表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

第四話 ★祝★ 女性のお仲間が増えました

~~発着室~~~~~~~~~

ここ最近、オレはマンションへは帰らず、発着室で寝泊まりを続けてる。


ここは高層ビルの最上階。昼も夜も合わせて景色は最高だ。

だが、室内に異質なものが存在している。


棺桶だ。

なんでこんなものがここにある。

しかも中に人が入っているし気色わるい。

まぁ、今更ぼやいても仕方ない。

まともな人間なら、こんな部屋に寝泊まる奴はいないな。


なぜ、オレはここで寝泊まりしてるかというと、ある装置を組み立てていたのだ。

それがついに完成したのである。

配線と計器類が正常を示してることをチェックする。

この確認作業はこれで何度目かはわからない。


そう、今からやろうとしていることは、一発勝負で失敗が許されないことだから。

どうしても成功させたい。

その一心で気持ち悪い部屋に寝泊まりして耐えたのだ。


いつでもGOできる。

あとはボタンをおすだけ。


何度、確かめただろう。

計器類の数値は、異常ないことを再確認する。


もう腹はくくった。

成功してくれと手を組み神へお願いする。

おオレが神じゃないのか?

と思いつつも、成功率が上がるなら何でももしてやるという思いだ。


棺桶の側面にあるボタンを押す。

頼む―!


♪ウィーーン


ふたがゆっくりと開く。

中には全身黒いタイツ姿の美女が眠っている。

初の女性型ホムンクルスの起動である。


棺桶のふたが完全に開くと同時に女性型ホムンクルスが目を開く。

そして、ゆっくりと上半身を起こす。


女性 「マネージャー、ここどこですか?」

ジュン「アカリか?アカリだよな?」


思わず女性に抱き着いてしまった。


アカリ「えーー。」

ジュン「失礼。うれしくてつい。」


アカリ「アフレコが終わったところまでは覚えてますけど。

    どこですかここ?

    何で私タイツ姿なんですか?」

ジュン「落ち着いて聞いてくれ。

    君はゲームのアフレコが終わった後、意識を失った。

    そして、それから2週間経過して目覚めたんだ。」


携帯で現在日時を見せる。


アカリ「うそ、2週間も眠ってたんですか?

    私の身体、大きくなったような気がするんですけど。

    こんなに足細くて長かったっけ?

    やつれたのかしら?」


ジュン「アカリは生まれ変わったんだ。

    鏡で自分の顔を見るといい。」


携帯を渡し、自分の顔を映し出す。


アカリ「だれ顔?、私?嘘でしょ。」

ジュン「立てるか?」


オレは手を差し伸べ、アカリを立たせる。


アカリ「マネージャと同じ身長だ。」


アカリは、自分の手で、ウエストだったり、腕とかを触る。


アカリ「ほんとうに私の身体じゃない。」

ジュン「アイドルのアカリは死んだ。君は生まれ変わったんだ。」


ジュン「歩けるか? ゆっくり歩いてみてくれ。」


オレは手を添えて、彼女が歩くのをサポートする。

大丈夫そうだな。


アカリ「この体はなんですか?」

ジュン「そのまえに、シャワーを浴びた方がいい。詳しい話はその後だ。」


アカリは服を選び、シャワールームへ行く。

そして20分後。


素足でワンピース姿のアカリが戻って来た。


アカリ「この体型にこの服、変じゃないですか。」

ジュン「そんなことないと思うけど。」


前田が用意してくれた女型ホムンクルス。

元々は同僚に使わせるために、用意したものだが、アカリに使ってしまった。


身長が175センチで、細身のモデル体型、色白で顔は欧米人ぽいが髪は黒だ。

前田に美人を用意してくれと頼んだらモデル体型のこの子が送られて来た。

前田の中では美人=モデルなのでだろう。


アカリ「この状況。説明していただけますか?」

ジュン「アカリは生まれ変わったんだ。

    分かりやすく言うとその身体に乗り移ったというのが正しい。

    その体は至って健康。

    もう、病気に苦しめられる心配はない。」


アカリ「そういうこと聞きたいんじゃないわ。

    どうやってこんなことできたの?

    別の身体に乗り移るなんて今まで聞いたことがないわ。」

ジュン「だろうな。

    この地球上でこのことを知っているのはアカリ。

    お前だけだよ。」


アカリ「私だけって。もしかしてマネージャーもなの?

    その身体、本物?」

ジュン「正直に言う。オレも乗り移っている。

    オレの本当の身体は別のところにある。」


・・・


ジュン「オレはこの世界の人間ではない。」

アカリ「もしかして、宇宙人なの?」


ジュン「宇宙人ではない。宇宙の外から来たからね。」

アカリ「宇宙の外って何?宇宙に外なんてあるの?」

ジュン「異世界人だと思ってもらえれば、想像つくかな。」


アカリ「もういいわ。私には理解できないから。」

ジュン「信じるのか?」


アカリ「この身体じゃ、信じるしかないでしょ。」


アカリ「でも、これって秘密じゃないの?」

ジュン「確かに秘密だ。

    だが世間にばらしたところで誰も信じないだろう。」


アカリ「私をこんな姿にさせて何をさせる気?」

ジュン「君を無理やり延命させた理由は、

    最後のお別れが言えなかったからだ。」


アカリ「それだけ?」

ジュン「それだけ。何か、おかしいか?」


アカリ「おかしいでしょ。

    もしかして私みたいな人って他にもたくさんいるの?」

ジュン「いや、アカリだけだ。

    というか、仕事が順調に進んで、これからという時に。

    別れを言わず君は倒れた。

    楽しかったんだ、あの時間が。

    全力で仕事しているアカリが眩しくて、オレは凄く刺激を受けた。

    だから、きちんと一度お別れを言いたい。

    その一心で後先考えず蘇させた。

    実は初めての試みだった。

    うまくいく確率は50%しかなかったんだ。

    こうして、また君と会話ができてうれしいよ。」


ジュン「迷惑だったかな?」

アカリ「マネージャの気持ちはもうれしいわ。

    でも、なんか複雑。

    私、人間じゃなくなった感じがする。」


ジュン「今は動揺しているだけだ。

    時間が経てば何とも感じなくなる。」

アカリ「顔も声も何もかも違う。

    私を知っている人は、私を認識してくれない。死んだみたい。」


ジュン「そうだ、アイドルのアカリは死んだんだ。

    いいじゃないか。リセット出来て!

    新しい人生をここから始めればいい。」

アカリ「そうね。前世の記憶を持ったまま、生まれ変わったと思えは最高よね。」

ジュン「まだ違和感があるかもしれないが、ポジティブに捕えてくれると嬉しい。

    先の事を考えよう。」


アカリ「先の事ねぇ。アイドルはやっちゃだめなの。」

ジュン「身体がなじむまでは、しばらく激しい運動は避けた方がいい。」


アカリ「私からアイドルを取ったら何も残らないわよ。」

ジュン「そんな事はない。声優だって司会だってできたじゃないか。

    アイドルでやって来たことは無駄じゃない。」

アカリ「まぁ、職種によるかもね。」


ジュン「ゲーム、グノーシス覚えてるか。」

アカリ「忘れるわけないでしょ。

    私の中では、さっきナレーションを取り終えたんだから。」


ジュン「ホームページに行けば君の声が聴ける。見てみるか?」

アカリ「今はいいわ。前世のことはしばらく思い出したくない。」


ジュン「そうか。」

アカリ「でもゲームが発売されたらプレイしてみたいな。

    1人のゲーマーとしてレイナを見たい。」

ジュン「わかった。」


アカリ「それで、これから私は何をすればいいのかしら。」

ジュン「1日中、ぼーっとしてるのも暇だろう。

    身体を早く馴染ませた方がいい。」


ジュン「そこで提案だ。

    その体型を生かしてモデルの仕事はどうかと考えている。」

アカリ「そりゃ女の子なら誰しも1度はあこがれる職業だけど。」


ジュン「実は明日、モデルのオーディションがあってエントリしてある。」

アカリ「涙が出そうになるわ。

    マネージャーが異世界人だということを忘れてしまいそうになる。」


ジュン「どうする?」

アカリ「エントリーしたんでしょ。出るわよ。」


ジュン「OK。明後日、大阪で開かれる大阪コレクションがあって、

    3人のデザイナーによる新作のファッションショーが開催される。」

アカリ「モデルに欠員が出たのね。 」

ジュン「流石だな、話が早くていい。」


アカリ「でも大阪で開かれるのに、なぜ東京でオーディションなの?」

ジュン「いや、大阪でもやる。東京と大阪で同時オーディションだそうだ。

    採用人数は知らされてないが1人ではないらしい。

    その場で合否が告げられ、合格すれば、その日、即、大阪行きだ。」


アカリ「合格は無理でしょ。私、モデルの仕事なんてしたことないんですけど。」

ジュン「おいおいどうした。本番じゃない、オーディションなんだぞ。」


アカリ「そうね。オーディションを辞退するなんて変よね。」


アカリ「1つお願いしたいことがあります。」

ジュン「なんだ。」


アカリ「オーディションを受ける前に、専門学校へ行って

    最低限基礎だけでも身に付けたいわ。」

ジュン「確かにその通りだ。

    素人がオーディションに参加しても100%落ちるのは目に見えている。

    ちょっと待ってくれ。」


オレは電話をする。

会話の途中


ジュン「プロがマンツーマンで指導してくれることになった。

    今日と明日の2時間づつだ。いいよな?」


アカリは無言でうなずく。


ジュン「それでお願いします。はい。はい。では失礼します。」


オレは電話を切る。


ジュン「話しはついた。」

アカリ「相変わらずね。あなた何者なの?異世界人だったわね。」

ジュン「調子が出て来たようだな。」


ジュン「練習するスタジオを抑えた。今から向かおう。」

アカリ「まさかマンツーマンで教えていただけるなんて。

    プロってだれですか?」


ジュン「ハルカって言ってた。

    Gジェネレーションの専属モデルだって、知ってるか?」

アカリ「知ってるも何もテレビに出てる有名人よ。

    日本人で知らない人なんていないわ。」

ジュン「そうかい。」


アカリ「やばい。ハルカさんに会える。うれしい。うれし過ぎる。」

ジュン「おいおい、目的を失ってるぞ。」

アカリ「やる気でました。身体とか、もはやどうでもいいわ。

    ハルカさんに早く会いたい。」


ジュン「服装は体のラインが見える格好にしてと指示された。

    あと、靴はパンプスとハイヒールの2種類持って来てだと。」

アカリ「わかりました。」

ジュン「準備して、行こう。」


アカリ「1ついい?確認なんだけど。」

ジュン「1つじゃなくてもいいが。」


アカリ「これから私、何て名乗ればいい?」

ジュン「オレの中では、君はアカリだ。

    アカリでいいんじゃないか。苗字なしで芸名アカリ。」

アカリ「分かったわ。そう名乗ることにする。」


アカリ「もう1ついい?

    この身体、元々生きてたんですよね。

    モデルなんてやり出したら、知人が会いに来たりしない?」

ジュン「安心しろ。

    その身体は、100年前に亡くなった人の細胞から作ったクローンだ。

    死んだ人に乗り移っている訳ではない。

    なので、公の場に出ても君を知るものはいないから安心していい。」

アカリ「そうなの。この身体の人生はどうだったろうって思っちゃって。

    それを聞けて安心しました。」


オレたちは、車で予約したスタジオに行き、ハルカ先生と合流した。

オレはハルカ先生と挨拶を交わすと、アカリを置いて、去った。

これは、2人きっりで指導したいというハルカ先生の要望に応じたまでである。


練習が始まるまではアカリはハルカ先生に緊張していた。

いざ練習が始まると、アカリはハルカ先生の言葉を真摯に受け止め全力で応えた。

そんなアカリを見て、ハルカ先生も次第に篤くなり、

出し惜しみなく自分の持っている技術を伝えたのである。


2時間という時間は初心者にとってはあっという間だ。

完全燃焼する前に練習は終わりを告げる。

オレは、終わる10分前にスタジオの外で立って待機していた。


ハルカ「お疲れ様。」

アカリ「今日はありがとうございました。」

ハルカ「仕事だから気にしなくていいわ。」


ハルカ「あなたセンスがいいわ。モデル以外にも何か経験があるのかしら?」

アカリ「黒歴史なんでけど。地下アイドルをやってました。」


ハルカ「だからね。あなたに目線が行くわ。それって才能だと思う。」

アカリ「お世辞でもうれしいです。」


ハルカ「次あるので、失礼します。明日もここで。」

アカリ「はい。朝早くからすみませんがよろしくお願いします。

    今日はありがとうございました。」


2人がスタジオから出て来ると、ハルカ先生は、

オレに会釈をして歩いて去っていった。


ジュン「身体の調子はどうだ?」

ハルカ「最高です。」

ジュン「無理はするなよ。」


明日もここで練習があるので、

ここから歩いて5分くらいの場所にあるホテルを借りていた。

部屋は当然別々に予約してある。

夕飯はホテル近くのレストランで済ませた。

食事中、アカリはハルカの話を永遠としててキラキラしてた。

自分の身体が入れ替わったことなどすっかり忘れてるようで、オレは安心した。

そして、オレもようやく、このビジュアルのアカリに慣れて来た。


食事を終えレストランを出る。


アカリ「部屋に戻ってもいいですか?」

ジュン「練習したいのだろう?」


アカリ「わかります?」

ジュン「あんなに早食いされちゃ。気づかない訳なかろう。」


アカリ「ハルカさんに秘伝を教わったんです。

    オーディション、どうしても合格したくなりました。

    だから明日は、ハルカさんに指導してもらのではなく、

    合格できるかチェックしていただく日にしたいです。」

ジュン「そうか。そこまで本気ならオレも協力する。

    だが無理はさせられない。

    オーディション辞退なんてことになったら本末転倒だ。

    練習にはオレも付き合う。いいな?」


アカリ「マネージャーのいう通りにします。」

ジュン「よろしい。ではホテルのホールを借りよう。

    広い方がいいだろう。

    1時間休憩しから始める。」


アカリ「ありがとう。私に2度も夢を見せてくれて。」

ジュン「おいおい、その台詞はオーディションに受かってから言ってくれ。」

アカリ「そうですね。」


ホテルのホールを借り、会場を見立てて赤ジュータンを引いた。

アカリは、赤ジュータンの上を何度も往復したのである。


広い空間に居るは2人だけ。

オレは観客役として、椅子に座って、アカリの歩く姿をただ見ているだけだった。

アカリに意見を求められたが、オレは素人だ。

変な癖をつけてはいけないと感じコメントは避けた。


だが、オレもただ座っているだけではない、練習風景を撮影し、

その場でアカリに自分のウォーキングを確認させた。


途中何度か休憩を取らせたが、4時間もの練習をし終わらせた。

一応、練習で使用したホールはいつでも使えるよう借りたままにしといた。


次の日、オーディション本番を見据えてホテルで練習したいと

集合前にハルカさんへ電話で申し出をしたら承諾してくれた。


ハルカ先生は、到着してそうそう会場を見るなり

エキストラがいた方がいいと言い出す。

オレも同調し、外で道行く人に1時間1万円のエキストラを募集した。

こんな怪しい募集、集まるわけないと分かり切っていたので、

ハルカさん名前を全面に出して声を掛けた。

すると効果てきめんである、若者が次々と参加を希望してくれて、

30分で70人弱集めることができた。

このことから改めてのハルカ先生の知名度と人気ぶりを実感できたのである。


ハルカ先生は多忙にも関わらす、無理して30分延長してくれて、

2時間半も付き合ってくれたのだ。

1時間は昨日おさらいをし、細かいところを修正された。

さらに1時間はメイクの仕方を習った。

アイドル時代は自分でメイクしていたという。

自己流だったのと、モデルはモデルのメイクの仕方があるらしく

勉強になったとのことだ。


そして、ラスト30分は、エキストラを入れての本番リハーサルを実施した。

エキストラが居てくれてよかった。さすがはハルカ先生である。

観客に対するアカリへの反応を見れただけでなく、

元アイドルとして本領が発揮されたからだ。

アイドル時代の立ち位置はセンター、人がいるとアカリは輝きを増す。

なぜオレはそのことを忘れていたのだろう。

このやりかたが最短の練習方法だった。


エキストラ全員から高評価をいただけたでなく、もうファンになった人も現れた。

これは凄いことだ。まだデビューしていないのだから。

その日エキストラとして見ただけであるにも関わらず、ファンになってくれたのだ。

このあと控えるオーディションへの期待が高まったし、

アカリ本人もモデルとしての道に希望が持てた瞬間でもある。


練習はあっというまに終わり、

帰り際にハルカ先生から思いもよらない一言をいただいた。


ハルカ「アカリを見て嫉妬したわ」


これ以上ない最大の誉め言葉だ。

一生関わることのない雲の上の存在だった人にこんな言葉を受けて、

アカリは号泣する。


ハルカ先生は多忙で無理に延長してくれたので、

その一言を言って次の現場へと向かわれてしまった。

貴重な時間を割いてくれてほんとうにありがとう。

ハルカ先生。あなたの誠意は無駄にさせない。

オレも全力でアカリをサポートすると胸に刻んだ。


オーディションは、11時から。

時間までまだ余裕はある。早めの昼食を取り、会場へ向かった。


正直、こんな練習しなくてもアカリのビジュアルだけで

合格だろうと高をくくっていた。

オーディション会場に入るまでは。


さすがにモデルのオーディションだ。

参加者全員、ビジュアルだけではアカリにぜんぜん負けてない。


絶対合格という自信がオレの中で揺らぐ。

だが、そんな素振りはアカリには見せられない。

アカリもアカリで堂々としている。

アイドル時代も思っていたが、なんてメンタルの強い子なのだろうとつくづく思う。


数えたら参加者はアカリを含めて20名。

4人単位で審査をするようだ。すでに1組目が審査中。

アカリのゼッケンは11番。3組目になる。


ジュン「アカリ、1つ伝えておくことがある。」

アカリ「審査員ではなく観客と思えでしょ。」


ジュン「分かってるならいい。」

アカリ「私はマネージャーを信頼しています。言われたことは心に刻んでるわ。」


ジュン「泣かせるなぁ。」

アカリ「それなら、がまんして!合格を取ってうれし泣きをさせるから。」

ジュン「期待してるぞ。」


何度も思うがアイドル活動のキャリアは大きい。しかも地下アイドルだ。

アイドルイベントに出場しても当時観客には興味を持たれてないのが

普通のことだったし、

ブーイングを浴びたこともある。

観客が数人しかいない現場も経験している。

オレには想像できないが、死ぬほど辛いことだったに違いない。

その経験がここで生きるということを証明するんだ。アカリ!


全ての審査は終了した。


審査員は、東京、大阪ともに5人づつ。

東京の参加者は20名だが、大阪はわからない

計10名の審査員が、ネットを使って、

録画した双方のオーディション風景を見ながら協議する。


審査終了後、15分足らずでもう結果発表があるようだ。

早い、早すぎて逆にやばいと感じだ。

もしかして、実施前から合格者は決定してたのでは?と動揺する。


主催者「2名の合格者を発表します。」

主催者「1人目、アカリ」


♪パチパチパチ(拍手)


主催者「2人目、白鳥夏帆(しらとりまほ)


♪パチパチパチ(拍手)


主催者「名前を呼ばれた2人は、

    スタッフがこの後の流れについて説明しますので、

    ここで待機しててください。」


東京から2名が選出された。


ジュン「流石だな。」

アカリ「勝ち取ったよ。」


ジュン「うれしいか。」

アカリ「うん、凄くうれしい。」


ジュン「モデルとしてやって行けそうか。」

アカリ「第二の人生はモデルとして挑戦していく。」

ジュン「そうか。」


発表を聞いて、そそくさと退席した受験者が居た。

自身があったのか、かなり落ち込んでいる子も見受けられた。


受験者1「合格されたアカリさんですよね。」

アカリ 「はい、アカリです。」


受験者1「本番頑張ってくださいね。」

受験者2「合格おめでとうございます。」

アカリ 「ありがとう。みんなの思いを背負って全力で舞台に立ちます。」


受験者3「私も応援してます。」

受験者2「本番、ネット中継で見てます。」

アカリ 「本番頑張ります。どこかで一緒に共演できたらいいね。」


受験者1「次は私が取りますよ。」


さっきまでライバルだった人たちが、今はアカリのことを応援してくれる。

なんていいひと達なのだろうか。

思わずオレの方が、目頭が熱くなる。


自分でも不思議に思っていたことがある。

今更だが、オレはなぜこの星に、はまっているのだろう。

人との関わりを避け、外出もしないオレが、この星では真逆の行動を取っている。

おそらく、この瞬間を味わえるからだだろう。

人との関わりで、今まで得たことのない感情をこの星の人達はオレに与えてくれる。


スタッフ「合格された。アカリさんと白鳥夏帆さん。

     こちらにいらしてください。」


ジュン 「オレが説明を聞いて来るからアカリはここで待ってなさい。

     待っている間、ハルカ先生にお礼のメールをしときな。」

アカリ 「はい、メールしときます。」


オレはスタッフの元へと向かった。

大阪本会場の情報資料と、関係者1名、演者1名分の通行許可カードを受け取る。


説明を受けている途中、オーディション結果について思いもよらぬことを聞いた。

合格者は実施前から2名と決まっていて、

アカリは10名の審査員満場一致で即決定したらしい。

問題は2人目で、3人の候補者が選出され意見が割れたのだという。


オーディションの参加者を見て、オレがビビってしまった自分が恥ずかしい。

たとえ誰もアカリのことを応援しなくても、

オレだけは信じていなければいけなかったのだと反省した。


説明は一通り終わり。戻るとアカリは人、ロビーで待っていた。

そして、そのまま2人は東京駅へと直行し、

2時間後には大阪目指して新幹線に乗っていた。

現在、車中である。


ジュン「会場は明日が本番で、今日はリハーサルだそうだ。

    リハーサルは2時間後に始まるとのことだ。

    この時間だと我々は途中からの参加になるだろう。」

アカリ「はい。」


ジュン「ファッションショーは新人の女性デザイナー3人による

    丸一日のショーとなっている。

    一部が10時スタート。二部が14時スタートで、

    三部が16時スタートとなっている。

    モデルは全員、3人のデザイナーに参加するとのことだ。」

アカリ「3つとも出場するんですね。わかりました。」


ジュン「知っているか?チケットが10分で完売したらしく

    かなり注目を浴びているようだ。」

アカリ「へえー、有名な3人なんですね。」


ジュン「いや。本来なら身内だけのイベントになっていたかもしれない。

    三部で三崎茜(みさきあかね)とやらがモデルとして出るから

    世間が騒いだそうだ。」

アカリ「三崎茜って、女優の三崎茜ですか?」


ジュン「そうだ。人気No1の女優らしいな。オレは知らんが。」

アカリ「確か去年CM嬢王になってたはずです。」


アカリ「モデルで出るんですか?」

ジュン「トリの新人が小中高の親友らしく。友情出演だとよ。」

アカリ「それは私も見に行きたいかも。」


ジュン「同じ敷地だが、会場が大きいホールへ変更となったそうだ。

    報道陣も多数来ると聞いてる。」


ジュン「そこでだ。」

アカリ「自分を売るチャンスってことね。」


ジュン「その通り。おそらく演者全員も思ってるだろうな。」

アカリ「なら対策のしようがないじゃない。

    そもそもモデルはやれること限られてるから目立つのは難しいと思うけど。」


ジュン「確かに。オーバーアクションをするか、

    指示を無視して勝手なことするしか目立方法はない。」

アカリ「そんなことする人、いるかしら。」


ジュン「全員ではないだろうが、出て来るだろうな。」

アカリ「目立つのは難しいし、普通にやってもダメ。対策なんて無い思うけど?」


ジュン「1つ忠告しておく。これはファッションショーだ。

    モデルとして注目を浴びるのは大事だが、主役はお前ではない。

    衣装の方だ。それを履き違わなければいい。」


アカリ「そんなこと当たり前じゃない。」

ジュン「そうだその当たり前を忘れなければいい。」


アカリ「作戦はないのね。」

ジュン「いや、今はない。全体リハーサルを見て考える。」

アカリ「分かったわ。」


会場へ着くと、さっそく、衣装と出場順番を説明された。

早く来すぎたせいか、リハーサルは始まっておらずこれから開始するとろだった。


モデルは総勢20名。全員3部に参加し、衣装は1人1着から4着。

有名モデルは2名。どのデザイナーも先頭と最後の登場に使うそうだ。

残りはアカリを含めて新人モデルの無名。

と言っても、全員スタイル抜群でハイレベルである。

だが、アカリも負けてない。顔が日本人ぽくないので目立つ。

1時間後、いっしょにオーディションを勝ち取った白鳥さんも合流する。


オレはリハーサルを観客席から一通り見た。

リハーサルは夜11時までおよんだ。3部あるのだ仕方ない。

明日は、リハーサルなしの本番だ。


女優の三崎茜は来てない。

3部の最後で友情出演だから、

本番の直線に来てリハーサル無しの一発勝負なのだろう。


食事は、バックヤードでスタッフ共用のケータリングが用意してあり、

いつでも食べれるようになっている。

アカリは、リハーサルが終わると、フルーツだけを取って、

オレの部屋で明日の作戦会議をすることにした。


ジュン「おつかれ。」

アカリ「お疲れ様です。私の動きどうでしたか。」


ジュン「お世辞抜きにいい。素人目からも有名モデルよりも一番目が行く。」

アカリ「マネージャーに褒めてもらえるが一番うれしい。」


ジュン「だがもっとよくしたい。

このイベントでアカリを注目さデビューさせたい。」

アカリ「なにか策は見つかりましたか。」


ジュン「あぁ、髪を黒く染めよう。黒のヘアカラーをさっき買って来た。」

アカリ「私、黒いと思いますけど。もっとですか。」


ジュン「真っ黒にする。モデル全員が、髪を染めてて、

    薄茶色から金髪の色をしている。

    その中ではアカリは黒い方だが、もっと黒くした方が際立つ。

    顔が日本人顔じゃないから、黒髪にしたらそうとう目立つと思う。」

アカリ「分かりました。」


ジュン「水色のカラーコンタクトも買って来た。これ付けれるか?」

アカリ「撮影で付けた事ありますけど、なぜカラーコンタクト?」


ジュン「外国人ぽく見せるためだ。そのままでも顔立ちが日本人には見えないが、

    カラーコンタクトでより一層欧州系のように見せる。」

アカリ「へぇ、そういう方向。」


ジュン「リハーサルを観客席から見て、黒髪の外国人はかなり注目すると感じた。

    他のモデルが明日どんなメイクをしようが所詮はどこから見ても日本人だ。

    そしてほぼ全員が派手にすると思われる。」


ジュン「そこで、アカリは逆手に取ってナチュラルメイクで攻める。

    ネイルも派手にせず、衣装に合わせた原色で行こう。

    黄色、水色、白って感じか。」

アカリ「わかった。明日はスタイリストを付けないで自分でメイクすることにする。」


このあと、すぐ解散して、お互いの部屋へ戻った。そしてすぐ就寝。

2人は朝5時に起きる。朝一の段階で戦闘開始だ。

オレはアカリを椅子に座らせ髪を染めてあげた。


8時になると衣装部屋へ向かう。

ここから先は、オレは立ち入れない領域だ。

なので一足先に会場へ向かった。

どこへ座るか考えた結果、記者たちの反応を見たく、報道陣の近くを確保した。

会場にはテレビ、雑誌、新聞、芸能プロダクションなどメディアが沢山いる。

女優の三崎茜が目当てなのだろうけど、

この中の何社かがアカリに興味を抱くことを願う。


1部が始まった。

アカリが登場するまでオレは緊張が止まらない。

そして、ついにアカリの初登場。

メチャメチャ目立っていた。

記者たちがざわつく、かなりの好印象のようだ。

オレの読み通りとなった。

オレの前に座る記者は、『あの子はどこかのプロダクションに所属すているか?』

と会話が聞こえた。

マネージャーが後ろにいますよと言ってやりたかったが、

ショーの邪魔をしたくなかったので止めた。


1部終了後、記者や芸能プロダクションがアカリに集まった。

予想を上回る食いつき方である。

アカリが一人で対応したが、素人とは思えない受けごたえをしていた。

ここもまたアイドル時代が生きてる。


2部の開催だ。アカリの登場の時のフラッシュがすごかった。

有名芸能人かと思えるほどである。

ただ、同時に敵も作ってしまったようだ。


2部の終了も、バックヤードへ行くと、アカリに報道陣が群がり、

テレビのインタービューも受けていた。

雑誌のオファーも来た。


ココ 「先日はお世話になりました。」


ココが、オレの目の前に突然現れた。予期だにしなかった再会である。

そうか、この仕事も前田に紹介してもらったものだ。

ここで出会ってもおかしくない。

ココと呼びたかったが、親しい方のオレではない。

苗字で言わないと思うった瞬間、苗字が出てこない。


ジュン「えーっと」

ココ 「佐久良です。東京でスタイリストの仕事を紹介して頂いた者です。」


ジュン「あぁ、そうそう佐久良さんでしたよね。

    ラーメン屋さんで働いてた。覚えてますよ。」

ココ 「覚えていただけただけでうれしいです。

    お昼にもお見かけして、声をお掛けしようと思ったのですが、

    その時どなたかと会話されてましたので。」


ジュン「そうだったのですね。割り込んで入って来てもよかったのに。」

ココ 「いえいえ。」


ジュン「お仕事はどうですか?なれましたか?」

ココ 「むずかいいです。覚えることも沢山あって大変です。

    でも凄く充実していますし、やってて楽しいです。

    この仕事をご紹介して頂けてありがとうございます。」


ジュン「仕事が楽しいのであればよかった。

    紹介したかいがありますよ。」

ココ 「すみません。引き止めちゃって。」


ジュン「逆に声かけてくれてうれしかったです。

    では頑張ってくださいね。応援してますから。」

ココ 「はいガンバリます。」


数秒だったけどココと会話が出来てよかった。

いろいろな感情がよみがえって来る。

紹介した仕事が辛かったりしたらオレの好意は無駄になる。

とりあえず、笑顔が見れてほっとした。


そうこうしている間に時間は刻々と進み。

公演開始30分前に女優の三崎茜が登場し役者がそろった。


アカリは、1部、2部でいい感触を得ている。

観客も朝からほぼ同じなため、これ以上騒がれることはないだろう。

対して、三崎茜は3部目が初だ。全国的に有名な女優なうえ、初の顔出と来ている。

おそらく独り占めだろう。

アカリがかすまないようにするにはどうしたいいのか。


いや、待て。冷静になれオレ。

ファッションショーは勝負ではない。

主役はあくまで衣装だ。

だれかと競うというバカげた考えから抜け出さないと。

無名のアカリが三崎茜と競ったところで同じ土俵に立てる訳がない。


だからと言って、多くの報道陣がいる前で、何もしないのはバカだ。

というか、この条件下で認めさせることができないようなら、この先はない。


どうしたらアカリを100%、いや200%輝かせられるかだ。


1部2部の衣装はエレガントであった。

ウォーキングも、ハルカ先生に教わった通りかっこよく見せた。

外国人顔で髪は真っ黒。クールな感じを演じ。

他の演者にいなく1人だけ目立っていた。

1部2部でアカリはこんな感じだとイメージが定着できたはず。

幸い、モデル関連の業種には興味を持たれ始めている。


次の3部は、カジュアルな衣装だ。

オレは、アカリにメールで指示を出す。


次の3部では、今までのウォーキング技術を捨てて、

会場全体がアカリのファンだと思って

アイドル時代の登場の仕方をしろと命じた。

メイクも変えて、顔は笑顔な。

忘れるな!あくまで衣装が主役だ。はじけ過ぎないようにと付け加えた。


アカリからは『了解』と一言だけ返事が返って来た。


さぁ、笑顔なアカリが登場してきたらギャラりーはどう反応するだろか。

ラストの3部が始まる。


イベントは、午前中から開催されており、お客は若干飽きてる感が見受けられる。

メディアも最後の女優登場待ちな雰囲気だ。


ついにアカリの登場である。


いきなり、弾んだ感じで出て来た。

歩きながら手を振りったり、指でハートマークを作ったりもした。


さぁ、アイドルアカリの登場だ。

どうだ。ギャラリーたちよ。

カッコイイのもいいが、オレはこっちのアカリが好きだ。

顔も体型も違うのに、前のアカリを見ているようだ。

やばい、泣きそうになる。


会場がざわつく。

笑顔で元気いっぱいなアカリは、

1部2部のアカリと同一人物とは思えないほどだった。

やり過ぎ感はあったものの、ギャラリーの反応はいい。

明らかに会場の雰囲気は変わったのがわかる。

あとはメディアがどう捕らえるかだ。


オレの中では200点だ。

アカリの違った一面を見せることに成功した。

凄いよ。お前は。

ど素人のオレの言葉を疑わず、自分のキャリアもプライドもあるだろうに、

それを捨てて、オレの言葉を信じ、全力でやるその姿勢に感動する。


確かにオレは芸能関連とは無縁のど素人だ。だが分析のスペシャリストではある。

自分のアドバイスに自身はある。

だがそれは、アカリが全力でやることで成立する話しなのだ。


時は進み。

最後は、メインイベントと言っても過言ではない。

待ちに待った女優の登場だ。さすがにフラッシュがすごい。

モデルは初めてと言っていたが、意外とさまになっている。

女優とは器用な職業だな。


彼女の場合は、知名度も大きい。

女優がランウェイの先端に登録する、続々と全出演者が登場し、横一列に並ぶ。

そして、最後にデザイナーの登場だ。

だろうな。これは読めていた。


デザイナーだけが、ランウェイを小走りで歩き女優の元へと向かう。

女優とデザイナーは互いを引き寄せ、バグをする。

スタッフが、横から女優に大きな花束を手渡し、女優はデザイナーに花束を渡す。

会場全体は拍手に包まれた。


アカリは出演者が横一列に並ぶ中の1人でしかないが、

やはり黒髪は目立つ。

先ほどの元気なアカリのままだ。主役の2人へ蔓延の笑みで拍手をする。

会場も女優だけでなくアカリの方も見ている人がいる。


長い長いイベントは無事終了した。

オーディションに受かるかどうかもわからなったのだ。

それがここまでやり遂げた。大成功と言えるだろう。


メイクを落とし、私服のアカリが衣裳室から出て来る。

帰りはもしかしたら取材を受けるかも知れない、

あえてギャルな服装にしろと伝えてある。

黒髪なのでギャルぽく見ないが、インパクトはあるはずだ。


だた、ここで想定外のことが起こった。

ギャルの格好をすれば取材班に引き止められるのではと考えていたが、

多くの出版社やテレビ局が、アカリが出て来るの待っていたのだ。

逆にギャルの格好は失敗したとオレは後悔する。


ここでは、私服姿の写真を取って、インタビューさせてほしいと出版社y

フリーライターなど多くの依頼があった。

また、テレビ、ラジオ等のニュース、バラエティなど、

ゲスト出演の依頼が20の製作局から来た。

アイドル時代の経験を生かしたアカリの受けごたえもかなりいい。

見た目と中身のギャップも出せた感じだ。


早くもこのあと3社とインタービューを受けることとなり、

大阪に1泊することにした。

この日は、コンビニ弁当ですませ、早くに就寝。


今朝は5時に起き。始発で東京へ向かう。

今日も1日大変なスケジュールである。

午前中は、雑誌の撮影2社。午後は、インタビュー1社と

バラエティー番組のゲスト出演、夕方からも別の局で出演、

さらに深夜1時にラジオとなっている。


東京へ向かう新幹線の中。


ジュン「凄い売れたな。かなり過密スケジュールだけどできそうか?」

アカリ「出来る時にやらなきゃダメでしょ。どうせ今だけなんだから。」


ジュン「そうかもな。日本人は熱しやすく冷めやすい。」

アカリ「浮かれてなんていられないわ。十分身に染みてるので。」


ジュン「本番は楽しかったか?」

アカリ「もちろん。でもアイドルと似たものを感じた。」


ジュン「昨日の仕事で相当敵を作ったぞ。続けるなら覚悟がいる。」

アカリ「モデルをきっかけにいろんな分野に手を広げれば、良いんじゃない。」


ジュン「ポジティブなその考え方、オレはすきだ。

    で、この先どうする?ガッツリやって有名人を目指すか?

    適度に仕事してひっそりと暮らすか?だ。」

アカリ「私、過去を持たないから有名人になるのはまずいんじゃない?」


ジュン「当然、仕事はパーソナル情報は一切出さないという条件しか受けない。

    なので、自ら過去の事を話さない限り問題はない。」

アカリ「でも秘密を隠している感じで後味が悪いわ。」


ジュン「なら、ひっそりと仕事して行くしかないな。」

アカリ「先の事はどうでもいいわ。。

    今ば全力で、目の前の仕事をしたい。」


ジュン「そうかわかった。

    先の事は、その時考えればいいな。

    あとアカリに伝えておきたいことがある。」

アカリ「何?急に怖い事言わないでよ。」


ジュン「大した話ではない。

    オレは本業の仕事をするために定期的に戻らないといけない

    という業務連絡だ。」

アカリ「なんだ。マネージャー止めるって言い出すのかと思った。」


ジュン「1度戻ったら数カ月は帰って来れない。」

アカリ「戻るって宇宙の外へ?ですか。」


ジュン「そうだ。変に思うかも知れないが、オレもサラリーマンなんだ。

    宇宙の外だってそれは変わらない。

    まじめに仕事しなければ、ここへは遊びにこれないと言う訳だ。」

アカリ「次はいつ戻る予定なんですか?」


ジュン「多分3カ月後になる。」

アカリ「わかりました。マネージャーが居ない間に1人で頑張ります。」


ジュン「一人は厳しいだろう。オレの助手を付ける。」

アカリ「それって、中身はあなたって落ち?」


ジュン「面白いこというな。そんなことしたら意味ないだろう。」

アカリ「そりゃそうね。」


ジュン「とにかくだ。できるだけ早く帰ってくる。」

アカリ「無理して早く来なくても大丈夫ですよ。

    一区切りつくのは半年とかですか?」


ジュン「50年後になるだろ。」

アカリ「面白い冗談ね。私、おばーちゃんになってるじゃない。」


ジュン「実は、オレの世界とこっちでは時間の進みが違うんだ。」

アカリ「そいうこと!こっちは時間がメチャメチャ早く進むのね。」


ジュン「理解が早くていい。」

アカリ「ごめんなさい、そんなには待てないです。

    なら無理して、早く戻って来てほしい。」


ジュン「ああ。そうする。」

アカリ「その間、他の人はいらないわ。アカリ、一人で頑張る。」


ジュン「スケジュールがスカスカなら可能だが。

    この状況では1人は絶対に厳しい。」


アカリの気持ちはわかる。

俺自身も他の人に任せたくはない。


研修室へ戻り1日作業して、次の夜にここへ戻って来たら3カ月後になっている。

3カ月は長すぎる。

いや待てよ。今帰れば、向こうは夜中だから、明け方まで10時間ある。

2時間で終わらせれば、8時間はこっちに来れるな。

となると、ざっくり1ヵ月はこちらで滞在できる計算だ。


研究所で2時間なら、こっちは1週間ちょい。

スケジュールは1ヵ月先まで埋まっているから問題ない。


ジュン「アカリ、今日の深夜のラジオが終わったら、

    オレは元の世界へ一旦戻ることにする。

    1週間くらいしたら必ずこっちに戻ってくる。それは約束する。

    今、決まっているスケジュールを伝えておくから、

    オレが戻ってくるまで1人で頑張れるか?」

アカリ「できますけど。無理してませんか?」


ジュン「正直言うと無理はしている。

    だけど、オレがやりたいんだ。

    この先どうなるのか、景色を一緒に見てみたい。」

アカリ「私もマネージャーが側に居てくれると凄く安心します。

    そして、一緒に感動を味わいたいです。」


その日は予定通り、スケジュールをこなした。

もう病気ではない。今のアカリは無茶できる身体だ。

本人がやる気があるのなら止める気はない。

もちろん、深夜のラジオ収録までやり遂げた。


途中うれしいことが起きた。

GirlsWeeklyというファッション誌の専属モデルになってくれないかと

契約が来たのだ。

この雑誌を調べたところ、一般的に知られている有名な週刊誌で、

読者は10代女子がターゲットのようである。

どうも坂本奈緒をお目当てで購入されているらしい。

その坂本奈緒は、この出版社の専属モデルであり、何度も表紙を飾っている。

CMやテレビに多数出演しており、男女供に幅広い層に知られている。

彼女一人でこの雑誌を支えていると言っても過言ではない。


調査の結果、まっとうな出版社であり、雑誌の内容も健全なものだった。

アカリに聞いたところ、当然その雑誌を知っているし、

専属モデルになりたいと即答した。


オレは、戦略を考え、契約に次の2項目を追加するよう要求した。

・毎号アカリを掲載すること。

・アカリプロヂュースによるブランドを立ち上げるので、

 メイク、化粧品および衣装選びはこちらの主導で決める。


その場の思いつきだったが、

我ながらアカリを売り出すにはいいアイデアだと自画自賛した。

このアイデアを呑むかどうかは相手次第だ。


相手の反応はというとNGであった。

冷静に考えればそうだろう、向こうもプロだ。

しかもコンセプトもあるのに勝手に企画をぶち壊されたら全てが台無しである。

だが、追加要求を切り出した以上、こちらとしてもひっこみがつかない。

なので、契約は低調にお断りてしまった。

逃がした魚はデカかったかもしれない。

坂本奈緒というワントップがいる。

向こうの言いなりになったら、アカリはその他大勢の一人になることは間違いない。


次に来たLADY-STYLESというファッション誌に電話をしてみた。

この雑誌には坂本奈緒のようなワントップはいない。

月間誌で、20才前後がターゲットとしている。

GirlsWeeklyと比べると大人向けな感じだ。


先ほどと同じ、内容を追加するよう要求した。

結果はやはり同じ反応だが、担当者の反応が弱腰だった。

強く押せば行ける。前回の教訓を生かし、追加契約を緩めてみた。


・毎号アカリを掲載すること。

 ただし、表紙や特集を組むことは、こちらから要求しない。

・アカリプロヂュースによるブランド立ち上げるので、

 メイク、化粧品および衣装はこちらで用意する。

 ただし、編集部で企画するコンセプトに合わせることを約束し、

 かならず合意を取ることとする。

・アカリブランドは、雑誌内であれば他のモデルは自由に使ってよい。

・アカリおよびアカリに関わる全てのギャラは不要。


すると担当者は編集長と相談するといい。

一旦離れ、戻ってくる。

結果OKだった。

何が決定打だったかは定かではない。

ギャラ不要かとも思ったが契約が決まればどうでもいい。

アカリには申し訳ないが、LADY-STYLES誌に決定した。


そうと決まれば善は急げ。

ポケットマネーで10億円を用意し、ブランド『灯』(あかり)を立ち上げた

小さな事務所を借り、従業員は受け付けの田中くんと、

元ゲームデザイナー土橋くんの2名を雇った。

あとは、大手化粧品メーカーと大手アパレルメーカー、

および有名スタイリストと提携をしたのだ。

今日1日、アカリが仕事をこなしている中で、

オレは裏でブランド作りの下地を作り上げた。


アカリには申し訳ないが、口紅、マニキュア、ペディキュア、アクセサリー、

衣装など、アイデアを口頭やメモで大量に出してもらい、

土橋くんにイラスト(具現化)してもらう。

それを、厳選せずに提携メーカーへ試作品を作るよう依頼した。


明日にはオレは研究所へ戻る。

不在の間は、田中くんをマネージャーとしてアカリをサポートするよう指示をした。

来週は、早くもLADY-STYLESの撮影があり、

編集担当者と提携スタイリストを会話させ、試作品を試すという手はずにした。

次の号と更に次の号の2回分を撮影するらしい、

試作品なので不安は残るが、表紙ではないとのことで少し安心した。


全ての段取りを終え、オレは帰還する。


~~研究室~~~~~~~~~


久しぶりの研究室だ。

予告なく戻って来たので、だれもいなかった。

メンバーのどちらかが残っていたら、

根掘り葉掘り聞かれて仕事にならなかったと思う。


オレは、ガイヤから送り続けた論文と助手がまとめ上げたデータや図形を整理して、

1冊の論文に仕上げる。

かなり集中した。1時間はあっというまだ。

見積もりが甘かった、予定の半分も完成していない。

書き物は意外と進まないものだと再確認する。


更に1時間が経過し、そしてもう1時間経過して3時間で論文は完成した。

見直しも2度してある問題なしだ。


次ここへ戻ってくるのは1カ月後だ、

朝一でやらなければならないことを自分宛にメモで残し、再びガイヤへ向かった。


~~東京~~~~~~~~~

発着室へ戻って来た。

この棺桶から出るのも何度目だ。

まぁ、そんなことはどうでもいい。


研究所に行って戻ってくるまでに何日経っているかが気になる。

13日も過ぎている。アカリはどうしてるだろう。

時刻は、AM5時。アカリに電話するには早すぎる。


かなり興奮している。焦るな!と自分に言い聞かせる。


そうか、アカリが掲載されているLADY-STYLESが発売されているはずだ。

コンビニで売っているか、ネットで調べてみた。


驚いたことに、表紙がアカリになっているではないか!

どいうこと。

初回だから見開きの2ページにインタービューを添えて載せると聞いていたが、

まさか表紙になっているとは。

どんな経緯で表になったんだ。

しかも、完売で書店やネット注文では購入できないらしい。


大阪でのファッションショーがネットで話題となり、

10代の男女でアカリが人気急上昇となっている。

ちょどそこで発売された今月号のLADY-STYLEが一瞬で完売となった

ということだそうだ。


もしやと思い、アカリブランドのページへ飛んでみる。

化粧品だけしか販売してないが、ほぼ全品が入荷待ち状態だった。

女子高校生をターゲットとしたのが効いたのかも知れない。


化粧品の価格帯を500円前後とした。

口紅は原価割れしてて売れば売るほど赤字だ。


動画サイトへ広告を出すようにした。

まぁ、きっかけを作ったに過ぎない。

最終的にはアカリの力というのは間違いない。


と言っても、まだデビューしてから数日しか経ってない。

モデル業界および10代の若者には大きなインパクトを与えたが、

まだ一般には知れ渡ってないのが現状だ。


勢いでアカリに電話しなくてよかった。

ネットで情報を収集し冷静に状況を把握出来たからだ。

アカリの一方的な情報だけを聞いてたら浮かれて見失っていたかもしれない。


オレは、アカリが寝泊まりするホテルへ行き。

1Fのレストランに居るから、起きたら来るようにとメールで指示を出した。


AM7時半。アカリが小走りで向かってくるのか見えた。


アカリ「はぁ、はぁ、おはようございます。」

ジュン「今日のスケジュールは?」


アカリ「えー、会っていきなりそれ聞きます?」

ジュン「気持ちは分かるが、まづはスケジュールを把握したい。

    とりあえず、今直ぐ移動しなければならないかどうかだけ知りたい。」


アカリ「今日の1発目は10時新宿です。」

ジュン「1時間半くらいはここに居れるな。」


ジュン「数日しか会ってないのに雰囲気変わったな。」

アカリ「そうですか。誰にも言われないですけど。」


ジュン「大人になった感じがする。」

アカリ「やだぁ。朝から口説いてますぅ?」


体型と服装が合わさってセレブ感満載だ。

周りの視線がアカリに集中しているのが伺える。


ジュン「そうかもな。初めて面と向かってアカリを見たような気がする。」

アカリ「そうなの。それはショック。」


ジュン「出会った時がインパクト大きすぎたからな。」

アカリ「その節はご迷惑をお掛けしました。」


ジュン「その話は止めよう。お腹空いてるか?

    オレは食べる気まんまんだけど。」

アカリ「私も腹ペコペコです。」


ジュン「何食べる?」

アカリ「マネージャーと同じものでいいです。」


ジュン「OK。スペシャルを作ってもらおう。」


ウェイターを呼び、1品一口サイズで20品くらい持って来てと注文した。


アカリ「マネージャーが居ない間、わたし頑張ったんですよ。」

ジュン「今朝、調べてびっくりした。」


アカリ「さぁ、褒めてください。私、褒められて伸びる子なので。」

ジュン「キャラ変わってないか。」


アカリ「私は元々こういう人なんです。」

ジュン「オレは嬉しいよ。」


アカリ「何がです?」

ジュン「アカリが楽しそうで。」


アカリ「毎日楽しいですよ。」

ジュン「そうか。朝、アカリと会話できてよかった。

    ゴールを見失うところだった。」


アカリ「ゴールって何のことです?」

ジュン「有名にならなくてもいいって話しよ。」


その後、仕事の話で会話は続着た。

10時の仕事は、LADY-STYLES関係で、来週、初の別冊アカリ特集を出すそうだ。

更には、同じ出版社から写真集を出すことが決定した。

その撮影が明日沖縄である。


もの凄いトントン拍子で怖いくらいだ。

アカリブランドも大盛況で、テレビ、雑誌が取り扱ってくれた。


沖縄での撮影から2週間後、写真集先行発売&お渡し会を開催した。

大々的に取り上げてないにもかかわらず、2000人のファンが集まってくれた。

写真集にサインを入れて一人一人に手渡した。

ファン一人一人の声援が心に響き。アカリが感極まって泣いてしまう場面もあった。


スタッフと打ち上げという名の楽しい食事会をし、2人でホテルへ戻る。

オレは、こちらに来てから、マンションではなくアカリと同じホテルに滞在している。


ジュン「明日は5時起きだから早くねるように!」

アカリ「なんだか親みたいだよね。」


ジュン「アカリの保護者だと思ってるが。」


アカリが突然倒れた。特に体の異常は見受けられない。


ジュン「アカリ!大丈夫か?」

アカリ「私。」


アカリは意識を失ってしまった。


3分後。


アカリは目を覚ます。


アカリ「私、どうしたんだろう。」

ジュン「疲れてるんじゃないか。無理しない方がいい。」


アカリは、ジュンに抱きつき、肩に顎を乗せる。


ジュン「おいおい。」

アカリ「今日だけ。落ち着くの。」


ジュン「仕事は楽しいか?」

アカリ「うん。」


ジュン「ごめん、全然休んでないな。」

アカリ「うん。」


ジュン「休み取ってどこかへ行こうか。」

アカリ「うん。」


ジュン「どこ行きたい?」

アカリ「うん。」


オレを抱きしめていたアカリの手がほどける。

アカリが、後ろに倒れかかったので、両手で支えた。


ジュン「どうした。」


アカリは、ピクリとも動かないし、呼吸もない。


ジュン「アカリ!アカリー!」


病院からアカリが亡くなったとメールが届く。

そう、アイドルのアカリは先ほどまで生きていた。

そして、たった今、亡くなった。


アイドルとモデルの2人のアカリは同時に生きていたのか?

そんなことはない。

真相は、アイドルのアカリが、モデルのアカリを動かしてたのだ。

要はオレと同じ仕組みだ。


死は唐突に来る。

モデルのアカリが元気だったから危機意識が散漫になっていた。

これは完全にオレのミスだ。

映画で死に際に言いたいことを言うシーンがあるけど、あんなの嘘パッチだな。

現実はこうである。

結局、今回もお別れを言えず去って行ってしまった。

本体のアカリは亡くなった。

これで本当に彼女と会話をするすべがなくなったという訳だ。


くっそ。なんでだ。死ぬの早すぎだろう。これからというのに。

怒りをどこにぶつけていいかわからない。


ホムンクルスは、リンクが切れて10分以内に、

専用の棺に居れないと腐敗し使い物にならなくなる。

モデルのアカリは、たった今亡くなったが、10分以内に発着所へ運ぶのは無理だ。

オレは、モデルのアカリを処分するよう指示し、そまま病院へ直行する。


病院へ到着すると、看護婦に地下へ案内され安置所へ入る。

部屋の中央にベッドが1つ設置してあり、

サイドにアカリのご両親が椅子に座っていた。

そして、見知らぬ男性が座っている。


ジュン 「えーっとこう言う時に何ていったらいいか。」

アカリ母「お忙しいところ、わざわざ来てくださってありがたい。」

アカリ父「お待ちしておりました。ずいぶん早かったですね。」


ジュン 「あぁ、立たずにそのままで。」

アカリ父「すみません。」


ジュン 「仕事した期間は短かったですけど、濃厚な時間でした。

     お別れを言いたくて、ここへ来ました。」

アカリ母「そうですか。それはアカリも喜ぶと思います。」


アカリ父「こちらは弁護士さんです。私たちにお話があるとか。」


弁護士 「はじめまして、わたっくし安藤法律事務所の安藤と申します。

     アカネさんの友人から3通の手紙を預かってまして、

     アカネさんが亡くなられたらお父様、お母様、そしてマネージャー様に

     直接渡してくださいと依頼を受けました。」


前面に『お父さんへ』『お母さんへ』『マネージャーへ』と

書かれている封筒をそれぞれに手渡す。


弁護士 「こちらへ伺ったら、マネージャーも来るとのことで、

    3人がそろうまでお待ちしておりました。

    では、手紙を渡しましたので、わたくしは失礼いたします。」


ジュン 「ちょっと待ってください。依頼主の友人とはだれなんですか?」

弁護士 「すみませんが、契約上それはお答えできません。」


ジュン 「いつ受け取った手紙ですか?」

弁護士 「すみませんが、それも契約上お答えできません。」


ジュン 「わかった。もう帰っていい。ありがとう。」


弁護士はさっさと帰ってしまった。


アカリ父「顔を見てあげてください。」

ジュン 「では。」


オレは、覗き込みアカリの顔を眺める。

懐かしい顔だ。そうだ、本当のアカリはこんなんだったな。

笑顔で眠っているように見える。肩をたたけば起きるんじゃないかと思えるほどだ。


さっき、お別れが言えなかったから、本物のアカリに会いに来た。

ありがとう。アカリとの仕事は楽しかった。

もし、生まれ変わって再会できたら、仕事ではなく2人でバカンスがしなたいな。


ジュン 「お別れ言えました。それでは私も失礼します。」

アカリ父「お忙しいところ、本日はありがとうございました。」


2人に会釈をして、病院を出る。

この後、用事などない。要するにあの場が居たたまれないので逃げだして来たのだ。


オレは、久しぶりにマンションへと戻る。

そして、一人リビングのソファに座り、安置所で受け取った手紙を開ける。


====== 手紙 ==============================

マネージャー様


アカリです。

これを読んでいるということは、

今度こそアカリはあの世へ旅立ったということになるのかな。


最後にお別れの挨拶できたかな。

直接感謝の気持ちを伝えられたかなぁ。

アカリは最後まで幸せでしたよ。


覚えてますか?

初めてのナレーターのオーディション。

アカリはオーディションを受けれただけでうれしかったんだよ。

オーディションに落ちたのは残念でしたけど。

でもよかった。ゲームにつながって。


ゲームの収録も凄く楽しかったな。

世界的に有名なプロヂューサーが手掛けるゲームですよ。

オーディジョンにすら受けたくても受けれないのに、

レイヤの役をいただけるなんて。ほんと夢のようです。

パッケージの表紙に載ると聞いた時は、

もう死んでもいいと思うくらいうれしかった。

まさか、声優の仕事だけでなく歌やダンスまで、やらせていただけるなんて。


そしてモデルです。

正直、別の人に乗り移っていると知った時は、

SFホラー映画を見てるようで怖かったです。

でも、モデルの仕事も楽し過ぎて、

別人だということはすぐに気にならなくなりました。

未経験でファッションショーに出れたのは奇跡です。

雲の上の存在だったハルカさんと2人きりで会話することが出来てもう最高です。


全てマネージャーのおかげです。

チャンスを頂けただでなく、アドバイスや根回しをしてくれたおかげで、

普通の人が一生味わえないような体験をすることができました。


面と向かって言うのは恥ずかしいので、

手紙で感謝の気持ちを言わせていただきます。


私を自殺から救ってくれて、ありがとう。

私に夢と希望を与えてくれて、ありがとう。

私に第二の人生を与えてくれて、ありがとう。

私に生きている喜びを実感させてくれて、ありがとう。

私の生きた証をたくさん残してくれて、ありがとう。

沢山の思い出を、ありがとう。


そして。こんな私に時間を割いてくれて、ほんとうにありがとうございます。


一つ心残りなのは、マネージャーに恩を返せなかったことです。

長生きするつもりでいたので、次はマネージャーの仕事を

私がサポートするつもりで考えてました。

残念です。


マネージャと過ごした時間は、2カ月と、

私の人生にとっては短い期間ではありましたけど

100歳まで生きたくらい濃密な時間でした。


マネージャーに出会えたことが私の最大の宝物です。


私が居なくなって寂しいと感じてくれたらうれしいな。

それでは、お体ご自愛下さい。


アカリより。

==========================================


手紙を読んで、熱いものが込み上げて来る。

そして、アカリは死んだんだと実感する。

それまでは、まだどこかで生きてるんじゃないかと錯覚していた自分がいる。


アイドルのアカリもモデルのアカリもこれからという時に亡くなってしまった。

2度も不完全燃焼ではないか。


アカリは悔いはないと言っていたが、おれの方が悔い残りまくりだ。

なんて後味の悪い終わり方なんだ。くっそ!


ゲーム制作の時に録画したアカリのダンス見る。

続けて大阪でのランウェイを歩くアカリ見る。

それを何度も交互に見続ける。


アカリ!

知ってるか。楽しかったのはオレの方だったんだぜ。


翌日。

ガイヤにいる理由もなくなり、研究所へ戻ろうかとした考えていた時、

ふと、アカリがなぜ自分の命が残りわずかだということを

知っていたのかが頭をよぎった。


あれ?

アイドルのアカリは死に、自分は生まれ変わったと信じ切っていたはず。

なぜ、自分は病人のままだと分かったんだ。


このまま帰ったら後悔すると思い、

見張り役兼ボディーガードにオレが不在中のアカリの移動先を聞いた。


先週、アイドルのアカリが居る病院の前を通り過ぎたところで

急にタクシーが止まり、病院の敷地中へ入った時があったそうだ。


アカリ本体は集中治療室へ移動したので、病室へ行ったところで

別の人が居るだけだ。

肉親以外にはアカリの存在を郊外しないよう病院に頼んである。

なのでモデルのアカリが本体がまだ病院に居ることなど知るすべはない。


見張り役の話しによると4、50代女性の後をアカリが尾行したとのことだ。

その女性は後ろ向きだったので誰だがわからなかったとのことだ。


今までの話を推測するに、その女性はアカリの母親だろう。

おそらく、母が病院へ入ることろを偶然見つけたに違いない。

母の後を付けたら自分自身の病室があることを知ったのだろう。


アイドルのアカリが生きていることが分れば、あとは簡単だ。

2人のアカリが同時に生きてるなんてありえない。

自分はだれだということになるから。

そしてオレの存在だ。この世界のオレは魂が乗り移っているのではなく、

宇宙の外から遠隔操作でこの身体を操作していると説明してしまった。

本体は病室のアカリで、モデルのアカリは遠隔操作されているのだと

気づいたのだろう。

となると、病室のアカリが死ねは、

自分も死ぬという発想になってもおかしくない。


そして、手紙を渡すことを思いつき。

弁護士に頼べば、自分が死んだあとに渡すことが可能だと

考えたのではと推測できる。


おそらくこれだろう。

アカリに聞けない以上、答え合わせはできない。

オレはこの結論に納得し、研究所へ戻ることにした。


~~後日談~~~~~~~~~

人気急上昇中にこの世を去ってしまったアカリ。

その後について触れておこう。


オファーは、死後もなお殺到している。

おそらくこのまま続けていたら社会現象になるほどの大物になっていたに違いない。

既に決まっているスケジュールは、全てキャンセルするしかない。


どう断るか、だ。

正直に亡くなったと言うべきか。挑戦しに海外へ出たと嘘をいうべきか。

それとも重病になったとか。事故にあったとか。

言い訳はいろいろある。


彼女は、経歴不明。年齢不詳。所在不明。

同級生、近所の人、日本中だれ一人知るものがない。

どれかを掘り下げると大ごとになる可能性を秘めている。


一番に考えなければならないことは、ファンへの対応だ。

そして、LADY-STYLES誌および各種スポンサーだ。


ここは正直に亡くなったというしかない。

変に嘘を付くと後々面倒になる。

オレは、各社メディアにアカリが病気で急死したことを流した。

葬式は身内だけでひっそりと行うということと、

事務所およびアカリブランドはたたむことにすると合わせて伝えた。


メディアは仕事が早い。

ネットニュースでは既にアカリの死が流れており。

緊急通報でテロップに出しているテレビ局もある。


事務所の田中くんと土橋くんには、マスコミに何も口外しないことを条件に

月200万円づつの5年間、個人口座へ振り込む契約で手を打った。

オレは取材拒否を貫く構えていた。

というかこの身体は、アカリと供に封印する。


次の日、思いもよらない事態が起こる。

『アイドルのアカリ』と『モデルのアカリ』が同一人物ではないか、

とネットで騒がれ始めたのだ。

そう、アイドルのアカリも亡くなったことがゲーム制作会社を通じて世に知られた。


名前が同じで、死んだ時期も同じ。気づく人が出てもおかしくはない。

しぐさや、話し方が同じという比較動画が出回り話題となった。

体型、身長、顔も全然違うので動画に対して突っ込む人の方が多数なのだが。

マネージャが同じ人物であることがばれるのは時間の問題だ。


新たな都市伝説の誕生となるだろう。

最初は動揺したが、アカリという存在を未来永劫語り継がてれ行くのであれば

それもいいかもしれないとポジティブに捕えることにした。


-- 4話 完 --


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 順調に進んでいると見えた、アカリの第二の人生が唐突に終わりましたが、その後日譚や主人公の分析が丁寧で最後まで読み応えがありました。そもそもホムンクルスという手段を用いたというのも驚きました…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ