前世の記憶ーキリ視点ー
何故こうなった……。
呼ばれたのは彼だけじゃない。
俺だって…
でも、あるべきはずのチート能力が俺には無いのだ。
だから…。
まだ幼少期に前世を思い出した。だから周囲には天才児として扱われた。もちろん俺自身も期待していたんだ。必ずチート能力があるはずだと。
それが淡く崩れ去ったのは中年生になった頃だ。(12歳から16歳まで通う職業訓練所の様な場所だ)
ショックはデカかった。それは周囲も同じで。悔しかった俺は血の滲む努力をして騎士団へと進んだ。
その頃には努力の甲斐があり周囲からの期待を再び得ていた…だが俺の心は既に冷めていた。
何故なら本物の転移者がこの世界にやってきたからだ。明らかにチート能力を持って。
だからこそ、外側から観察する事にしたのだ。
前世の記憶を持って生まれついた俺と、魔術によって日本から呼ばれた彼。
何が違うのか、何故彼だけが選ばれたのか?
知りたくて更なる努力を重ねて彼の近くへと。
『フリド隊長の部下となる事』
それは紛れもなくこの世界最高の部隊への入隊を意味する。騎士として最高の名誉だ。
なんとしても…。
しかし、俺のような普通の体格の男が(貴族でもない)騎士になるのは並大抵の努力では無理だ。
そもそも生き残れない(スーパー最前線の連続なのだ)
魔獣を倒す前にやられる訳にはいかない。無茶苦茶努力した。まぁ前世の記憶を利用して鍛えなければここまで来れないけどな。
やがてソレが叶う日が来る。
クミン国のフリド隊長の元で騎士になったのだ。
しかしここから大きく本道から外れる事になる。
大きく目算を誤った原因は一つ。
彼(フリド隊長)は魅力的過ぎたのだ。鍛え抜かれた身体能力に類稀な魔力。その上怠らない努力で積み上げた作戦能力は、騎士団に犠牲者を出さずに済むという奇跡を齎した。
人々はこう噂した。
彼こそこの世界を救うモノではないか?と。
心酔した。こんな感覚は今世・前世のどれにもない。彼の為ならば命を賭けられる。
そう思うのは、俺だけじゃない。当然団員全てがその覚悟なのだ。
そこへ彼が加わった。
そしてフリド隊長の信頼の全ては、彼が攫う事になる。
彼が日本人だとすぐにわかった。日本名は使ってないが、俺の生きていた日本から来たと。
平和な日本から来た彼にとり、生き物が次々と魔獣へと変化するこの世界の戦いは過酷だった。彼の様子は大きく変化するも、彼の持つ能力は格別だった。
チートとはこの様に凄まじいのか、と。
まるで我々の努力が無駄の一言で済まされる。そんな絶望感さえ伴う程の圧倒的なチカラの行使に言葉も失われる。苦々しい思いが自分の中を駆け巡りだした頃だった。
そうアレは…『一斉征伐』が終わりに近づいた頃に感じ始めた違和感。
彼の横顔にもソレが見える。
違和感そのものだ。
もしかして…。
『精神攻撃魔法』と言うこの世界には、無いとされている魔力が存在してるのではないか?
支配・服従・洗脳。
彼の背後に見えたそんな魔力の色に一番驚いたのは俺。何故見える?
気づいたのだ。
俺にも、チート能力があると。
俺のチート能力は『精神攻撃魔法』だった。まさに精神攻撃魔法が見える稀有な存在だったのだ。
その上、その威力を全く受けない存在だと知った衝撃。その上。
そしてたった一つ持つ魔力『記憶の操作』。
これの意味を今ならわかる。
何故チート能力が存在したかを。
彼への攻撃は何処から来るのか。
ぼんやりする方向性を導き出せば、なんと驚く事に味方からだったのだ。
五カ国が集うこの世界を救う戦いに、裏切り者がいる。衝撃的事実に背筋が寒くなる。
もし…あの圧倒的な転移者がその力を支配されたら。結論は一つだった。
戦いは間もなく終わる。
その前に彼に『記憶の操作』によって支配下から解き放たれなければ。
と。
思っていたのに。
彼は消えた。
しかも…恐らく記憶の操作を自ら行なって。
そんな魔力は持ってなかったのに、どうやってかその力を得た彼は、王になるその日。
消えたのだ。
何となくホッとした俺を襲った次の波はフリド隊長だった。
捜索隊の隊長として指揮する彼もまた、犠牲者になりかけていたのだ。
だから。
奪うしかなかった。
そしたら…単なる村人になっていた。
そして、あんなにも探していた『リベル様』のところで鍛冶屋の真似事をしていた。
レナトゥスという名のオカシナ男に見張られながらウキウキと仕事をしていた。
そして、今。
「おい、キリ。そこの箸の仕上げをしてくれ!」「分かりました…親方。」
前世の記憶がばっちり生きる箸作りの名人としてラス(フリド隊長)の下で働いている。
記憶の操作を失敗したかのか?
それとも、何か別の事情が発生したのか。
隊長は、徐々に記憶を取り戻しつつあった。
戻った隊長に、俺は何をすれば良いのだろうか。。
***
「この箸は、家に飾ればあらゆる災いから守ってくれるよ!いらんかね」
行商人のいく先々には、箸を求める人の行列があった。




