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第一話 暴力団の女に手を出すから

この小説は「見る小説」「聞く小説」としてYouTubeへもアップしてあります。

興味がありましたらこちらもどうぞ!

https://www.youtube.com/channel/UCSrtVu53IOzrlRN7uObNx6g

◆プロローグ


♪ガラガラ、ガッキャーン。


ジュン「すまん。ぼーっとしてた。」

同僚女「ああ、こんなに散らかしちゃって。いい加減休みなって。こっちが集中できないわよ。」


ジュン「すみません。これ整理したら休憩します。」

助手 「それなら僕がやりますよ。」


同僚女「あぁ言ってくれてるんだから今日は帰って寝て。

    明日も来なくていいから。1日ゆっくりしてなさい。」

ジュン「そうはいかない。明日は打ち合わせで報告することがあるから休めない。

    資料もまだ完成してないし。」


同僚女「進捗会議なんて出なくていいわよ。代わりに私が出てもいいし。」

ジュン「そうはいかない。今後の方針も決めたいし。3時間だけ仮眠取るから起こして。」


ここはオレをチームリーダーとする研究室である。

メンバーは同期の女性と助手の3人のみ。

研究内容は、ガイヤと名付けた惑星を観察し、文明の研究をしている。

研究しているのはここだけではない。

この建物全体が巨大な研究施設であり、世界でここでしか出来ない事がある。

それを求め、全世界から集結した研究チームが日々多種多様な研究を

この施設で寝泊まりして実施しているのだ。


なんと、この建物の地下に小宇宙を創り出したのだ。

直径100mのサイズだが、中には数百兆もの銀河が存在している。


同僚女「なら旅行にでも行ってきたら。100倍の時間設定だから、

    3時間なら300時間は休めるわよ。10日以上はバカンスできる計算だわ。」


助手 「旅行ってガイヤですか?ここ行けるの?」

ジュン「言ってなかったね。実はもう2度行ってるんだ。」


助手 「えーそれ教えてくださいよ。どんな感じですか?」

ジュン「1回目はお金も何も無かったから。生きるのにいっぱいいっぱいだった記憶しかない。

    他のチームとの協力でベース基地を作ったので、今は楽しめる所のはず。」


助手 「お金もそうだけど。言葉が通じないんじゃ。」

同僚女「ジュンちゃんが言葉を教えたから、私たちの言語で会話できるらしいよ。」


助手 「教えたって。いいんですか?そんなことしちゃって、研究に支障がでるんじゃ!」


オレは大きな声を出すな!というジェスチャーをする。


ジュン「大丈夫、大丈夫。言葉を教えたのはこの小さな島だけだから。

    他はちゃんと別の言語を使ってるから問題なし。」


助手 「わかりました。秘密にしてあげますから、私も行かせてください。」

ジュン「いいよいいよ。今から行く?」

同僚女「今日はダメ。ジュンちゃんが行きなさい。命令です。」


助手 「そうですよ。僕は次でいいです。

    あと、明日の資料の表とグラフは全て僕が作っておきますから。

    リーダーは気兼ねなくバカンスを楽しんでリフレッシュしてください。」


ジュン「そうおう、悪いね。もう2つ作って、将来的には3人でガイヤへ行けるようにしよう。」

助手 「いいですね。慰安旅行かぁ、楽しそう。」

同僚女「私は遠慮しておきます。」


ジュン「何で?」

同僚女「男はいや。」


============================================

■第一話


とあるビルの一室。


誰もいない真っ暗な部屋。

大量の計器類が光を点滅させている。

部屋のど真ん中には5つの棺桶が設置してあり、不気味な空間と化していた。


♪ウィーーン


棺桶の1つが開く。

中には上下タイツ姿の男性が眠っている。

ふたが開くと同時に目を覚ます。

男は立ち上がり、部屋の明かりをつける。そして見渡す。


ジュン「しまった!朝4時か。へんな時間に来てしまった。」


オレは、ガイヤの地に降り立ったのである。

といってもガイヤに来たのは思考だけで、他人の身体を借りている。

窓際まで歩き、窓の外を眺める。

今、居る場所はとある高層ビルの最上階。


ジュン「いい眺めだ。」


オレは風景とかには興味はないタイプなのだが、

仕事から解放されてからのこの景色はさすがに感動する。


ジュン「だめだ。眠い。」


身体は別人だが、精神的には研究室からの疲労は続いている。

とりあえず4時間ほど仮眠を取ることにした。

寝室のベッドへ行き、布団の上へ倒れた。


・・・


目を覚ます。窓からの日差しがまぶしい。

身体を起こし時間を見る。


ジュン「はぁ、朝7時!?5、6、7。3時間しか寝てないのか!

    元気だなオレ。やっぱ若い体は違うね。」


寝室を出て、冷凍保存器(棺桶)の部屋へ戻る。


ジュン「やばい、ふた開けっぱなしだった。壊れる。」


昨日自分が眠っていた棺桶の側面を見ると、やはり赤文字の点滅で警告が出ていた。


ジュン「27時間、開けっ放し?うそだろう。

    ってことは27時間寝ていたのか!時間無駄にした。」


オレは寝るだけで1日を使ってしまった。

もしかしたら逆に良かったのかもしれない。

ものは考えようだ。まだ10日もある。

休息は十分取った。

今から楽しく観光ができそうだというポジティブな考えに変わった。


忘れないよう。

帰る日にアラームがなるようついでにセットする。


洗面所へ行って歯を磨く。


ジュン「こんな顔か?結構イケメンじゃん。」


乗り移れる人間は5体ある。

それぞれ年齢や体格は異なる。

そして、全員クローン人間だ。

オリジナルは100年前に死んだ人間から作りだした。


今回この男性を選んだのは、動き回りたいと思ったのでスポーツマンタイプの19才を選択した。


シャワーを浴びてビルの外へ出る。

時はAM10時。なんだかんだ起きてから3時間経過している。

なんという贅沢な時間の使い方だろう。

だが気持ちがいい。気分もすっきりだ。


研究室では、休憩中でさえも次やることを思考していたので、

改めて自分は働きすぎだったと再認識する。


さて、外に出たはいいが何をしよう。

1人遊園地は変だし、映画は気分じゃないし。

美術品も興味がない。

スポーツ観戦等、考えるがこれと言ってやりたいことが浮かばない。


まずは飯か。1人飯なら慣れている。

この世界の食を堪能しようと思い立ち、散歩がてら美味しそうなお店を探すことにした。


片道3車線ある大通りの歩道を歩いていると、自分の横をいかにも高級そうな車が横切る。

思わず目で追っていると、20m先の赤信号で止まった。

近くで、車を見たいと思い早歩きで近づくと、

車から真っ赤なドレス姿の女性が飛び出した。

見た目は十代である。

その女性はスカートを少し持ち上げて自分の方へ小走りに向かって来る。


オレと目が合う。

一瞬オレに興味があって飛び出して来たのかと勘違いしたが、その後の光景で状況を理解する。

続けて運転席と後部席から柄の悪い男2名が出て来て、女を追う。

女性はピンヒールのせいか走りづらそうだ。

自分の目の前で男2人に追いつかれ腕を捕まれた。


女 「ちょっと、放してください。」

男1「姉さん。戻ってください。」

男2「俺たち殺されますよ。」


さぁ、どうするよオレ。

死ぬのは怖くない。

だが痛いのは避けたい。

というか女の前でカッコつけてもボコボコにされるのは明白だ。

周りには、警察署もなければ警官もいない。

通行人はいるのだが、みんな見て見ぬふりをして素通りする。

正直、オレも素通りしたいのだが、助けてという女性の目を見てしまった。

ここで目をそらせば暗黙の了解で助けないという合図になるわけだ。

苦渋の決断を迫られる。


女 「痛い。乱暴されたってボスに言うわよ。」

男1「ちょっとの間だけおとなしくしてくれ。」


男2は、ハンカチを取り出し薬品を付ける。

男1は、後ろから女の両腕をつかみ

身動きをとれないようにした。

なるほど眠らせるのか、オレは察した。


決心する。助けよう。

女に目を合わせたまま笑みを浮かべる。

察してくれることを願う。


男2の真横に来たところで、目にも止まらぬ速さで、オレはハンカチを奪い取る。

男2が何が起こったのか理解する前に、オレは男2の鼻と口がかぶさるようにハンカチを当て、

もう片方の手は後頭部を押さえ、バレーボールを手のひらでつぶす感じで力を入れる。


1秒も経っていないだろう。男2は倒れた。

この状態を見て逆に恐怖が込み上がる。

何も考えずに行動したが、男2が息を止めていたらどうなっていたんだろうと。


男1は男2の姿を見て、女性の腕を解き、オレの正面に振り向く。

オレは、ファイティングポーズを取る。

あくまで形だけで、オレはボクシングなどやったこともない。

この後はノープランだ。

さあどうするよオレ。


一応、膝蹴りを入れるそぶりも見せる。

素人だとバレれば一発殴られて即終了となるところが、さまになっていたのだろう。

間合いを取って男1はパンチとキックを警戒してくれた。

なら都合がいい。

オレがこうして時間を稼いでいる間に女性が逃げて、オレも逃げればいいだけだ。

この体なら男1に捕まることはないだろうと判断した。


ここで予想だにしないことが起きた。

女は逃げるどころか、男1の後ろから股間に蹴りを入れたのである。


男1は股間を押さえて倒れそうになる。

すきを見て、オレは男1の口にハンカチを当てる。

自分は博士なのに学習能力がないと感じた。

この場合、逃げるのが得策だ。

息を止められれば反撃される可能性が高い。


だが、男1は倒れた。運がよかったのだ。

それとも女の蹴りの効き目かもしれない。

次にすべきことはできるだけ遠くに逃げることだ。


オレは無言で女の手首を掴み、走る。

正面のデパートへ入りたいが、彼女の靴がピンヒールなので早く走れない。


オレは女の靴を脱がせ、人目も気にせず手を引き裸足で走らせた。

デパートに入り、エスカレータで地下へと降りる。

地下街を走る。

走っている間、女との会話はない。

女の手首をつかんでオレが先頭を走り、女は引きつられるようにして付いて来たのである。


どう逃げるか考えた。

道路に出るのは危険だ。

捕まる可能性が高い。

地下で隠れていたらどうか。

だめだろう、女が目立ちすぎる。

やつらが聞き込みをしたらすぐに見つかる。

とにかく遠くへ逃げるしかない。


地下鉄が見えた。なんてラッキーな日だ。

このあと悪い事しか起こらないんじゃないかと逆に不安になる。


券売機の前に立つ。

切符の買い方がわからない。

とりあえず、ポケットからお金を出し券売機に入れる。

そして固まる。


ジュン「ごめん、切符の買い方がわからない。」


女は、無言でボタンを押すと、切符2枚とおつりが出て来た。

改札を抜け、行く宛も考えず進むと、電車が止まっていた。


♪プルルルル。


出発の合図だ。

2人が走って電車に飛び込むと、同時に扉が閉まる。


女性「ふふふ」


助けた女性と目があうと、笑い出した。

これドッキリじゃないかと思うくらい全てがうまくいった。

オレもなんか楽しくなって来た。


ジュン「ふふふ」


しばらく笑いは止まらなかった。


女性 「助けてくれてありがとうございます。」


ジュン「ケガとかしてない。」

女性 「大丈夫です。」


片手で2足、女性の靴を持っていることに気づく。

それを見せて。


ジュン「ごめん。ここだと恥ずかしいから降りてからでいい。」

女性 「それで歩くと痛いから裸足のままでいいです。」


女性はドレス姿だ。

結構汚れてるしシワも目立つ。

注目はされてないが、目立つ、被害妄想かも知れないが見て見ぬふりをされている感じがする。


女性は気にしない素振りだが、オレはかなり気にした。

いたたまれなくなり、次の駅で降りた。


人気のない駅なのだろうか。

プラットホームに人が少ない。


地上に出る。

柄の悪い連中が出口で並んで立っていたらどうしようと頭をよぎったが、そんな者はいなかった。


ジュン「これからどうする? 自宅にはもう戻れないよね?」

女性 「あの人達が待ち構えていると思う。」


200m先の大通りに真っ黒なワンボックスタイプの車が3台、急ブレーキで止まる。

そして、車から柄の悪い連中がわんさか出て来た。


ジュン「もしかして。」


彼女を見つめる。


女性 「ごめんなさい。私のせいです。」

ジュン「なんでここがわかったんだ。」


女性は、ポケットから携帯電話を取り出し、放り投げる。

女性は目立つ。すぐに気づかれてしまった。

幸いにも距離はある。


反射神経で彼女の手首を掴み、逆方向へ走る。

角を曲がったところで、運よくタクシーが向かってきた。


手を挙げたが、止まってくれず我々を通り抜けていく。

くっそーと思い。

もう一台来ないかなと遠くに焦点を当てる。


隣の女性が肩をポンポンと叩く。

女性 「止まってくれたみたい。」


振り向くと、先ほどのタクシーが10m先で止まっていた。

走って行き、急いで乗り込む。


ジュン「この辺で一番高級なホテルへお願いします。」

運転手「シーサイドホテルでいいですか?」

ジュン「そこでいい。とにかく急いで。」


タクシーは走りだす。

オレたちがタクシーに乗ったことにおそらく気づいていないはずだ。

生きた心地がしない。一安心した。

と思ったら20m進んだところで停車した。


ジュン「おっと。」


どうした?やつらに止められたか!


女性 「赤」


女性が正面の信号を指さす。


ジュン「あぁ。」


ちぇっ、次から次へともーー。心の中で怒鳴る。


青になるまでなんと長い事か。

ふと気づくと隣の女性は堂々としているではないか。

対してオレは内心焦りまくっている。

とにかく悟られないよう、堂々とした態度を取り続けた。


タクシーがやっと走り出す。

見つかってないよな、不安になってきた。

振り返って確認したいが、隣の女性に焦っていると思われたくない小さなプライドがそれを許さず。

結果、今良ければそれでいいじゃんと言い聞かせた。


移動中、女性の方からリードして会話してくれたから助かった。


ジュン「実は東京初めてで、今どこに居るか分かってない。」


というと、女性は珍しいものを指さしては観光案内を兼ねて説明してくれた。

コミュ障なオレにとっては一方的に話しかけてくれてたら会話ができたし、ずーっと楽しかった。


20分ほどして、ホテルに着いた。


ホテルに足を踏み入れるまでは緊張した。

タクシーを出たら銃で撃たれるんじゃないかと、いつものネガティブが発動しひやひやしていた。

当然、女性にはそんな素振りはみせずジェントルマンを装う。


タクシーを降りるとき、ピンヒールを履かせ、オレは腕を差し出しエスコートする。

ホテルのラウンジは天井が高く豪華で華やかだった。

まっすく受付カウンターへ行く。


フロント「宿泊でしょうか?」

ジュン 「はい」


フロント「ご予約の方でいられますか?」

ジュン 「いえ、通りかかって来ました。」


フロント「大変申し訳ありませんが、本日満室でして。」


このホテルが満室?それはありえないだろうと直感する。

ああ、なるほど、なるほど。

2人の服装を見て判断したのね。と理解した。

確かにこのホテルは一般人には敷居が高そうだ。


よくよく考えたら、オレらの格好はさすがに場違いであることに今更気づく。

オレはジーンズにTシャツの小僧で、女性は汚れたドレス姿。

女性も見た目で断られたのだと気付いたのだろう、冷ややかな目でフロントマンを見つめる。


対応は気に入らないが、ここならばチンピラは入ってこれないと確信する。

そうなると、ますますここに泊りたいという強い感情が芽生えて来る。


ジュン 「最上階のスイートルームは空いてないの?」

フロント「最上階ですか。少々お待ち・・・」


オレは、ブラックカードを差し出す。


ジュン 「とりあず1週間借りれる? 支払いは先払いの一括で。」

フロント「大変失礼いたしました。 只今、手続きを致しますのでどうぞ、こちらへ。」


カードを見せてよかった。我ながらファインプレイである。

もし見せなかったら断られていたことだろう。


フロントマンの態度が急変し我々は待合室に案内された。

ソファに腰かけ、案内人が居なくなると、2人で馬鹿笑いする。

この星に来てよかった。何年振りだろうか。心から笑えたのは。

1日家で休みを取るのとはえらい違いだ。

これこそ休暇の過ごし方だと感じたのである。


渡したカードを持って、案内人が入ってきた。

連れられるまま、最上階のスイートルームへ入る。


さぁ、部屋に入ったはいいがこの後どうしよう。


女性 「シャワー、浴びてもいいかしら?」


確かに手足が真っ黒だ。


ジュン「外にジャグジーがあるから、ゆっくり湯舟につかるといい。」

女性 「ありがとうございます。」


ジュン「今更かしこまらなくていいので。」

女性 「あ!はい。」


女性は奥にある浴室へと向かう。

オレは、彼女が見えなくなるのを確認してフロントへ電話する。

そのあと、寝室でシャワーを浴びる。


50分後。


女性がバスロープを着て、戻ってきた。

オレの姿を見て目を丸くする。


オレは既にフォーマルスーツに着替え終わっていた。

フロントに電話したあと、服が届き、そそくさと着替える。

女性に見られることなく支度を済ませ待機していたのだ。


ジュン「どう?疲れ取れた?結構歩いたからね。」

ジュン「あなたの服も用意してあるから、こっちへどうぞ。」


女性用の寝室を案内する。


衣装20着、靴30足、

下着やアクセサリー類が置いてある。


ジュン「気にいったのをどうぞ。ここにあるもの全てプレゼントしますよ。」

女性 「えー、いいのですか?私、あなたを巻き込んだ上にここまでされるとどう返せばいいのかしら。」


ジュン「そんなこと気にしなくていい。

    服は、オレの暇つぶしに付き合ってくれたお礼。

    このあと、食事でもいっしょにどうですか?

    もう(午後)1時だし。朝から何も食べてないんですよ。

    一人で食べるの寂しいから付き合ってよ。

    それを恩返しにするのはダメかな。」


女性 「私と居るとひどい目にあいますよ。」

ジュン「いまさら?」


ジュン「ホテルに居る一週間だけオレのお友達になるという契約をしませんか?

    お代は、この部屋を自由に使えるということでどうでしょう。」


女性 「彼女になればいい訳?」


ジュン「どういう意味で言っているかはわからないけど。

    一緒に食事して、ショーとかを見て、会話してくれるだけでいい。

    部屋も別々にするし。悪くない条件だと思うけど。」


女性 「そんなのでいいの。」

ジュン「全然いい。実は、友達いないから1週間どう過ごそうか考えていたんだ。

    言い方悪いけどちょうどよかった。」


女性 「私でいいなら全然かまいませんけど。」

ジュン「契約成立ということで。では、さっそく食事に出かけましょう。」


オレは、彼女の寝室を出て、リビングで待機する。


10分後。


赤いバッグを持って青いワンピース姿の彼女が現れた。


ジュン「いいチョイスです。オレの服装に合わせてくれたんですね。」

女性 「おばさんっぽくないですか?」


ジュン「いやいいよ。大人の女性って感じがする。並んで歩いたら間違いなくオレのほうが弟に見られるな。」

女性 「そんなことないです。 初めて会った時より紳士に見えます。」


ジュン「では行きましょうか。」


出入口へ向かう。

女性は半歩下がった感じで斜め後ろを付いて来る。

この場合、手を差し伸べるべきか、それとも腰に手を回して、真横に引っ張って来るべきか考えるが、

こんなシチュエーションになったことがないからわからない。

イケメンはこの場合どうするんだろうと考えていたら。


扉を開けて部屋を出てしまった。


女性 「きゃ。」


女性が、小さく悲鳴を上げ腕にしがみついて来た。

どうやら入口の両サイドに立つ男に驚いたようだ。


ジュン「驚かせてごめん。ボディーガードです。」


女は、ボディーガードに会釈するが、2人共無反応でいた。


女性は腕から離れようとはしない。

理由を知ってさらに密着度を増して来たのである。

基本、オレはベタベタされるのは好きではない。

だがこの時ばかりは、オレを信頼してくれてる感じがして悪い気がしなかった。


廊下を歩き始めると、2人のボディーガードも我々の歩幅に合わせて付いて来る。


女性 「付いてきます。」

ジュン「ボディーガードだからね。」


ジュン「食事ですけど、このホテルでいいかな。」

女性 「私はついて行くだけだから、どこでも構わないです。」


エレベータで2つ下の階へ降り、レストランへ入る。

中は、全席オーシャンビューの落ち着いた雰囲気で、

石工風な壁にシャンデリアがぶら下がっていて

ヨーロッパのお城にいる感じがした。

ピアノの生演奏中というのもあり、マナーがわからん。

プレッシャーに押し殺されそうになった。

とにかく堂々とすることだけ心掛けた。


ボディーガードはというと、レストランの入口で待機している。


椅子に腰かけて、メニューを見る。

タイトルも説明も他国の言語で書かれていてさっぱりだ。

タイトルの下に小さく日本語で書かれているが、

どういった料理が出て来るのかイメージが沸かない。


もう見栄を張るのは止めよう。逆に無様だと感じ始めて来た。

別に正面の女を落とすために連れて来たのではない。

と開き直ったら急に楽になった。


ジュン「メニュー見てもさっぱりわからない。」

女性 「私も。ムニエルって何って感じ?」

ジュン「だよね。」


ジュン「なら、メニューにないものを作ってもらうか。」

ジュン「お腹空いてる?」


女性 「恥ずかしい話、私も朝から食べてなくてペコペコなんです。」

ジュン「よかった。お腹空かしてて。男だけガツガツ食べてる光景って滑稽じゃないですか。」


手を挙げるとウェイターがテーブルの前に来た。


ジュン 「今日のおすすめは何ですか?」

ウェイター「ロティ・ロティールになります。」


ジュン 「それって肉ですか魚ですか?」

ウェイター「仔羊のローストであります。」


ジュン 「魚がいいなぁ」

ウェイター「ポアレなどは如何でしょうか。タイの蒸し焼きとなっております。」

ジュン 「それがいい」


かしこまらなくてよくなったら急にテンションが上がってきた。


ジュン 「肉と魚、どっち好き?」

女性 「お肉の方かな」


ジュン 「羊は?」

女性 「それはちょっと」


ジュン 「羊以外でおすすめある?」

ウェイター「でありますと。赤みのステーキは如何でしょう?」


ジュン 「それでいい?」

女性 「牛肉なら」


ジュン 「じゃそれで。」

ウェイター「焼き加減はどうされますか?」


ジュン 「レアでいい?」

女性 「大丈夫です。」


ジュン 「じゃそれで。」

ウェイター「かしこまりました。赤みのステーキをレアで。」


ウェイター「他にワインなどご用意いたしましょうか?」

ジュン 「お酒はすきじゃないから水でお願いします。」

ウェイター「かしこまりました。」


ジュン 「ワイン飲む?」

女性 「飲まないなら私も遠慮します。」


ジュン 「気を使わなくていいのに。」

女性 「そういう訳じゃ。いっしょでいいです。」

ウェイター「ウォーターですね。かしこまりました。」


ウェイター「パンかライスをお付けしますか?」

ジュン 「パンがいい」

女性 「私も」


ジュン 「2人とも、パンで」

ウェイター「バケットとシャンピニオンをご用意できますが。」


・・・


ジュン 「両方食べたいから1つずつお願いします。あとサラダを適当に。」


ジュン 「他に何か食べたいものある?遠慮しないで言って。」

女性 「生ハムとチーズ。」


ジュン 「それお願い。」

ウェイター「かしこまりました。以上でよろしいですか。」


ジュン 「量がわからないんだけど。これでおなか一杯になれますか。」

ウェイター「どのくらいお食べになられるかですが、大抵のお客様は、

もう一品ほど足した量をご注文されております。」


ジュン 「人気の前菜はありますか?」

ウェイター「シュリンプ、タコ、サーモン、ホタテなどはよくご注文を頂いております。」


ジュン 「サーモンどう?」

女性はうなずく


ジュン 「あとサーモン追加で。」

ウェイター「かしこまりました。デザートは如何されますか?」


ジュン 「そーだなぁ。量がわからないから。食後に注文します。」

ウェイター「かしこまりました。

      季節のデザートを数多く取り揃えてあります。

      よろしければ、時間を空けてからお越しいただいても

      かまいませんので堪能いただければ幸いです。」


ウェイターはお辞儀をして、キッチンへ向かった。


ジュン 「あー、緊張した!」

女性 「うそっ。楽しそうでしたけど。」


ジュン 「田舎もん丸出しだよ。背伸びしてこんなところ来るもんじゃないね。」

女性 「私も初めてです。こんなかしこまったところに来たの。」


ジュン 「へぇ。そうなんだ。ならよかった。」

女性 「何がですか。」


ジュン 「言葉を間違えた。いっしょに体感できて楽しかった、だ。」

女性 「そうね。私も助けられてから今まで、ハラハラ、ドキドキの連続でずーっと楽しい。」


女性 「一生来ることはないだろうと思っていた世界に居て夢見てるみたいです。」


女性 「お支払いは大丈夫なんですか?」

ジュン 「そうだよね。見るからにお金持ってなさそうだよなぁ。」


女性 「そういうわけじゃ。」

ジュン 「いいのいいの。気にしないから、確かに言葉遣いもマナーもなってない。

もうちょっと勉強しないと。」


女性 「このネックレスも相当すると思うけど。まさかレンタルじゃないですよね。」

ジュン 「お金の話はやめよう。

      ほんと気にしなくて大丈夫だから。

      洋服も含めて、ほんとうに一式をプレゼントします。信じて。

      1つ言っておくと。

      自殺しようとして全財産を使いまくってる

      奴ではないことだけはお伝えしておきます。」


女性 「お仕事は何をされている方なのですか?」

ジュン 「おぉ。早速プライベートに踏み込んできたね。」


・・・


ジュン 「怒らない。はい、契約、契約。楽しくして」 *


ジュン 「秘密な訳じゃないけど。

      ここまで来たらお互い秘密のままでいよう。

      氏名、年齢、連絡先、職業は少なくとも隠しておこうか。

      君が誰に追われ、何で逃げてるのかも聞かないことにする。

      その方が、変な緊張感があって楽しくなる。」

女性 「もしかして変態?」


ジュン 「いいね。そうやって壁作らないでガンガン来て。じゃないと残りの時間楽しくないよ。」

女性 「変な人。」


女性 「なんて呼べばいいですか。名前。」

ジュン 「ジュンって呼んで。呼び捨てがいい。君はそうだな。ウララって呼ぶことにする。」


女性 「変な名前。アイドルの名前でしょ?」

ジュン 「なのかなぁ。君の顔がウララって感じがしたんだよね。」

女性 「何それ」


お水と、前菜が運ばれて来た。


ウララ 「ジュンは何で私を助けてくれた訳?」

ジュン 「ウララが助けてって言って来たからじゃん。」


ウララ 「言ってないし。」

ジュン 「ウララが目で助けてって話し掛けてたでしょ。」


ウララ 「確かにジュンとは目が合ったけど、助けてほしいという気持ちが出てたのかなぁ。」

ジュン 「そういうことにしとこう。」


ウララ 「でもあの状況で本当に助ける?」

ジュン 「自分でも驚いた。もし時間を巻き戻したら次は助けないと思うよ。」


ウララ 「なんだ正義のヒーローなのかと思ったら、意外と普通の人ね。」

ジュン 「そうだよ。だから感謝なんかしなくていい。

      超ラッキー少女だと自分をほめた方がいいかもよ。」

ウララ 「そうね、そうすることにする。」


料理が次々と運ばれ、2人の会話も弾んだ。

結局会話が止まらず、レストランには4時間も居座ることになる。

2人の距離はだいぶ縮まった。


レストランを出た後、しゃべりすぎで喉が渇き、

ホテル内にあるオープンテラス風なカフェへ行ったのだが、続きが始まった。


気が付くと時間は夜の8時。外はすっかり暗くなっている。


ジュン 「しまった。東京を観光しようと思ってたのに夜になってしまった。」

ウララ 「別に今から出てもお店は閉まってないし、夜は夜景が綺麗だから夜景を見るでもいいし。

      夜は夜で楽しめるけど。」


ジュン 「夜景かいいね。」

ウララ 「高いところから見ると感動するわよ。」


ジュン 「ヘリで東京の夜景を見よう。」

ウララ 「ヘリってヘリコプターですよね。」


ジュン 「そ。このホテル、ヘリポートあるから呼ぼう。」


オレは携帯電話で通話を始めた。


ウララ 「あなた一体何者なの。」


10分後。


ホテルの屋上にヘリが到着した。

すぐ出発できるようプロペラはゆっくり回り続けている。


ヘリに乗り込み、シートベルトを着けると、上空へと舞い上がった。


ボディーガードは、ヘリに乗る直前までをガードさせ、

一緒に乗る必要はないと手で合図し、その場で待機するよう指示した。


ウララ「すごい、綺麗」

ジュン「ああ。良くもまぁここまで作ったものだ。 人間ってすごいな。」


景色には感動するが、お互い左右の窓から眺めているから

意外とロマンチック度は低いことが分かった。

しかも上空は寒い。お互い毛布にくるまっている。

はたから見たら滑稽だ。ラブとは程遠い状態なのである。

乗る前からラブを期待していた訳ではないのでいいことはいいが、

せっかく2人きりだからちょっとは

カップルみたいな感覚を味わいたかった。


ウララ「こっち見て。橋がライトアップされてて綺麗。」


その言葉を待ってましたとばかりに、彼女へ近づく。

気持ちとは裏腹に恥ずかしくてくっつくことはできなかった。

2人の間には目に見えない壁があった。


ジュン「へぇ、単純に通りを明るく照らしてるだけでなく、あえて演出してるんだ。」


ウララが身にまとっている毛布を広げ、オレとウララの2人を包む。

だが、2人を覆うにはその毛布は小さかった。

オレが勇気を出してウララの腰に手を回し密着させるも前は少し空いてしまう。

なので、オレは自分が使っていた毛布を2人のお腹から膝までを温めるようにかけた。


ジュン「車のライトも幻想的にしてる。」


ウララ「明かりの1つ1つに人が居るんだよね。

東京は人が多いって言うけど、その多さを実感できます。」

ジュン「あぁ。」


なんと甘酸っぱいシチュエーションなのだろう。

十代に戻った気分を味わえて満足だ。

いや、記憶を呼び戻すと、十代のときにこんな体験をしたことがない。

冷静になると自分は攻めたなっと感じる。

自分の世界では絶対にこんな行動は取らない。

彼女との恋を期待していないからできたことだという結論にした。


1時間のフライトはあっという間だ。

東京を1周して我々のホテルへと戻ってくる。

ヘリポートのところでは、律義にボディーガードが出迎えているのが見える。


ウララ「予想以上に楽しかった。」

ジュン「乗ってよかった。肉眼で見ると違うな。」


オレは、研究室のモニタから何度かこの風景を見たことがある。

なので、ウララに見せてあげたかったということもあってヘリを頼んだ。

ところが、研究室から見るのと自分の目で見るのとではスケールが違いすぎる。

喜ばすつもりが自分が興奮してしまったのであった。


ヘリから降りると次はどうしようかと悩む。

30時間寝てたというのもあるのだろうが、メチャメチャ元気だ。


大人ならこの後、バーとかに行くのだろう。

お酒が弱いわけではない。おいしいと思わないのだ。

バーで牛乳を飲む姿を想像したらかなり笑える。

さて如何なものかなと。


映画、ドライブ、ディナーショーといろいろ考えるも、

ヘリでの夜景がインパクトデカすぎて、いまいち乗らない。


何も浮かばず、部屋に戻ることにした。

ホテル内に何かないか調べるとプールを見つけた。

これだ!

本当の自分はもやし体型だから行きたくはないが、この体なら恥ずかしくない。


ウララ「このあと、どうしますか? 部屋でゆっくりします?」

ジュン「プールいかない?」


ウララ「プールですか?」

ジュン「地下にプールがあるみたい。 25mの5レーンだから結構大きいよ。」


ウララ「いいですよ。あなたの彼女だから。」


何も考えずにプールと言ったけど。

これって下手すると引かれていた可能性もあった訳だ。

契約だからOKしてくれた可能性も考えられる。

本心かどうかは置いといて雰囲気を壊さないよう続けよう。


ジュン「プールサイドで飲食もできるらしい。 そろそろお腹すいてない?」


ウララ「実は結構空いてます。」

ジュン「ならちょうどよかった。」


ボディーガードを連れてプールへ行く。

水着はレンタルが置いてあって、自分は半ズボンタイプを選んだ。


サマーベッドに腰かける。

注文したトロピカルドリンクとアイスティーをウェイターが持ってくる。


ウララ「お待たせ。」


ウェイターの後ろからビキニ姿の彼女が現れる。

決して豊満なボディーはしていない。

だけどスタイルはいい。

思わず見入ってしまう。

ここには若者は自分らしかいないから彼女は目立つ。


もう、仕事に復帰できないんじゃないかと思えるほど楽しい。

というか彼女に出会えてほんとよかったと思う。


ジュン「ちょうどよかった。飲み物が来たから飲んで。」


ウララも隣のサマーベッドに腰かける。


ウララ「いただきます。」


・・・


ウララ「美味しい、これ。」

ジュン「それはよかった。」


ジュン「ウララは泳げるの?」

ウララ「泳ぎは苦手です。友達におぼれてるってよく言われる。」


ジュン「運動神経よさげに見えるけど。」

ウララ「よく言われる。走るのも苦手で意外とポンコツなんです。」


ジュン「まぁ、オレも泳ぐの得意じゃないからなぁ。」

ウララ「そうなんだ。良くプール行く気になったわね。」


ジュン「ウララの水着姿が見たかったから。冗談。

    泳ぐというより体動かしたかったからかな。

    乗り物とかあればいいのに。」


ジュン「明日は海でマリンスポーツでもしようか。」

ウララ「東京にはそういうところないかも。」

ジュン「そうかぁ。」


ジュン「東京でカップルが行く定番なところってどこなんだろう。」

ウララ「うーん、ディズニーランドとか。」


ジュン「何するところ?」

ウララ「えー知らないの?」


ジュン「それって恥ずかしいこと?」

ウララ「うんうん。知らない人がいるんだなと思って。東京も初めてって言ってたもんね。」


ウララ「もしかして日本人じゃない?ごめんなさい、聞かない約束でしたね。」

ジュン「謝る必要はないよ。そうだなぁ。体は日本人で、心は外国人かな。そんなハーフ。」

ウララ「なにそれ。」


ウララが浮き輪に乗って浮いているのを眺めたり、泳いだりしているだけであっという間に時間は過ぎた。


24時になって部屋へ戻る。


ジュン「今日は楽しかった。付き合ってくれてありがとう。」

ウララ「うんうん。私の方こそありがとうと言いたいです。」


ジュン「明日は7時に起きよう。お休み。」


ジュンは、引き止められたり、何か言われたりするのが怖かったので言うことだけ言って、

そそくさと自分の寝室へ入った。


シャワーを浴びて、ベッドへもぐる。

彼女が入って来るんじゃないかと少し期待した。

カギは掛けてない。入ろうと思えば入ってこれる。

もしかしたら、向こうも同じ事を思っているのかも知れない。


契約関係だから楽しそうにしてくれてたのか?

助けてくれたからやさしいのか?


考えすぎで眠れない。


この世界で恋愛をしてはいかんだろうという倫理観がオレを縛り付けてる部分があった。

とにかく、彼女とは友達関係でいようと決めたのだと自分に言い聞かせる。


そして、いつの間にか寝ていた。


・・・


ウララ「朝ですよ。」

ウララ「起きて。起きてくださーい。」


耳元でささやかれる。

振り向くと、ウララの顔がものすごく近くにあった。

彼女が同じ布団に入って、真横で寝そべっている。


ウララ「もう7時半ですよ。」

ジュン「ごめん、君のことを考えてたら眠れなくなって。」


ウララ「ほんと面白い人ですね。」


起き上がる。

彼女は私服に着替えていた。

寝ている間に忍び込んで来たのかと一瞬思ったが、起こしに来てくれたのだと理解した。


ジュン「朝は部屋で食事しようか。フロントに電話して適当に頼んでくれる?

    その間着替えるから。」


ウララ「分かりましたご主人様。」

ジュン「メイド姿で言ってほしかった。」


部屋着のまま、洗面所へ行く。


・・・


今日の服装は、一般的な20代前半の人たちが着ているものを選んだ。

そう、ディズニーランドとやらに行くためだ。


食事を済ませ、休憩することなく外に出る。

ホテルの目の前で待機していた車にボディーガードと一緒に乗る。


出発して10分も経たないうちに信号でもないのに車が停車した。

というか止められたのだ。


我々の乗る車の前後に黒い車で挟まれている。

そして柄の悪い連中が出て来た。


銃を突き付けられたので、おとなしく車を降りると、

オレとウララは手錠を掛けられ、口をガムテープで巻かれたあとに頭から黒い布を被せられた。

ボディーガードはその場で痛めつけられ、2人とも路上に倒れる。


オレとウララは、連中に担がれ奴らの車に荷物として詰め込まれた。


どこに向かっているのかはわからない。

ボディーガードが居たから安心しきっていたのはうかつだった。

ウララが、ただ者じゃない連中に追われてる段階でこうなることは予想できたはずだ。

時すでに遅しである。


逃げる方法を模索するが思いつかない。

ウララと話したいが声がだせない。

そもそも物音しないのでいっしょに乗ってない気がする。

自分だけ処刑台に連れていかれているのかとネガティブな思考に陥った。

こんなことになると知っていたら対策はいっぱいあったのに、と車中悔やむばかりだ。

くそっ。何とか前田に連絡がとれないだろうか。必死に考える。


車が停車する。

オレは、2人に担がれ、どこかへ移動している。

目が見えないから外なのか建物の中を移動しているのかも分からない。

暴れても意味がないと判断しおとなしく身をゆだねる。

車を降りてから5分くらいだろうか。

立ち止まって、立たせられた。

そして、被っている黒い布が剥ぎ取られる。


何もない細長の部屋に立っていた。

左右の壁沿いに手下共が並んで立っている。

正面に机があり、そこに座っているのがここのボスなのだろう

ボスのすぐ横に1人立っている者がいる。

こいつは側近か。


面白いことに、側近以外だれとも目が合わない。

手下どもの目線は、反対側の壁を見ており、ボスは我々のことなど興味なさげにモニターを眺めていた。


隣にウララが立っている。

彼女も頭の布を剥ぎ取られた。。

オレと彼女には一人ずつ見張りが側に付けられている。


ウララ「ヴーーーー」


ウララはオレの存在に気づくと、ボスに訴えかけるようにして何かを話しかけた。


オレは手錠をはずされ、自ら口のガムテープを剥ぎ取る。

恐怖は絶好調に達していた。

この状況を見ておそらく逃げ去ることは不可能だろうと悟る。

そもそも、逃げるにしてもどこからどう入って来たかもわからない。


側近 「我が郷田ファミリーにお越しいただきありがとうございます。」

ジュン「客人に対して扱いが酷くないか。」

側近 「部下が手荒なまねをして申し訳ない。」


ジュン「で、パーティーのようには見えないが、

    いったい何が始まるんだ。」

側近 「この状況でビビらないのは気に入った。」


♪パン。


側近が発砲してオレの右腕を貫通する。


ウララ「ヴーーーー、ヴーーーー」


あまりにも一瞬の出来事だったので、弾が当たったかどうかわからなかった。

後から、腕が熱い感じがして、その箇所を見ると血がぽたぽたと出て来てた。

ここに当たったのかと場所を認識したとたん激痛が駆け巡った。


ジュン「オイオイ、理由も告げずに殺す気か。」

側近 「まだ殺さない。 撃たれてその強気な態度は大したもんだ。」


撃たれた時点で、オレは死ぬ覚悟ができた。

すると不思議なことに恐怖心が消え、撃たれたところも急に痛みが和らいだ。

ただ、彼女だけは何とか逃がしてあげたい。


ジュン「合格ってことでいいか。」

側近 「ああ、合格だ。 我々を楽しませながら死んでもらうことにした。」


ボスは一言も語らない。

我々の会話は耳に入っているのだろうが、第三者を装いモニタを眺めている。


ジュン「ふふ、死は確定なんだな。」

側近 「それは当然だろう。ボスの女に手を出したんだからな。

    今まで生き延びた人間を見たことがない。」


彼女とは何もないと説明しようと思ったが、信じてもらえないし証拠もない。

一晩供にしたのは確実だ、である。

ということから反論はできなかった。


ジュン「おい、ひとつ忠告しとく。オレと彼女をこのまま開放すれば許してやる。

    だが、これ以上何かしてみろ、この組織をつぶす。これは脅しではない。

    特にそこ(ボス)、一生後悔させてやるからな。」

側近 「ははは。面白い。どうぞ潰してくれ。」


オレの手錠が外される。

プロレスラーみたいなデカくて体格のいい男がオレの目の前に立つ。

手にカイザーナックルをゆっくり装着する。


なるほど、こいつと殴り合いをしろということか。

さて、生まれてからこのかた、今まで殴り合いの喧嘩などしたこともない。

相手は慣れてそうだし腕も胸板も自分より倍はある。

ただし、トロそうだ。

後ろに回れば何とかなるかもしれないと作戦を練る。


ウララ「ヴーーーー、ヴーーーー」


側近が、机に置いてあるベルを手に持つ。

ウララは涙を流していた。

その涙を見て、おそらくこの光景を過去に見たことがあったのだろうと想像した。

ウララへは笑顔を作って見せたけど、内心は「ごめん助けてあげられないかも」と謝った。


側近 「では準備はいいかな。」


♪チ――ン。


左へ回りこもうと動き始めたところで、相手の拳がめちゃめちゃ速く、腹に当たった。

身体が少し浮いたような感覚になった。

次の瞬間、もの凄い激痛が走り床に倒れる。


対戦相手は、倒れるオレを仁王立ちで見てた。


側近 「もう終わり。威勢がいい割にはあっけないね。」


側近はオレに銃口を向ける。

周囲の手下どもが声を揃えてカウントする。


手下「10、9、8、7」


オレは必死で立ち上がる。

完全に立ち上がるまで、相手は手出ししてこなかった。


オレが、ファイティングポーズを取ると、相手もファイティングポーズを取った。


相手が顔面にフックを入れる。

オレは防御しようと両腕を顔面に突き出したが、避けきれず、おもいっきり頬に当たり、

スライディングするかのように倒れる。


手下「10、9、8、7、6、5」


オレは、意識朦朧とした中で、膝を震わせながらも必死に立ち上がった。


手下「4.3,2」


だが、足がいうことを聞かない。目が回る。

重心が定まらない。

どっちに倒れそうかもわからない。


オレは、自分の意思とは無関係に倒れてしまった。


♪パン、パン、パン


銃声が聞こえた。


・・・


~~研究室~~~~~~~~~


オレは目を覚ます。


助手「あれ、早かったですね。 まだ2時間ありますよ。」


オレは、状況を把握する。

死んで研究室に戻って来たのだ。

あのやろう!本当に撃ちやがった。


やばい、早く戻って彼女を助けに行かないと。


助手 「どうでした。リフレッシュできましたか?」

ジュン「気が動転してる。ちょっと黙って。」


かなり動揺している。撃たれたのがショッキングだった。

早く戻りたいけど、何をしていいかわからない。

ただただ焦る。


助手 「こわ。」


まずは冷静になれ。自分に言い聞かせる。

撃たれて死んだんだよな。

背中がビリビリする部分がある、多分ここを撃たれたのだろう。


だめだ。焦りが取れない。


ジュン「ごめん。もう一度ガイヤへ行きたいんだけど。どうすればいいんだっけ?」

助手 「えーっとですね。ダイブのボタンを押して」


モニタを見て、ダイブボタンにタッチする。


ジュン「それで?」

助手 「人を選んで。」


ジュン「ありがとう。思い出した。誤って戻って来たんで、もう一度行って来る。」

助手 「了解です。行ってらっしゃい。」


~~東京~~~~~~~~~


♪プッシュ―


棺桶の1つが開く。

ふたが開くと同時に目を覚ます。

男は立ち上がり、部屋の明かりをつける。

そして部屋を見渡す。


ジュン「戻って来れた。」


さっきほどまでは20代前半の元気な青年に乗り移っていたが、

今回は20代後半の落ち着いた感じの大人を選択した。


窓の外を見ると明るい。

時計を探し、現在時刻を確認する。

あれから6時間経過していた。


これからどうするか。

ここで一人で乗り込んでも、同じ結果になるだけだ。

武装集団を雇って戦争にでも行きたいところだが、どこを探せば集められるのか見当もつかない。


時間がない。急がないと。

考えろ、考えろ。


ボスの女だ、殺すことはないだろう。

だが、一生残るような傷でも付けられたらオレの責任だ。

あと、素人を虫けらのように扱いやがって、今思い出しただけで腹が立って来る。


まずは奴らの身辺調査からだ。

オレには協力な助っ人がいる。そいつに電話することにした。


♪プルル。プルル。


~~郷田興業~~~~~~~~~


夜の10時、オレは1人、郷田興業の門にいる。


♪ピンポン。


手下 「どちら様で。」

ジュン「今朝、お前らが殺した青年の知り合いが来たと伝えろ。」


門が空き、1歩踏み入れると、ボディーチェックされた。

銃を持ってないかの確認なのだろう、

形式的で甘いチェックであった。


オレの前後に手下が1人ずつ付く。

前にいる手下の後をついて歩く。

庭があり、敷地がデカい。


庭を抜けて建物の中へ入る。

中は土足で良いらしい。

家というより役所に来た感じだ。


ジュン「思ったよりも汚ねぇな。ここ。」

手下 「声を出すな。」


ジュン「今朝の女はどこにいる。」


オレの前にいる案内役が振り向き、顔を近づけて脅しをかける。


手下 「黙ってろ。」

ジュン「おい、下っ端。さっさとボスに会わせろ。」


オレは動じない。こいつらは下っ端だ。

上の命令がない限り手を出してくることはない。

少なくともこの敷地内では。


とある、部屋に入る。

見覚えがある。

そう、今朝オレが殺されたところだ。


顔振れもほぼ同じだ。

違いはウララがここに居ないだけだ。


ジュン「朝は、世話になったな。」

側近 「どこかで会いましたかな。」


ジュン「朝殺された者だよ。」

側近 「何の話だ。」

ジュン「酷いな、今朝、お前が銃でオレを殺しただろう。背中がまだヒリヒリする。」


側近 「おい、盗聴されてたのではないのか。」

手下1「いえ、(遺体を)片づけたとき、財布以外持っていませんでした。」

手下2「私も確認しました。」


ジュン「予告通り、ここをぶっ潰しに戻って来てやったぜ。ついでに女も返してもらう。」


側近が銃を出そうとする。


ジュン「動くな。動いたら爆破する。」


オレは、左指の人差し指、中指、薬指と

3つ銀の指輪を付けている。

左手をグーで握り、右指を指輪を乗せる形で左手を覆い。

みんなに見えるように突き出す。


側近は銃を出し、銃口をオレに向ける。


側近 「はったりだろう。」

ジュン「試してみるか?」


右の人差し指を指輪からはなす。


♪ドーーン。

外で爆発音がした。


別の手下が入ってくる。


手下3「大変です。庭で爆発が起きて、3人けがしました。」

ジュン「お前撃つなよ。この指輪から手が離れたら、ここに居る全員死ぬことになる。」


側近 「貴様何者だ。」

ジュン「だから今朝お前が殺した人間だよ。」


ジュン「さぁ、この爆発で、警察と消防が来ると思うけど。」


♪ウー、カンカン。ウー、カンカン。


手下3「警察と消防車が来ました。 開けろと言ってますが。 如何されますか。」

側近 「今の爆発はなんでもない。と言って帰ってもらえ。」

手下3「分かりました。」


ボス 「お前の要求はなんだ。」

ジュン「やっと会話ができそうだな。オレの目的は、お前ら全員の逮捕だよ。」


手下3「警察が逮捕状を持ってきてます。 開けないなら門を破壊すると言ってますが。」

側近 「開けてやれ。」


ボス 「お前の仕業か。」

ジュン「あぁ、朝の仕返しだ。お前ら全員刑務所に入ってもらう。

    特にあんた(ボス)、確実に死刑だろうな、その間悔い改めるんだな。」


ボス 「無駄なことを。」

ジュン「余裕だな。これで捕まるのは7度目ってか。」


ジュン「一つ言っておく。

    柊木(ヒイラギ)議員はスキャンダルが発覚したらしく、なぜか緊急入院したぜ。

    あと、蒼井検察官は理由は分からんが今しがた退任されたとのことだ。

    嘘だと思うならニュースを見てみるがいい。

    お友達いないけど大丈夫かな?」


ボスは青ざめる。


ボス 「貴様ー。」


警察が、我々の居る部屋に突入して来た。


警察1「銃を下ろせ。全員、両手を頭の上におけ。」


側近は銃を置いて両手を上げる。

警官が近づく間、側近はオレをにらみつけていた。

なので、オレは側近に指輪から指を放すところを見せてやる。

爆発は起こらなかった。なので無音でバーンと言ってやった。


ボスに手錠が掛けられる。

手下たちも、次々と手錠を掛けられて、外に連れ出された。


警察2「通報者はあなたですか。」

ジュン「はい。」


警察2「事情を伺いたいので署までご同行願います。」

ジュン「いいですよ。」


警察3「女性の遺体があります。」

警察2「ちょっと。」


オレは、警官2の引き留めを無視して、警官3が指さす方へと走る。

地下室への通路があり、階段を下りながら別人であってくれと願った。

地下室に入ると倒れている女性が目に飛び込む。


うつ伏せで顔は確認できないが、見覚えのある服装だ。

そう、今朝ホテルでオレが用意したものだ。


女性に近づこうとしたが、現場検証をするので近づくなと言われ抑えられた。

なんという悲劇的な再会だろうか。

彼女が幸せになる未来が描けるところまではサポートしてあげたかったのにと。

悔やんでも悔やみきれない。


ボスの女だから殺さないと思い込んでいた自分に腹が立つ。

倒れている彼女を見て涙はでなかった。

むしろイライラの方が大きかった。


本来なら殺されなかったのだろう。

以前にも同じようなことがあった風だったし。

おそらくオレが殺されて、彼女が逆上したに違いない。

そしてボスの逆鱗に触れ殺されたのだろう。


~~後日談~~~~~~~~~


警察署から出たあと、この世界に留まっていたくなかったので、研究室へ戻ろうと決意した。

が、あのテンションで研究者メンバーの相手をしたくなかったので、

泊まっていたホテルに戻ることにした。


次の日は1日部屋でぼーっと過ごした。

と言っても大半は、仕事の復帰を踏まえ、直前までの作業を思い返したり、

打ち合わせでの発表の流れを整理したり、

次の研究テーマだったりと、頭の中で考える時間にあてた。


だが、ここに居るとふとウララのことを思いだす。

彼女はまだ生きてるような気がしてならない。


ウララ「お待たせ」


と言って、寝室から出て来るんじゃないかと錯覚してしまうほどだ。

そして彼女と次どこへ行くかを考えるだけで楽しく過ごせた。


彼女の遺体はどこへ行ったのかは不明だ。

親族でもないから教えてはくれないだろう。

事件から2日後は、郷田興業へ再び行き、門のところに花束を置いた。

花の種類は、彼女にプレゼントするならという基準で選んだ。

こういう時、マナーとかあるのだろうけどオレにはわからない。


本当は地下室に花束を置いて来たかったのだが、立ち入り禁止のロープが張られ、

行くことができなかった。


彼女が安置所でオレの花束を抱えて安らかに眠っているところを想像し、話しかける。

プライベートで仕事の事を忘れて、こんなにも楽しめたのは初めての感覚だった。

君は楽しいと言ってくれてたけど、オレの方が楽しかったんだぜ。

こんな体験をさせてくれて感謝している。ありがとう、

この地上で誰よりも長く、オレは君との事を覚えておく。

何度か、この星に来るよ。

もし生まれ変わって再会できたら、

その時はカップルとしてディズニーランドへ行こうな。


そう誓い。

オレは研究室へと戻るのであった。


-- 1話 完 --


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― 新着の感想 ―
[良い点] 宇宙人が地球人の姿で動き回る、という設定が面白かったです。また、その目線で地球人を見た感覚で読者も読み進められるので、そこがまた面白いと感じました。文章も平易で読みやすかったです。
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