!クロエ……っ?」

「っ!!」


 思わず声を掛けると、クロエの体はビクゥッと反応した。そういえば、彼女はずっと俺の方を見ていない。もしかして、何かしらの原因が俺にある?


「ぁ……、ひ、姫様。お、お先に失礼します……!」


 俺との接触を避けようとしてか、俺の掛けた声に過剰に反応し、慌てて部屋を出て行こうとする。やはり俺の方を頑なに見ようとはしない。


「ちょっとクロエ……!?」


 明らかに様子のおかしいクロエに、アリシアも心配した声を出す。

 そして、部屋を出る直前。窓からの光の当たり具合が良かったのだろう。辛うじて見えたのは、クロエの顔の辺りで光るモノ。涙だった。


「っ!?クロエ……!」


 俺の焦った声に、クロエは逃げ出そうとする。そうはさせるかと身体強化を施し、クロエに近付き腕を掴む。

 驚きこちらを見るクロエ。その目にはやはり涙が溢れていた。


「っ!は、離してください……!」

「この状況で離せる訳無いだろう!?」

「その気も無いくせに、これ以上私に優しくしないで下さい!!」

「っ!?」


 魂の叫び。彼女の言葉が、正確に俺の心を貫く。同時に、途轍もない痛みと悲しみが俺を襲った。


「ぁ……っ!~~っ!!」


 俺の顔を見て、自分の言った事に驚き後悔したようなクロエだったが、強引に腕を振り払って部屋を出て行ってしまった。


「「「……」」」


 アリシアとフィオは目を白黒させていて、俺は俺でどうする事も出来ずに呆然としていた。俺が今どんな表情をしているのか、残った二人が何を考えているのか。それすらも考える余裕が無く。


「色々と聞きたい事もあったけど、明日にしましょうか……」

「ああ……」

「ですわね……」


 ただ分かるのは、良く無いモノが俺達の心にしこりとして残ったという事だけだった。

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