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領主の忘れてられない1日…。



「ここか?」


「領主様、そうです。この中に領主様を侮辱した奴がいるんです。俺たちゃそれを注意しただけでこんな有り様でさ。」


身体中を包帯でぐるぐる巻にした男たちは、情け無い声を出して訴えた。それを見ていた親方がずいっと進み出る。


「御恩情のある領主様に向かっての悪口雑言。それを私の部下達はゆるせなかった。それだけなのにこの有り様です。私は部下達にいつも感謝と共に暮らすようにと言ってあります。それをこんな風に後悔する日が来るなんて。」


泣き咽ぶ老年の男が哀れになる。

我が領内でこんな事が起こるのは全て私の力不足と言うべきだな。


しかし…。

この壊れかけの家に本当に人が住んでいるのか?屋根は傾き壁の中に木の枝がめり込んでいるとは。。なるほど。分かっだぞ。

この貧しさ故の暴力行為なのだな。


チラッと振り返れば怪我した男達が腕や足をさすっている。痛むのか…。


目の端で,我が私兵に目配せをするとドアを開けて雪崩れ込む。

「我が君。制圧は終了しました。どうぞお入り下さい。」私兵長の言葉に鷹揚に頷くと中へと入る。壊れかけの家からは人の生活の匂いがしていた。本当に暮らしていたのか…。


そして、目の前に地べたに這いつくばっている子供を発見した。具合が悪いのか?と心配していれば突然、そのままの形の少年が叫びだしたのだ。


「すみませんでした。税金はちゃんと払いますから、許して下さい!!」


ゼイキンとは何だ?乱暴ではなく何故ゼイキンを詫びるのだ?!

疑問が頭に渦巻いていたら、後方からの声に振り返る。怪我人が半泣きてこちらを見て叫んでいた。「ソ、ソ、ソイツです!!めっちゃ突然強くなるから気をつけて下さい。」必死の形相で、だ。


そうだ。思い返せばあの叫びこそが始まりだったと。アレが始まりだったのだ。我が生涯で決して忘れられぬ1日の…。


後方から急に沸き上がった殺気に私兵団全員が構えたのと、私が身構えたのは同時だった。


そして、今地べたに這いつくばっていたはずの子供がゆらゆらと立ち上がっていた。


この子だ…この息も出来ないほどの殺気を放っているのは間違いなく彼だ。

その目をうっかり見たせいか、全身に瘧のような震えが走る。何と言う目なのだろか。

この子はいったい…。


「ククク…愚かな。復讐するつもりならばお前たちは共に来るべきではなかったな。それが俺を再び目覚めさせたのだ。」


威圧だった。

浴びた怪我人達は腰が抜けた状態で泡を吹いて倒れていた。

こんな場所で威圧を操れる魔法使いに出会うとは。威圧を扱う魔法使いなどこの世界で数えるほどしか…まさか。。


「ほう。お前の勘は中々だな。しかしひとを見る目がない。いいか、生き延びたければ、我が君の御名を決して口にせぬように、な。」


そう言って子供の後ろに突如現れた男が、マトモでない事は私兵長にも分かったようで即座に全員に後退する様に指示を飛ばしていた。


私兵長よ、アレ相手ではそんな後退など無駄な事だ。恐らく…な。


「領主様?何故です?あんな子供の目眩しに後退を命ずるなどと。この家の老夫婦が払うべきモノを払わずに…ヒッ!」

まだ失神してなかったのか…。


《レナトゥス。》


それは空気が凍る。そんな瞬間だった。

あの後ろに立っていた迫力のある男が消えた。そして子供の手には一つの剣が握られていた。


ここまで来れば、分かる。

彼の正体も子供の名も…。


「全員下がれ。そこらのモノ達も一応助けてやれ。余罪の追求をせねばなるまいのでな。」


息をするのも苦しくとも腐ってもこの地を治めるもの。その振る舞いを見て彼は威圧を緩めた。その隙に渋々私兵長が撤退を命ずる。


この部屋には彼と私だけとなった。。


「ほう。久しぶりに我が威圧に抗える人間を見たな。では問おう。

主が犯した罪は何だ?」


「非常に慙愧に耐えませんが、どうやら幾つモノ罪を犯したようです。一つ目には、馬鹿者達に騙された事。二つ目に彼らによって苦しんでいるモノ達に気づけない事。三つ目は彼らに簡単に加担した事。大きくみればですが…」


威圧に耐えつつの回答は…考えが纏まりにくいが今の私に思いつくモノはそのくらいで。


「それは当たってはいるが、俺の意図するモノと違うな。お主は為政者だ。だとすれば一方方向での声しか聞こえない事こそ最大の罪。為政者は兎角、小さな声ほど聞き取れない。『聞く耳』それが最も重要だ。」


静かな声だった。威圧もほとんど無くなっていた。しかし…。


胸の奥に一番堪えた言葉だった。


「コレをやろう。役に立つだろう。」


一瞬で間を詰めた彼の差し出したモノを震える手で受け取った。


『真実の魔石』


それを持つ人間の前では誰もが嘘をつけぬ。と言われる伝説の魔石。

実在するとは。

しかもこんな一地方の領主如きに…。


視線を彼へと戻した私は再び驚く事になる。



「え?え?

領主様だけしか居ないけど、伝統の技『土下座』は上手くいったのかな?」


コレはいったい…、


「我が主人についてはこれ以上考察するな。そして、それを預けた意味を違えれば吾が許さぬ。本当の意味に気づけよ。」


「レナトゥス。領主様に無礼だぞ!!それより税金を。」「この件については追って沙汰を言い渡す。少年よ。悪いようにはしないしないから安心するが良い。」



城に戻って彼奴らと向かい合えばギャアギャアと騒いでいた。

何と言う愚かな。いや、最も愚かなのは我か。


「コレを見てもう一度言え」


「そうですとも。ご領主様をダシにしてあの辺の奴らから大金を巻き上げ金のない彼奴は追い出しました。この街を実質治めているのはワシですからな。ボンクラ領主ではありませんや!!」


魔石の力で言い放った奴は、そのまま崩れ落ちた。口の中で何度も「何故だ…」とつぶやきながら。


「全員を牢屋にぶち込んでおけ。後で詳しく全ての罪を洗い出さねばならぬからな。」


私兵が引き立てる奴らは、ぐったりとしてようやく大人くしなっていた。


ここからだな。

本当の意味を問われるのは…。


次こそ間違わないようにせねば。


為政者が何であるのかを。。



***


「な、レナトゥス。俺の技めっちゃ凄かったろ?やっぱり伝統ってすげーな。」

笑顔こそが、我が主人には似合っている。


そう、心から思う。





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