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第六話 やられたらやり返す100倍返しだ

~~~ 浅草 ~~~~~~~~~~~~~~~~

仮社長の業務は続いている。

地上に降りてから1週間経つが、何をしているのだオレは。

前田と供に早くここを脱出しなければならないのに。


現在、オレは浅草の仲見世通りにいる。

なぜ、こんなところに居るかというと、

テレビ出演してもらえる外国人を見つけるためである。


うちの事務所の芸人を使うテレビ番組で、制作サイドから

外国人タレントを3人追加できないか、との要望を頂き安易に受けてしまった。


いざ、事務所の連中に聞いてみるとだ。

うちには外国人タレントも居なければ、つてもないのだという。


困り果てたあげく、自ら浅草へ出向き、外国人をスカウトしようと今に至る。


現在13時、収録は今日の20時からだ。

いざ声を掛けようにも、日本語以外、オレは話せない。

困ったものだ。


世界共通語のボディーランゲージには限界がある。

困り果てていたところに。


リュックを背負い、ジーパンにTシャツ姿の女性が、

1人ぼつんと道端で頭を掛けて座り込んでいる。


どうした。気分でも悪いのでは!


ジュン「どうしました?大丈夫ですか?」

ジュン「えーっと。May I help you?」


英語合ってるのか?こんなんで通じるのか?

そもそもアメリカ人か。フランス人のようにも見えるが。


ジュン「ボンジュール!」


いろいろ言えば引っかかるだろう。

でもその後どうするよ。


女性 「日本語、わかります。」

ジュン「よかった。」


ラッキー。日本語、話せる。


ジュン「気分でも悪いのですか?」

女性 「いいえ。ウエストバックをどこかに置きて来て、なくなった。

    探したけど見つからない。

    お金と、パスポートが入ってて困ってます。」


それは大変だ。

せっかく日本に来たのに。

パスポートと財布がないとなると帰国することもできないのでは!


ジュン「警察に行かれましたか?」

女性 「怖くて行ってないです。」


ジュン「日本の警察は親切です安心してください。」

女性 「ワタシ、パスポートを持ってません。捕まりませんか?」


ジュン「分かりました。私が一緒に付いて行きましょう。

    もしかしたらウエストバック届いているかも知れないし。」

女性 「いいのですか?」


ジュン「困っている人がいたら助けるのが日本人です。」


オレ、日本人だっけ。


女性 「ありがとう、ございます。

    このまま日本を追い出されることはないですか?

    ワタシ、初めて日本にきました。」


ジュン「わかりました。私の知り合いということにします。

    それなら大丈夫です。」

女性 「いいのですか?」


ジュン「いいです。私を信じてくれるなら。」

女性 「信じます。」


ジュン「では交番へ行きましょう。」

女性 「ワタシの名前はアンナです。ロシア人です。」


ジュン「私は田中ジュンです。ジュンと呼んでください。

    アンナさん、日本語上手ですね。」


アンナ「まだまだ下手です。ワタシの友達はもっと上手です。」

ジュン「お友達と日本に来てるのですか?」


アンナ「いえ、1人です。友達はロシアにいます。」

ジュン「日本初めてで、1人で来るなんて凄いですね。」


アンナ「小さい時から日本に来るのが夢でした。

    働いてお金貯めて、やっと来れました。」

ジュン「学生でなく。働いてるのですか。」


アンナ「はい。働いてます。」

ジュン「私は、芸能事務所の社長をしてます。」


アンナ「芸能ってなんですか?」

ジュン「テレビの仕事です。これ名刺です。」


オレは、彼女に名刺を渡す。

といっても日本語の名刺だ渡しても意味があるのか?

裏面を英語にしておけばよかった。


アンナ「テレビの仕事をされてるのですね。」


交番に到着する。

落とし物が届いてないか聞いたが、残念なことに

ウエストバックはないと言われた。

一応、見つかったら連絡していただくよう、

オレの携帯番号と住所を記入しておいた。


ジュン「きっと見つかりますよ。」

アンナ「見つかって欲しいです。

    帰りのチケットも入っているので

    見つからないと帰えれないです。」


ジュン「見つからなかったら、私が力になります。

    元気出してください。」

アンナ「ほんとうにありがとうございます。」


ジュン「いつ帰る予定ですか。」

アンナ「1週間後に帰ります。」


ジュン「わかりました。

    せっかく日本に来たのだから観光しましょうよ。」

アンナ「お金ないです。バック見つかってからないと。」


ジュン「私が、おもてなしします。安心してください。」

アンナ「おもてなし?」


ジュン「私が、全てお支払いするということです。」

アンナ「いいのですか。凄く悪いです。」


ジュン「では、アルバイトしませんか?

    3時間だけテレビに出るだけです。

    何もしゃべらず、座ってニコニコしているだけいいです。」

アンナ「どんな番組ですか?」


ジュン「外国人が、日本の良いところと悪いところを発言する番組です。」

アンナ「アルバイトやります。その番組でしゃべってもいいのですか?」


ジュン「逆にそうして頂けると助かります。」

アンナ「わかりました。」


ジュン「あと、2人。番組に出したいのですが、

協力して頂いてもよろしいですか?

    その分、バイト代も増やします。」

アンナ「わかりました。撮影はいつですか。」


ジュン「今日の夜8時です。」

アンナ「日本語、話せたほうがいいですか?」


ジュン「番組に通訳がいますので、日本語が話せなくも大丈夫です。

    一言も言わず、座っているだけでもいいです。」

アンナ「分かりました。では、仲見世通りに戻りましょう。」


ジュン「今日は、どこに泊る予定でしたか?」

アンナ「直ぐそこのホテルへ予約してます。」


ジュン「では、チェックインして、リュックを部屋におきましょう。

    移動大変でしょう。」

アンナ「ありがとうございます。そうします。」


泊るホテルがちょうど、通り道にあったので、そのホテルへ入り

フロントへ行ったのだが、トラブルが発生した。


パスポートがないと宿泊させられないと言うではないか。

オレが、保証すると主張したが受け入れてもらえず。

頭に来たオレは、宿泊を断って、そのホテルを出た。


ジュン「すみません。

    勝手にホテルをキャンセルしてしまって。

    お詫びに、私がホテルを用意します。

    もちろん。お金はいりません。

    だから安心してください。」

アンナ「ありがとうございます。」


彼女の荷物を何とかしようと、近くで待機しているお抱えの車を呼び寄せる。

30秒ほどで目の前に到着する。

彼女の荷物を車に乗せるち、さっさと別の場所へと車を移動させた。


人探しはというと。

アンナは人見知りをしないのか?

次々と外国人に声を掛けてくれた。

しかもありがたいことに、人の好さそうな人を狙って声を掛けてくれている。

番組のためと気を使ってくれてるのだろう。


彼女は、英語も堪能なようで、手あたり次第に声を掛けた。

だが、ほとんどの人が今日帰国する人や、夜には別の場所へ移動するとかで、

なかなか見つからない。


まぁ、最悪彼女1人だけでもいい。

そろそろ移動しようかと声を掛けようとしたときに、2人のカップルを捕まえた。

偶然にも2人ともロシア人で、会話が弾んでいる。

ロシア語なのだろうな。

正直、何の会話をしているのかわからん。


アンナ「この2人がテレビに出てくれるって。」

ジュン「ほんとうか?それは助かる。」


アンナ「テレビの製作風景が見れるから喜んでいる。」


オレは、2人にお辞儀をして『ありがとう』の意思を見せた。


ジュン「一応、顔が映るけど大丈夫か聞いていただけますか?」


アンナは通訳する。


アンナ「大丈夫だって。テレビに映った映像をロシアに持って行きたいって。」

ジュン「放送は1ヵ月後になるけど日本にいますか?」


通訳する。


アンナ「1週間後に帰るそうです。

    2人の思い出になるから出るだけでもいいそうです。」

ジュン「分かりました。

    集合場所と時間を教えておきます。

    バイト代は放送終了後に渡します。」


オレは、英語のマップを2人手渡す。

アンナは、集合場所の位置を赤ペンで印をつけ、

ロシア語でいろいろと書き込んでくれのだ。

アンナを見つけたのはでかい。


ジュン「ありがとう。凄く助かる。」

アンナ「いえ、助けてもらっているのはワタシの方です。」


ジュン「では今日の夜、よろしくお願いします。」


オレは、カップルの2人にお辞儀をする。

同時にアンナはカップルに通訳してくれた。

ここで、カップルとは一旦別れた。


ジュン「すごく助かった。

    お礼にどこへでもご案内します。

    どこ行きたいですか?」


アンナ「はずかしいのですが。」

ジュン「何でも言って。」


アンナ「お腹がすいてます、お昼食べてなくて。」

ジュン「ああ!では食事に行きましょうか?

    何が食べたいですか?」


アンナ「牛丼。」

ジュン「そうですね。

    せっかく日本に来たのだから日本食がいいですよね。

    牛丼もいいですが。

    お金を出すのでもう少しいいものにしましょう?」


ジュン「すき焼きはどうです?」

アンナ「すき焼き、天ぷら、ラーメン、タコ焼き、

は食べてみたいと思ってたんです。」


ジュン「では、すき焼きにしましょう。

    私もお腹空いてきましたよ。」

アンナ「本当にいいのですか?」

ジュン「気にしないでください。」


ジュン「料亭がいいな。

    ドレスアップしましょう。」


♪プルル、プルル (着信音)


オレは、電話に出る。


ジュン「すみません。急用が出来てしまいまして。

    仕事なのですが。

    2時間ほど。この辺に居て頂いていいですか。

    必ず戻りますので。」

アンナ「私は大丈夫です何とかしますので。

    逆に付き合わせてごめんなさい。」


ジュン「気にしないで、好きでやってるので。

    では、アルバイトの前払いをします。」


オレは、アンナに10万円を渡す。


アンナ「こんなに!多くないですか?」

ジュン「それは先ほどのお礼です。

    テレビのギャラは別で番組収録後に渡します。」

アンナ「聞いていた通り、日本人は親切ですね。」


オレ、日本人じゃないけどな。


ジュン「日本人は、ルールさえ守れば、

    外国人とか関係なく、みんな親切にします。」

アンナ「ルール。」


ジュン「そ、ルール。

    ゴミを分けるとか。

    電車の中では大声出さないとか。

    人の列に割り込まない。

    とかとか。」

アンナ「難しいです。」

ジュン「すぐ慣れますよ。」

アンナ「分かりました。頑張ります。」


ジュン「すき焼きは夕飯にしましょう。

    私が居ない間、この辺で食べ歩きしててください。」

アンナ「はい、そうしてます。」


ジュン「では、急いでいるのでいきます。

    携帯渡しておきます。何かあたら連絡ください。」


アンナは携帯電話を受け取る。


アンナ「無理しないで、仕事を優先してください。」

ジュン「2時間後には戻りますから。」


と言って、オレは去った。


~~~ 不動産会社 ~~~~~~~~~~~~~~~~

時刻は、14:20


女性 「私、法人営業課の杉本と申します。

    プロダクションTESの社長さまでよろしいでしょうか?」

ジュン「はい。社長代行をしております。田中と申します。」


ジュン「すみません。ご迷惑をお掛けしまして。」

杉本 「いえいえ。こちらは問題ありませんが、

    事務所の方は大変ではありませんか?」

ジュン「そうですね。やっと落ち着いてきたところです。」


杉本 「社長さん。自らご来店されるとは思っておりませんでした。」

ジュン「期限が切れてるので、決済が早い方がいいと思いまして

    自ら伺った次第です。」


杉本 「それは大変ありがたいです。

    その件ですが、キープされてた赤坂の物件がですね。

    他にも借りたいというお客様がおりまして。

    先ほども電話で連絡したとおり、本日中に契約をしていただかないと

    先方の方にお譲りしなけれなりません。

    申し訳ありません。」

ジュン「こちらこそ、ご迷惑をお掛けしました。

    本来ならキープすることはできないのに。

    前社長から引き継ぎが出来てなく、この案件が漏れておりました。」


杉本 「本日、契約して頂けるということで、よろしいでしょうか?」

ジュン「はい。します。」


杉本 「では、このまま進めさせていただきます。」


杉本 「物件の確認から。

    柏木ビル10階のテナント。ワンフロア。

    契約は6カ月単位となります。」

ジュン「はい。それでお願いします。」


杉本 「内装工事の方もご依頼されてました。

    防音設備とレッスン場、およぼ10セットのデスク。

    変更はありますでしょうか?」

ジュン「いえ。変更はありません。」


杉本 「承知いたしました。

    内装工事代は変更がありませんので、前回提示した通り

    ワークスマイル社へ2300万円。

    フロアの賃貸長は月1000万円となりまして、

    初回は3カ月分のお支払ですので、柏木ビル様へは3000万円となります。

    弊社の仲介手数料は300万となります。

    合計して5600万円です。

    前回、お知らせした額から変わっておりません。」


ジュン「確か頑張って値引きして頂いたと伺っておりますが、

    待たせたあげく、金額が変わらないのはありがたいです」

杉本 「はい、お付き合いのあるPTES様ですので、勉強させていただきました。」


ジュン「了解しました。問題ありません。うちの当座でお支払いします。」

杉本 「では、柏木ビル様とは、この場で仮契約をいたします。」


杉本氏は、パソコンを使って物件の手続きをしている。


この後、仮契約が受理され、オレは書面による本契約にサインした。

柏木ビル側のサインが入れは正式となる。

なので、契約が成立するのは明日になるとのことだ。


彼女は、内装工事代と仲介手数料の支払い手続きをしませた。


杉本 「全ての手続きは完了しました。

    本契約の書類が届き次第、御社の方へ速達いたします。」

ジュン「後処理の方、よろしくお願いいたします。」


杉本 「はい。お任せください。」


なんとも笑顔の素敵な人だ。


ジュン「特にないようでしたら失礼します。」

杉本 「えー、そうですね。

    はい。大丈夫です。」


オレは、彼女にお辞儀をして、急いでアンナの元へ向かった。


~~~ 浅草仲見世通り ~~~~~~~~~~~~~~~~


現在17:10


予定よりも1時間オーバーしてしまった。

果たして、アンナは居てくれてるだろうか?

お金を手にしたので、彼女は戻って来ない可能性はある。


オレは、恐る恐るアンナに手渡した携帯へ電話する。


♪プルル、プルル


アンナ「はい。アンナです。」


あれ?近くでアンナの声が聞こえる。

見渡すと真横のお店で、携帯片手に品物を眺めている彼女の後姿が見えた。

あのジーパンとTシャツ、見覚えがある。

アンナだ。


ジュン「遅くなって申し訳ない。」

アンナ「大丈夫です。一人で楽しんでます。遅くなりそうですか?」


ジュン「いや、仕事はおわりました。もう近くにいますよ。」

アンナ「どの辺で・・」


アンナは振り向くと、オレと目が合う。


アンナ「もう。いつから居たんですか!」

ジュン「ちょうど今、来たところです。美味しいもの食べましたか?」


アンナ「お団子とか、あんこのを食べました。」

ジュン「これからすき焼き食べに行こうと思いますが、まだ食べれますか?」


アンナ「食べれます。お腹いっぱいにならないようにガマンしましたので。」

ジュン「それはよかった。では行きましょう。」


ボーディーガードが運転する車に乗り。

料亭へ向かう。


到着するなり、店構えを見てアンナは驚愕する。

ここは格式のある老舗の料亭だ。

屋敷のようなたたずまいで、各個室から見える中庭は情緒溢れている。


ジュン「どうかしたか?」

アンナ「想像していたお店と違ってて。

    ワタシ、こんな格好で入れますか?」


ジュン「どんな格好でも問題ないです。

    一応、食事用に服を用意しました。

    おそらく気にいってくれると思いますが。」


中へ入り案内された部屋へと入ると、着物が8着並べて立てかけてある。


ジュン「この中から気に入ったのがあれば、それを着てお食事しましょう。」

アンナ「凄くうれしいです。和服、着てみたかったんです。」


ジュン「それはよかった。着てみたいのありますか?」

アンナ「どれもいいです。ピンクもいいし。黄色も可愛い。迷います。」


ジュン「何着か羽織ってみるといい。

    私は、食事するところで待ってますので。」

アンナ「ありがとうございます。」


着替え部屋を出て、予約した個室へと入る。

オレは、座り中庭を眺める。

なんだか落ち着く。

考えてみれば、研究室もこちらもずーっと働きづめだ。

時にはリラックスるするのもいいな。


アンナ「お待たせしました。」


20分くらいして、アンナが部屋に入って来た。

彼女は水色の着物を選択したようだ。


ジュン「和服、どうかと思いましたが。とてもお似合いです。」

アンナ「本当ですか。これ凄く気に入りました。」


オレは仕事用のスーツ姿であるが、

彼女に合わせて和服にすればよかったと少し悔やむ。


ジュン「和服着ると、別人のように見えます。

    先ほどと同一人物とは思えない。」

アンナ「それは大げさですよ。」


アンナ「ありがとうございます。

    いろんな夢を叶えてくれて。

    ジュンさんに出会えてよかったです。」

ジュン「せっかく日本に来たんです。

    いい思い出で帰って欲しいですからね。」


ジュン「では、この後もありますし、食事にしましょう。」


まさか、外国人と2人きっりで食事をするとは思わなかった。

と言ってもオレからしてみたら日本人も外国人か。

とにかく、彼女が日本語出来てよかった。


料理が次々と運ばれてくる。

1品が一口サイズなのだが、何品あるかわからないくらい

料理がテーブル一面に並べられた。

メインはあくまですき焼きである。


アンナは、生卵には抵抗があったようだ。

オレは、日本の生卵がいかに安全かを説明して、恐る恐る食べてもらった。

そしたらすごくおいしかったらしく、パクパク食べてくれたのだ。


食事中。会話は弾み。

なぜ、日本が好きになったのか。どうやって日本語を覚えたのか。

アンナは永遠と話し続け、オレは聞き役に徹した。

それはオレにとってとても居心地がいい。

なぜなら、仕事ならマンツーマンでも会話はできるのだが。

他愛もない会話はいまだに苦手だからだ。

彼女の方から会話を振ってくれるから助かる。


アンナ「一日一緒にいますけど、お仕事は大丈夫ですか?」

ジュン「心配しないでください。社長なので作業は意外と少ないんです。

    今日もテレビに出演して頂く外国人を探してたくらいですから。」


ジュン「何それ!」

アンナ「マイ、マヨネーズですよ。」


ジュン「見ればわかります。」

アンナ「ジュンはマヨネーズ持ってないの?

    日本人はみんな持ってるって聞いてます。」


ジュン「それ、どのからの情報だ。アニメか?ドラマか?

    マヨネーズ持参している人なんて見ないよ。」

アンナ「えーー。そうなんですか。

    でも、このお肉にマヨネーズ付けるとさらに美味しいよ。

    日本のマヨネーズは最高です。何にでも合う。」


いままで他人と食事を共にするのが苦痛だったオレが、

アンナとの食事が楽しい。

自分が最近変わって来たことを実感する。


すき焼きって美味しいな。

実は、オレもすき焼きは初体験だったのだ。

表情には出さなかったが、もしかしたらアンナ以上に興奮したかもしれない。


楽しい時間はあっというまだ。

時刻は19時。

食事を終わらせ、急いで着物を返却する。


今日一日はすることがないと思っていたが、

気が付くとかなりハードな日になっている。

次は本日メインのテレビ収録が待っている。


午前中に捕まえた外国人カップルが、

待ち合わせ場所に来てくれるかが心配だった。

その時はOKだったものの、気持ちが変わることなんてよくある。

7割方、すっぽかされるものと思っていたが、

待ち合わせ場所へ行くと、ちゃんと待っててくれていた。


外国人カップル2人と合流し、急いでテレビ局へ。


テレビ局は珍しかったのだろう。

3人は絶えず興奮していた。

普通の人は、テレビ局に入ることはないので

日本でなくても興奮するのは当然だろうな。


出演者は、司会者の2人以外は全員外国人で、

いろいろな国から50名ほど集められていた。

私が手配した3人もその中に含まれている。


番組は、当然日本語で進行して行く。

日本語が理解できない外国人が半数おり、その人達には英語のみだが、

片耳の用のヘッドホンが渡され同時通訳を聞くことができるようになっていた。


番組の内容は、スタッフが事前にアンケート調査した

日本に『驚いたところ』、『幻滅したところ』を

ランキング形式で結果を伝え、

それについて出演者の外国人に体験談や感想をコメントするスタイルである。


3時間の収録は難なく無事に終えることができた。

3人は、ほとんど発言してない。

出演者の人数が多かったから仕方ないだろう。

数少ないその発言に対して特に印象に残っていないので、

まづ放送では使われることはないと思われる。


まぁ、自分たちは人数集めで出演しているという自覚があり、

日本のテレビ番組の制作風景が見れたので、

観光の1つと考えれば大満足であったことは間違いない。


ささいな額だが、アルバイト料ももらえたし、

また同じような収録があれば出たいと言ってくれた。

とりあえず、不満がなかったのなら問題なしだ。

私の外国人3人の手配もノルマが達成できたしいいずくしだ。

今日は最高の1日になった。


収録後、テレビ局を出ると、2人のカップルは次に行きたいところがある

ということでその場で去って行った。


アンナは、今日泊るところがない。

オレとアンナは、ボディーガードが運転するハイヤーで高級ホテルへと向かう。

到着した先は、何とも懐かしいホテルだ。

大分経つが外観は変わってない。


そう、9年前にウララと泊ったホテルである。

ホテルに入ってフロントへ行くと、ウララとのことを思い出す。

みすぼらしい格好で宿泊を断られたんだよな。

ブラックカードを見せたらホテル側の態度が急変して2人して笑ったんだっけ。

その時のことを思い出すと笑みがこぼれてしまう。

と同時に涙がでそうになる。


来る前に予約してあったので、名前を言うと最上階のお部屋へ案内してくれた。

そして部屋に入る。


アンナ「すごーい。部屋が広い。外の景色もいい。」

ジュン「気に入ってくれてよかった。」

アンナ「気に入るも何も、こんな部屋見たことないです。」


ここはウララとの思い出の部屋だ。

やばい、オレは別の意味で感動してる。


ジュン「ここ1週間借りてるから好きに使ってかまわない。

    寝室はあっちね。

    こっち来て!」


アンナはオレの後に付いて来る。


ジュン「ここがアンナの寝室ね。」


中へ入ると、ウォークスルーの通路がある。


ジュン「適当に洋服用意しといたから好きなの使っていいから。」

アンナ「どれ着てもいいのですか?」


ジュン「アンナのために用意したものだから。

    どれでも好きに使って。

    これレンタルじゃなくて買ったものだから、

    汚しても気にしなくていいから。」

アンナ「買ったんですか?こんなに?」


ジュン「ああ。気に入ったのがあったらロシアへ持って帰ってもいいから。

    でも3着くらいにしといてね。

    あまりにも数が多いと空港で捕まるから。」

アンナ「分かりました。ジュンは今夜はどうさるのですか?」


ジュン「私はマンションへ戻ろうと思っている。」

アンナ「こんな広いところ、1人は寂しいです。」


ジュン「とりあえず、今日の成功を祝して乾杯しますか?」

アンナ「しましょう、しましょう。寝るにはまだ早いでうよ。」


ジュン「部屋の外でまってますので、着替えてきてください。」

アンナ「どれ着てもいいのですよね。」

ジュン「はい。お好きなものどうぞ!」


15分後。

彼女はドレス姿で現れた。

Tシャツ、和服とは違い。別の側面を彼女は見せた。

かなり大人に見える。そして美しい。


ジュン「そのドレス、お似合いですよ。」

アンナ「うれしいわ。」


一つ下の階にあるバーへ行く。

店に入って、夜景の綺麗な窓際のテーブルを選択した。

さてどうしよう。

勢いでバーに来たが、オレは酒が弱い上に美味しいと思えない。

何を注文しようか。


我々の後を付いて来た店員が、2人が着席したのを見計らって、

おすすめのアラカルトやデザートを一通り説明した。


アンナはお店がお勧めしたカクテルを注文する。

オレは、迷ったあげくジャスミン茶を注文した。

アンナには「飲まないの?」と迫られたが、

お酒が苦手であることを説明し納得してもらった。


アンナ「東京は、夜景も最高です。」

ジュン「オレも気に入っている。

    凄いよな、これ全部、人の手で作ったんだよな。」


アンナ「日本人がすごいんですよ。

    今日のテレビ収録でも話題に出てましたが、

    電車は時間ピッタリに来るし。

    コンビニは24時間やってて、何でも買えるから便利だし。

    販売機がいっぱいあるからいつでも飲み物が手に入るし。

    ゴミ箱がないのに道路は綺麗。

    凄すぎます。

    こんな国、日本しかないです。」

ジュン「どこの国だっていいところはありますよ。

    日本が気にいって頂けるのはとてもうれしいです。」


アンナ「私以外の外国人も同じ事を言う人いっぱいいます。」


2時間ほど会話したところで、アンナは何杯もお酒を注文し、

ついにはベロンベロンになって酔っぱらい、寝てしまった。

オレはアンナをお姫様だっこで彼女の寝室まで運ぶ。


お姫様だっこって、思い描いていたよりきつくて楽しくないことは分かった。


とあえず、服のままベッドに寝かせる。

酔っぱらいのアンナを一人にはしておけないので、

結果、オレも別の部屋で一夜を共にすることとなった。


朝6時。


♪ジリジリーー、ジリジリーー(チャイム)


客人 「ジュンさん!ジュンさん、居ますか?」

ジュン「はーい。ちょっと待って。」


オレは部屋の扉を開けると。

警察官が2名、正面に立っていた。


警察官「田中ジュンさん、本人ですか?」

ジュン「そうですが。何か?」


警察官「アンナ・ツェラスキーさんはどちらに?」

ジュン「この部屋におりますけど。」


警察官「アンナ・ツェラスキーさんは、密入国の容疑が掛かっております。

    アンナさんと一緒に署までご同行願えないでしょうか?」

ジュン「アンナが密入国者?そんなバカな。」


警察官「とにかく署までご同行願います。」

ジュン「いいけど。着替えるので10分待っててくれ。」


ここはホテルの最上階である。

逃げることはできないし、任意同行であるから、

警察官は我々が出て来るのでを廊下で待っている。


ジュン「アンナ。アンナ起きろ!」

アンナ「こんな朝早くどうしたの?」


ジュン「今、警察が来てる。1つ聞きたいことがある。

    大事な話だ。密入国して日本に入って来たのか?」

アンナ「いいえ。ちゃんと成田で入国審査して入りましたけど。」


ジュン「オレには嘘を付かないでくれ。信じていいんだな?」

アンナ「パスポート無くしたのは本当です。

    頑張ってお金を貯めて、あこがれの日本に来たんです。

    密入国なんてしてません。

    何かの間違いだと思います。」


ジュン「そうか。オレはアンナを信じる。

    全力で君を守るから一緒に警察署へ行ってくれないか?」

アンナ「わかりました。

    調べれば、無実だと分かるはずです。」


ジュン「急いで着替えてくれないか。

    オレは隣で待っているから。」

アンナ「分かりました。」


4分して、寝室からアンナが出て来る。


ジュン「これから警察に行って、いろいろ聞かれると思うけど。

    嘘を付かずに答えると約束してくれ。

    でないと、アンナを助けられない。」

アンナ「はい。」


ジュン「行こう。」

アンナ「怖いです。」


ジュン「大丈夫。オレが守る。信じてくれ。」

アンナ「はい。」


部屋を出て、警察官と一緒にロビーを抜け、ホテルの外に出る。

その間、通りゆく人たちは、何も言わないが、

このホテルで何をしたの?という顔をする。


朝から最悪だ。


そして、パトカーに乗り、警察署へ向かって走り出す。

また悪いことが起こる予兆だ。

何でこうオレは運が悪いのだろう。


警察署へ到着すると、オレとアンナは別々に事情聴取を受ける。

オレは質問されたことに淡々と回答した。


事情聴取を受けている最中に、アンナのウエストバックが見つかった

という報告が入る。

中にはパスポートと財布が入ってて、何も取られた形跡はない。


事情聴取の途中で、アンナは無事、無実であることが判明し、

2人は事情聴取が中断され解放された。


密入国者は、本当に実在しているようだ。

連中は薬の売人で、警察内部で秘密裏に調査している。

アンナがその売人の一人に特徴が似ており、

パスポートを所持していないことから

別人を名乗って潜伏しているのではと疑われたということらしい。


要するに警察の誤認だったのだ。

なんともお騒がせな連中だ。

そのせいで、オレはあのホテルで犯罪者扱いになってしまったではないか。


♪プルル、プルル(着信音)


事務所からの電話だ。


社員 「社長大変です。今、どちらに居られるのですか?

    ニュースで社長が話題になってます。」

ジュン「ニュースの内容はんだ?」


社員 「密入国者の女性をかくまっているという記事です。

    社長とその女性がホテル入っていくところと、

    警察に連れられて2人がホテルから出て来るところが

    写真で掲載されてます。

    今朝のスパイラルという写真週刊誌です。

    各局でこの件について放送されてます。

    これは事実なんですか?」


ジュン「それは嘘だ。間違っている。」

社員 「では、写真は捏造なんですね。」


ジュン「いや。」


・・・


ジュン「ちょっと待て。今から事務所に向かう。」


くっそー、週刊誌が、ホテルに張り付いてたのか。


ジュン「アンナ申し訳ない。急用の仕事ができた。

    ホテルは好きに使っていい。」

アンナ「もともと一人で観光する予定でしたらから大丈夫です。

    財布とパスポートも戻って来たし、もう心配はありません。

    いろいろと、ありがとうございました。」


ジュン「仕事が終わったらホテルに戻るので、

    どこへ行ってもいいが必ずホテルに戻って来てくれ。」

アンナ「はい、泊まる所がないので戻りますよ。」


ジュン「あと、昨日の携帯を渡しておく。

    もしかしたら連絡するかも知れない。」

アンナ「分かりました。」


と言って、オレはいそいで事務所へ向かう。



~~~ プロダクションTES ~~~~~~~~~~~~~~~~

事務所に入るとユイが待ち構えていた。

最悪だ!

引き返したいが目が合ってしまった。

よりによってこんな時に何でユイがいるんだ。

こんな時だから居るのか。


ユイ 「ちょっと、これどういう事か説明してくれない?」


ユイが問題の写真週刊誌をオレに見せる。


ジュン「オレが、その女性と朝までホテルに居たのは事実だ。

    だが、そこに書いてある密入国者というのはでっち上げだ。」

ユイ 「あなたがだれとイチャイチャしてようと問題ないし興味もないわ。

    私が言いたいのは朝からこのニュースが流れてるの。

    苦情も沢山着てるわ。

    どうするつもりな訳?」


ジュン「週刊誌サイトで、謝罪会見を開くよう抗議しに行くつもりだ。」

ユイ 「謝罪なんてするかしら。

    そんなの今まで見たことないわ。」


ジュン「やってみなきゃわからんだろう。」

ユイ 「大体、この外人とホテルに入ったのは事実なんですよね。」


ジュン「ああ、パスポートと財布をなくしたというから保護しただけだ。」

ユイ 「あんた騙されてるんじゃないの?」


ジュン「警察も疑っていたが、先ほど無実であることが証明された。」

ユイ 「ほんとなんでしょうね。」


ジュン「嘘だと思うなら警察に問い合わせてみればいい。」

ユイ 「100歩譲って週刊誌が謝罪しても。

    この騒ぎはもう止まらないわよ。」


社員1「割り込んですいいですか。社長大変です。」

ジュン「どうした。」


社員1「朝からうちの株価がストップ安になってます。」

ジュン「一時的なものだ。安心しろ。」

ユイ 「本当に大丈夫なのよね!」


社員2「社長大変です。」

ジュン「どうした。」


社員2「昨日のテナント契約の件ですが。

    朝から不動産屋に問い合わせしても連絡が取れません。

    メールしてもエラーで返ってますし、

    ホームページも消えてます。」


どういうことだ。何が起きてる?


ジュン「柏木ビルの方へ問い合わせくれないか?」

社員2「先ほどしました。

    契約書ことは聞いてないとのことです。」


ユイ 「これ、どう考えても詐欺よね。」


詐欺?

詐欺だと。

オレが騙された?

オレが。

嘘だろう。

くっそ。あの女。

人の好さそうな感じ見せて。

内心ではオレの事を笑ってたのかよ。


ジュン「この会社が反社かどうかだれかチェックしたのか?」

社員2「いえ、だれも。前社長が独断で進めていたので。」


ユイ 「社長もグルってこと?」

社員2「なんともいえません。社長も騙されたかもしれませんし。」


あの女を捕まえて100倍返しだ。

どうやって見つければいい。

そもそも前社長はインチキ会社とどうやって連絡を取ったというのだ。

もともと存在しない会社なのに。


ジュン「少なくとも前社長は仲間ではない。

    こんな簡単にバレる嘘をしたら自分がつかまるからな。」


前社長を問いただしたいところだが、今は警察に捕らわれの身だ。

コンタクトがとれない。


ユイ 「お金は払ったの?」

ジュン「ああ。昨日オレが契約して事務所の口座で振り込んだ。

    2000万ほど振り込んだはずだ。」

社員2「額は2600万になります。」

ユイ 「3000万もじゃない。」


社員1「社長大変です。」

ジュン「今度はなんだ。」


社員1「たった今ですが、神楽芸能が、

    うちの事務所を買収すると発表されました。

    株による買収だそうで、本日から買い占めを進めるとのことです。」

ジュン「株価が急落したところを狙ってきたということか。」

ユイ 「神楽芸能は、うちのRSテクノロジー社が欲しいだけなのよ。」


ジュン「RSテクノロジーの社員をヘッドハンティングしようとしたと聞いている。」

ユイ 「そ。結果失敗したけど。

    そしたら次に事業提携を持ち掛けてきたのよ。

    前社長は激怒して断ったけど。

    当然よね。ヘッドハンティングしようとしたのだから。」

ジュン「よっぽどこの会社が欲しいんだな。

    今度はうちの事務所ごと頂く計画か。」


ユイ 「あんた。他人事のようだけど。

    今、最悪な状態よ。

    詐欺事件もニュースになったら本当に終わりね。」


社員1「社長大変です。」

ジュン「まだ、あるのか。」


社員1「神楽芸能が10%株を買い占めて、

    筆頭株主になりました。」

ジュン「これはさすがにまづいな。」


次から次へと何が起きてるんだ。

今日は朝から警察につれていかれて最悪だ。


ユイ 「何か打つ手はあるの?」

ジュン「神楽が買う前に、オレが株を買えるだけ買う。」


オレはPMCへ電話し、うちの株を言い値で買えるだけ買うよう指示を出す。


ジュン「これで一般の株は買えなくなるはずだ。」

ユイ 「乗っ取られる心配はないのね。」


ジュン「いや。筆頭株主になってしまったので発言権を持ってしまった。

    問題なのは他の筆頭株主が、神楽芸能へ譲渡しないかどうかだ。

    これ以上影響力を持たせてはならない。」


ユイ 「もうこの事務所、問題だらけじゃない。

    どうなるのよ。」


事務所内の空気は重い。

スタッフは、皆、ここ(事務所)はもう潰れるという雰囲気でいる。


オレはフロア全体に聞こえるよう大声をだす。


ジュン「社員ならびに所属タレントの諸君。

    手を止めて聞いてくれ!


    今回の騒動は全て私の責任である。

    社長自ら足を引っ張っぱるようなことをしてしまった。

    大変申し訳ない。

    特にクレーム対応をしているスタッフのみなさんには感謝しかない。

    辛い思いをされてしまい申し訳ないく思っている。


    立て続けに悪い報告が上がっている。

    この中にはもう、この事務所は潰れるかもと思っている人も居るだろう。

    責任を取って辞めろと思っている者もいるに違いない。


    辞めるのは簡単だ。

    だが、この状況で投げ出すわけにはいかない。

    辞めるにしても名誉を回復してからだ。


    私がここを守る、と言っても説得力がないことは重々承知している。

    3日だけ。猶予をくれないか。

    まづは信頼回復から取り掛かる。

    それで改善しないようなら責任をとって辞表を提出する。

    だから3日だけ時間をください。

    以上」


ユイ 「世論のイメージはかなり悪いわ。

    この場合、信頼を取り戻すには通常2、3年はかかるものよ。

    3日だなんて。無茶よ。どうするき?」

ジュン「今は、何も策はない。

    手始めに週刊誌からだ。

    こちらが無反応だと、悪いイメージが先行し正当化されていく。

    内容には嘘がある。週刊誌に乗り込んでみる。」


ユイ 「私も付いて行くわ。」

ジュン「頼もしいが、遠慮する。

    ユイのイメージも悪くなったら本当に取り返しがつかなくなる。」


ジュン「ユイは、今起きている、騒動には首を出さずだまりを決めてくれ。

    少なくともオレが協力を依頼するまでは。

    最悪の時は、ここの社員を引き連れて、ユイに独立してもらう。」

ユイ 「分かったわ。あなたの指示に従う。

    一ついい?

    あなたは私に土下座させると豪語したの覚えてる?

    3日後に退職するだなんて許さないから。」


ジュン「そうだな。

    ユイに土下座をさせるんだったな。

    是非とも見たいものだ。

    それまでは何があっても辞められん。」



~~後日談~~~~~~~~~

あの後のことを少しだけ話そう。


杉本という名前、今思い出しても腹が立つ。

その詐欺師は、予想通り偽名であった。

にもかかわらず、杉本はオレの記憶に媚びりついている。


オレの人生において、あんな騙され方をしたのは

相当な衝撃だったかな。


あの女にどうにかして100倍返したく。

オレは事務所を出て、居ても立っても居られずPMCへ連絡を取ったのだ。


♪プルル、プルル


諜報員「ジュン様、如何されましたか?」

ジュン「詐欺にあった。

    オレから2600万だまし取った女がいる。

    今、メールで情報を送った。

    会社名も、女の名前もおそらく偽名だろう。

    杉本と名乗るこの女を見つけ出して欲しい。

    海外に逃げられてないといいが。」


諜報員「了解しました。

    おそらくこの手の者は下っ端であるから、

    金は全て上に吸い取られていると思われます。

    ですので、都内で詐欺を続けているものと推測されます。

    念のため全国に手配致します。」


ジュン「よろしく頼む。」

諜報員「女性を発見したら拘束しますか?」


ジュン「いや、手出しはするな。

    発見したら居場所を追跡するだけでいい。

    あとはオレがやる。」

諜報員「了解しました。」


という、やり取りがあってオレの部下を使って

あの詐欺師野郎を探す指示を出した。


そして、もう一つの悩みの種があった。

オレはプロダクションTESに就任した当日


ジュン「私が社長代行を務める以上、

    この事務所の未来安泰につながるよう

    努力するつもだりでいる。」


と大口を叩いたのだ。

オレが来てから良くなるどころか、事務所のイメージは

悪くなる一方であの日は最悪な状況だったと今でも忘れない。


3日で何とかすると言ったものの

世論を相手にしなければならないはめに陥った。

そこで、経済界の裏ボスに協力を依頼することにした。


♪プルル、プルル


前田 「ようジュン。週刊誌見たぞ。

    お前、えらいことになってるな。」


ジュン「そうなんだ。かなりまいっている。

    まさかオレに週刊誌が張り付くとはおもわないからな。」


前田 「出版社に圧力を掛けて欲しいという依頼か?。」

ジュン「それもある。

    神楽という芸能事務所に買収されそうになってる。

    と言っても既に筆頭株主になってしまったが。

    これ以上、力を持たせたくない。」


前田 「おお、それも見たぞ。」

ジュン「他の筆頭株主に神楽へ株券を譲渡しないよう働き掛けてくれないか。」


前田 「わかった。

    だが、あてにするなよ。

    プロダクションTESは、前社長、現社長の不祥事続きで

    株価が下がり続けている。

    しかも業績が悪い。ダブルパンチだ。

    他の筆頭株主が手放そうとするのは自然な流れだろう。

    防ぐのは難しいかも知れん。」

ジュン「元はと言えば、これはオレが招いたことだ。

    言われた通り、問題は買収だけではない。

    開いた時間でいい。

    手伝ってくれないか。」


前田 「まぁ、押し付けた責任は感じている。

    協力は約束しよう。」

ジュン「頼む。」


と言った感じで前田に協力してもらう体制を作った。

まぁ、こんな連絡をしなくても奴は動いてくれるというのは理解している。

リアルに状況を把握してもらってた方が、事前に手を打ってくれるのではないか、

という期待を込めての依頼だった。


結果、予想以上の働きをしてくれた。

我ながら、前田への協力要請はファインプレーだったと思っている。


-- 6話 完 --


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― 新着の感想 ―
[良い点] 実は宇宙外生命体であり、日本人ではないとの、ジュンのセルフツッコミが面白かったです。各話のトラブルや展開、話題なども独特で、今回の外国人スカウトや、警察に任意同行されてからの急展開など、他…
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