第十話 ガイヤは青春でした
~~~ 自宅マンション ~~~~~~~~~~~~~~~~
先ほど、アーカイブ新社長から直接オレに電話が来た。
内容は、新社長になったご挨拶と
オレが持ち掛けた海外事業へのスポンサー契約の件について。
新社長は、会話した感じでは、頭の回転が速く有能な感じを受けた。
そして、海外事業の件は、単刀直入に協力できないとのことだ。
遠回りで言わない分、気持ちがいい。
理由は、役員会で採決したところ過半数を取れなったので
棄却となってしまったと言っている。
こちらからまだ事業計画書を提出していないのに採決?
直接電話してくるのも変だ。言った言わないがあるから。
分かり易い嘘だ。至る所に論理破綻を生じている。
だが、それは新社長が敢えてやってのことだろう。
嘘が分からなければ、こちらは食い下がらないだろうから。
ここまで、あらかさまなに嘘で拒絶されるとなると。
ジュン「了承しました。今回は残念です。
別の形で協力関係が築ければいいですね。」
と返すしかない。
アーカイブ撤退は正直想定外で痛い。
だが、怒りは起きなかった。
普通に考えれば、この事業で美味しいのは、うちと神楽だけだ。
素人でもわかる構図である。
アーカイブの資金を食い物にして、
その分のアーカイブへのリターンがあるかと問うと、ほぼない。
社長として当然の判断をしたまでだと言える。
と、同情している場合ではない。
スポンサーが居なくなったということは、
この計画が水の泡になるということだ。
スポンサーが居なくなったと神楽に報告したら
神楽も撤退する可能性が出て来る。
そもそも、海外進出なんてして、成功できるのか?
事務所を設立してタレントが売れなかったらどうする?
軌道に乗るまでに何年かかるというのだ。
それまで事務所は持ちこたえられるのか?
考えれば考えるほど失敗するイメージしか沸かない。
オレ自身が海外進出は無茶なんじゃないかと
だんだん迷いが出て来た。
とにかく、資金がない。
スポンサーを探さないと。
~~~ 前田コンサルティング ~~~~~~~~~~~~~~~~
悩みに悩んだあげく、前田に相談して、この計画がうまくいくのか
アドバイスをもらいに来た。
ジュン「という訳だ。どう思う。」
前田 「成功するかは五分五分だな。
お前がやれば確実に成功するだろう。
だが、実施に動くのは次の篠崎だからな。」
ジュン「オレがやったって、成功するかわからんだろう。」
前田 「わかる。お前は迅速な対応力とマイナスを逆利用する発想力ある。
あんな研究室でこもるより、経営者の方が向いてると思うぞ。」
ジュン「ガイヤに来て、人を動かしたりするのは楽しい。
遊びでやってて、たまたまうまくいったようなものだ。
本業でやったら通じないだろう。」
前田 「心配ない。大丈夫だ。」
ジュン「次期社長の篠崎は、経営者としてどうなんだ?」
前田 「お前に比べたら見劣りするが、適任だと思うぞ。
広告代理店の社長を務めた経験がある。
業界で顔が広いのは大きい。
各局のプロヂューサーとつながりがある。
安泰だと思うぞ。」
ジュン「前田が言うなら間違いないだろう。」
前田 「その通り。自分の言うことは全て正しい。
天才なんでね。」
ジュン「なんだ、こいつ。」
前田 「海外事業はどうする?」
ジュン「それを相談しに来た。」
前田 「取り下げた方がいいんじゃないか?
篠崎が国内で活動する分には問題ない。
まづ、事務所が潰れることはないだろう。」
ジュン「オレもそう思う。だけどつまらなくないか?
最後にデカい事やって、帰りたいじゃないか。」
前田 「だからと言って、海外は無茶だろう。
つぶしてしまう可能性が高い。」
ジュン「前田コンサルティングがスポンサーになれないか?」
前田 「なってもいいが。
うちの会社をお前と心中させたくない。
かなり愛着があるんでね。
お前も今の事務所潰したくないろう。」
ジュン「ああ。
なら、前田コンサルティングが出資するという名目で、
前田、個人の金を出せよ。」
前田 「お前、オレの金だぞ。」
ジュン「いいじゃないか。いくら持っているか知らんが、
残したって意味ないだろう。パーっと使おうぜ。」
前田 「OK.個人資産を投資してもいい。
だが、金があっても成功するとは限らんぞ。
そして実際に行動するのはお前じゃない。次期社長だ。
しかも、オレたちには時間がない。
うまくいと思えるか?」
前田 「な!この海外事業は止めておけ。失敗する。」
ジュン「金を出してくれるんだな?」
前田 「本気か!」
ジュン「もちろん。
前田が金をだしてくれるというなら、オレは本気を出す。
いくらまで出せる?
100億か?200憶?」
前田 「分かった。5000億出してやる。」
ジュン「5000億?まじか?」
前田 「ただし、条件がある。
最大投資額として5000億までなら出してもいい。
だが、事業に見合った額しかださないぞ。
興奮させる内容なら5000億まで出してやる。
今の計画じゃあ、200憶だな。」
ジュン「200億でも十分だ。
アーカイブがスポンサーになったとしても、
ここまでは出してくれなかっただろうから。」
ジュン「だが、上限が5000憶と知っちゃ話は変わる。
新しい事業計画を持って来る。
最大額まで出させてやる。
待ってろよ!」
前田 「期待してる。オレを興奮させるようなものを持ってい。」
オレは、立ち上がり、オフィスを出た。
~~~ 神楽芸能事務所 ~~~~~~~~~~~~~~~~
オレは神楽芸能の事務所へ単独で訪れた。
もちろん、プロダクションTESの社長の身体でだ。
業務提携を申し込んだ側としては、現状を報告する義務がある。
あの女社長と面と向かって話すのは非常に胃が痛い。
ここで逃げ出すのは簡単だ。
だが、これは遊びではない。
オレがここで逃げれば、多くの人に迷惑を掛けてしまう。
だからオレはここに来たいという訳だ。
受付嬢に案内され社長室に入る。
大盛 「ようこそ。神楽芸能へ。
田中社長、自ら来ていただけるとは光栄です。」
ジュン「こちらこそアポイントメントせず、
突然押しかけてしまい。失礼いたしました。」
大盛 「メールでは何度かやり取りさせていただいてますけども、
こうやって会うは、千葉さんとの会食依頼ですわね。」
ジュン「あの時は大変ご無礼な事を致しました。」
大盛 「いえいえ。こちらこそ、お恥ずかしいところをお見せしました。」
ジュン「それはお互いさまです。」
大盛 「最初にお詫びさせてください。
今までの数々のご無礼。誠に申し訳ありませんでした。」
大盛嬢は頭を下げる。
ジュン「頭をお上げください。それは前社長との事であって、
私自身は無礼されたという認識はありません。」
大盛 「ありがとうございます。
田中社長は器が大きいですね。」
ジュン「神楽さんはうちの筆頭株主の1人であり、今やパートナーでもあります。
過去の事は忘れて、未来に向けて話し合いましょう。」
大盛 「一経営人とて尊敬します。」
ジュン「お互いで潰し合いをするよりも、お互い助けあった方がいいと思いませんか?」
大盛 「人格も素敵です。田中社長のファンになりましたわ。」
嘘だろう。
本気か?それとも話の流れで適当な事を言ってるだけか?
この女の本心が掴めない。
ジュン「さっそく本題に入りたいのですがですが。」
大盛 「その前に。
立ち話もなんですから、座って会話しませんか?」
ジュン「そうですね。」
大盛嬢は、手のひらでソファーの方を差し、オレは指示された場所へと座る。
そして、オレに合わせて大盛嬢も対面の席へ腰かけた。
大盛 「アーカイブ出版がスポンサーを降りた件ですね?」
ジュン「さすが、耳が早いです。
ご指摘の通り、アーカイブ社がスポンサーになれないと
新社長から直々に破断の申し出がありました。」
大盛 「スポンサーはアーカイブ出版の1社と伺っております。
スポンサーがいないとなると、
新事業はどうなさるおつもりですか?
我が社も出資に限度がございます。
2社で進めるのは困難かと。
せめて銀行に融資していただく必要があると思われます。
そちらのお考えをお聞かせください。」
ジュン「今は誰とは言えませんが、
スポンサーになってくれる個人投資家を見つけました。
その人は事業を始めるにあたり確実に資金提供することを
確約しております。
ですが、ここで一つ問題があります。
アーカイブ出版には、スポンサーだけでなく
企業の仲介役になっていただく想定でした。」
大盛 「新しいスポンサーは、個人であるから資金のみの提供になると。
仲介役がいないから、企業が我々に協力して頂けれるか
分からなくなったということですね。」
ジュン「ご名答。神楽さんとは協力関係にあるため、
報告する義務があると思いまして伺った次第です。」
大盛 「私、田中社長を誤解してましたわ。
お恥ずかしい話し、表向きは業務提携しおりますが、
TESさんは勝手に事業を進めるものと想定しておりました。」
ジュン「おそらく神楽さんは、今まで通り、アニメ関連を
中心に進められたら、失敗はないと思われます。
だが、うちは違います。
需要のあるタレントをこれから探す状況下で動いてますから。
仲介役がいないとなると厳しです。」
大盛 「正直なのですね。」
ジュン「本音をいうと、私が最後までこのプロジェクトに関わるなら
うちもうちで勝手に進めたところではあります。
ですが新社長に引き継がなければなりませんので
どのみち隠し事はできないかと。」
大盛 「あら。社長が変わっても、田中さんは継続して
このプロジェクトに関わるものと思ってましたけど。
田中さんがいないと、このプロジェクトは成功しないと
思われますが。」
ジュン「それは過大評価です。」
大盛 「メールの資料は、コンサルの方に作らせたのかしら。」
ジュン「いえ。私一人で作りましが、それが何か?」
大盛 「すごい分析力です。語彙力がなくて、うまく表現できませんが。
かなりの切れ者と判断しました。
そこも尊敬しているところではあります。
そして、この人となら新事業は成功すると思った次第です。」
ジュン「大盛さんにそこまで評価して頂けるとは光栄です。
できることなら最後までやり遂げたい思いはあります。
ですが、事情がありまして、
どうしても途中で抜けざる負えないのです。」
大盛 「それは残念です。
一つ確認していいかしら。
中止もあり得るのでしょうか?
神楽はこのプロジェクトを社にで進めています。」
ジュン「おそらく、私の最後のプロジェクトにるでしょう。
命に代えてでも実現させる気でいます。
社長代行とは言え、私もうちの事務所を大きくしたい
気持ちがありますから。」
ジュン「1つ提案があります。
神楽さんは、今まで通り、カナダ、欧州を中心にアニメイベントで
シェアを広げていけばいいと思われます。
うちは、当初の計画通り、アジアを中心に拡大していきます。
ただ、神楽さんにも協力していただきたい。」
日本の建設事業であるタイ、フィリピン、ベトナムでの地下鉄に目を付け、
手始めに駅周辺に、コンビニ、デパート、100均、アパレル、薬局、車の販売等の
日本企業間で流通の連携を取って、
日本式のサービスを提供するというのはどうかと提案した。
当然、我々の芸能事務所も設立し、CMやテレビ番組の司会に起用してもらう。
芸能事務所が個々の企業と提携するのではなく、芸能事務所を含めた
日系企業で連携を取って、アジアを単なる製品の工場にするのではなく、
地域のマーケットを取りに行こうという戦略を考案した。
神楽の社長は、いい案ではあるが、壮大な計画であると言う。
1社2社だけでは意味がなく、多岐に渡った多くの企業が
加わってもらわないと成り立たないと指摘された。
確かにその通りだ。
~~~ プロダクションTES ~~~~~~~~~~~~~~~~
神楽芸能を出たあと、ある人物と合流し、我が事務所へ。
その人と事務内を並んで歩く。
社員一同が、オレたちを注目する。
寄りによって、ユイもいるではないか。
オレが事務所に来ると必ずユイはいる。
毎日来てるのか?それともオレのストーカーか?
ジュン「社員の皆さん。手を止めてちょっとの時間だけ
耳を傾けていただけますか!
既にご存じの方もおられると思いますが、
私の横におられるのは、次の新社長となる
篠崎さんです。」
♪パチパチパチ(拍手)
ジュン「正式な就任は来週となりますが、
今日は皆さんの顔が見たく、
挨拶にいらしたということです。」
ユイの表情に動揺が走る。
お前、そんな顔すんなよ。
その顔は、オレが居なくなる寂しさからなのか
それとも新社長が信頼できるか見き分けているものか。
ジュン「では篠崎さん。一言、ご挨拶をお願いします。」
篠崎 「ご紹介に預かりました篠崎です。
この中には顔見知りの方も何人かおりますが、
ほとんど方が初めましてですので、
改めて自己紹介させていただきます。」
篠崎氏は、今までの経歴や、業界に知り合いが多くいるということ
そして、テレビ業界に太いパイプがあるこを話された。
今後の事務方針は、若手の育成、発掘の強化と、
インターネットへの進出と幅広く進めていくとのことだ。
最大の目玉としてオレが進めている海外進出を取り上げてくれた。
♪パチパチパチ(拍手)
ジュン「先ほどもお伝えしましたが、
篠崎さんの正式な就任は来週となります。
ですが、引継ぎがありますので明日から
出社して頂くことのことです。
分からないことがあるかと思います。
みなさん、ご協力お願いします。
以上」
全員、自分の作業に戻る。
そして、ユイと目が合う。
ジュン「ヨー!ついにお別れだな。」
ユイ 「あらっ。私に会えなくなるのが寂しくて、
ここに残ると思ってましたけど。」
ジュン「お前のマネージャーになるのもいいかもな。」
ユイ 「それは強くお断りするわ。」
ジュン「最後に、ユイの土下座が見れないのが心残りだ。」
ユイ 「あら、まだ数日あるじゃない。あきらめるの。」
ジュン「そうだな。悔しいが降参だ。」
ユイ 「まぁ。この短期間で、よく頑張った方だと思うわ。」
ジュン「それは、オレを認めたってことか?
今この場で土下座してくれると!」
ユイ 「驚いた。
はっきりと、お世辞だと言わないと通じない人だったのね。」
ジュン「お前は面白いな。」
ユイとの会話は好きだ。
それができなくなるのは寂しい。
ジュン「それじゃな。写真集期待してるぞ。」
ユイ 「1万冊は買いなさいよ。」
ジュン「それはユイ次第だ。
1万冊買わせるだけの魅力があったら買ってやる。」
ユイ 「見たら私に惚れるかもよ。」
ジュン「この姿から想像つかんが、
どんだけ化けるか楽しみだ。」
・・・
ユイ 「たまには遊び来なさい。」
あっけない別れだ。
オレが社長でなくなれば、もうここへ来る理由はなくなる。
ユイとのバカ話は楽しい。
それが出来なくなるのは、ほんと寂しい。
オレのタイムリミットは近い。
次、会えるかどうかわからん。
ユイに出会えたのはいい思い出だ。
ジュン「そうだな。顔見知りのスタッフもできたし、
たまには顔を出しに来るとするか。」
オレは事務所を出た。
~~~ とあるスタジオ ~~~~~~~~~~~~~~~~
数日が経ち。
オレは、ユイが写真撮影している現場にいる。
♪カシャ、カシャ、カシャ、カシャ (シャッター音)
写真撮影中。
オレは、ユイから見える位置で、
堂々とその撮影風景を目にしている。
だが、ユイはオレに気づいてない。
そう、オレはアカネのマネージャーに身体を乗り換えて、
撮影現場に潜入しているのだ。
この姿になっているのには、2つ理由がある。
1つは、ユイの写真集が発売されるころには
オレはこの世界に居ない。
だから、ユイの勇士を目に焼き付けておこうとここに来た。
オレはもうユイの社長でない。
ここに来る理由として、この方法しか思いつかなかったのだ。
♪カシャ、カシャ、カシャ、カシャ
ユイ、お前はいいやつだな。
顔が引きつってるし、ポーズもぎこちない。
心の底では乗り気でないのだろう。
だが、全力で取り組んでいるのは伝わってくる。
きっといい物が出来るだろう。
ありがとう、ユイ。
オレのわがままに付き合ってくれて。
ジュン「メイクも衣装もユイさんにぴったりです。」
ココ 「ありがとうございます。
衣装も30着用意して、ユイさんが気に入ってくれるか
ずっとドキドキしてました。」
この姿でいる2つ目の目的は、ココに会うためだ。
ココにお別れをしたく、この姿になったというものもある。
ココ 「今回はありがとうございます。
私をご指名して頂いて。」
ジュン「噂は聞いてますし、
頼むなら知り合いがいいと思いまして。」
ジュン「ココさんに頼んで正解でした。
予想以上です。
新しいユイさんの魅力が出たのではないでしょうか。
事務所の方も納得して頂けると思います。」
ココ 「ありがとう。ございます。」
ジュン「写真集楽しみです。」
ココ 「作品に少しでもお役に立つよう頑張ります。」
ジュン「このあと、外でも撮影があるんですよね。
天気良くてよかったですね。」
ココ 「そうなんです。
昨日の予報では1日曇りだったら、
衣装やメイクをどうしようか悩んでました。
もしかして、室内にかわるんじゃってドキドキしてて。」
ジュン「ココさんがそこまで背負わなくてもいいのに。」
ココ 「ジュンさんのためにも、絶対に独立すると誓ったので。
ど素人の私をこの業界に入れさせていただきました。
ジュンさんに迷惑を掛けないよう。
そして、ジュンさんのお勧めする人に間違いないと思わせたいです。」
やばい。泣きそうだ。
この子もいい子なんだよな。
オレはほんと人に恵まれている。
君たちのおかげで、オレ自身もまともな感覚の人間になれたような気がする。
カメラマン「はーい。OK。次のシーン、お願いします。」
ココ 「すみません。次の準備がありますので。」
ジュン「邪魔して悪かったね。」
ココ 「いえいえ、お話し出来てよかったです。」
この写真集は絶対にいいものになる。
現場を見て確証した。
ユイの写真集だ。
売れることは確実だろう。
世間的に注目されるのはどうしてもカメラマンだ。
だが、この写真集は業界内できっと話題となる。
その時、ココも注目される一人になるだろう。
少しは、ココへの協力になれたかな。
さようならココ。そしてユイ。
君たちが未来、幸せでいることを願ってる。
~~PMC~~~~~~~~~
オレは、身辺整理を始めてる。
その一貫として、元郷田組にも訪れた。
ジュン「会社の口座に500憶移した。
自由に使ってかまわない。」
幹部 「ジュン社長。」
ジュン「今日からお前が社長だ。
ここ(会社)は好きに使っていい。
今直ぐ死ぬわけではないが、
オレが倒れたら、遺体は例の病院へ頼む。
3カ月以内には死ぬだろうと予想している。」
幹部 「承知しております。前田殿は如何されますか?」
ジュン「あいつはあいつで手配済みだろうからほっといていい。
発着室は跡形もなく処分していくれ。」
幹部 「了解しました。」
ジュン「墓とか作るなよ。
オレが死んだら、オレに関する全ての痕跡を抹消すること。」
幹部 「心得ております。」
幹部 「ユイさんとココさんは護衛いたしますか?」
ジュン「いやいい。
オレと関わらなければ、危険が及ぶことはないだろうから。」
ジュン「ユイで思い出した。写真集が発売されたら
予約の段階で10万冊購入しといてくれ。
購入後は処分するなよ。
そいう形での購入はユイは望んでないから。
アジア各地のファンクラブに10分の1でいい。
売りさばいてくれ。」
幹部 「了解しました。」
ジュン「いろいろあったが、
オレがここ(郷田組)に来たのが全ての始まりのような気がする。
お前らとの活動は刺激的だった。」
幹部 「私もであります。
社長を尊敬しておりましたので残念です。」
ジュン「オレもお前を気に入ってた。
では、頼んだぞ。」
幹部 「承りました。」
~~~ とある会場 ~~~~~~~~~~~~~~~~
ジュン「お前が動いてくれたとはな。」
前田 「そりゃそうだろう。
面白いことを始めるんだ。
率先して参加するに決まってるだろう。」
ジュン「なら言葉に出して言え。
興味があると、たった今知ったわ。」
前田 「ジュンは、ここに居ていいのか?
戻る時間ないぞ」
ジュン「それはオレのセリフだ。」
前田 「ジュンは自分を研究室へ連れ戻しに来たんじゃないのか?」
ジュン「この状況で帰れるか。」
ジュン「あとは任せろ。時間がない。
前田は研究室に戻った方がいい。」
前田 「どうした?カッコつけて。
自分がここに居る時点で、帰る気ないことくらい分るだろう。」
ジュン「死ぬ前に映画みたいなこと1度は言ってみたかったんだ。」
前田 「おいおい。死ぬとは限らんだろう。
怖い事言うなよ。」
ジュン「呑気な奴だな。
お前がいると不安がすべて消えるわ。
そろそろ始まるぞ!」
~~~ 研究室~~~~~~~~~~~~~~~~
助手 「まづいです。そろそろ時間になります。」
同僚女「そうね。戻って来ないかもって、
思ってたけど、本当に戻って来ないとはね。」
助手 「博士。こっちの時間を間違えてますよ。
そうじゃなきゃ。
とっくに帰って来てもおかしくない。」
同僚女「そこまでバカじゃないわ。
分かってて帰って来ないのよ。
ガイヤはそんなに楽しいのかしら。」
助手 「そんなこと言ってる場合じゃないです。
やばいです。
博士死んじゃいます。」
同僚女「落ち付きなさい!」
♪ピンポーン (チャイム音)
同僚女「はぁーい。どうぞ。」
研究員「突然すみません。
ジュン博士は戻られてますか?」
前田チームの研究員が入って来た。
同僚女「いえ。
前田さんも戻られてないのね。」
研究員「そうなんです。どうしたらいいか。」
同僚女「どうしようもできないわ。
もう間に合わないでしょ。
最悪のことを想定しておくことね。」
研究員「そんなぁ。」
研究員「通信を強制遮断した方がいでしょうか。」
同僚女「リスクがあるけど。」
研究員「2000兆倍の時間に耐えるよりかは
助かる確率が高いと思います。」
同僚女「今、戻って来ないということは、
戻りたくないのよ。
たとえ死んででも居続けたいということでしょ。
彼らの気持ちをくんであげたら。」
助手 「もしかして2人供ギャングに捕まって
戻ってこれなくなってる可能性があるかも?」
同僚女「あなたも見たでしょ。
博士がいるところは、安全よ。」
助手 「やばいです。」
同僚女「今度は何!」
助手 「あと1分で、1号機のリミッタ解除を開始するそうです。」
研究員「切断しに行ってきます。」
同僚女「待って!本当にいいの?」
研究員「時間がないんです。切断しないと死んでしまいます。」
助手 「うちもやらないと。」
同僚女「2人とも冷静になりなさい。
死ぬとは限らないし。
博士たちが命を差し出してでも、
やとうろとしていることが無駄になるのよ。
いいの?」
研究員「本当にそんな思いでいるんでしょうか?
時間を間違ているとしか思えない。」
同僚女「あなたもそっちの考え!」
助手 「僕もそう思います。
あぁぁ。あと40秒。」
同僚女「強制切断しても、脳に損傷を与えない保証はないのよ。
それでも彼らの意思を無視しする気?」
研究員「博士たちの意思だって保証はないですよね。」
助手 「あと30秒。」
助手 「切った方がいいって。」
研究員「やばい。もう間に合わない。行きます。」
前田チームの研究員は出て行った。
今、戻ってももう手遅れだ。
助手 「うちは間に合いますよ。
いいですよね?」
助手は強制切断のボタンを押す。
「はい」「いいえ」の最終確認が現れた。
助手は、はいを選択しようとしている。
助手 「いいですよね?」
同僚女「・・・」
残り20秒。
助手 「いいですよね?」
同僚女「・・・」
残り10秒。
助手 「なんか言って下さい!」
~~~ とある会場 ~~~~~~~~~~~~~~~~
ジュン「研究員が強制的にオレたちを戻したらどうする?」
前田 「どうするも何もないだろう。
そのときはガイヤは消滅しているのだから。」
ジュン「バカだな!オレたち。」
前田 「同感だ。こんなのに命掛けるか?普通。」
これから始まる会議は、オレが進める海外事業プロジェクトの説明会である。
マスコミは遮断しており、このプロジェクト自体も極秘で進めている。
参加者は、現在海外で工場や販売店を持つ企業など計200社を超える会社の
広報や重役達にお集まりして頂いている。
こんなにも集められたのは、前田のおかげなのは説明するまでもない。
プロジェクトに賛同して頂けるかは別問題で、
オレのプレゼンにかかっていると言える。
主賓は、神楽芸能社長、プロダクションTES新社長、
そしてプロジェクトの企画者であるオレの3名。
前田は、シークレットゲスト兼スポンサーとして、登場して頂く予定だ。
当然、参加者リストには記載していないので前田存在は知らされていない。
このプロジェクトはできるだけ多くの会社が参加して頂けないと意味をなさない。
キーとなるのが自動車メーカーだ。
ここが1社でも賛同してくれると、周りが付いて来るのは確実である。
ついに、説明会がスタートした。
オレ、大盛社長、篠崎社長の3名が登場し、1人づつ軽く挨拶をする。
まづ初めに、神楽芸能とプロダクションTESとの合併会社の設立を発表。
この会社は、国内、海外でのイベント、ライブ、テレビ制作を主体に
ハイテクを使った舞台セットを手掛ける業務を行うことを説明。
そして、本題に入る。
神楽芸能とプロダクションTESは、今後世界に向けて事業展開を進める
構想であることを説明。
日本の政府開発援助(ODA)に便乗して、デパート、コンビニ、家電量販店、
飲食店などの日本企業がタッグを組んで、地域のインフラを整え、
日本と同じサービスを提供するというもの目指す。
要するに、個々の会社が、出店していた店を、例えば駅周辺の
一カ所に日本の店を集中して出店させるというもの。
会計システムや配送などメーカーの隔たりなく共通で使えるメリットがある。
決済は仮想通貨を用いたカード払いを検討中であることをお知らせした。
一通りの説明は終わった。
オレのやりたいことは理解してもらえたようだ。
このあと、質疑応答を受け付けたが、どの会社も難色を示してる。
問題点は3つ挙げられた。
1つ目は、日本からの経済侵略とみなされないか?
2つ目は、芸能会社が主体で実現できるか?
3つ目は、新システム構築の資金をどうするか?
1つ目は、倉庫や店舗の土地は購入せず、各国の政府から借りる形にする。
2つ目と3つ目は、資金力の問題である。
ここで、シークレットゲストの登場だ。
前田の登場はでかい。
大企業のほとんどは彼を知っているからだ。
前田は、一言挨拶をすると、
この海外事業について、重大な発表をした。
それは、メインスポンサーになるということだ。
具体的に、新システムの構築に3000憶円。
共通輸送に1000億円を投入するという。
ODAの仲介役としてMAEDAコンサルティングが主体で行うことも約束。
MAEDAコンサルティングは政府とのつながりが強いため適任である。
手始めとして、現在ODAが進めている地下鉄の駅を中心に進める計画であり。
タイ、フィリピン、ベトナムに追加でそれぞれ1000憶投入するという。
おいおい、個人で7000憶出すって言ってるよ。こいつ。
一体、いくら持ってるんだ。
これには、会場がざわつく。
要するに、各会社は新プロジェクトに資金を投入しなくていいことになる。
加盟して計画した場所に店を立てれば、新システムが利用できる。
地域は特定されるが、今までよりも低予算で海外進出し易くなるということになる。
大手企業の反応は早く、検討したいとの申し出が殺到した。
それにつられ他の会社も参加したいとの参加表明があった。
この説明会としては大成功である。
~~~ 記者会見 ~~~~~~~~~~~~~~~~
説明会から一カ月後。
オレと前田はまだ生きていた。
日本ブランド海外進出事業プロジェクトの記者会見が開かれる。
参加する会社は、そうそうたるものだ。
あの説明会に呼んだ会社のほぼ全てが参加を表明してくれた。
オレと前田は、会場には居るが、ただの野次馬だ。
メインは、大盛社長と篠崎社長の2名である。
オレの役目は終わった。
前田も、個人資産の1兆円をMAEDAコンサルティングの
メインバンクに移して、役目を終えた。
資金は表向きMAEDAコンサルティングが出資するとなっているのだ。
海外進出が成功するか否かは、オレたちに知るすべはない。
是非とも成功して欲しいものだ。
会見を見届けて、ガイヤでやるべきことは全て終わった。
前田を研究室へ連れ戻すつもりが、2人して、
ここに残ることを選択してしまった。
それについては後悔していない。
残り、何日生きていられるか分からないが、
余生を楽しもうと思う。
前田は、死ぬまで仕事するとこのことだ。
もしかしたら前田にとっては趣味なのかもしれない。
明日からが本当の意味で、
『ジュン博士の休日』となる。
さぁ、休暇を楽しもうではないか。
1つ言い残したいことがある。
この会見後。
この会見を見たアーカイブ出版からプロダクションTESへ
参加申し込みの打診があったのだというのを
関係者を通じて知った。
それによると、プロダクションTESの回答は、
参加を表明している出版社が既に存在し、
シャアが強豪するとあって、一次募集は終了しました
と低調にお断りしたとのことだ。
オレが一番最初に参加の申し込みをした会社だ。
社長自らの判断で却下したのに、今更参加したいだなんて。
オレは面白がって、株主および会社役員にその事実をリークした。
次の株式総会で、あの社長が叩かれることは間違いないだろう。
どう説明するのか見てみたい。
-- 最終回 --
~~~ 後日談 ~~~~~~~~~~~~~~~~
オレは、研究室で一人こもってガイヤでの出来事を書き留めている。
ガイヤを失った後も、今までと変わらず仕事に励んでいる。
前田もだ。
結果、2人は何の問題もなく帰還することができた。
これが奇跡かどうかは分からない。
2000兆倍の時間を体感したのはオレと前田だけだから。
タイムリミットを超えてからの記憶は断片的であやふやだ。
おそらく数ヶ月過ごしただろうという感覚しか残ってない。
楽しい夢を見たけど、どなんなストーリーだったか
思い出でそうで、思い出せない。
ちょうどそれに似ている。
その混乱を整理するため、作業の合間を見て
ガイヤでの思い出を今まさに書き記しているところだ。
時間が経てば経つほど記憶があいまいになってる。
オレは、筆を止めた。
書き記していることに意味があるのか疑問を感じたからだ。
読み返してみても、オレの妄想にしか思えない。
一生懸命書いたのだが、バッサリ消し去った。
結局、なんも覚えてない。
ガイヤへ行ったのは無駄だったのか?
いや、そんなことはない。
むしろ、行ってよかったとさえ思っている。
確かにタイムリミット後のことは記憶はあいまいだ。
だが、それ以前の事は、はっきりと覚えている。
オレは、人とのコミュニケーションを取るのが苦手だった。
仕事も休みも1人でいる方が好きだった。
人といると何を話せばいいか、考えるのが面倒だからだ。
沈黙になるのが恐怖だった。
休憩時間の会話なんて、苦痛のなにものでもなく、休憩にならない。
だれかと食事なんてもってのほかだ。
そんなオレがだ。
女性と2人きりになっても、他愛もない会話を自然できてた。
いい意味で、オレに新しい扉を開いてくれたガイヤに感謝している。
オレと関わった彼女達は、どのような人生を送ったのだろうか。
行く末を見たかった。
幸せだったと願いたい。
こんなにも他人に興味を持ったことがあっただろうか。
彼女たちとの時間は、ただ一緒にいて楽しかっただけでは済まない。
誰かのために協力したいとか、一緒に居てドキドキしたとか、
刺激を受けたとか、楽しませたいとか、驚かされたとか、
こんな経験したことがなかった。
彼女たちは、オレの価値観を変え、人との接し方を身に付けさせてくれた。
仕事一筋で振り返ればつまらない人生を送って来たオレに、
忘れられない思い出も作ってくれた。
皆、オレに感謝してくれてたが、感謝しているのオレの方だ。
ガイヤに居た期間は、オレの人生からすると一瞬の出来事かもしれないけど。
もの凄く貴重で濃厚な時間であった。
だれしもが学生時代に経験していくはずのことを
社会人になった今、経験できたのだ。
そう、オレはガイヤで青春してきたんだ。
以上
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回の第10話で完結となります。
ストーリーの創作について、少しだけ触れておきます。
公開当時ストックはなく、書けなくなったら出さなきゃいいだけじゃん
という軽い気持ちで1話のみしかない状態で公開した作品です。
地球が無くなるというゴールだけを決め、
途中のストーリーを考えてないままのスタートさせたのです。
今思えば、簡単なプロットだけでも書いておけばよかったのかと、
頭を過りますし、完結できてよかったとホットしている状況です。
毎週土曜日に公開しようと変なルールを決め、日曜日にストーリーを考え
毎日2、3時間使って土曜日ギリギリに書き上げてたのです。
誤字の修正に1度読み返してアップするというハードなルーティーンでした。
毎週ストーリーを考えるのが辛かったです。
特に制約である「ギャグ」「感動」「恋愛」「ホラー」「高校野球」「偏食」「ヒロイン多数」
の内の「高校野球」をどう組み込むかが悩みどころでした。
正直こんなの入れるの無理。止め止めと半分あきらめかけてはいました。
早めにやっつけたいというあせりから2話に無理やりぶち込んで、
あのようなストーリーが出来上がった次第です。
「偏食」も困りましたね。アンナがすき焼きをマヨネーズで食べたのは、
このワードを回収するためでした。
今読み返すと、無理があるな~と思ってます。
最終話を書き終えて、改めて麻枝先生は天才だなと実感しました。
特に「感動なんてオレには無理!」と痛感させられております。
次回作の構想が固まっており、必ず出しますので、読んでいただければ嬉しいです。