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伝説の始まり?!



「ほら、無理だと言っただろ。諦めろ。」


その言葉を聞いた瞬間、少年は父親らしき男性に向かって怒りを露わにした。


「そ、そんな事言われなくても分かってる!!でも、でも諦めたらこの畑は全てオジャンだ。そうなったら…」


半泣きの少年が唇を噛みしめて俯いていると、父親が頭をガシガシと撫でた。


「大丈夫だ。俺がムコウデの街まで出稼ぎに行けばこの冬は凌げる。王家といえどこの日照りの我らにこれ以上の税は課すまい。」


「そんなの、そんなの絶対に嫌だ!!ムコウデの仕事って鉱山だろ?あの山は毒ガスが出るから危険で入山者の半分は生きて戻れないって。父さんがそんな目にあうのが大丈夫なわけないじゃないか!!」


溢れ出す少年の涙は既に滂沱の涙となっていても止まる気配もない。父親は頭を撫でながら苦笑して慰める声で「父さんの強さを知っているだろ?そんなモノくらいじゃビクともしないさ。」


実際、父親の体格は村一番であり数年前は大討伐に参加を許される程の腕前でもあったのだ。


「なぁサグや。それよりも留守を頼むぞ。母さんや小さい弟妹の面倒をお前に託したいのだよ。」


その言葉は余計に少年の涙腺を刺激した様だった。無理もない。彼は恐らく12才前後だろう。成人まであと3年もあるのだ。父親の覚悟が伝わるだけに悲しみが胸を押し潰す。


だが、目の前の枯れ果てた畑の作物が生き返るはずもない。例え奇跡的に雨に恵まれようともそれは不可能だろう。

この日照りは世界的なモノなのだと父親は言った。だとすれば、この世界はどうなるのだろうか?

せっかく英雄とその仲間たちが大討伐に成功したというのに。そんな沈んだ心持ちの少年の耳に父親の慌てた声が響いた。


「まさか、信じられない。これは現実的なのか?そんな事が起こるなんて…」


あまりの慌て具合に何を言ってるのか理解できない内容に驚きながら目を上げれば。


見えてきたのは、まさかのチク様?! 

伝説の話ではいつも聞いていたチク様の奇跡の雨の話。それが今、現実となっているのだ。


[緑色の羽の生えた生物が、空を飛ぶ時地上に甘露が降り注ぐ。其は雨の主人、チク様なり。甘露が地表に届く時、枯れ果てた植物が一斉に花を咲かせ木々が実を結ぶ。]


伝説は真実だったのだ。


豊作の喜びに涙し抱き合う親子の姿は、この村に留まらなかった。日照りに悩む世界全体が安堵の涙を流した日になったのだ。

それは、世界中に突如現れたチク様が降らせた甘露が日照りに悩む人々に世紀の大豊作を齎したのだから。



「リベル様。姿は隠せど御威光は隠せませんな。」そう呟く壮年の男は、城の窓から治める大地が緑色に染まるのを眺めながら薄らと笑った。



***


「ねえ、レナトゥス。何で風呂が上がりに一斉に羽カエルに戻って飛んで行ったの?しかも、全員でさ。ちょっと『お邪魔しました』の挨拶くらいあっても良いような気がするけど。」


俺が口を尖らせて文句を言うとレナトゥスが呆れた声で答えた。


「まさか本気で言っておるのか?先程まで風呂がないなどと文句ダラダラであったが。」


カッと顔が赤くなる。

覚えはあるが、怒涛の展開に文句も出ると言うモノだ。するとレナトゥスが恐ろしい事を言う。


「まさかと思うが、奴らが全員戻って来ないなどと思ってやしないな?」


「へっ?」


空を見上げて絶句する。

南の空から帰ってきたのは、V字編隊飛行の羽カエルたちで。


早とちりで真っ赤になってる俺の目の前に次々と着地してゆく。


あれ?

まさかの土産品かい?


「主人よ、アレは貢物と言うべきなのだが、聞いてないのでは仕方ない。全く…。主人の食欲に対する意気込みがあれば世界征服出来そうだな。」


レナトゥスのやつ相変わらずぶつぶつ言ってるな。でもさ!!

目の前にフルーツ山積みとか、ぶっちゃけ嬉しすぎるけど、贅沢を言えば米と大豆の苗も欲しかったけど…。


あ!!


アレは!!!


「もしかして、麦の穂かも…」


一匹の羽カエルが身体につけていたのを拾った俺はめっちゃテンションが上がった。

よーし。取り敢えず小麦粉からチャレンジするぞぉー!!


そう言って家の裏に植えたのは昨日の出来事。


で、今日。


何で麦畑出現してるんだよぉーーー!!

しかも既に収穫可能とかやり過ぎ感満載だよね?


はぁ…ホント叫んでばっかりで、この世界って喉が疲れるよなぁ。 


でも、小麦粉があれば料理の幅が広がる。

目指せお好み焼き!!


だな。




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