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第三話 アイドルって PERFECT HUMAN じゃね

~~東京~~~~~~~~~

ココと別れた帰り道。

オレは、星を眺めながらゆっくりと歩く。

今は家に戻りたくない。

彼女との思い出を振り返りながら夜道を散歩する。

濃密な10日間だった。

ココの言葉、しぐさ、笑顔が頭にこびりついている。


なんでココの知るジュンで、最後にお別れしなかったのだろうかと今になって後悔している。

もしかしたら、もう彼女と会うことはないかもしれない。

未来の彼女はどうなっているかはわからない。

最後に希望を与えることが出来たのはよかった。


100m先に見えるマンション。その上の方で動いている物が見る。

なんだあれ。

近づくと、それは人影でベランダをよじ登っていた。


泥棒か?

おいおい、あそこ10階くらいあるんじゃないか。無茶なやつだ。

オレは、泥棒が降りてきたところを捕まえてやろうとマンションの下まで走る。


近づくと、その泥棒はスカートを履いていた。

女の泥棒なのか?


泥棒は、マンションから降りようとはせず、ベランダの上へ立ち上がった。

あぶない。落ちるぞ、と思った瞬間オレは理解した。


自殺だ。

オレは、人影を見ながら走り続け、ほぼマンションの真下まで到着している。


ジュン「おーい、あぶないぞ!」


彼女に聞こえるよう大声を出すが、間に合わなかった。

その瞬間、彼女は飛び降りたのだ。


ちょうど真上だ。

よし、受け止めてやる。

オレは両手を伸ばし全身でキャッチする姿勢を取る。


♪ドサッ。


ジュン「ウッ」


~~研究室~~~~~~~~~

ジュン「なんで、ここに居る?」


・・・


ジュン「あの子は?」


オレは、自分が死んで戻って来たのだと把握した。

急いでダイブして現場へと戻る。


助手 「あれ?博士、今戻って来ましたよね。」


2人はガラス越しにベッドで横たわる博士を見つめる。

博士は、微動だにしない。


同僚女「なに言ってるの。まだ戻ってくるわけないでしょ。」

助手 「だって、体が動きましたよ。」


同僚女「ちょっと怖い事言わないでよ。

    そういうの嫌いだって言ってるでしょ。

    次言ったらひっぱたくから。」

助手 「すみません。」



~~東京のとある病院~~~~~~~~~

ジュン「頼りになるのはお前だけだ。」

前田 「大した話ではないだろう。」


ジュン「ほんと助かった。」

前田 「おう。何かあったらいつでも言ってくれ。

    医院長には話を付けてある。

    ここは好きなように使ってくれ。」


電話が切れる。

オレは今、とある大学病院にいる。

ここは個室の病室で、ベッド前へ立ち助けた横たわる少女を眺める。


そう、オレの目の前にいる少女こそ、オレが命がけで助けた人。

少女がマンションから落ちた後のことは覚えていない。

というかわからない。


ボディーガードの話によると、オレは落ちて来た少女を両手で受け止めたそうだ。

だが勢いよく倒れ、アスファルトに強打したとのこと。

オレが病院へ運び込まれた時は、頭蓋骨骨折と内臓破裂で意識不明の重体であった。

少女はというと、左腕と右ひざを強打し青あざになった程度の軽傷にすんだ。

この時、2人とも肺を圧迫したことによって失神していたそうだ。


少女とオレはボディーガードによって、前田が指示したここの病院へ連れ込まれたという訳だ。


オレは死んではいなかったのだ。

だが、脳の損傷がひどく、永久に意識が戻らない可能性があったため、前田の判断により、

緊急オペというなの殺害を決行した。

なので、オレは再びここへ戻って来れたということになる。


少女の身元は前田から聞き、容体については担当医から伺った。

これらの情報から、少女自殺についてある程度バックボーンが見えてきた。

安らかに眠る少女の寝顔を見て、オレは目頭が熱くなる。


ジュン「お目覚めかい?」

少女 「だれ?病院?」


ジュン「酷いな、命の恩人を忘れたのかい?

    あんたを助けて、ここへ運んだ者だが。」

少女 「余計なことしないで。私は死にたかったのに。」


ジュン「そんな事、あの状況を見れば誰にでもわかる。」

少女 「じゃあ、なんで死なせてくれなかったのよ。」


ジュン「死のうとしてる人を見たら止めるのが普通だろう。

    お前の場合は、止める前に飛び降りたけどな。」

少女 「もういいわ。」


少女は立ち上がる。

オレは少女の正面へ立ち、進めないようブロックする。


少女 「ちょっとどいてよ。」

ジュン「どこ行く気だ。まさか死ぬ気じゃないだろうな。」

少女 「何しようと、私の勝手でしょ。」


♪パーン。


ジュンは少女をおもいっきりビンタする。


少女 「痛い。」


少女は叩かれた頬を手で抑える。


ジュン「ふざけんな。勝手に死ぬんじゃねぇ。」

少女 「なんでよ。あなたには関係ないでしょ。」


ジュン「大ありだよ。お前を助けた人物だ。

    目覚めて早々なんだその態度は。

    お礼も言えねぇのか。どんな教育を受けて来たんだまったく。」

少女 「はいはい。ありがと。これでいいでしょ。」


少女は、オレをかわし出口に向かおうとするが、

オレも少女の動きに追従して行く手を拒む。


ジュン「だめだ。」

少女 「私を監禁するつもり?これ犯罪よね。警察呼ぶわよ。」


ジュン「どうぞ。」


ジュンは、自分の携帯をONにして少女に渡す。


ジュン「警察でもなんでも呼ぶがいい。

    言っとくが、この事はまだだれにも伝えてない。

    警察が来れば、当然、親も来るだろう。

    そして、週刊誌やら報道が押し寄せて来るんじゃないのか。」

少女 「バカじゃないの。そんな大騒ぎになるわけないじゃない。」


ジュン「エンジェル9のいちご

    アイドルなんだなお前。元アイドルか。

    オレが何も知らないとでも思ったか。」


少女は、どこかに電話しようとしてたが、指がピタリと止まった。

数秒考え携帯の電源を切ってオレに返す。


少女 「あっそ。私を知ってるのね。」

ジュン「三流アイドルなど知らん。身元を調べただけた。」


ジュン「本名、月条つきじょうあかり

    芸名、宮下苺みやしたちご

    アイドルグループ、エンジェル9のメンバーで、立ち位置はセンター。

    人気はあったが所詮は地下アイドル。

    経営の資金が底をつき、3年の活動期間を終え、昨日解散となった。

    ってところだ。」


アカリ「なるほど、私を独占したいのね。

    あなたの前で歌って踊れば解放してくれるのかしら。」

ジュン「おれにそんな趣味はない。監禁するつもりもないけどな。」


ジュン「お前、元気そうに見えるが末期ガンなんだな。

    ここに担ぎ込まれたときに精密検査をして判明した。

    余命は3カ月といったところか。」


アカリ「そ、何もかも知ってるならもういいでしょ。私に関わらないでくれる!」

ジュン「そうはいかん。飛び降りた時点でお前はもう死んでるんだよ。

    そして、オレが命がけで助けた。

    お前にはオレがピンピンしているように見えるだろうが、

    あの高さからお前をキャッチしたんだ。

    無傷の訳がないだろう。

    あんたの命は半分はオレのものだ。勝手に使われては困る。」


アカリ「分かりました。もう自殺しないと約束すればいいんでしょ。」

ジュン「いや。オレと1ヵ月アイドル活動をしないか。

    その後、死のうが好きにすればいい。オレは止めん。」


アカリ「へぇー。あなた芸能事務所の関係者?」

ジュン「今から個人事務所を立ち上げる。タレントはお前1人だ。」


アカリ「はははは。バカじゃないの。素人が1ヵ月で何ができるのよ。」


アカリ「面白いわ。いいわよ。付き合ってあげる。」

ジュン「驚くなよ。退屈はさせないから期待してろ。」


このあとすぐに、オレは仕事を探しに病室を出る。

病室の鍵は掛けていない。彼女が逃げようと思えばいつでも逃げれる状態だ。

だが、彼女には生きる理由ができた。少なくとも1ヵ月間は。

自殺しようとかは考えない方に掛けた。


なぜオレは、ここまでして彼女を救おうとするかわからない。

たぶん、ウララへの思いからなのかもな。

彼女が生きられなかった分、助けた少女を生き続けさせようとしてる。


冷静に考えれば、アイドルをまっとうして、死んだ方が彼女にとっては幸せだったのかもしれない。

これからは病気と格闘し、やりたいことも制限されながら生きてゆくことになる。

彼女にとっては地獄の始まりになのかも知れない。


何が正解なのかは分からない。

オレは彼女を助けたことを自分自身が後悔したくない。

こうなったら、あのとき死ななくてよかったと彼女に思わせるしかない。

ただ、それだけのためにオレは全力で動くと自分に誓う。



~~次の日の昼~~~~~~~~~

ジュン「よう、元気か。」

アカリ「死なないで待ってたわよ。」


とりあえず、活力のある顔で安心した。

正直、病室の扉を開けたら自殺してたらどうしようと頭をよぎった。

これで、少なくとも1ヵ月は生き続けるだろうと確信する。


ベッドの横にバスケットに入った豪華な果物があることに気づく。


アカリ「さっき両親が見舞いに来て、これ持ってきたの。好きなのどうぞ?」

ジュン「両親には、なんて説明したんだ。」


アカリ「ありのままを話したわ。

    今は死ぬ気がないのを知って安心したみたい。」

ジュン「そうか。」


アカリ「あなたにお礼がしたいと言ってたわ。」

ジュン「そうか。あなたのお子さんをまたアイドルにします。

    なんて言ったら、感謝どころか罵倒されそうだな。」


アカリ「で、世間話に来たわけではないのでしょ?」

ジュン「早速、アカリに仕事を取って来た。ナレーションの仕事だ。

    オーディションも兼ねている。

    実力で勝ち取れれば次につながる。どうだ挑戦してみるか?」


アカリ「するわよ。私には時間がないの。チャンスがあるなら何でもやるわ。」


ジュン「バラエティー番組のナレーションだそうだ。経験はあるのか?」

アカリ「テレビはないけどゲームとかなら何度かあるわ。

    あと、台本読みながら司会をしたことだってあるし、なんとかなるわよ。」


ジュン「気に入った。オーディションは2時間後だ。30分で準備できるか?」

アカリ「10分で支度する。」


ジュン「こっちに来てくれ。」


ウォークスルークローゼットのところへ案内する。


アカリ「へぇー。いつの間に。」

ジュン「いろいろと服を用意しといた。

    服装はオレにはわからないから、アカリに任せる。」


アカリ「すごいわこれ。ここのアクセサリーや靴とかも使っていいの。」

ジュン「ああ。ここにあるもの全て自由に使っていい。

    レンタルじゃないから汚してもかまわない。」


ジュン「病院の入口に車を待たしてあるから、オレは中で待ってる。

    準備できたら来てくれ。」

アカリ「分かりました。」


彼女はお礼を言って、深くお辞儀をした。

声からして涙ぐんでる感じかしたが、それを確かめず、オレは病室を出る。


10分後。


時間通り、彼女は現れた。手に木のケースを持っている。


アカリ「なにこの車、デカくない?あなたいったい何者なの?」

ジュン「お前のマネージャーだよ。」

アカリ「そうでした。これからはマネージャーと呼ぶわ。」


彼女は大学生のような服装だった。

オーディジョンがどんなものかは知らないが、清楚なスーツ姿か、

フワフワしたアイドルのような服装で来るものと想像していたが違った。


彼女が乗り込むと、車は会場目指してすぐ出発する。


アカリ「名前はどうするんですか。面接でなんて名乗ればいい?」


ジュン「本名で書類を提出した。今後も本名のままでいいんじゃないか。

    月条あかり、いい名前じゃないか。」

アカリ「マネージャーがいいなら、私はかまわないわ。」


アカリは、持参してきた木のケースを開ける。


アカリ「すごーい。なんでもそろってる。」

ジュン「なんだ、これ?」


アカリ「化粧道具よ。マネージャーが用意したんでしょ?」

ジュン「おまかせしたからどんなもを揃えてたのか知らん。。」


アカリ「化粧してもいいかしら。」

ジュン「車の中でするのか?」


アカリ「効率いいでしょ。」

ジュン「手慣れてるな。」

アカリ「その辺の素人と一緒にしないで。」


1時間後、会場付近に停車した。


アカリ「私1人でもかまわないけど。」

ジュン「いや、マネージャーとして付いていく。

    挨拶しておきたい人も居るし、

    アカリの勇士を見届ける。」


アカリ「そうね。これが最初で最後かもしれないし。

    全力でやるから見届けてよ。」

ジュン「そのつもりだ。」


ジュン「マネージャーから1つだけ忠告しておく。

    面接では、自分をよく見せるな。

    嘘偽りのない素のアカリをみせなさい。」

アカリ「質問に正直に答えていいの?」

ジュン「あぁ。おそらくほとんどの人が、自分、凄いぞアピールして来るだろう。

    面接者にとってそんな事どうでいいし、そこは評価しないはずだ。」


アカリ「なぜ、そんな事言いきれるんです?」

ジュン「実力で判断するならオーディションなんてしないだろう。指名するはずだ。

    素人が選ばることだって多々ある。

    それはフレッシュさだったりとか、期待に応えてくれそうだとか、

    番組のテイストに合っているというものあるだろう。

    とにかくだ。凄いぞアピールは悪い印象を与える可能性があるということだ。」

アカリ「はぁ。」


ジュン「あと、ナレーションはオーディションだと思うなよ。

    緊張するなとか、テクニックを見せつけるなという意味ではない。

    面接者をお客だと思ってやりなさい。

    要するに、本番という意識で、

    アカリの声をもう一度聞きたいという思いで取り組みなさい。」

アカリ「分かりました。その心構えで挑みます。」


2人は車を降りる。


アカリ「え!なに?」


黒服の大男が、アカリの真横に付く。


ジュン「ボディーガードだ気にしなくていい。」

アカリ「私、まだ一般人には知られてないから大丈夫ですけど。」


ジュン「オレのボディーガードだ。」

アカリ「へぇー。マネージャーやばい人なのね。」

ジュン「いや、オレは一般人だよ。」


2人は会場へ向かった。


3時間後。


面接とナレーション撮りは無事終了した。

結果は、3日後だそうだ。

決まれば、裏方だが新番組のレギュラーになれる。


ジュン「前祝いにいいものでも食べに行くか。」

アカリ「決まってからにしましょ。」


アカリは辛そうだ。顔には出さないが具合が悪いのを隠しているのがわかる。

急いで病院に戻らないと。


ジュン「そうだな。決まってからの方がいい。病院へ戻ろう。」


次の日から3日間は、本職の仕事をしてた。

病院へは、4日後に登場した。


ジュン「元気か。」

アカリ「見ればわかるでしょ。」


ジュン「先日のオーディションの結果だが。」

アカリ「ダメだったんでしょ。言わなくてもわかるわよ。」


ジュン「すまん。」

アカリ「何でマネージャーが謝るのよ。私に実力がなかっただけでしょ。

    謝るのは私の方だわ。せっかくのチャンスを逃したのだから。」


ジュン「オーディションには落ちたが、

    審査員の一人がアカリを使ってみたいと打診が来た。

    運がいいことに、新作ゲームのお披露目会があるんだが、

    司会者に空きが出たそうなんだ。」

アカリ「やるわ。司会します。」


ジュン「ああ。結果は違ったが、これはアカリが実力で勝ち取ったものだ。

    オーディションは無駄じゃなかったということだな。

    依頼は受けると既に伝えてある。

    会場は東京ビックサイトで、開催日は次の土曜日。4日後だ。

    打ち合わせをするから2時までに来てくれとのことだ。」


アカリ「服装は?どんな格好で行けばいい?」

ジュン「衣装を用意しとくからラフな服装でかまわないと言われた。

    コスプレだそうだ。露出は少ないと言っていたから安心しろ。」


アカリ「元アイドルだもん。へそ出しの衣装でも平気よ。」

ジュン「それはたのもしい。」


ジュン「では当日、午前中に迎えに来る。

    外出できるよう準備しといてくれ。」

アカリ「分かりました。」


と言ってオレは病室を出た。

なんともそっけない態度だと自分でも感じる。

タレントとマネージャーの関係だからと割り切ればそれまでだが。

アカリとどう接していいか分からない。

本当は仕事以外で一緒に楽しいことをしたいのだが、

病人であるということとマネージャーという立場が邪魔してる。

あと、彼女と会話していると泣きそうになる。

これは絶対やってはいけないことだと分かっている。

なので、業務連絡だけして立ち去った。



~~イベント当日~~~~~~~~~

東京ビックサイトへ向かう車中。


ジュン「プロデューサーから説明があると思うが、司会と言っても形だけで、

    メインはおじさん2人によるトークらしく。

    アカリは盛り上げ役だそうだ。」


ジュン「声で採用したわけではないと落胆するなよ。

    声も気に入ったが、容姿と雰囲気もひっくるめてアカリを気に入ったようだ。

    思うにアイドルをやってたからだと分析している。

    選ばれたことに胸をはっていい。」


アカリ「分かったわ。次につながるようこの会場で爪痕を残すわ。」


ジュン「怒るかも知れないが、そういうガンバリはいらない。

    俺からのアドバイスだが、

    アカリも客の1人としてイベントを全力で楽しんでもらいたい。

    お客を楽しませることを第一に考えてほしい。

    なので、アカリはお客代表として、おじさん2人の会話にガンガン割り込んだり、

    会話の方向を変える役をしてもらえるといいかな。

    お客は、おじさんの会話を聞きに来る。

    わざわざ遠くから来る人もいるだろう。

    イベント終了後に、来てよかったと会場全員が思えるような頑張り方をしてほしい。」


アカリ「そうね。マネージャーの言う通りだわ。

    自分よりも足を運んでくださったお客様が第一よね。

    見失うところだったわ。」


会場は100社以上のゲーム制作会社が集まるイベントである。

現地に到着すると、4万人もの人であふれていた。

アカリの担当は、4時からメインステージで行われる新作ゲームのお披露目会の司会である。


オレとアカリは、ステージ裏で待機していると、出演者1人であるゲーム会社のプロデューサーが現れた。


アカリ「今日のイベントで司会を務めさせていただきます月条アカリです。

    よろしくお願いします。」


佐久間「面接のときはどうも。覚えてますか?」

アカリ「覚えてます。元気いいねと褒めていただきました。」


佐久間「そうそう。ナレーション凄くよかったよ。感動した。」

アカリ「ありがとうございます。うれしいです。」


佐久間「君の声質は、ゲームとかにはぴったりだと思ったから、

    どこかで使えないかと考えていたらこんなに早く実現したね。」

アカリ「佐久間さんが推薦してくださったと伺いました。

    期待に応えられるよう頑張ります。」


佐久間「このあと井上くんが来るから。

    イベントは僕と井上君、アカリ君の3人になると思って。」

アカリ「はい。」


佐久間「ゆるい制作発表にしたいので、アカリくんもかしこまらずに伸び伸びやって

    くれると僕らも助かる。」

アカリ「わかりました。」


佐久間「では後程。」

アカリ「よろしくお願いします。」

ジュン「いいね。つかみはいい。」


ジュン 「こちらが構成作家を担当する近藤さんです。」

構成作家「構成作家の近藤です。」

アカリ 「月条アカリです。今日はよろしくお願いします。」


構成作家「聞いてると思うけど。イベントは4時からの1時間。

    台本はこれね。」


A4 10枚ほどの印刷物を受け取った。


構成作家「進行は一番上の1枚ペラだけだから。

     残りはゲームの概要とかキャラクタの説明になってます。

     覚える必要はないから。

     舞台上でこの資料を見ながら読んでもらえればいいので。」

アカリ 「分かりました。」


構成作家「流れは、書いてある通り、です。ざっと言うと。

     最初の10分は、プロデューサーとディレクターのトークね。

     次に、新作ゲームのタイトルコールをして、

     90秒のオープニングムービー+プレイ動画を上映。

     そして、2人が2、3分感想を述べて、

     モニタを見ながら10分くらい、ゲームの概要、キャラクタの説明をする。

     ここはアカリさんにおねがいします。」

アカリ 「はい」


構成作家「その後は、30分くらい、ゲームの進行状況だとか制作の裏話などでトークしてもらいます。

     残り5分のところで、グッツ展開の話をして。

     ラスト1分のところで、重大発表をモニタを見ながらアカリさんに言っていただきます。」

アカリ 「はい」


構成作家「あとは、いい感じに、はければいいので。

     こちらから指示は出しません。

     タイミングは全てアカリさんにお任せます。

     時間調整は、30分のトークでしていただけばいいので。

     こんな感じす。どうです?できそうですか?」


ジュン 「なにか聞いておきたいことあるか?」

アカリ 「全体は理解しました。時計を持ってません。

     時間はどこをみればいいですか?」

構成作家「お客さんの真後ろ。アカリさんからだと正面になる。

     大きなデジタル時計があるので、それで判断してください。」


アカリ 「分かりました。あと、ゲームの概要やキャラクタの説明ですが、

     映像を見ながら事前に練習ってできますか?」

構成作家「そこのノートパソコンで映像は見れます。

     だれも使わないので自由に使ってかまわない。」


ジュン 「あの、衣装の方は?」

構成作家「あ、そうそう。このボールに入っている。

     更衣室はそこを出て左に進めはあるので。」

アカリ 「分かりました。」


構成作家「大丈夫そうですかね。」

アカリ 「はい、大丈夫です。」


構成作家「わからないことがあったら、

     隣の部屋で仕事しているからいつでも聞きに来てもらってかまわない。」

アカリ 「はい。ありがとうございます。」


ジュン 「できそうか?」

アカリ 「大丈夫です。」


構成作家「そうだ最後に1つ。会場の様子は、ライブ配信もするので。

     たまに視聴者の方にも声をかけてください。」

アカリ 「はい。カメラの位置は、どこになりますか?」


構成作家「正面と斜め上に定点カメラがあって、お客さんの手前に移動式の計3つある。」

アカリ 「わかりました。後で位置を確認しておきます。」


構成作家「別件があるので失礼します。開始30分前には戻ってくるので。」

ジュン 「お忙しいところ、ありがとうございました。」

アカリ 「ありがとうございました。」


2人は、構成作家の姿が見えなくなるまで深々とお辞儀をする。


ジュン「緊張してるか?」

アカリ「直前になったらわからないですけど、今はまったくしてないです。

    楽しみの方が大きいかな。」

ジュン「頼もしい。3年間のアイドル活動はでかいな。」


アカリは衣装に着替え終えると、ムービーを見ながら、セリフの練習を始めた。

その後、1時間休憩なしに、ムービーの練習だけでなく、

オープニングの会社名とかプロデューサー名をかまないよう何度も何度も口ずさんだ。

アカリの本気が伝わってくる。


本日、もう一人の主役であるディレクターが登場した。


ジュン「始めまして、本日司会を務めさせていただく月条アカリのマネージャーです。

    よろしくお願いいたします。」

井上 「ディレクターの井上です。こちらこそよろしくお願いいたします。」


ジュン「こちらが月条アカリです。」

アカリ「月条アカリです。よろしくお願いいたします。」


井上 「いっしょに頑張ろうね。」

アカリ「はい。」


構成作家も登場した。

オレは時計を確認する。あと20分ほどで本番開始だ。

何もしないオレの方が緊張している。


♪バターン。


何の音だ。周囲が音の方へ注目する。


アカリだ!

アカリが倒れてる。


オレは、アカリに近づき状態を確認する。

意識はある。


アカリ「うー。」

ジュン「大丈夫か?」


アカリ「くすり。」


オレは急いで、アカリのバッグから薬を取り出し、口に入れて飲ませた。


構成作家「どうされました。」

ジュン 「急に容体が悪くなりまして。

     今、くすりを飲んだので5分もすれば落ち着くと思います。」


構成作家「慢性の病気ですか。」

ジュン 「そうです。」

アカリ 「うー。」


構成作家「尋常じゃないですよ。

     今直ぐ、病院に行った方がいいんじゃないですか?」

アカリ 「大丈夫です。はぁ、はぁ、はぁ。」


構成作家「いや、大丈夫じゃないよこれ。」

アカリ 「病院行っても、・・・

     変わらないので、・・・

     ここに居させてください。・・・

     お願いします。」

ジュン 「僕からもお願いします。」


佐久間 「どうしたのです?」

ジュン 「すみません。急に持病の発作が出てしまって。

     薬飲んだので5分あれば落ち着くと思うのですが。

     おそらく舞台に立つのは無理かと思います。」


佐久間 「最悪、2人だけもいいですよ。進行の流れは把握しているので。」

アカリ 「お願いします。やらせ下さい。」


アカリは、佐久間氏の前で土下座のような体制で、お願いした。


アカリ 「私、末期ガンなんです。病院に行っても薬を飲んで終わりなんです。

     この仕事が最後かもしれないんです。やらせてください。

     お願いします。」


その場の全員が凍り、オレを見る。

オレは、アカリの上半身を起こす。


ジュン 「事実です。隠してて、申し訳ありません。」


真実だと判明し、全員が驚愕する。


佐久間 「辛いね。わかりました。アカリくんにこのままやってもらおう。」

構成作家「佐久間さん、いいんですか?」


ジュン 「ご迷惑をおかけするかも知れませんが、僕からもお願いします。

     ただ、舞台に立たせるのはお勧めできません。

     お客さんに見苦しい姿をお見せしてはせっかくイベントが台無しです。

     裏方で声だけできないでしょうか?」


構成作家「それできるよね。」

スタッフ「可能です。」


佐久間 「杉本くーん!」

杉本  「はーい」


・・・


杉本  「なんでしょう?」

佐久間 「あと10分で、レイナを顔モーションさせて、

     会場のメインモニタに映し出すことってできる?」


杉本  「はい。3分あればできますよ。

     ただ、オープニングムービーと重ねるのは時間がないです。」

佐久間 「それはいい。切り替えられれば。」


杉本  「であれば。問題ありません。」

佐久間 「今直ぐお願い。」


杉本はセッティングし始める。


ジュン 「寛大な対応、本当にありがとうございます。あとでお礼致しますので。」

佐久間 「お礼はいいよ。僕もアカリ君を応援したくなっただけだから。」


ジュン 「レイナというのは?」

佐久間 「新作ゲームに登場するサブキャラの1人です。」

構成作家「アカリさんには失礼だけど、ゲームキャラを登場させた方が会場は盛り上がるかもな。」


杉本  「声も含めてだけど、レイナのキャラ、確定しちゃうけど、いいんですか?」

佐久間 「メインストーリに影響ないから、どんなイメージが付いても問題ないでしょ。」

構成作家「とにかく今を乗りきらないと。」


ジュン 「これでいいな!」

アカリ 「幸せすぎます。皆さんありがとうございます。頑張ります。」


アカリは泣いていた。


ジュン 「今は心を落ち着かせろ。」


杉本  「セッティング完了しました。」

アカリ 「テストしましょう。」


ジュン 「テストはオレがする。今は寝てろ。命令だ。5分前になったら起こす。」

アカリ 「分かりました。従います。」


アカリは、ゆっくりとパイプ椅子に座り、テーブルの上にうつ伏せになって寝た。


イベント開始5分前。

アカリを起こす。

目を瞑ってじっとしてただけで寝てはいなかったようだ。


ジュン 「気分はどうだ。落ち着いたか?」

アカリ 「はい、超元気です。」


ジュン 「本当だな?周りに迷惑が掛かるからオレには嘘はつくなよ。

     どんな事態になってもアカリにこのイベントをやり遂げてもらいたい。

     お前と同じ気持ちだということを忘れないでほしい。」

アカリ 「ごめんなさい。体調はだいぶよくなったんだけど、

     吐き気があって気持ち悪いです。あと頭痛も。

     でもできます。」


ジュン 「いいか、これは遊びではない。仕事だ。

     お客第一だ。中途半端は絶対に許さん。

     出来ないと判断したら言うんだ。オレが代行する。」

アカリ 「わかりました。」


スタッフ「2分前です。演者の方は舞台袖で待機してください。」


アカリは、準備されたパソコンの前へ座る。

顔に笑顔はない。おそらく緊張しているのではなく、体調がきついのだろう。


ジュン 「さぁ、Showの始まりだ。」


3,2,1


会場が暗くなる。


♪ジャジャアーーン。

会場全体にBGMが流れる。


レイナ「やふぉー。会場のみんなお待たせ―!

    始めまして私はレイナだよー。よろしくね。

    これから新作ゲーム『グノーシス』の製作発表をします。

    みんな!、楽しみにしてたぁ?

    あれぇ?元気がないぞー。

    楽しみにしてたぁ?」


会場 「おぉぉぉ。」


レイナ「レイナも楽しみにしてたよー。うふ。」


アカリは死ぬ気でしゃべっている。

笑顔はない。だが、目をつむって聞くと元気な明るい子が話しているように聞こえる。

なんというプロ意識だ。


体調が悪いというハンデがなければと思うと、オレが悔しくなる。

握りこぶしに力が入る。

アカリの100%を会場のお客さんに届けたかった。


レイナ「それでは、お待たせしました。

    今日のメインパーソナリティーを務める2人をご紹介します。」

会場 「おぉー。」


レイナ「もっと盛り上がってよ。みんなのリアクションが低いと

    おじさんたちのテンション下がっちゃうからね。

    拍手の音、小さいよ。ハイ、ハイ、ハイ、ハイ、ハイ。」


♪パチ、パチ、パチ、パチ。


レイナ「では、呼び込みするよ。

    株式会社トライデントヴェーダより、

    世界的に有名な、いや全宇宙的に有名な

    プロデューサー佐久間怜大さくまれおさんの登場です。」


会場 「うぉーーー。」


佐久間「どうもー。株式会社トライデントヴェーダの佐久間です。」


♪パチパチパチパチ。


レイナ「続きまして同じく株式会社トライデントヴェーダより

    こちらも全宇宙的に有名な

    ディレクターの井上楓摩いのうえふうまさんの登場です。」


井上 「ディレクターの井上でーす。」


アカリは、マイクのスイッチをOFFにして、うつ伏せになる。


ジュン「よく頑張った。」

アカリ「ね。問題ないでしょ。」

アカリはうつ伏せのまま答える。


井上 「佐久間さん、宇宙的に有名人と言われてますけど。」

佐久間「ねぇ。非常に出づらいですわ。」

会場 「はははは。」


ジュン「この会場の盛り上がりが聞こえるか?100点だ。」

アカリ「だといいです。」


ジュン「気は抜くな。始まったばかりだ。彼らの話に割り込んでお客を楽しませろ。」

アカリ「はい。」


アカリは、マイクのスイッチを再びONにする。


レイナ「おじさんたち、ちょっといいですか?」


一生懸命なレイナを見て、自分が恥ずかしく思える。

オレは、ここまで仕事に対して全力でやったことあるのかと。

アカリには後がない。だから必死にやっているともいえる。

だが彼女を見て思う。本当にそうなのか?

たとえ病気でなくても同じようにやったのではと感じる。


イベントはこのあともハラハラさせながらも、バックヤードでの波乱を微塵も感じさせず進行した。

そして、大盛り上がりのままイベントを終えることができたのだ。


佐久間、井上、構成作家の3名はアカリのところへ集まる。


アカリ 「お疲れさまでした。」

佐久間 「いやー。イメージしてたレイナとは別人だったけど、最高だったよ。」

井上  「うちらも楽しかったぁ。」

構成作家「アカリさんには感動しました。

     大成功だったんじゃないですか。SNSもバズってる。

     特にレイナの声はだれだと話題になってるしね。」


アカリ 「私のせいでマイナスプロモーションになってないといいですが。」

井上  「安心して、グノーシス(新作ゲームのタイトル)のトップページ、アクセス数伸びてるから。」


佐久間 「トップページにレイナの声を付け加えたいな。マネージャーさん、どうでしょう?」

ジュン 「もちらん、引き受けさせていただきます。」


アカリは両手で顔を覆い、無言で泣き出す。


ジュン 「オファーの話は私が受けますので、アカリはここで退席させていただきます。」

佐久間 「ああ、早く病院へ行ってあげて。」


アカリ 「今日は、ありがとうございました。一生に残る思いでになりました。」

構成作家「また、いっしょに仕事しましょう。」


黒服の男が2人現れ、アカリを背負い、そのまま病院へ直行した。


~~イベント日の夜~~~~~~~~~

アカリは、病院に付くと緊張がほどけ寝てしまった。

起きたのは、その日の夜。

アカリは、病室で一人、イベントの反応が気になりエゴサーチをする。


世界的に注目されている新作ゲームの製作発表。

あんな大きなタイトルの仕事をしたのは初めてである。

正直、エゴサをするのが怖かった。

今までの経験上、手ごたえがあっても反応が良かったためしはなかったから。

だが、現実から逃げてはだめだと自分に言い聞かせ、勇気を振り絞って確認する。


『つまらない質問するな』とか『レイナいらなくね!』など酷評が見受けられたが、

それよりも『レイナなファンになった』とか『レイナ可愛い』『1時間があっというまで楽しかった』など

高評価の方が圧倒的に多かったのが見受けられた。

しかも、ライブ配信だったのもあり海外ファンのコメントも想像以上に多かったのに驚いた。


アイドル時代も、アンチから散々叩かれた経験がある。

高評価が圧倒的に多いことに信じられなかった。


あと、『レイナの声優はだれだ?』というのでも話題なっている。


自分のなかで大成功だと確信できた。

あの状況でやり遂げた達成感は大きい。

現場では必死で興奮できなかった分、今じわじわと興奮して来てる。


♪プルル。

マネージャーからの電話。


アカリ「お疲れ様です。」

ジュン「起こしたか?」


アカリ「いえ、起きてました。」

ジュン「今日は、本当にお疲れさまでした。

    体調は良いと聞いてるけど、どう?」

アカリ「今は、元気です。」


ジュン「レイナの反響すごいよ。」

アカリ「私もさっきエゴサして知りました。」


ジュン「とりあえず大勝利だ。」

アカリ「はい。」


ジュン「1ヵ月どころか1週間で結果を出してしまったな。

    あんなビックタイトルに関われたことが奇跡だからな。」

アカリ「絶望していた私に命を救ってくれただけでなく、

    生きる希望まで与えてくださいました。

    どうやって、恩返ししていいかわかりません。」


ジュン「浮かれるのはまだ早い。

    この騒ぎは、ゲームおたくだけの話なんだから。」

アカリ「アイドル時代も経験済みなので心得てます。」


ジュン「タレント月条アカリとしては、いいスタートが切れた。

    こんなもんじゃない、もっと羽ばたけると信じてる。」

アカリ「これからも目の前の仕事を全力で頑張ります。」


ジュン「よろしい。早速だが。今日発表した新作ゲーム『グノーシス』だが。

    トップページにアカリの声を載せたいというオファーが来ている。」

アカリ「また、レイナの声をやれんですね。」


ジュン「そうだ。ファンの反響もあるが。プロヂューサーが気に入ってくれたようだ。」

アカリ「うれしいです。全力で頑張ります。」


ジュン「日時は3日後の13時集合。

    場所はトライデントヴェーダ本社。

    11時頃迎えに行く。昼食は車の中ですませよう。

    仕事の内容は、音声撮りとインタビューだそうだ。

    撮影はないとのことなのでラフな格好でかまわない、

    できるだけギャップを見せたいので、レイナとは真逆の清楚な感じでたのむ」

アカリ「分かりした。では当日、11時に出発できるよう準備しておきます。」


ジュン「マネージャーからの命令だ。

    体が調子が良くても、プロとして3日後に全力を尽くせるよう無理をしないこと。」

アカリ「はい。」


ジュン「では、お休み。」

アカリ「お休みなさい。」


電話を切った後、アカリは考える。

また、次の仕事につながった。これはたまたまじゃない。

アイドルの時も全力でやっていた。だけど次の仕事にはつながらなかった。

何が違うのか、たまたまなのか。

意識の違いだということに気づく。

そうマネージャーが教えてくれたことだ。


アイドル時代は、爪痕を残そうと自分をアピールしていた。

共演者の誰よりも目立とうという意識で仕事をしていたのだ。

だが、オーディションも今日のイベントも違っていた。

そう周りを楽しませようと頑張ったのだ。


次もこの意識で挑もうと決意するアカリである。


~~3日後~~~~~~~~~

株式会社トライデントヴェーダの会議室。


アカリ「先日はお世話になりました。」

佐久間「元気そうでよかった。」


ジュン「大変、ご迷惑をお掛けしました。」

佐久間「いやー。迷惑どころか、逆に良かったよ。

    当日は、ゲーム業界へ発表できればいいという感覚だったんだけど。

    レイナのおかげで世界的に注目される作品になりました。」


ジュン「それは、佐久間さんプロヂュースの新作だからです。」

佐久間「そんなことはない。

    リップサービスとは言え、ああだこうだ適当なこと言ってくれたおかげで期待感が半端ない。

    レイナの無責任な発言に近づけようと、システムとシナリオを見直しているところだ。」


アカリ「ごめんなさい。私が面白いと思って発言したのですが、

    まさかこんなことになるなんて、大変申し訳ありません。」

佐久間「いや、逆にいいアイデアを沢山いただいた。

    ありがたい。グノーシスもっと良くなる。」


ジュン「そう言って頂けると助かります。」

佐久間「あと、レイナが無視できなくなった。

    当初は出番の少ないキャラだったから、あの場の勢いで出したんだけど。

    反響がすごくてね。

    ヒロインではないけど、ストーリの要となる人物と入れ替えました。」


ジュン「それって。」

佐久間「そう、月条さんに声をお願いしたい。どうでしょう。」


アカリは泣き出す。


アカリ「うれしいです。ゲームに出れるなんて。夢のよう。」

佐久間「パッケージの表紙にも出ますよ。」


ジュン「大変ありがたい話ですが、アフレコはいつ頃を予定してるのでしょうか?」

佐久間「月条さんの事情は理解してます。

    セリフはほぼ完成しているので、レイナだけ先行してアフレコしようと考えてます。

    来週水曜日は空いてますか?」

ジュン「問題ないです。」


佐久間「携帯ゲーム向けの音声も一緒に取りたいので、

    一日掛かりになるとかと思いますが大丈夫でしょうか。」

ジュン「できそう?」

アカリ「やります。やさせてください。」

ジュン「お願いします。」


佐久間「歌も入れたいのですが、歌うことって可能ですか?」

ジュン「実は、元アイドルでセンターやってたんです。

    歌とダンスは問題ありません。」


佐久間「ダンスも行けるの?振付とか自分で創作できたりする?」

アカリ「格好いいのは無理ですが。アイドルみたいな感じでいいのなら。」


佐久間「じゃあ、それもお願いしようかな。

    使うかわからないけどモーションキャプチャ取りますよ。

    音ゲーとかに展開できるかも知れないし。

    今日、音源渡すから、次回までに歌とダンスマスタしておいてもらえるかな。

    収録は、3、4日後で行ける?」

アカリ「4日後で。」

ジュン「え、あ、はい。それでお願いします。」


佐久間「では3日後に。時間と場所をメールします。」

ジュン「お願いします。」


佐久間「何か質問ありますか?」

ジュン「今日の音声撮りはどうなるのでしょうか?」


佐久間「それはこの後、やります。いいのかな始めて。」

ジュン「はい、お願いします。」


この後、音響監督を紹介され。

その音響監督のもと、新作ゲームのトレーラーに、アカリがレイナ役でナレーションを録音する。

仕事は何事もなく終えることができた。


その後、アカリは実家に戻ることなく、1歩も外にでず病室にこもる。

両親は、合間を見ては2日おきに見舞いに来ていた。


体調は日に日に悪くなって行く一方だ。

薬の効きも悪くなってきており、薬の種類も変わっていた。


歌は仮歌の入った音源をもらい。

アカリは、その歌を歌詞を見ずに歌えるまで練習をし、ダンスは難しそうに見えて実は簡単な振付を考案した。


そして、収録当日を迎える。

歌の録音はばっちりで、その成果を見せることができた。

嬉しいことに、さらに2曲が追加で用意されていて、その場でディレクションしながら録音した。

インタービュー記事に載せるため、プロのカメラマンも呼んでいて写真撮影も同時に行われた。


アフレコの方は佐久間さんから連絡があり、収録日を5日伸ばしてくれないかと言われ先送りとなった。


そして、5日後のアフレコ日当日。

佐久間さんに会うなり、うれしい報告を受けた。

レイナの登場シーンを増やしてくれたとのことだった。

アフレコは、アカリの体調を見ながら、途中何度か休憩を何度も取り、作業は深夜までにおよんだ。

結果、何とか無事に取り終えることができた。


口には出してないが、台本を見てさずがに1日で取り終えることは不可能だろうというボリュームだった。

やる前からあきらめていた自分がいたが、アカリは違っていて、やりきったのだ。

どうも仕事のスイッチが入ると、生き生きとしたアカリへ変身する。

その瞬間、もしかして病気が治ったのかと勘違いさせられる場面が何度も見受けられた。


アフレコの収録中、佐久間さんもスタジオに同席してて、

レイナの声を聴いている途中でいろいろとアイデアが浮かんだらしく。

収録後。


佐久間「すみません。

    もしかしたら使わないかも知れないのですが、

    レイナの追加分を取りたいと考えてます。」

アカリ「うれしいです。レイナ、やっててめっちゃ楽しいです。」


佐久間「ですよね。声に現れてますよ。」

ジュン「了解しました。次の収録はいつになりますか?」


佐久間「来週月曜はどうでしょう。」

ジュン「月曜ですか。」


やばい、明後日には研究室に戻らなければならない。

打ち合わせがあるからギリギリ伸ばしても、日曜までが限度だ。


佐久間「都合が悪ければ月曜以降でもかまいません。」

ジュン「ん~ん。次の日曜日は難しいですか?」


佐久間「申し訳ない。

    私も音響監督も九州行ってて、日曜の夜に帰ってくるんですよ。」

ジュン「そうですか。」


アカリ「私1人でもいいですよ。」

ジュン「そうはいかない。」


アカリを1人で行かせたら、オレの本業が集中できなくなるのは明白だ。

アカリの仕事とオレの仕事、どちらか1つ選べと言ったら、それは決まってる。


ジュン「わかりました。では来週の月曜日にお願いします。」

佐久間「都合があるのでは?」


ジュン「先に予定が入っていたのですが、そちらは後回にできますので、お気遣いなく。」

アカリ「マネージャーありがとうございます。」


この後、挨拶すると、佐久間さんは忙しいらしくどこかへ行ってしまった。

我々は、まづは病院へ直行し、アカリを置いて、マンションではなく発着室へと向かった。

そう、こちらから研究室へメッセージを送るためである。


さて、本業の打ち合わせをすっぽかすのは確定した。

理由をなんとするかだ。


直にアイドル活動のマネージメントをしてて、そっちを優先したいと言ったら、怒るだろうな。

体調が悪いから戻れないと説明するか。

だめだ理由にならない。戻れば体調もなにもない。

装置を壊して戻れなくなったというか。壊したら強制的に戻るかもな。

逆に二度とこちらへこれなくなる可能性もあるから却下だ。

急用ができたと漠然というか。

戻った時に何て説明する!絶対に問いただしてくるだろう。

くっそー。オレが開催した会議なんだよな。

説得できる理由がない限り、本人が欠席なんて有り得ないよな。

だいたい、オレの発表がメインなので、主役が居なかったら中止だろう。

このまま無言のまま忘れてた振りして逃げるか。


オレはふとアカリのことを思い出す。

彼女は仕事に対して全力でぶつけてた。自分の命を削ってまでして多くの人に届けた。

なのにオレはと来たらどうだ。打ち合わせをどうサボるか必死に考えている。

何をやってるんだ、オレは。言い訳メールを考えてる自分が恥ずかしくなってきた。


正直に言おう。なぜオレが会議を中止にしてまでここに残りたいのか、オレの熱意を伝えれば通じるはずだ。

そう決意し、メールを書き始める。


文面はこうだ、冒頭から会議を中止したいと結論を書き、

それに伴い、出席者へは急用ができたので中止になると伝えてほしいことをメンバーへお願いした。。

中止の理由は、重病を背負う、とある少女との出会いから現在に至るまでを綴り、

最後まで見届けたいから帰れないと何も隠さずありのままを書いた。

ただし、これはメンバー内だけの秘密にしてくれと一言付け加えてある。


勇気を振り絞って、この内容で送信した。

長々と文書を書いたが、結局のところ中止の理由がまさかの少女と一緒に居たいからだ。

メンバーがどんな反応をするかが怖い。

研究所からこちらへのメッセージは送信できないので、戻るのが非常に怖い。。


~~追加収録日~~~~~~~~~

行きの車の中。


ジュン「楽しいか。」

アカリ「はい。今日も楽しみ。」


ジュン「ならよかった。」

ジュン「実は他にも仕事があったんだ。体調を考えて、グノーシス1本に絞った。」

アカリ「1つのことに集中できたのでマネージャーの判断は正しいと思う。」


ジュン「アカリと一緒に仕事してよかった。君を見ていろいろ学んだよ。」

アカリ「なにそれフラグ?。私、もう死んじゃう感じじゃん。」


ジュン「まだまだ終わらせない。スタートを切ったばかりだからな。

    少なくともゲームが発売されるまでは生きててもらわないと困る。

    見届けたいだろう。」

アカリ「そうね。私のキャラがゲームの中で動く姿を見たいわ。」


ジュン「まづは目の前のことを全力でやろう。」

アカリ「はい。」


このあと、音響監督から分厚い台本を受け取り、軽く目を通す。

そして、アカリはブースへ入り、場面が切り替わる節目で、細かなディレクションを受け、アフレコに挑んだ。


アフレコの音声が聞けることろに居る。

前回もそうだったのだが、アカリのセリフを聴いてて、時には笑ったり、涙ぐんだりとさせられる。

そして、今やアカリの声だというのを忘れて、レイナがブースの中でしゃべっていると錯覚するようになった。

すごい。すごすぎるよ。

音声だけで、こんなにも人の感情を揺さぶることができるなんて、オレは知らなかった。

レイナの動く姿を誰よりも見たいと思っているはオレじゃないかと思ってしまう。


そして、5時間にもおよぶ休憩なしの録音が無事終わった。


音響監督「お疲れさまでした。」

アカリ 「お疲れさまでした。」


アカリは、ブースの中で、壁際にあるパイプ椅子に座り、隣2つの椅子の上へ横たわった。

相当疲れたはずだ。少し休ませておこう。



音響監督「お疲れさまでした。」

ジュン 「本日はありがとうございました。」


音響監督「今日もいいのが取れたよ。」

ジュン 「そう言って頂けると本人も喜ぶと思います。」


音響監督「では私は次があるので。」

ジュン 「お疲れさまでした。アカリにもご挨拶を。」


音響監督「いい。疲れてると思うから休ませてあげて。」

ジュン 「すみません。また改めてご挨拶に伺います。」


音響監督は去っていった。

周りに人影はいない。

次にブースを使う人はいないのかな。


オレもブースに入り、アカリの横に座る。

10分、経過した。


ジュン 「アカリ、そろそろ帰ろう。」

アカリ 「・・・」


ジュン 「アカリ、帰るぞ。」

アカリ 「・・・」


アカリの身体をゆするが、ピクリともしない。

まずい、緊急事態だ。

オレは、アカリを担いで、外へ向かう。

呼吸はある。死んでない。と自分に言い聞かせる。

電話でボディーガードに車を入口の正面に付かせた。

その後は、アカリを車に乗せて、病院へ直行した。

病院に到着すると医師が待機してくれてて、アカリを引き渡した。


2時間後、アカリは病室に戻って来たが目をさまさない。

医師が言うには手の施しようがなかったと言っている。

もう、このまま目を覚まさないだろうと告げられた。


家族を呼んでくれと言われた。

さっきまであんなに元気だったのに。


今日のアフレコの仕事をして正解だったのだろうか。

いま思い返すと、本人も自分がやばいことを悟っていた節がある。

音響監督が休憩するか?と聞いても、続けることを望んだ。

もう、今をのがしたら次はないだろうと考えたにちがいない。


彼女の寝顔は、なんて幸せそうなんだ。

くっそ。


人間ってこんな簡単に死ぬのか。

さっきまであんなに元気だったのに。

むちゃくちゃ心残りだ。

仕事が軌道に乗って、これからが本番だったというのに。

ゲームだって完成してない。いっしょに見たかった。


いつかこうなることは分かっていた。

彼女と仕事を始めるときに覚悟はしていたつもりだ。

一言でいい、お別れの挨拶くらいさせてくれよ。


心のどこかでは目を覚まして話しかけてくると信じていたが、

2時間待ってもピクリともしない。

そうしている間に、アカリの両親が病室に来た。


むちゃくちゃ怒鳴られ、殴られる覚悟はできていた。

両親の反応は違っていた。逆にお礼を言われたのだ。

命を救ってくれた上に、生きがいを与えてたと。

どうよそれ。

確かに、当初はアカリのために動いてはいたが、

途中からオレが楽しくなって、自分本位で動いていたのだ。

アカリといる時間は楽しかった。毎日会ってはいなかったが、

会えない時間も含めて毎日が充実していた。

お礼を言いたいのはオレの方だよ。


アカリは、両親に見守られている。

オレの居場所がない。

アカリの顔を見て無言で『元気でな!』といい、病室を出た。


~~後日談~~~~~~~~~

結局オレは、研究所へは戻っていない。

あれから数日が経ち、オレはマンションに引きこもっている。


それは、アカリの復活を信じているからだ。

アカリが目を覚ましたら病院側から連絡をくれる手はずになっている。

だが、着信音がならない。

もしかしたら、アカリはもうこの世に居ないかもしれない。

というのも、容体が悪くなっても、亡くなったとしても一切連絡するなと言ってあるからだ。


プロデューサーの佐久間さんからメールが届く。

次の仕事の話かと思ったら、レイナのコスプレ写真集を出す許可をいただきたいという要件だっだ。

どうもホームページに載せたレイナのナレーションおよびインタービュー記事の反響が大きく、

すでに熱烈のファンも続出しているそうで、ダンス動画の配信と同時に写真集を出すことを上層部で決定したそうだ。


これは前代未聞だそうで、キャラクタの設定集ならともかく、

オフィシャルとしてゲーム発売前にコスプレの写真集は初の試みなのだという。


当然、許可するに決まっている。

命がけで撮影したのだ。使ってもらわなくては困る。

そしてそれは普通の写真集のはずがない。

アカリよ。羽ばたいてくれ。

オレは説に願う。


ゲーム制作に支障をきてしてはいけないと思い。

佐久間さんにアカリの現状をぶちまけた。

そして、アカリの病気ネタくを宣伝していいことも許可したのだ。


実際に、病気をネタにするかはわからないが、

アカリが有名になるなら、使えるものは何でも使ってくれとと願う。


やったなアカリ、写真集だってよ。

ゲームの仕事をして、歌、ダンス、写真集。予想外の展開になった。


今、アカリはどういう状態なのだろう。

ふと思いながら、仕事を再開する。


-- 3話 完 --


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― 新着の感想 ―
[良い点] 自殺未遂を助けてから、アイドルとして一仕事させるまでの経緯が劇的で良かったてす。地球にいる宇宙人という設定が、独自性があっていつも楽しませて頂いております。
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