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第八話 本当に嫌いになる人っていないのかもな

~~~ 闇宝石商 ~~~~~~~~~~~~~~~~

この崩れそうなビルを眺めるのは今日で2度目。


これからあの杉本との交渉が始まる。

騙された怒りは、既に沈下している。

この女がオレのテリトリにいるからな。


彼女とのゲームでたとえ全敗したとしても、

最後は力ずくで全てを取り戻すことは可能だ。

だが、そうなるのはオレの本意ではない。


さぁ、ショーの始まりだ。


♪ジリジリ。


男  「どなた様で?」

ジュン「Zから紹介されたJです。」

男  「少々お待ちください。」


♪ガチャ


男が顔を出し、オレ以外に人が居ないか確認する。


男  「1人か!」

ジュン「はい。」

男  「OK!」


あいかわらず、簡単に入れるな。

少しは警察の潜入捜査とか疑わないのか?

まぁ、こんなチャラチャラした格好で潜入捜査する警官はいないか。


オレはサングラスを掛けたまま部屋の中へと進む。


杉本 「始めまして、どうぞおかけください。」


それ2度目だぜ。

オレは、席に腰かける。


ジュン「いいものが入ったとお聞きして伺った次第です。

    彼女へのプレゼントをしたいと考えてます。

    いいものがあれば是非買って帰りたい。」


オレは、この中に現金があるぞとアピールするかように

ジュラルミンケースを持ち上げて、杉本にチラ見させる。


杉本 「女性へのプレゼントですか。素敵ですね。」


女性は、箱を5つ置いた。

その中に見覚えのある物がない。

そう数時間前にオレが売った物だ。


オレの目の前で、1つ1つ箱を開ける。

全てが指輪だった。


杉本 「気に行ったものはあるでししょうか?

ジュン「どれもしょぼいですね。」


オイオイ。オレがさっき売ったものを出せよ。

あれ、借り物なんだけど。


ジュン「70、80ってところですかね。

    デザインもいまいちだな。」

杉本 「お客様はお目が高い。」


ジュン「正直、指輪はたくさん持っている

    他はないのですか?。」


オレから振るしかなじゃないか。


杉本 「では、こちらはどうでしょう?」


女性は、箱を左右に寄せ、オレの正面に、赤い箱を置く。


おお。見覚えあるぞ。

それだよ、それ。

女性は、ゆっくりとふたを開ける。


ジュン「おおぉ。ネックレスですか。

    これはゴージャスですね。

    デザインもいい。」

杉本 「気に入っていただけたようで。」


杉本 「お客様はラッキーです。

    今朝入手したばかりの物です。」


ジュン「おいくらですか?

杉本 「650になります。」


おい!

オレから300で買い取って、倍で売るのかよ。

50の端数はなんだ。

もしかして値切るためのものか。


ジュン「安いですね。」

杉本 「見ての通り、これはすぐに売れてしまわれるかと。

    この場でご決断された方がいいと思わます。

    明日には残ってないかも知れません。」


ジュン「んーん。どうしようかな。」

杉本 「女性へプレゼントには良いかと。」


ジュン「確かに品がありますよね。」

杉本 「きっとドレス等にお似合いですよ。」


ジュン「迷いますね。もっと高いものはないのですか?」

杉本 「只今、ご用意でるのはこれだけです。」


ジュン「プレゼントの目的もあるのですが、

    資産としていくつか宝石も持とうと考えてまして。」

杉本 「左様で御座いますか。」


ジュン「おたくでは数億の物は扱ってないのですか?」

杉本 「そうですね。

    この業界では億の物はなかなか出回らないです。」


ジュン「そりゃそうか。」

杉本 「もし、手に入りましたら真っ先にご連絡いたします。」


ジュン「お願いします。

    先ほども言った通り、資産として持ってたいので。

    10億以内でしたら即購入します。」


杉本 「こちらの方は如何されますか?

    お客様とは長い付き合いになりそうなので、

    この場で即決していただけるのであれば、

    600でお譲りしますが。」


タイムセールってやつか。

元々600で売る気だったのだろう。

ものは言いようだな。


ジュン「初対面の人間をそこまで信用して頂けるとは。

    分かりまいた。購入しましょう。」


オレは、ジュラルミンケースから札束を6つ取り出し

女性の前に積み重ねる。


どうだ。

たかだか数時間でお前らは300万、儲けたのだ。

美味しい商売だな杉本さんよ。

今だけ楽しい夢でも見てるんだな。


杉本は、正確に数えはしないが札束を軽くチェックする。


杉本 「では、商談成立ということで。」


案内人が金を持って裏部屋へ入って行く。

おそらく金庫へしまいに行ったのだろう。


それ、オレの金だから大切に保管しろよ。

数日のうちに取りに来るから。

オレは立ち上がり、宝石をジュラルミンケースに入れる。


ジュン「いい買い物ができました。

    次、億のものが入りましたら連絡ください。」

杉本 「承りました。」

ジュン「では失礼します。」


オレは、振り返り外へ出る。


待機させていた車に乗り、発着室へと向かう。

事務所の連中に連絡しないとユイに怒られる。


~~~ 羽田空港 ~~~~~~~~~~~~~~~~

現在21:30


闇宝石商を出たあと、発着室へと戻り、

プロダクションTES社長に乗り換えた。


話しの流れから、沖縄に行くこととなり、

オレはアンナと供に羽田空港にいる。


彼女は、事務所の信頼を1日にで取り戻してくれた立役者だ。

落ちた信用は、取り戻すのに通常なら3年はかかる。


彼女にはすごく感謝している。

一生懸命お金を貯めて、日本へ来たというのに

オレのせいで彼女は日本での観光ができてない。

だから最高のおもてなしをしようと、チャーター機を用意し

日帰りで沖縄と北海道へ行こうとしている。


本来なら日本各地をゆっくりと回りたいところだが、

オレもアンナも時間がない。

彼女には生活があるし、オレにも仕事がある。


日帰りだから現地で滞在できる時間は数時間しかなく、

正直ちゃんと楽しめるかはあやしい。

よくよく考えたら無茶なプランだ。


日本へはまた来れるようお礼をはずむつもりでいる。

なので、思いで作りとして、次回の下見として、

他の外国人観光客ができないことをしてやろうと思う。


飛行機は、離陸し沖縄目指して飛び立った。


~~~ 那覇空港 ~~~~~~~~~~~~~~~~

那覇空港には深夜1時に到着し、空港内の部屋へ泊った。

朝6時に起床。

部屋は当然別々だ。

アンナとはロビーで7時に待ち合わせた。


アンナ「おはようございます。」

ジュン「どう?眠れた?」


アンナ「はい。凄く元気です。

    東京都とは空気が違いますね。」


この子は、ポジティブでいい。

オレの無茶なプランに文句言わず付いてきてくれる。

そして、全力で楽しんでくれる。

オレもそれに応えなければ。


ジュン「沖縄、初めて来たんです。」

アンナ「私と一緒ですね。

    それは凄くうれいいです。」


ジュン「なぜです?」

アンナ「だって、一緒に観光できるじゃないですか。

    どうせならいっしょに楽しみましょうよ。」


オレは、この子に人として大切なことを

教わっているような気がする。

あぁ、旅行に来てよかった。


ジュン「アンナはいい子ですね。

    分かりました。いっしょに観光を楽しみましょう。」


ジュン「これ渡しておきます。アンナのです。」


キャッシュカードを差し出す。


アンナ「なんのカードですか?」

ジュン「キャッシュカードです。

    アンナ名義で作ってあるので、あなたのですよ。

    3000万円入ってます。

    口座は日本の銀行ですが、VISAカードなので

    ロシアでも使えると思います。」


アンナ「それは受け取れません。

    沖縄に連れて来て頂いただけで十分です。」

ジュン「受け取ってください。お願いします。」


オレは頭を下げた。


アンナ「頭を上げてください。」

ジュン「感謝の気持ちをお金で返すのは

    失礼だというのは承知してます。

    アンナが居なければ事務所は今どうなっていたか分からない。

    オレだって社長をクビになっていただろう。

    そして、人として大切なこともたくさん教わった。

    お願いです。

    受け取っていただけませんか?」


アンナ「頭を上げてください。

    分かりました。

    そこまで言うのなら受け取ります。

    このお金で、次も日本に必ず来ます。」

ジュン「そうですね。

    日本にはたくさん良いところがあります。

    必ず来てください。

    なんか、お別れの挨拶になってしまったね。」


アンナ「何度もいいますが、感謝しているのは私の方なんですよ。」

ジュン「わかりました。ではお互い感謝しているということで。

    ここからは、友人として楽しく行きましょう。」


ジュン「どこへ行っていいか分からないのですが、

    国際通りが有名だって聞いたので、

    そこで朝ごはんにしませんか?」

アンナ「私は分からないので付いて行きます。」


国際通りに着くと、予約していたレストランへ入り、

ゆっくりと朝食を済ませる。

食事の後は軽く、国際通りを散歩した。

先ほどのレストランもそうだが、アンナと国際通りを

こうして並んで歩いても注目を浴びることはない。


観光地ということもあり、外国人は珍しくないのだろう。

だが我々2人は、先日、世界的に注目を浴びた人物だ。

にもかかわらず、意外と顔は覚えられてない。

警戒していたのが恥ずかしい。

アーティストのユイならともかく、

オレとアンナはあの会見で知られたようなものだ。

スパイラルの事件は、人々の記憶にあっても

当事者の顔は記憶に残ってないらしい。


国際通りを数分歩いた後、定番の首里城へと向かった。

オレは、建物や風景を見てもなんとも感じない人間だが、アンナは違った。

元々、日本のお寺やお城に興味があったらしく、

首里城は凄く興奮してくれた。

アンナのリアクションを見ると、オレまでうれしくなる。

連れてきたかいがあったというものだ。


♪プルル


諜報員「社長」

ジュン「どうした!」


諜報員「神楽の件です。」

ジュン「何か進展があったのか?」


諜報員「はい。

    社長の大盛おおもり氏が直接、筆頭株主の1人である千葉氏と

    接触を試みています。」

ジュン「千葉から株を買い取って経営に口を出す気だな。」


諜報員「表向きは一般株の購入をしている振りをして、

    こちらがメインという訳か。」

ジュン「大盛と千葉は、接点はあるのか?」


諜報員「おそらくありません。

    神楽の動きを見てると、何人かの筆頭株主様と接触し、

    千葉氏をターゲットに絞った感じです。」

ジュン「特に仲がいいという訳ではないのなら、

    こちらにも勝機はある。

    千葉の身辺を洗っておいてくれ。

    引き続き、神楽の動向を監視してくれ。」

諜報員「かしこまりました。」


アンナがオレの顔を不安そうに見つめてる。


アンナ「お仕事ですよね?」

ジュン「ごめん。終わったから。」


アンナ「事務所大変なんですよね。

    ここに居て大丈夫なのですか?」」

ジュン「申し訳ない。気を使わせちゃって。

    事務所はアンナのおかげで正常業務に戻れてる。

    オレは、今日1日休みを取ってあるから。

    安心して。

    ただ、業務連絡で電話が来ることはある。

    そんな感じなので、心配しなくていい。」

アンナ「分かりました。」


楽しい時間はあっという間である。

近くのビーチに寄って海を数分散歩して、那覇空港へと戻る。

結果、現地には数時間しか滞在してない。楽しいのかこれ!


今は考えなことにしよう。

時刻は11時。

北海道へ旅立つ。


~~~ 新千歳空港 ~~~~~~~~~~~~~~~~

時刻は15時。

我々は北海道の地に立った。

同じ、日本だというのに雰囲気が全然違うな。


時間が微妙なので、小樽に行って早めの夕飯を取ることにした。

16時半。小樽到着。


基本の小樽運河を見ながら散歩をする。

急遽小樽に来たので、お店は予約していなかった。


適当に見つけた大衆食堂へと入る。

人が大勢いて活気づいている。


アンナ「こういう場所もいいですね。」

ジュン「ほんとだな。

    人が沢山いるとテンション上がるね。」


アンナ「こういうにぎやかな場所もいいですね。

    旅行に来て、人が居ないと寂しい。」

ジュン「わかる。わかる。

    実は、ついこの前まで、人混みって苦手だったんですよ。

    今はだいぶ慣れたけど。」


アンナ「意外です。社交的で人付き合いがいいと思ってました。」

ジュン「この仕事をしているからそう見えるだけですよ。

    基本は一人こもってする仕事をしている方が向いている。」


アンナ「全然見えません。」

ジュン「今は、慣れたので。アンナといて楽しいし。」

アンナ「そう言ってくれると嬉しいです。」


ジュン「お腹空いたね。食べる?

    北海道は、ちゃんちゃん焼きとジンギスカンが名物らしい。」

アンナ「お任せします。

    ああ、でもー。カニが食べたいです。」

ジュン「OK。ではカニのコースにしましょう。」


アンナ「いいのですか?」

ジュン「いいのいいの。オレは何でもいいし。

    今日はおもてなしをすると決めたので。」


ここは大衆食堂なので、コースとかしゃれたものはなかった。

店員を呼び、全種類のカニ料理を注文した。


このような頼み見方もいいな。

ちょっとづつ、いろいろなものが食べれるから。

アンナは、焼きガニと寿司が気に入ったようだ。


男1「スパイラルの編集長は今どこにいるだ。」

男2「マンガ喫茶で寝泊まりしてるんじゃないの。」


ふと、隣に居るおじさん2人の会話が耳に入って来た。

アンナも気づき、自然と無言で食べながら2人の会話を聞く。


男1「あの外国人。美人だよな。」

男2「助けてあげたくなるよね。」

男1「なるよー。」


どうやら、当事者が真横の席に居るのに気づいてないようだ。


男1「お前、仕事大丈夫なのか?」

男2「天下のアーカイブ出版だよ。潰れるわけないでしょ。」


男1「今のご時世。何があるか分からない。

工場、止まってしまったんだろう。」

男2「3日間の強制有給消化DAYとなった。」


男1「復旧の未透視が立ってないじゃん。

   3日じゃすまないだろう。

   下手するとリストラが始まる可能性もあるぞ。」

男2「ないでしょ。」


男1「本当に?工場が潰れたり、リストラされたりしたらどうすんの?

   家、買ったばかりだろ。ローンどうするんだ。」

男2「ね。どうしよう。娘が大学行くって言ってるし。

   大変だ。」


男1「お前、他人事だな。」

男2「最悪、オレが死ねば保険金がおりる。」


男1「バカな事言ってないで、今後のことを考えた方がいい。」


アンナは、オレの目を見て訴えている。

今にも隣のおじさんに何か言いたげだ。


わかる。わかるよ。

でも今は、何も言うな。とジェスチャーする。


幸い食事もほぼ終わっている。

アンナが騒ぐ前に、外に出ようと合図して、無言で席を立つ。

隣のおっさん連中から逃げるようにして店を出た。


アンナ「お願いがあります。

    ワタシ、会見でも何でもします。

    あの人達を助けたい。」

ジュン「気持ちは同じだ。

    彼らの職を奪うために行動したのではないからね。

    でも、ここは慎重にいかないと。

    あの会見が無駄になる可能性もある。

    あと、一度落ちた信頼は上げるのは難しい。

    アンナが、世間に訴えれば理解はしてくれると思うが、

    それはそれ。これはこれ。

    何も変わらない可能性が高い。」


アンナ「やってみないと分からないじゃないですか。」

ジュン「その通り。だけどタイミングは大事だ。

    オレの目的は達成している。

    だから、アーカイブ出版はなんとか助けたい。

    ほんとうだ。信じてくれ。」


アンナ「分かりました。信じます。

    ワタシに助けが必要なら何でも言って下さい。」

ジュン「その時はぜひお願いする。」


オレたち2人は夜景が綺麗だという藻岩山もいわやまへ向かった。


~~~ 藻岩山 ~~~~~~~~~~~~~~~~

時刻は20時。


駆け足で、名所を巡ったがここがラストだろう。

今、2人で夜景を眺めている。

絶景とはこのことだろう。

なんだ、東京以外にもこんな風景が見れる場所があるんだ。

すげーな、地球人って。


おもてなしに専念してて、何も感じなかったけど。

冷静になって考えると。

女性と1日2人で朝から一緒に居るんだよな、不思議だ。

それを言うなら浅草からか。


今、気づいたけど。

オレ、2人きりでも人とコミュニケーションが取れてる。

しかも女性とだよ。

最初に出会った、ウララがオレを変えたんだ。

彼女との出会いには、インパクトがあったからな。


あれ!?

よくよく考えたら、ウララもココもアカリもユイも

みな、2人きりな時間があったぞ。

そっか、知らず知らずのうちにみんなに鍛えてもらっていたのか。

ガイアで彼女を作るというものいいかもな。


♪プルル、プルル


ジュン「どうした?」

諜報員「宝石商からコンタクトがありました。

    億単位の宝石や貴金属を売る予定はあるか?

    との連絡です。」


やっと来たか。遅くないか。

手辺り次第に声を掛けて反応がないから

オレに来たのか?


ジュン「明日の午前中に伺うと伝えてくれ。」

諜報員「かしこまりました。」


いろいろと仕事が増えてきた。

杉本には引導を渡しに行くか。


ジュン「アンナ、そろそろ移動しよう。」

アンナ「またここへ来ます。」


ジュン「そうだな。今日は駆け足だったけど。

    時間を作ってもう一度来るといい。」


~~~ 新千歳空港 ~~~~~~~~~~~~~~~~

現在21:30


長いようで短い。

一日だった。


ジュン「楽しめましたか?」

アンナ「はい。すごく楽しかった。

    北海道にも行きたかったのでうれしいです。」


ジュン「ごめんな。

    沖縄も北海道も観光したのかしてないのか微妙だった。」

アンナ「十分です。一日で沖縄と北海道を回ったんですよ。

    すごいです。写真もたくさん取りました。

    友達に自慢します。」


やばい、また心をえぐられた。

あぁ、この世界がなくなるのは辛いな。


ジュン「そう言ってもらえると助かる。

    アンナはほんとポジティブでいい。」


飛行機は離陸し、羽田空港へと向かう。


楽しい旅行だった。

アンナに思い出を作ったつもりが、オレの方が思い出になった。

アンナが居なければ、ガイヤの地は東京だけで終わっていたから。

外国にも行きたかったが、東京以外も行けたのだ。

贅沢を言ってはいけない。


飛行機が離陸したとたん2人は眠りについた。

朝から休憩なしで動きまくったのだ。

無理もない。


~~MAEDAコンサルティング~~~~~~~~~

24:00に羽田空港に到着した。

機内では爆睡していたので、到着があっという間だった。

アンナはホテルへ直行させ、明日以降は仕事があるからと言うと

一人で楽しむから大丈夫と言ってくれた。


オレはというと、前田に会いに

旅行の余韻を楽しむ暇もなく仕事を再開したのである。


ジュン「仕事は順調か?」

前田 「どっちの?」


ジュン「こっちも、研究室も、だよ。」

前田 「どうした?お前最近変わったぞ。

    こんな興味のないことを聞くような奴じゃなかっただろう。」


ジュン「オレも実感している。

    ガイヤの人間と接しているうちに、

    自分でも訳が分からん言動をとってる。

    これが、仮面をかぶっているせいなのか、

    オレの性格が変わったのかは判断できない。」

前田 「そうか。自分も同じだ。

    で、本題は宝石だろ。準備してある。」


ジュン「お前すげーな。仕事は早いし。全て完璧だ。」

前田 「おお。もっと褒めてくれ。」

ジュン「何なんだこいつ。」


前田はカバンから牛乳箱を半分にしたサイズのケースを取り出し、

オレの正面に置く。

そして、ケースのふたを開ける。


前田 「デディアローラの『ブレスレット』と『指輪』のセットだ。

    デディアローラとは作者名でもブランド名でもない。

    このジュエリーに付けた作品名だ。

    値段にすると3億くらいで売れる代物だな。」

ジュン「こんなのが3憶もするのか。」


前田 「ダイヤの価値としては1憶くらいしかない。

    だが、ベルギーの王妃が持っている有名な

    デディアローラの『ティアラ』と『ネックレス』がある。」

ジュン「もしかして!」


前田 「ご名答。同じ作品だ。

    すなわち、『ティアラ』『ネックレス』『ブレスレット』『指輪』で

    揃って1つの作品となっている。」

ジュン「面白いな。世界的に有名なのか。」


前田 「いや。このセットがあることを知っているは、

    ベルギーの王族と一部の宝石マニアだけだ。」

ジュン「何でお前がこんなもの持ってる。誰かの借り物か?」

前田 「オレが趣味で購入したものだ。」


ジュン「で、これの模造品はあるのか。」

前田 「作ってあるぞ。見ろ!」


前田は、もう一つカバンからケースを取り出し横によ並べる。


前田 「どうだ見わけが付くか?」

ジュン「いや、ケースも宝石もまったく同じに見える。」


前田 「だろ?頑張りました。」

ジュン「どう見ても同じだ。本当に片方は偽物なのか。」


前田 「偽物はガラスで出来ている。

    素人には分からんが、プロが見たらすぐにバレる。」

ジュン「これどうやって見分けるんだ。オレには分からんぞ。」


前田 「このメガネを掛けてみろ。」


前田から渡されたメガネをかける。

度が入っているわけでもなく。部屋を見渡しても特に変化はない。

メガネ越しに宝石を見ても特に変化は見られない。


前田 「ケースのふたを見てみろ。」


前田は、両方のケースを閉めめる。

すると、ケースの上ふたに漢字で「偽物」と書いてあるのが見える。


メガネを外すとそんなもが書いてあるようには見えない。

だが、メガネをかけると、字が見える。


ジュン「おい、最初に見せた方が偽物かよ。」

前田 「そのメガネがあれば見分けられるということだ。」


そろそろ帰ろうとオレは立ち上がる。


ジュン「すまん。では借りるぞ。」

前田 「なんに使うか知らんが、ちゃんと返してくれよ。」


ジュン「研究室に戻るんだろう。いらんだろう。」

    ちなみに、この模造品の価値はいくらくらいだ。」

前田 「3000円じゃないか。

    と言っても作るのに100万は掛かってけどな。」


ジュン「わかった。また来る。」

前田 「おう。」


オレは、前田の事務所を出る。

そういえば、週刊誌の件で聞くことあったんだ。

まぁいい。次会った時にでも聞くか。


事務所に戻らねばという思いはある。

会見後からほぼ誰とも会ってない。

でも、先に片づけなければならない仕事がある。


発着室へと車を走らせた。


~~闇宝石商~~~~~~~~~

オレは、闇宝石商の入口前に立っている。

例のメガネを掛けて。


ここに来るのは何度目だ。


♪ジリジリ(チャイム)


男が顔を出す。

オレ以外に人が居ないか確認してる。

このやりとりも定番だな。


男「入れ!」


どうやら覚えてもらっていたようだ。

中へと進むと、正面のテーブルに女性が座っている。


よう杉本。元気にしてたか!


杉本 「ご来店、誠にありがとうございます。」

ジュン「ここは店なのか?殺風景で物が何もないが。」


杉本 「お客様は面白いお方ですね。」

ジュン「ご注文の品を持って来たぞ。」


カバンから宝石ケースを取り出す。

杉本の正面にそのケースを置き。

ふたを開ける。


杉本 「すばらいいです。

    これはさぞかしお高いのでしょう。」

ジュン「見りゃわかるだろう。」


杉本 「フィー」


鑑定士が裏から出て来た。


杉本 「これお願い。」


鑑定士は宝石を見て目が大きく開く。


鑑定士「これはデディアローラではないですか!」

ジュン「これの価値がわかるのか。」


鑑定士「まさか日本にあるとは。」


ジュン「偽物かもしれないからよく見た方がいいぜ。」

鑑定士「アンクレットはないのですか?」


ジュン「アンクレット?このブレスレットと指輪だけだが。

    もしかしてアンクレットもあるのか!」

鑑定士「はい。

    デディアローラは、ティアラ、ネックレス、ブレスレット、

    指輪、アンクレットの5点セットと業界では知られてます。」

鑑定士「ベルギーにティアラとネックレスがありまして、

    ここにブレスレットと指輪が存在している。」


ジュン「そうなんだ。それは知らなった。

    お前んとこの鑑定士、本物じゃないか。」

杉本 「うちのスタッフはみな優秀ですから。」


ジュン「気に入った。大盤振る舞いだ。1憶でどうだ。」


現金を手で持って帰るにはこの金額が妥当だろう。

鑑定士は、隅々までチェックする。


鑑定士「それは安すぎます。2憶でも安いくらいです。」


杉本の目が輝いている。

いいぞ鑑定士、グッジョブ!


ジュン「お前んとの鑑定士は価値が分かっている。」


杉本 「1憶で買い取らさせていただきます。」

ジュン「即決だな。交渉成立ということで。」


杉本 「大変申し訳ありませんが、

    現金が手元に4000万しかありません。」

    

案内人「いや、その金は今日ボスのところへ持ってく・・・」

杉本 「ケイ!」


女性が黙れとジェスチャーする。


杉本 「残りはカードでもよろしいでしょうか。

    当然、海外バンクを使わせていただきますが。」

ジュン「いや、現金でなければ取りきは中止だ。」


目の前にあるのは本物だ。

偽もを渡したいが、さて、どうやって差し替えよう。

杉本、鑑定士、案内人の3人に見られてる。

替えるタイミングがない。

マジシャンってすげーな。どうやってるんだ。


杉本 「少々お待ちいただけますか?」

ジュン「かまわんが。」


杉本 「写真を取ってもよろしいでしょうか?」

ジュン「どうぞ。」


杉本は、ブレスレットと指輪の写真を撮ると

裏部屋へ隠れた。

お金を工面しにいったのだろう。


5分後。

オレの携帯にエージェントから連絡が来た。


♪プルル、プルル


ジュン「少し失礼する。」


案内人はうなずく。

オレは席を立ち、入口の方へと行く。


そして、小声で会話する。


ジュン「どうした?」

案内人「宝石商からコンタクトが来ました。」


ここに居るけど。


諜報員「宝石を買って欲しいと写真が送られてきました。」


間抜けな女だな。

写真を見ると、まさにオレが持ってきたものだ。

笑える。


ジュン「6億で購入すると伝えておけ。」

諜報員「了解しました。」


オレは、電話を切ると席へと戻る

さらに5分後、杉本が裏から戻ってくる。


ジュン「ケイ。常盤のところに行って

    お金を受け取ってきてちょうだい。」


案内人は、無言のまま外へ出て行った。


杉本 「申し訳ありません。

    お金の方、準備しますので、もう少々お待ち願います。」

ジュン「ああ、かまわない。」


宝石を偽物に替えるタイミングを探っているが、

鑑定士が邪魔だ。すーっと見てやがる。


杉本はもう一度裏に行き、

5分くらいして黒いバッグを持って戻って来た。

そして、そのバッグから金を取だし、テーブルに札束を並べる。


杉本 「4000万あります。

    今、若いのが残りを取りに行ってます。

    もう少々お待ちねがいます。」


金額を数えてはないが、首を縦に振り、OKの合図をする。

杉本は、オレの目の前で、バッグをテーブルの上に置き

並べた金をバッグへ中へと入れた。


バッグのチャックは閉めておらず、4000万が

顔を覗かせている。


オレはメガネを外し、両手で顔面のしわを伸ばす。

緊張している。

先ほどからずーっと考えているが、

宝石を差し変えられない。

どうしよう。


そうこうしている間に、案内人が戻って来た。

大きめの黒いバックを抱えている。

あの中に金が入っているんだな。


案内人が持ってきたバッグをテーブルに乗せる。

テーブルの上には、宝石と、小さいバッグと大きいバッグが

置いてある状況だ。


杉本は、大きなバッグを開け、

テーブルの上に札束を並べだした。


3000万を並べたころだろうか。


♪ドンドン、ドンドン


警官「警察だ!扉を開けろ。」


警察?

警察だと!

なぜ警察がここに来た。

さては!


ジュン「お前!オレをハメたのか。」

杉本 「いえ。大変申し訳ありません。

    うちの失態です。」


杉本 「ケイ!あんた付けられたね。」


オレは、宝石のふたを閉めバッグへ急いで戻す。

杉本と案内人も、急いで金をバッグへと戻す。


鑑定士はさっさと裏へ逃げてしまった。


杉本 「ご安心ください。裏に逃げ道がありますので。

    付いて来てください。」


杉本は手ぶら。

案内人は金の入ったバッグを2つ持っている。

オレは、自分のバッグを持った。


そして、杉本の後を追う。

オレは思う。逃げても無駄だろうと。

既に周囲は取り囲まてるはずだ。


はしごを使って1階に降りる。

へぇ、1階とつながってるんだ。


1階は、店がつぶれてたのではなく、

こいつらのアジトだったのね。


隠し扉があって地下室への階段が出て来た。


杉本「暗いので足元にご注意ください。」


アトラクションの案内かよ。


オレは杉本の後を覆う。

その後ろを案内人が隠し扉が見つからないよう

元に戻して、あとを追う。


地下室に到着した。

何も無い4畳くらいの小さい空間だ。

この部屋、臭いぞ。ちゃんと換気しろよ。


で、ここからどうするつもり?

地下に隠れても見つかるのは時間の問題だぜ。


杉本が壁を触っている。

まだ何かあるのかよ。


壁が動いて別の空間が現れた。

と同時に臭さが増す。

おいおい、この中へ入るのかよ。やなんだけど。


隣は真っ暗で、中がどうなっているか分からない。


杉本 「この先はさらに暗いので、

    私の足元を見て付いて来てください。」


杉本は、ライトを持ち中へと入って行く。

えー、行かなきゃダメ―。

渋々、隣の部屋へ入ると理解した。


下水道につながっていたのだ。臭いはずだ。

杉本の後を追う。

しばらく歩くと、光が差し込んでるところが見える。

光の真下に来ると、はしごがあり、天井のマンホールが開いてる。

はしごを上り地上へと出る。


すると、鑑定士がいた。

こいつ先にここへ来てたのか。


オレ、杉本、鑑定士、案内人の4人がそろった。

オレは今どこにいるのか、さっぱり分からない。

人気の全くない路上に立っている。


杉本 「この度は大変失礼なことをしました。

    あそこはしばらく使えなくなります。

    取引場所は追ってご連絡いたします。」

ジュン「スリリングで意外と楽しかったよ。」

杉本 「そう言って頂けると幸いです。」


黒のハイヤーがオレの真横で止まる。

オレの車じゃないか。

オレのボディーガードは優秀だな。

もしかして、オレの身体に発信機が取り付けられてるのか!


ジュン「迎えが来た。ではまた次回。」

杉本 「もし、よろしければ宝石の方を買い取らせていただきますが。

    我々も、この大きなバッグを持って移動するのはちょっと。」


ジュン「そうだな。次はいつになるか分からないからな。」

杉本 「どうしましょう。金額の方はお確かめになりますか?」


ジュン「いや、いい。お前らを信用している。

    そのまま車に積んでくれ。」


トランクが開き。

案内人は、バッグを詰め込んだ。

オレは、宝石ケースを取り出そうとバッグに手を入れる。


あれ?


右と左どっちだ?


急いでバッグに詰め込んだから、

どちらが本物が分からない。


メガネは?

部屋に置いて来てしまった!


右か、左か。


時間を掛けると疑われる。

適当に取って、バッグから取り出す。


杉本 「確かに受け取りました。」

ジュン「では、新しい場所が決まったら連絡してくれ。」

杉本 「かしこまりました。」


オレは車に乗り、その場を去った。

車の中で、バッグを開けて残りの宝石ケースを取り出す。


ダメだ。見ても、本物か、偽物かわからん。

まぁいい。

本物を渡したとしても取り返せばいいのだから。


オレは発着室へと戻り、プロダクションTESの社長へと姿を変える。

そして、急いで事務所へと向かった。


~~プロダクションTES~~~~~~~~~

事務所の前に立つと懐かしい感じがする。

いろいろあり過ぎて、久しぶりに戻って来た感覚だ。

だが、事務所へ入るとそのほろ酔いもすぐにぶち壊される。


ユイ 「ちょっと、あんた今までどこほっつき歩いてたのよ。」

ジュン「相変わらず口の悪い女だな。オレも忙しいんだ。」


ユイ 「へぇ、忙しい人が昨日休み取るんだ。

    何をしてたのか知らないけど。」

ジュン「接待だよ。接待。

    オレはこの事務所のために全力で動いている。

    信頼も取り戻せただろう。」


ユイ 「そこは素直に感謝してるわ。」

ジュン「とにかくだ、オレを信じてくれ。」


ユイ 「信じてるけど、仕事もちゃんとやって。

    書類が止まっているの。社員が困ってますけど。」

ジュン「ハンコが欲しいのだろう。

    ユイ頼む、お前が代理で押してくれ。」


ユイ 「はぁ。無茶言わないでよ。

    私に判断できるわけないでしょ。

    今、やっちゃえばいいじゃん。」

ジュン「おれは、別件ですぐ行かなければならないところがある。」


ユイ 「あんたは一体、何しに戻って来たのよ。」

ジュン「事務所の様子を見に来ただけだ。

    活気づいてて安心した。」


オレはユイに社長印を渡す。


ユイ 「冗談でしょ。」

ジュン「本気だ。今日中に必要なものだけ頼む。

    明日はオレがやるから。

    じゃ、行って来る。」


ユイ 「ちょっと!」


オレは、事務所を出てある料亭へと向かった。


~~後日談~~~~~~~~~

宝石商について少しだけ語ろう。

彼女らに渡した宝石は、結果、偽物であった。

オレは2分の1の確率に勝利したのだ。

以上をもってオレの復讐は完了だ。


その日、本部へ届けるはずの4000万と、

ナンバー2から極秘に借りた6000万をまんまんと

オレから騙し取られたのだ。


杉本は、偽物と知ってどんな顔をしたのか見たかった。

やつらがその後、どうなったかは知らない。

目的を達成して、諜報員へ監視を中止させたのだから。


奪い取った1億は、全て募金した。

あの金は、オレ以外からだまし取った金も含んでいる。

そんな金は使えない。

なので、事務所的には騙し取られたままだ。

授業料だと思って今後に生かしてくれればいい。


騙し取られた相手とはいえ、その後が意外と楽しかった。

杉本は今、何を思い、どうしているだろうか。


おそらく逃げ回っていることだろう。

ボスに見つかったら処刑されることは確実だからな。


まぁ、オレの部下ほどの情報収集能力はないから

地方へ逃げれば逃れられるだろう。

だが、これから一生いつ捕まるかも知れない

恐怖との闘いが待ち構えている。


君たちに情けは掛けない。

オレだけでなく大勢の人を騙して来たのだから。

これは報いだ。

まぁ、偶然どこかで出会えたら、

その時は手を差し伸べてやろうではなか。


-- 8話 完 --


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― 新着の感想 ―
[良い点] 観光とスリリングなサスペンスの場面と、バランスが取れていてとても面白かったです。アンナは本当に良い娘ですね。そして、杉本、ジュンにはやられましたが、カナリの遣手に見えました。良い人物たちの…
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