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第九話 女神と出会ってパワーもらったぜ

~~~ 都内の高級料亭 ~~~~~~~~~~~~~~~~


オレは、女将の後を付き、ある料亭の中を歩く。


女将「失礼いたします。

   千葉様、お連れが参りました。」

千葉「どうぞ。」


障子が開くと、座敷の中に2人の人物が対談である様子が見える。

一人は資産家の千葉氏。もう一人は、女性が座っている。


一歩、敷居をまたぐと、障子が閉じられた。

なんとも異様な光景だ。

いい雰囲気だったのをオレがぶち壊してしまった。


女性「初めまして、神楽芸能の社長をしております大盛(おおもり)と申します。」


あれ!

拍子抜けだ。

高圧的に来るかと思いきや、

やわらかい口調で下手に出て来たではないか。

いや、騙されないぞ。

千葉氏の前だ。仮面を被っている可能性が高い。


オレは立ったままだ。大盛を見下ろしている。

ではれば、こちらもそれ相応に対応しようではないか。


オレは、腰を下ろし正座をして、大森と同じ目線になる。

胸ポケットから名刺を取り出す。

それを見て、大盛もバッグから名刺を出す。


ジュン「プロダクションTESの社長代行をしております。

    田中と申します。」

大盛 「神楽芸能の大盛です。」


お互い名刺交換をする。


ジュン「お取込み中に割り込んでしまい。失礼しました。」

千葉 「気にしなくていいよ。呼んだのは僕ですから。」

大盛 「こちらの社長さんも、お呼びしてたのですね。」


大盛 「なるほど。

    こちらの目的を理解されてるということですね。」

ジュン「もちろん。ここへ来たのは、それを阻止するためです。」


大盛 「千葉さん。両者を競い合わせようということですか?」

千葉 「神楽さんが、僕から株を譲渡したいと言うから。

    なら、両方の意見を聞きたいと思ったので呼んだんまでです。」


大盛 「高い金額を提示した方へ譲渡するということでしょうか?」

ジュン「失礼ですが、千葉さんを誤解されてるようです。

    うちの株なんてたかがしれている。

    2倍で売ったところで、

    千葉さんからしてみれば大した額ではありません。」


大盛 「なら、私達を引き合わせて何をさせたいのかしら。」

千葉 「すまない。

    喧嘩させるために両者を呼んだのではありません。

    大盛さんが、株を購入したらTESをどうする気なのか真意を聞きたいんです。

    それに対して、田中さんの意見も聞きたく呼んだ次第です。」


ジュン「どうなのです?」


・・・


ジュン「私が答えましょう。

    神楽が株を手に入れたら、吸収合併をして国内最大の芸能事務所が誕生する。

    と千葉さんは伺ってませんか?」

千葉 「はい、そう聞いてますが。」


ジュン「だが、それは表向きで、真の目的は『RSテクノロジー』が欲しいだけ。

    なので、組織配置の見直しという名目で、吸収合併後に

    RSテクノロジーと売れてるアーティストと芸人を残して

    事務所を潰す気なんです。

    売れない俳優や歌手、芸人はお荷物ですからね。

    となるとマネージャーも必然的に余ることになるので不要になる。

    と考えてませんか?」


大盛 「えぇ。おしゃる通りよ。

    それのどこが悪いのかしら。

    業務を整理できるチャンスなのよ。

    業績が上がっているのならともかく。

    このまま放置したらどのみち潰れるのは時間の問題じゃない。

    お荷物を排除するのは難しいでしょ。

    だったら神楽が悪もになってあげるって言ってるの。

    お互いにWinWinだと思いません?」


ジュン「あなたの言っていることは正しい。

    業績が下がっていて、問題を塞ぐのは

    トップに立つ立場として不適格だ。

    下手をすると事務所を潰すことになりますからね。」


大盛 「あら。話がわかるじゃない。

    次の取締役会で神楽との合併を議題に挙げるので、

    賛同していただけるのであれば、

    千葉さんの株を購入しなくてもいいのですが。」

ジュン「それは何もしなければの話だ。

    うちは、次の戦略として世界進出を目指す。

    手始めとしてアジアから進めようと考えている。」


大盛 「TESさんは、既にアジアでコンサートやらイベントをして

    ことごとく失敗してるじゃないですか。

    自ら首を絞める気かしら。

    アジアは基本採算が取れないわ。

    集客力はあるけど、単価が低い分、どうやっても黒字にできない。

    やればやるほど赤字よ。

    アメリカ、欧州なら人を集められれば黒字にはできるけど。

    日本の音楽、芸能には現状見向きもされてない。

    海外進出なんて夢物語ね。」

ジュン「説明ありがとう。

    体力のないところがアジアに手を出てはならない。

    これは業界の定石だ。

    だが、それは日本から進出した場合の話だ。」


千葉 「現地に事務所を作る気か。」

ジュン「流石です。日本人ではなく、現地の人を使って、

    アイドル、アーティスト、芸人を育てる。

    彼らを使って日本企業相手に商売をするという戦略です。」


大盛 「どういうこと。意味が分からないわ。」

千葉 「例えば、インドネシアとかだと、グリコ、日清食品、ホンダ、トヨタ

    などの日系企業が既に進出している。

    その日本企業相手にCMやテレビ番組の司会に起用してもらう

    ビジネスモデルのようだ。

    芸能事務所が日系なのだから、交渉し易く、仕事がスムーズに進む

    という利点があると考えているのでしょう。

    なるほど。すばらしいアイデアだ。」


ジュン「推測通りです。

    まづは、フィリピン、タイ、インドネシア、マレーシアあたりから

    取り掛かろうと考えてます。」

千葉 「大盛さん、申し訳ないが株は譲渡できない。

    これはお金の問題ではない。

    面白ことを始めようとしてるんです。

    成功するか否か、行く末を見たいじゃないですか。

    それが、株を譲渡できない理由です。」


大盛 「成功するとはとても思えませんが、

    私も結果がどうなるか興味はあるわ。

    田中さんは敏腕ね。」

ジュン「はぁ。」


この女、賛同してくれたってことだよね?


大盛 「事務所の信頼も1日で回復させたし。

    田中さんを尊敬しますわ。

    私の本心です。

    それに比べ、私がやろうとしていたことが恥ずかしい。

    今日は私の惨敗です。

    失礼させていただきます。」


神楽の社長は、帰ってしまった。


千葉 「田中さんは素晴らしい。」

ジュン「そうですか。普通だと思いますが。」


千葉 「やはり、前田さんがお勧めする人には間違いないな。」

ジュン「それは過大評価だと思います。」


千葉 「大盛さんも田中さんを認めてると思います。」

ジュン「ああ言ってましたが、心ではどう思っているか分からなですよ。」


この後、すぐにでも帰りたかったのだが、

手を付けてない料理を見て、もったいないと思い。

千葉氏と世間話をしながら会食した。


聞くところによると、千葉氏は不動産、株を扱う投資家で

師匠が前田だという。

おそらく、前田は千葉氏のことを弟子とは思ってないだろう。

千葉氏は、前田を尊敬というか神のような扱いをしていた。

会食で、そんな話が聞けて楽しかった。


意外と、他の株主も前田を崇拝しているのかも知れない。

素性の知れないオレが、前田の一声ですんなり社長代行に

成れたのが説明がつく。


そして、イメージが変わったのが神楽の社長、大盛だ。

イメージが変わったというか、勝手に悪人と誤解していたふしがある。

会話して感じたのだが、もしかしたら良い人なのかも知れないと感じた。


少なくとも、あの場で敵対しているオレに対して

『田中さんを尊敬します。』だなんて

思ったとしてもまづ口には出さないだろう。

少し彼女の事が興味出て来た。


~~~~ アーカイブ出版本社 ~~~~~~~~~~~~~~

オレは久しぶりにアカネのマネージャーに乗り換えた。

ついに人の替えが尽き、やむおえずこの身体を引っ張り出したのである。


本当は社長として来たかったのだが、マスコミの目があるのと、

アーカイブ側の出方が想像がつかない。

そして、問題の社長も辞任を表明したが、まだ健在だ。

引継ぎ期間の2週間は社長として業務を遂行するらしい。


だからオレは第三者を装ってここへ来たのだ。


受付では、プロダクションTESのコンサルをしている者だと言って通してもらった。

1人会議室で待つと、社長と重役2人が登場した。


ジュン「初めましてコンサルティングをしております竹内です。」

社長 「こちらこそ、代表取締役の岸部です。

    プロダクションTESさんの経営コンサルティングをなされていると

    伺いましたが、付き合いは長いのですか?」


ジュン「いえ、最近です。

    ここ2年で業績が落ちてきたところに、例の写真週刊誌の

    追い風にあおられて酷い状況になりまして、指名された次第です。」

社長 「その節は大変ご迷惑をお掛けしました。

    そちらの芸能事務所へは近いうちに正式に謝罪に伺う所存でおります。」


3人は頭を下げる。


ジュン「頭をお上げください。この件に関し、御社も大変な状況かと。

    TESさんも大変気にされてまして。

    御社の状況をなんとか改善させてあげたいと申しておりました。」

社長 「それは大変ありがたいお言葉ですが、本当なのでしょうか。

    TES様には大変失礼なことを致しましたが。」


ジュン「TES側は、名誉が回復できてばよかっただけで、

    御社を潰そうとはまったく考えておりません。

    むしろ、御社がこのような状況となり、心配されております。」

社長 「それが本当ならば、少しは気が晴れます。」


ジュン「今日はですね。

    アーカイブさんとTESがお互いWinWinな関係となるよう、

    良いお知らせを持って参りました。

    2点あります。


    1つ目は、現状に向けてです。

    アーカイブさんの通常業務への回復を目指すべく、

    アーカイブさんとTESの合同記者会見を開きたいと考えています。

    アーカイブさんがTESに対して直接謝罪し、TESがそれを承諾する。

    具体には、責任の明確化と再発防止対策、あとは被害者への謝罪をしてもらいます。

    TES側は、当事者の社長とアンナさんに来ていただき、

    アーカイブさんの話しを聞いて納得していただく。

    これを生中継すれば、世論は理解して頂けると信じてます。」

社長 「そんな簡単にうまくいくでしょうか?」

ジュン「わかりません。ですが、当事者が和解すれば世論は騒がなくなるかと。

    そして、信頼回復の第一弾として、

    ユイの写真集をアーカイブさんから出版していただこうかと。」


社長 「よろしいのですか?

    どの出版社の申し出を、全て断っていると聞いてますが。」

ジュン「はい、アーカイブさんの信頼回復のためにと、ユイも承諾していただきました。」


説得するのが、大変だったよ。

あの分からずや。

オレに貸しがあってよかった。

それを引き合いに出したら渋々OKしてくれたのだから。


社長 「写真集がだせるのなら、かなり話題になると思います。」

ジュン「逆に業務停止してたらダメでしょという風潮につながる可能性があるかと。」


ジュン「2つ目は、未来に向けてと題して、

    御社と業務提携したいと考えてます。

    TESは来期から本格的にアジア進出を進めてます。

    だが、弱小であるがゆえ、実現が難しい状況下にあります。

    そこでアーカイブさんにパートナーになっていただきたい。」

社長 「スポンサーになれということですね。

    進出とは具体的にはどのような事業を考えているのでしょうか?」


ジュン「インドネシア、マレーシア、タイ、フィリピンに

    芸能事務所を設立します。

    現地住民を育成、または発掘して、そのタレントを日経企業の

    CMやスポンサーのテレビ番組に起用していただくビジネスです。」

社長 「先ほどWinWinな関係と言いましたが、

    この海外事業に、弊社にはどのようなメリットがあるのでしょうか?」


ジュン「アーカイブさんは、出版物の独占ならびに

    日経企業の仲介役となっていただきたい。

    現地に事務所を作っても、

    うちの事務所では相手にしていただけない。」

社長 「確かに、弊社なら仲介役になれるかもしれません。

    既に国内では太いパイプがありますから。」


社長 「TESさんの考えは理解しました。

    この件は役員会議に議題を提出して前向きに進めたいと思います。

    その前に、まづ我々がやらなければならないことは

    1日も早く信頼を回復することです。

    こちらからお願いするのは筋違いですが、

    1つ目の件、話を進めていただけないでしょうか?

    私でよろしければ頭なら何度でも下げます。

    ケジメとして、私が退職するまでに記者会見を実現させていただきたい。

    TESさんのところには一度、謝罪に伺いたいのですが。」


クソだと思っていたが、やはり大企業の社長だな。

今回は、会社のために自分を犠牲にしょうというのが伝わってくる。

ならばこちらも誠意をみせようではないか。


ジュン「マスコミがどのような記事を出すか分かりません。

    ですのでTESのところへ出向くのは控えてください。

    これ以上アーカイブさんの信頼が下がるとまずいので。

    会見は1日でも早い方がいい。急速に進めます。

    水面下でTESと打ち合わせしょう。」

社長 「ありがとうございます。竹内さんにお任せします。

    弊社の方は、責任の明確化と再発防止対策をまとめておきます。」

ジュン「お願いします。ではこれには失礼させていただきます。」


想像以上に話しが進んだ。

こういうときは、ちゃんと会話できるじゃん。


~~~ とあるCAFE ~~~~~~~~~~~~~~~~

オレは、アーカイブ社を出たあと、

とあるオープンテラスのカフェへ来ている。


注目する一人の女性が、ウエイトレスを呼んでいる仕草をしている。

彼女は、神楽芸能の社長こと大盛だ。

諜報員からの報告で、週に3回はここへ来るとの情報を聞いていた。

先ほど、確認したところ、この店に向かっていると聞いて、

オレも駆け付けたという訳だ。


大盛 「カフェラテのアイスを1つ。」

ジュン「同じものをもう一つ。」


オレは、彼女の前に現れ、

注文をしてから、許可をとらず相席に座る。

ウエイトレスは、注文を聞き返すことなく

カウンターへと戻って行った。


大盛 「どちら様からしら。」

ジュン「初めまして、フリーのカメラマンをしている者です。」


大盛 「私にどのような要件でしょうか?

    場合によっては警察を呼びますよ。」


彼女は携帯を手にする。


ジュン「そんなに警戒なさらないでください。

    あなたにとって。

    いや、神楽にとって耳よりな話を持ってきました。」


大盛 「カメラマンは嘘よね。何者なの?」

ジュン「まぁ、見れば分かりますよね。

    何も機材を持ってないですから。」


ジュン「改めまして、経営コンサルティングをしている竹内と申します。」

大盛 「あら、私を騙しに来たのかしら。

    そう言うのは間に合ってますけど。」

ジュン「そうですか。残念です。

    プロダクションTESとの業務提携なのですが。」


目的は、単にこの女と会話してみたかっただけだ。

拒否するのであればもういい。

オレは立ちあがる。


大盛 「お待ちください。

    失礼いたしました。

    興味があります。

    話しを聞かせてください。」


やべぇ。悔し紛れに適当なことを言ってしまった。

どうしよう。


ジュン「では、本題に入る前に何点か質問があります。」

大盛 「答えられる範囲であれば、お答えします。」


ジュン「プロダクションTESを買収しようとしてますが、

    RSテクノロジー社が欲しいだけなんですよね。」

大盛 「コンサートや舞台セットでTESさんのハイテク技術が欲しいからよ。

    国内だけでなく、世界で戦えると思った。」


ジュン「そぼくな疑問なのですが、

    神楽さんなら簡単にパクれるのでは?」

大盛 「もちろん似たようなことはできるわ。

    でも堂々と使ったら、見に来たお客さんは比較するでしょ。

    TESさんと比べて演出が品祖なら、神楽のブランド力は下がる。

    上回ってるならTESさんをパクったと広められイメージが悪くなる。」

ジュン「なるほと、事務所が大きいがゆえの悩みですか。」


ジュン「なら業務提携するか、TESへ発注すればよかったのでは?」

大盛 「今となってはそうなのかも知れないわ。

    うちのバカ副社長が、血迷って、

    お金でヘッドハンティングできると思ったのが始まりよ。」


ジュン「RSテクノロジーの社員はお金では動かなかったと。」

大盛 「そうね。」


ジュン「そして、副社長が次にとった行動がTESとの業務提携。

    だが話しすら聞いてもらえず払いのけられた。」

大盛 「そりゃそうよね。

    謝罪もなしに、のこのこ来たら私でも激怒しますもの。」


ジュン「上から目線で、高圧的だったと伺ってますが。」

大盛 「大変失礼なことをしたと思ってるわ。

    だから私が仕切るようにしたのよ。」


ジュン「瞑想していた所に、

    事務所の不祥事で株価が下がったところに目を付け、

    会社ごと買っちまえばいいじゃん。という発想に至った。」

大盛 「まぁ、ざっくり、そんなところね。

    間違ってはないわ。」

ジュン「へぇ、意外と素直ですね。」


大盛 「信じてもらえないかも知れないけど、

    株を買ったのはTESさんを助けたいという気持ちもあったのよ。」


大盛 「TESの社長さんはやり手よね。

    数日で世間のイメージをひっくり返したのですもの。

    そして、海外に目を向けている。」


ジュン「神楽さんだって海外へ進出しようと頑張っていませんでしたっけ。」

大盛 「アニソンを中心にアニメイベントをカナダ、ブラジル、フランスで

    毎年実施しています。

    幸いなことに年々イメベントの規模が大きくなって来てまして、

    アメリカ、イギリス、ドイツ、オーストラリアなどにも

    広げたいとは考えおります。」


そうか、神楽は既に海外でのイベントを成功させてたんだな。


ジュン「今、思いつたのですが。」


ジュン「TESはこれから本格的に海外進出を考えています。

    神楽さんと海外事業向けの合併会社を設立するというのは如何でしょう。

    RSテクノロジーを独立させて、そこを主体とした会社です。

    日本が世界と勝負するには、

    現時点ではハイテクとアニメ関連しかないと考えてます。

    TESの技術と神楽さんのノウハウを生かせば、

    世界でも通用すると思われます。」

大盛 「それは、うちとしても願ってもない話しですが。

    TESさんは、アジアを中心に活動しようとしてるのですね。

    資金はどうなさるおつもりですか?」


ジュン「この事業に賛同してくれるスポンサーを探します。

    今のところ1社に目星があります。

    検討して頂けますか?」


大盛 「持ち帰って検討させていただきますが、仮にうちが良くても

    TESさんはOKをださないと思われますけども。」

ジュン「そこは問題ありません。

    現社長は代行でして、近々新社長が就任する予定です。

    新社長ならこの話に乗っかるでしょう。」


大盛 「ついに新社長が決まるのですね。」

ジュン「はい、役員会議の判定待ちですが、ほぼ確定でしょう。」


大盛 「私の知っている人でしょうか?

    もしよろしければ教えていただけますか?」

ジュン「オフレコでお願いしますよ。

    元大手広告代理店社長を務めていた篠崎氏です。

    大盛さんは良くご存じなのでは?」


大盛 「知っているも何もお友達よ。」

ジュン「ぐれぐれも、公式発表があるまでは郊外なさらなように。

    あと、篠崎氏との接触も避けてください。」

大盛 「重々承知しております。」


大盛 「分かりました。

    そういう事であれば、至急社内で検討に入ります。」


オレは、大盛に名刺を差し出す。


ジュン「何かありましたら、このメールに連絡をください。」

大盛 「分かりました。」


その場の気分で会話したのはいいが、

思いもよらない方向に話しが進んでしまった。

いろいろと、やらなければならいことが出来た。

大森譲と別れたあと、発着場へ戻り、

芸能事務所の社長へ乗り換えるのであった。



~~~ プロダクションTES ~~~~~~~~~~~~~~~~

ユイ 「事務所が忙しいというのに、午後出勤ですか!」

ジュン「俗にいう社長出勤ってやつだよ。

    社長なんだから問題ないだろ。」


ユイ 「あるわよ。

    あんたのせいで、社長代行の代行をさせられてるんだから。」

ジュン「面白!」

ユイ 「面白くないわよ。」


ユイは、社長印をオレに押し付けた。


ジュン「ユイが社長になってもいいだぞ。」

ユイ 「こんな面倒くさいの向いてないわ。

    音楽活動を邪魔しないで!」


ジュン「次のアルバムには、オレへのラブソングを入れておいてくれ。」

ユイ 「いいわね。

    『こんな上司は嫌い』というタイトルで入れておくわ。」


ユイ 「そうだ!写真集なんですけど。」

ジュン「おお。期待してるぞ。」


ユイ 「何度も言うけど、水着とか露出の多いものは絶対にやりませんからね。

    先方にちゃんと伝えておいてよ。」

ジュン「ファンも見たいと思ってないから安心しろ。」


ジュン「痛!」


ユイに足を思いっきり踏まれた。


ジュン「セクハラ、パワハラ社長」


ユイはお怒りで事務所を出て行った。

どこがセクハラだ?

ユイのやつ、言葉の意味、分かってないだろう。


ユイは、研究所で一緒に働く同僚にどことなく言動が似ている。

研究所ではいつも彼女に言葉攻めされてるから、

ここでは、ついユイをいじめたくなってしまう。


まぁ、本気の言葉じゃないとユイも理解してくれてるから

この関係も悪くない。


さて、仕事するか。


オレは、珍しく業務時間まで仕事をし、

3日不在でも業務が止まらないよう、

やるめき事は全て終わらせた。


夜は、アンナと約束をしている。

アンナにとって、今日は日本最後の夜だ。

明日の夜には日本を飛び立つ。

オレは、車に乗り、約束の場所へと急がせた。



~~~ ディズニーランド ~~~~~~~~~~~~~~~~

時刻は20:00

オレは、ディズニーランドの敷地中にいる。

正確にいうと、シンデレラ城の前でアンナを待っている。

アンナはというと、朝から1人でここに来てるようだ。


ここは9年前にウララと一緒に来るはずだったところだ。

東京にこんな場所があったんだな。

やっと見れたぜ。

絵本の中に居るみたいじゃないか。

ここに来て楽しむはずだったのに、暴力団に捕まるとはな。

くっそ!今思い出してもムカムカする。


ダメだな、一人で居ると情緒不安定になる。

楽しいことを考えよう。


アンナ「お待たせ。はぁ、はぁ。」

ジュン「走って来なくてもいいのに。」


アンナ「待たしちゃ悪いと思って。」

ジュン「時間が読めないのは理解してるのに。」


アンナ「ファストパス取ったから

    早く入れると思ったけど

    以外と時間が掛かって遅くなっちゃった。」

ジュン「どう?ディズニーランドは?」


アンナ「楽しい。凄く楽しいです。

    日本に行ったらここに来たかったんです。

    大阪行く予定だったから、ここ来るタイミングないなって思ってて。」

ジュン「申し訳ない。オレのせいだね。」


アンナ「大丈夫です。また日本に来ますから。

    逆にお小遣いもらったから贅沢な旅行が出来て大満足です。」

ジュン「そう言ってもらえるのはありがたい。」


この後、アンナが行きたいというレストランへ行き、

食事をしてディズニーランドを出た。

結果、ディズニーランドで夕食を食べに来ただけだった。


実は、わざわざここへ来る必要はなかった。

アンナはディズニーランドから戻って来てから

会いましょうと言ってくれてたから。

だが、9年前のことを思い出し、

ディズニーなんちゃらとやらに行ってみたいと思い今に至る。


帰り道。

オレとアンナは、ボディーガードが運転するハイヤーに乗り、

いつものホテルへ直行していた。


アンナ「ディズニーランド楽しい。また来ます。」

ジュン「ああ、何度でも来るといい。」


ジュン「明日なんだが。

    アンナにお願いしたいことがあって。」

アンナ「会いたいと電話が来たとき。

    何かあるんだろうって気づいてましたよ。」


ジュン「そうか、気を使わせちゃったね。」

アンナ「ジュンのお願いなら、なんでもします。」


うわぁ。何だろう毎回来るこの感覚。

こんな他愛もない一言だけど、心がえぐられる。


ジュン「うれしいな。泣きそうだよ。

    アーカイブ社の件です。

    明日、記者会見を開く予定で、

    アンナも同席してほしいなって。」

アンナ「出ます。出させてください。

    すごく気になってたんです。

    あの会社を助けたいです。」


ジュン「そうだね。アンナが居るのと居ないのじゃ、

    世間の印象は大きく異なる。

    アーカイブ出版が、アンナに対して謝罪するので

    アンナはそれを快く受け止めてくれれば、

    現状を改善できると思うんだ。」

アンナ「分かりました。任せてください。」


ジュン「ごめん。せっかくに日本に来たのに。

    後味の悪い帰国になりそうだ。」

アンナ「もう、謝らないでください。

    また日本に来ればいいことじゃないですか。

    今回、ジュンに出会えたことが私の思い出です。」


なんて、いい子なんだろう。


ジュン「オレもアンナと出会えたことがいい思い出になるだろう。」


~~~ 記者会見 ~~~~~~~~~~~~~~~~

時刻は13:00


アーカイブ出版社主催で、多くのメディアを呼び、

謝罪会見が始まろうとしている。

オレとアンナもこの会見に同席している。

アーカイブ出版側は、現社長ならびに重役4人。

スパイラル編集長は不在だ。

というか、いまだに雲隠れし消息不明のようだ。


アーカイブ出版としては、一度謝罪会見をしている。

通常2度もやる必要はない。

これは社会的信用を取り戻すための、

世間に向けたパフォーマンスなのだ。

そう、両者とも理解した上でやる茶番劇の始まりである。


社長 「この度は、アンナ様ならびにプロダクションTES社長様に

    大変ご迷惑をお掛けしました。

    そして、世間の皆様にも不快な思いお掛けしたことを

    心より謝罪致します。」


アーカイブ出版社、5名が頭を下げる。

もの凄いフラッシュが飛び交う。


社長 「アンナさんならびにプロダクションTES社長に

    直接謝罪させていただく機会を

    いただけたことに大変お礼を申し上げます。」


社長 「写真週刊誌スパイラルの記事に関し、

    事実確認ぜず、憶測で記事を記載したこと。

    一般人でありながら顔写真を掲載したこと。

    ありもしない誹謗中傷を掲載したこと。

    大変、申し訳ありませんでした。」


5人、一同が頭を下げる。


社長 「この件は、スパイラルだけの問題ではありません。

    弊社の体質にも問題がありました。

    今後、このような事が起こらないよう。

    徹底した調査を実施し、掲載するためのチェックリストを作成しました。

    今後はこのチェックリストを徹底してから出版するよう努めます。


    また、スパイラルの次週号では、謝罪文を掲載させていただきます。

    次週号の売り上げは、全て団体に寄付いたします。


    処分については、前回説明したとおり、

    私は責任を取って辞表を提出致しました。

    もちろん退職金は受け取りません。

    スパイラル編集長は、懲戒解雇としました。

    また、組織体制にも問題があったとし、

    役員報酬を50%カットいたします。」


社長 「アンナさん、プロダクションTES社長様、

    この度は、大変申し訳ありませんでした。」


アーカイブ社長は、2人に向かい。頭を下げた。


社長 「アンナ様は、観光でいらしたと。

    それが初来日だったと伺っております。

    来日初日にこのような事件に巻き込んでしまい

    大変不快な思いをしたことでしょう。

    日本はとてもいい国です。

    我々のせいで嫌いになって欲しくありません。

    そのお詫びとしまして、10年分の航空チケット、

    そして300万円分のレジャー食事券をお渡しいたします。

    どうが、受け取っていただけると幸いです。」


アンナが立ち上がり、全員がアンナに視線が集中する。


アンナ「アンナと申します。ロシア人です。

    社長さんの誠意は凄く伝わりました。

    謝らなければならないのは私の方かも知れません。

    アーカイブ本社と各地の工場が業務停止していると聞いてます。

    社員さんは、さぞ不安な思いをなされていることでしょう。


    私が、パスポートと財布を無くさなければ、

    こんな大事にはならなかったと思っています。


    私は記事の内容が撤回されるだけで満足です。

    それ以上は望みません。

    関係者以外には罪はありません。

    社員の皆様方、不安な思いをさせてしまい申し訳ありません。」


アンナが頭を下げる。

フラッシュを浴びる。


アンナ「1日もはやく通常業務に戻っていただけないと

    私も心苦しいです。

    世間の皆様、社員さんには罪はありません。

    どうかご理解していただけると嬉しいです。」

社長 「心遣い大変ありがとうございます。

    明日から業務を順次再開させ、

    社員一同にその言葉をお伝え致します。」


アンナと社長は、お互い頭を下げての握手を交わした。

フラッシュを浴びる。


社長 「続きまして、プロダクションTES様に対しては、

    アーティストユイさんが来年行う国内ツアーの

    スポンサーをさせていただくことにしました。

    またご自身初の写真集を出版させていただきます。

    写真集に関する弊社の売り上げ分は、全て団体に寄付いたします。

    これをもって誠意と致します。」


社長とオレは、笑顔ではないものの、固く握手を交わした。

フラッシュを浴びる。


この後は、恒例の質疑応答に入り、

アーカイブ側が全面的に非を認める内容で終わった。


記者会見はかなりの反響であった。

両者ともノーダメージで終われたので、大成功だったと言える。

だからと言って、アーカイブ社の信頼を取り戻すにはしばらく掛かるだろう。


少なくとも、明日からの業務再開に関しては、

批判を浴びない下地作りに成功したと言える。


やはり、アンナが居てくれたのは大きいかった。


~~~ 成田空港 ~~~~~~~~~~~~~~~~

時刻は19:00


1週間というのはあっという間だ。

アンナとの出会いは、オレにとって濃厚な時間だった。


ここ1週間を振り返ると、紆余曲折あったが、

結果、全てがいい方向に進んだ。


前社長の不祥事がなかったことになったし、

株価も元に戻りつつある。


敵対していたアーカイブ社も神楽芸能も

協力関係になったと言える。


今更だけど、浅草でアンナに出会えてラッキーだったのは

オレの方なのかもしれない。

そうか、女神は姿を変えてオレを助けに来てくれたんだ。


アンナとの別れはつらない。

引き止めることは簡単だ。

日本で仕事を与えるから移住しないかと言ったら、

二つ返事で「行く」と答えるだろう。


だが、オレがここに長くはいられない。

近日中には研究室に戻らなければならい。


アンナ「このまま帰るのは寂しいです。」

ジュン「オレもだ。」


アンナ「また、日本に来ます。」

ジュン「是非、来て欲しい。

    食もレジャーも楽しいころが沢山ある。

    いろいろ行くといい。」


アンナ「その時、また会っていただけますか。」


これは困った。

なんて答えよう。


ジュン「えーと。」

アンナ「あー。ごめんなさい。

    お仕事忙しいのに付き合わせちゃって、

    ほんとごめんなさい。」


ジュン「そうじゃないんだ。

    アンナことは好きだし、一緒に居て楽しい。

    次回も会えれば一緒に旅行したいと思ってる。

    だけど、次、アンナが日本に来るときは、

    多分オレはここにいない。」

アンナ「東京を離れるのですね。

    もしかして海外ですか?

    アメリカ?ヨーロッパ?」


どうしよう。


ジュン「んーん。」

アンナ「ごめんなさい。

    プライベートなことでしたね。

    失礼しました。」


ジュン「ごめん、今の忘れて。

    事務所に遊びに来てよ。

    食事に行きましょう。」

アンナ「次、会えるのを楽しみにしてます。」


オレとアンナは、長い長ーい、ハグをした。

さようなら。オレの女神様。


~~~ 後日談 ~~~~~~~~~~~~~~~~

女神に会ってからというもの、

オレは一人物思いにふけっても

穏やかでいられるようになった。

流石、女神パワーだぜ。


アーカイブ出版についてもだ。

次の日には、国民やマスコミに批判されることなく

国内は通常業務に戻ることが出来た。

それに伴い、復旧が難しいと思われていた

海外の関連企業も取引停止を撤回してくれたのだ。

女神パワーは無限だと感じだ。


だが、手の裏を返すようなことが起きた。


アーカイブ出版が、我々の海外事業計画を

役員会議で検討した結果、協力できないという

結果になったと、新社長が直々にオレに報告して来たのだ。


それは嘘だ。

元々、役員会議の議題にも出してないのだろう。

本来なら、TESや神楽の経営状況や海外進出の妥当性を

検討した上で、役員会議で採決するはずなので、

そんなに早く議題が上がるはずがない。


おそらく、新社長が、胡散臭い会社と危ない橋を

渡れるかと、自己判断でもみ消したのだろう。


まぁ、分からなくもない。

ただでさえ、ユイのコンサートや写真集で

無駄な出費がかさむ上、

大手企業が弱小会社の非現実的な企画に乗る方がどうかしている。


本来のオレなら、キレて「100倍返しだ」と

新社長にたんかを切ったことだろう。

だが冷静に「了承しました。」と返答した。

電話を切った後でも、特に怒りはなかった。

まぁ、社長として当然の判断だよなと同情したくらいだ。

これも女神パワーなんだな。


オレは、人として器が大きくなったと思う。


-- 9話 完 --


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[良い点] 異星人ながら成長していくジュンの姿が素敵です。今話も楽しく読ませていただきました。芸能や経済に関するやり取りが真に迫っていて、いつも面白いです。各女性の登場人物たちも魅力がそれぞれにあって…
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