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第百三十話

ブクマ・評価ありがとうございます。

「ぅ……ぁ……?」


 ヘレンの起こした衝撃でか、セーラが目を覚ましたようだ。半ば微睡んだ表情で起き上がろうとするも、力が入らないようでボスンッと顔からベットへ。暫くその状態でいたが、ゆっくり体を捻って仰向けになった。そして、ポ~っとした表情で首を回して辺りを見渡していたが、俺を視界に入れると意識が覚醒したようで、手元のシーツを手繰り寄せて素肌を隠すとキッと睨み付けてきた。


「くっ……」


 性犯罪者でも見るような目つきだ。そっちから襲って来たというに。だがこれで、ヘレンの話の信憑性がまた一段階下がった。だとすると、俺はとんでもない事をしでかしてしまったのかもしれん。


「えっとだな……俺はセ「心までは好きに出来ると、堕とせるとは思うな!」……えー」


 俺の言葉を遮って、何を言うのかと思えば。どうやら、体は堕ちているらしい。そう捉えられるセリフだ。反応に困る。

 人の表情から心情とか本性とか察するのは、結構得意だと思っていたんだけどな。どうにもセーラの心がいまいち分からん。調子が悪いというか何というか。あの姫様の事を見抜けていなかった事に、知らず知らず自信喪失しているのかもしれんな。

 そう考えると、気持ちもネガティブになっていく。


「あー……もうあれだ。俺が悪いな。正直には答えてくれないと思って、遠回しに聞こうとした俺が間違いだった」


 普通に聞いていれば良かったのだ。『俺との子供が欲しいのか』って。『俺の子供を産んでくれ』で、セーラの行動と表情を見ようと思ったのが馬鹿だった。最近、回りくどい事ばかりしている気がする。もしかしたら、ストレートに為せばもっと上手くいく事もあったかもしれない。

 そう、例えば姫様の事とか。彼女の事はかなり追い込んでいる自覚がある。そこに、フィオの指摘。精神的なダメージは相当なモノだろう。俺が傷付けたと言っても過言では無い。もっと良いやりようがあったはずだ。

 どんどん気分が落ち込んでくる。


「はぁ~、なんか本当に妙な失敗ばかりだな最近。それも女に関して……嫌という訳じゃ無いが、泥沼化しているような……抜け出せる気がせん。何でこうなった?昔はもっと上手くやっていた気がするんだけどな」


『女難の相が出ておる。多くの女に振り回され、多くの女に愛され―――……』


 いやいやいやいや、だから無いって。占いって、所詮占いだぞ?

 ……でも、魔法なんてモノがある世界での占いだからもしかしたら、何て事も……いや、やっぱり無い。無いったら無い。俺は認めん!


「だ、大丈夫か?ちょっと、いや大分様子がおかしいのじゃが……」


 沈んだ顔で百面相をし始めた俺に、ヘレンの心配そうな声が掛かる。


「ん?ああ、大丈夫だよ。で、何の話だったか……ああ、そうかセーラの事か」


 視線を向ければ、視界の端でビクッとセーラが反応する。それでも睨むのは止めないようだ。


「っまだ何かあるのですか……っ!」

「違う違う。最後に一つ聞きたいだけだ。そもそもお前らが何もしないんなら、俺も何もしないよ」

「……嬉々として、妾達を嬲っていたような気がするのじゃが」


 うるせっ。嬉々となんかしてねぇよ、てか、嬲るって何だ嬲るって。風評被害だ。俺は可愛がってやったに過ぎん。


「コホン、それでだな。ちゃんと聞いておこうと思ってな。セーラお前は何を思い、何を考えている?ヘレンには、お前が俺との子を望んでいると聞かされた。だから確かめようとした。これまでの態度から、それは信じられなかったからな」


 少しおかしな事になって収拾がつかなくなったが、ここはまあ強制的に話題転換。


「……教えてくれないか。セーラの気持ち。俺はその辺をちゃんとしたいんだ。俺に好意を抱いてくれている相手には、しっかりとした答えを返したい」

「妾、保留されているのではなかったかのう?」


 さっきかちょくちょく何だ?いつものヘレンなら、余裕綽々な態度で見守る感じなのに。


「……保留も一応の答えだろ。てか、相手の好意に気付いていて何もせんなんて俺には出来ん」

「なんじゃ……ただの女たらしか」


 随分突っ掛かってくるな。なんか機嫌悪い?


「ヘレン、どうした?らしくないぞ?」

「ふん!さっきからセーラばかり見おって!」


 まさかの嫉妬だった。セーラを襲わせようとしたり、焚きつけたり。かと思えば嫉妬て。不安にさせている俺が言うのもなんだが、面倒臭い。『だったらもっと正攻法で来いよ』と思ってしまうのは、俺の心が汚い証拠。ちょっと甘え過ぎだ。


「……すまん、ヘレン」

「ぁ…ぃや、妾はそんなつもりじゃ……」


 俺の顔を見たヘレンが、有り得ないくらい狼狽える。まるで、させてはいけない表情をさせてしまったとばかりに。俺の顔を見ながら。


「ヘレン、本当にどうし……あれ?」


 顔に違和感。なぜか涙が出ていた。大量に溢れているという訳では無い。それでもゆっくり、涙が確かに流れていた。


「涙?何で?……っ!」


 本当に意味が分からない。だが、やらなければいけない事は分かる。俺の涙を見て、顔を青褪めさせるヘレンのフォロー。涙の理由など、この際二の次三の次だ。

 それに、この涙の理由はあまり気にしない方が良い気がする。何故か良く無い事のように思えるのだ。何処がとか、何がとかは分からないけど。……そう、言うなれば怖い。


「す、すまぬ」

「……ヘレンは悪くないよ」


 やや動くようになった体で後退るヘレンに、覆い被さるように抱き付く。好意を寄せる相手を泣かす。意図せずだとしたら、ヘレンの狼狽えようも納得のもの。自分では真面目な顔をしているつもりだったが、涙が流れた際に変に歪んでいた可能性もある。泣き顔とか、辛そうな顔とか。

 俺だって突然女の子に泣かれれば狼狽える。そして今みたいに、嫉妬からとは言え八つ当たりしていたヘレンは、自分のせいだと思ってしまったのだろう。


「すまん驚かせたな。目にゴミが入った」

「ゴ……ミ?」

「ああ、ゴミだ。別に悲しかったわけでも、辛かったわけでもないよ」


 下手な言い訳ぐらいが丁度良い。誤魔化したり、正直に言えば彼女の心に沁み付いてしまう。


「じゃ、じゃが……っ!」

「納得はしないよね。でも、これだけは覚えておいてくれ。ヘレンのせいじゃない」

「ぁ……」


 これだけは憶えておいてくれ、それだけを思ってヘレンを抱き締める。


「ほら、ヘレンもぎゅってして」

「……ぅ、うむ」


 恐る恐る、という風に彼女の手が回される。顔は見えないが、安心してくれる事を願おう。

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