ブラックアウトは便利じゃない…けど助かるな。
限界は万能じゃない。
都合よくブラックアウトする事も出来ない俺の目の前で、虎科の獣さんがあっという間に人間に変身してさ。
心臓の音が耳の中で鳴り響く程驚いたのに。退避不可能(目覚めてます)
「俺のこと知ってるの?待ってるって言われてもいったい…」
あ。最後の質問しない方が良かったかも。言って貰ってラッキーって顔になったよ?
「よくぞ助けると仰って下さいました。深く感謝申し上げます。ささ、こちらへどうぞ!」
あっよくいるよ。全く他人の話を聞かないタイプ。コレ何言っても無駄だな。
諦め気味の俺とバイフーさんが数歩歩いた先に見えてきたのは碧色に透き通る美しい湖。かなりな大きさがある。周りの景色が湖面に映って見事そのもの。
でもさ、気になるのはソコじゃない。
目の前の生き物。
ネッシー…は古いか。
でも、巨大な竜っぽい何かが速攻でこっちに向かってるし。既に恐怖を感じるバロメーターは壊れたのか、落ち着いてバイフーに尋ねた。
「なあ?困ってるのはコレ?」
え?いない??
バイフーさん頼んでおいて、まさかの逃亡なの?ちょっと卑怯じゃないか!!
と、思ったら。
「この方がこの湖の主人なのです。でも近頃様子がオカシクて。」
えーー!!
既に、背中に乗船中なの?
あまりの早技に驚いていたら、突然大きな鳴き声が響き渡った。
「クォゥーーーー」
目の前の生き物からだった。
その悲しそうなその鳴き声は、地震かと思うほどなのに何故か耳が痛くない。不思議に思って周りを見てギョッとする。
何故なら「ごめんなさい。時間を止めました。」そう、時間が止まったみたいになって…え?
ええーーー!!!
「そうです。貴方の目の前の生き物です。時間を止めたのは私です。」
思わず味方のレナトゥスに触れるけど反応がない。すると…。
「無駄な事です。私の唯一の魔法に逆らえるモノはいませんから。」
困った事になったと不安になるはずなのに。
何故平気なんだろう、俺。
そうか!この声があまりにも悲しげだからだ。敵愾心が全く感じられなくからだ。
「さすがですね。どうか私の悩みを聞いて下さい。」
真剣な瞳に嘘はダメだ。俺は頷いて…「もちろん聞くよ。でも、役に立たないかもしれないよ?それでも相談相手になる?」と。
「もちろんです。私は…」
そこからの話は長すぎるから割愛すると。
ー彼女はこの湖を治めるモノだった。だがある日突然、身体が変形した。理由も分からず困っていると。
ええーー!!
そんな重大問題の相談相手に、何故俺を選んだ?!いくら社畜戦士とは言え、そんな難しい問題をかいけ…。
あれ?
目の前の生き物にバイフー以外の生き物が見える。凄くちっさいけど。
うーん…猿についてるノミサイズ。でも悪どい顔してるなぁ。
「ちょっと近寄ってもいいですか?気になるモノみつけて。まぁ相談内容とは関係ないとは思いますけど…」
そう言うと固まるバイフーの側によじ登ってその生き物に近づいた。うーん。どうも苦手なあの虫に似てるなぁ。よーし、一気にやるかぁ。ソレッ!!
ドドドン。。。
地響きに似た音は、大揺れの湖の主の大暴れが原因だと分かるけど回転する自分の身体をどうにか出来る程体育の成績は良くないし。
このまま放り出さられたら。。
考えただけでも、ヤバいけど時が止まってる今頼れるモノもいない。
ほんの一瞬でそんな事を考えるなんて、やっぱりかなり悲惨な結果が…と思いつつもそのままブラックアウトした。今度こそ、恵みの逃亡だ、そんな風に思った気がする。
風が顔を何度も撫でる。
暴風でも吹いてるのか?それともまた、扇風機をかけっぱなししちゃったかな?
必死の思いで目をこじ開けた俺の目の前には、恋人達のイチャイチャが目に入った。
なに?
天国って、やっぱり恋愛成就の場所?もうすぐ魔法使いになる俺にもやっとチャンスが…。
ん?あの男の方、見た気がする。天国にも知り合いとかいるのか?
あれ?向こうに見える湖って…もしかして。そこまでぶつぶつと考えてる俺の前に恋人繋ぎして二人が近づいてきた。
「ありがとうございます。お陰様で元の姿に戻りました。見事な技を披露して頂き、さすがはゆう…」「コホン。主人よ、そろそろ森から帰ろうか。」
あれ?ダンマリのレナトゥスの奴、もう反抗期は終わったのかよ。ま、いいか。こんな綺麗な湖があるのも分かったしまた遊びに来れば…そんな風に考えていると。
「背中に乗って呟いてる所悪いが、もう着いたぞ。改めて礼には来るが今日はもう彼女の元に帰るから。」
おや?虎科の獣にまたもや変身して乗せて貰って我が家へ到着!!は、いいけどその間の俺の記憶ってばどこいった?
はぁ…こんな年からこれじゃなぁ。
「おい、もう相手は帰ったぞ。それよりも昼飯にしよう。バイフーから貰った特別な果物があるぞ?」
ええーー!!果物…またもそんな贅沢な品が食べれるのか?!
しかも、まさかの巨峰なのか?3年に一度だけ誕生日に食べる俺の好物の…。
「旨っ。マジもんの巨峰じゃん。めっちゃ嬉しい。あの森大好きだぁーー!」
俺の叫びが広すぎるリビングにこだまする。
その叫びを聞きつけて、何処ぞに出掛けてたペットが帰って来た。
「ご主人様ぁぁぁぁ。置いてけぼりはやめて下さい!!今度は必ず連れて行って下さいね?」
必死のヒーちゃんは、可愛いなぁ。ペット飼って良かったよ。
でも、羽から火を吹くのはやめなさい。お風呂沸かす時だけにしてね。
***
「やはり我が主人は、尋常じゃない…」
そんな吾の独り言は誰の耳にも入らない。
当然だな。時が止まってるんだから。
主人は誤解したが、吾は主人の眷属となったのだ。湖の主程度の縛りなど容易に抜け出すわ。
しかし…本当の誤算だったのは主人だ。
特別な目を持ってるのは知っていたが、まさか裸眼でアレが見えるとは…。尋常じゃない力だ。恐らくその力こそが英雄としての力の源かもしれぬな。
その上、振り落とされる瞬間に記憶が甦ったのかと慌てた。
無表情の主人が身体を回転させて着陸と同時にあの『魔の虫』を仕留めたのには。素早さと決して見つからぬ事から世界を絶望に追いやったのに、主人にかかれば呆気なく一瞬。
もしやと、固まる吾を他所にそのまま意識を失った主人を変化して受け止めた。
ふにゃりと笑った寝顔を見た吾はそっと主人を抱き上げて。
こんな顔、アイツは知らぬだろうとそんな埒もない事を考えながら再び姿を戻した。