重なる嘘
その都は崩壊へと進む。
僕は、自分で信頼を壊す。
僕のすることは、「狂気に溢れている。」ずっと言われて来た。
僕にとったら楽しいことは、他人からは見るに耐えなかった。
「何故、分からない。」「楽しいよ。」と言っても、誰もこちらを見なかった。
いつの間にか、僕の行動は自分のコンプレックスに変わった。
自分を見たくない。
こんな自分嫌だ。
だから、綺麗なモノを求めた。
求めても、誰もこちらを見ない。
求めた結果、僕が得モノは何もなかった。
一度、失ったモノを戻すのは難しい。
ずっと失ったまま、僕は二十九年生きた。
でも一歩、僕は進んだ。
彼女がいたから、娘がいる。
見る事ができなかった、息子が残っている。
でも、僕は彼女たちの事など、あの時、頭に無かった。
倒れ、血だらけの彼を見た。
知らないヒトなのに、僕には関係のないヒトなのに、僕は見捨てれ無かった。
僕は崩れるのが嫌だったのだろう。
彼女たちとの幸せが。
僕がもう少し、目を配っていれば彼はこんなことになっていない。
僕の家族は、残されていない。
失ったのに、僕は戻りたい。
諦めた青春をくれた彼女との幸せを。
だから僕は、もう失ったっていい。
彼女と会えるなら。
(なあカゲアキ、お前にはどう写っている?
お前は僕と居たせいで、追い出されてしまった。
彼らはひどい奴なのか?
それとも、僕がいなければよかったのか?)
ずっとそんなことを考えていた。
カゲアキは何を考えているかわからない。
でも必ず、カゲアキは僕の言葉を信じている。
僕の言葉が彼をここまで動かすとは、思っていなかった。だからカゲアキは、牢で身体を起こし、あの兵士を殺した。
カゲアキは僕に教えてくれた「自分は死ねない。」と。
だから、僕は成さなければならない。
カゲアキにできる全てを、自分の満足の為に。
そして、確かめなければならない。
この世界の全てを。
馬車を走らせ、辿り着いた。
途中、どこにも寄らず辿り着いた北の都。
帝都「バローガル」
サディールド帝国の帝都。
馬車を降り、町外れから、中心部へと向かい歩き出した。
街並みは、東欧を彷彿とさせるような街。
そして何より、この世界を覆う壁が近い。
ヒトは数多く、道も整っている。
でも、街はヒトで賑わっていたが、その声は、国の批判、革命を求める声だらけだった。
まるでそこは、いるだけで苦しい地獄そのもの。
市民と軍人の諍いを何度も見た。
他の市民は止める様子はなく、むしろ軍人を罵倒している。
家屋の外壁は革命を求める声明の旗を掲げている。
軍人も同じように、市民との諍いを起こしている。
これが敗者。
スガーナ王国とは似ても似つかない軍人
王国の兵士はどこか余裕があった。
でもこの帝国の軍人は市民との間に諍いを起こすほど、不満が募っている。
もう帝国の権威は無い。そんなのは見てすぐに分かってしまう。
こんな状況の中で僕は、スガーナ王国の兵士を皆殺しにした。
スガーナ王国がサディールドの者が殺したと、知ってしまえばきっと攻め込んでくる。
攻め込まれたら、市民はきっと戦場に駆り出される。
僕は市民を一歩、死に追い込んだ。
僕は悔やむ。
ただただ、悔やむしかない。
自分が気に食わない、ただそれだけだった。
兵士はただの被害者。
僕がもう少し周りを見ていれば、兵が死ぬことはなかったかもしれない。
創造の使い方を間違ったのは、僕の方だった。
俺はこの街を、見たくない。
見ていていい気持ちにはならない。
ヒトの争う声が五月蝿い。
なぜ争うか、それはこの国が負けたから。
国が領土を汚し、ヒトを殺すから。
ヤヨイは平然としているが、僕にはとても辛い。
そんなことを思いながら、進んで行った。
その時だった。
「バンッ!!」
轟音が鳴り響いた。
その轟音は街の中心部から聞こえた。
その後も音は鳴り響く。
聞こえるのはヒトの悲鳴。
何が起こったのか、少し分かってしまった。
「逃げろ!!」
「早く!!」
「撃て!!」
ヒトの声から、焦りを感じる。
遂に起こってしまった。
今、俺達がいる時に。
市民が国を変える。
俺達は、死に晒されている。
市民を止めることはできない。
市民はこのまま進むと、きっと死ぬ。
あの光景を知っている。
道は荒れ果て、ヒトは飢え、死を待つことしかできない。
それを変えるために立ち上がったヒト。
ただ、それを見るしか無い。
この音を聞いたヤヨイは俺に尋ねた。
「カゲアキ、お前はどちらに付く?」
「お前は、死を恐れる市民か、もう権威がない国か、どちらに付く?」ヤヨイは更に問う。
きっと、「市民に付け。」と言いたいのだろう。
もう、この国に希望はない。
希望がないモノに付く意味はない。
きっと負ける。
もう戦禍は近づいてきて来ている。
でも、少しだけ信じたかった。
この国に忠誠を誓った彼らを。
彼らはこの国のために、最後まで足掻く。
俺に居場所をくれた、彼らを。
どうせ、俺は死ねないんだから。
だから俺は、付く
「俺は、この国に付く。きっと、あの国が易々と引き下がるとは思っていない。ならば、俺らが戦い、市民を徴兵させないようにしなければならない。そうしなければ、あの光景が増えてしまう。」
「そうか、お前は優しいな。自分で背負うか。ならば、僕らは強くならなければならない。あの国から、勝利を捥ぎ取らなくてはならない。ならば向かおう、王宮へ。」
「ああ、そこで全てを話し、知る必要がある、この国の全てを。」知る必要がある。なぜ、彼らがこの腐った国に忠誠を誓うのか、なぜ、あの国と戦うのかを。
俺達は大通りから路地に入り、身を潜め、道を地図で確認している。
「カゲアキ、王宮へ向かうには、このまま北上し、市民が声を上げている広場を越える必要がある。その広場をどう越える?」
「一つ、道がある。この道は、なぜか王宮前なのに、道が狭いきっと何かがある。だか、広場を通らずにいける道はこの道くらいだろう。」
「待ってくれ、この世界の奴らは俺らを服で判断する。なら、俺らの軍服は怪しまれるんじゃないか?」
「そこは気にしなくていい。僕が羽織り物を創ろう。」
「ああ、助かる。」
俺はヤヨイが創り出した羽織り物を羽織った。
俺達は進み出した。
ある道へ向かい、歩き出した。
荒れる街を進み続けた。
いつ弾が当たるかはわからない。
かなりリスクの高い行動を俺達は起こしている。
市民は最後まで足掻く。
軍人を完膚なきまでに蹴散らし、自分たちの政権を立てる。
その野望に燃えている。
でも、その後に、必ず地獄が待っている。
僕のせいで。
「あんた達、何者だ?」
男に背後から話かけられた。
怪しまれてしまった。
その男は、獣の如き眼差しでこちらを見る。
僕達は、声を掛けられた男の方を見た。
男はまだ小さい少年、でも声には幼さと殺意が混じった声だった。
「何かな?」
僕は答える。
「だから、お前らは何者なんだ。軍人か?」
(かなりまずい状況、きっともしここで軍人と言えば、僕達は彼と争うことになる。市民と言っても、ここらじゃ顔を知らないヒトである、僕達を市民と認めるだろうか。)
「おいお前、俺らは軍人じゃない、ただの旅人だ。」
カゲアキは嘘を答えた。
旅人、確かに怪しまれないかもしれない。
「旅人? どこから来た?」
(場所を訊いてくるのか。それになんの意味があるのか。)
「イバスバード」
その言葉を聞いた彼は、目の色を変えた。
「スラー・シャロン二。彼を知っているか?なあ、教えてくれ!!」
彼は迫るように問いかけて来る。
「ああ、一応知っている。おい、お前はなんなんだ。いきなりなんなんだ!?」俺は少し、彼の豹変ぶりに少し驚いていた。
「そうか、生きていたのか。話しは後、今はお願いだ、着いて来てくれないか?」
少年は俺達に「着いて来い」と言った。
今、頼れるのはスラー・シャロン二を知っている、この少年しかいないだろう。
この街で俺達は、任務を完璧に執行できるのか?
いつ滅ぶかもわからないこの街で。
スガーナ王国 王城内 王の間
「陛下、この事件どうお考えでしょうか?」
「ランドー・ケンヨードが死亡したか。あの者は父上も称賛する程の勇猛な者だと思っていたが、どうやら見る目を間違ったようだ。おい、ケンヨード卿を殺した者の名を知っているか?ジョーリック。」
「ええ、少し検討が付いています。ケンヨード卿を殺した者。その者はきっと、あの世界の者でしょう。」
「チッ、またあの世界の者か。創造主は何を考えあの世界の者をこの世界に呼ぶ?」
「ええ、きっと自分の快楽の為でしょう。あの世界のヒトは、快楽を求める。きっとこの事件は、快楽殺人でしょう。」
「やはり馬鹿だな、あの世界の者は。いいかジョーリック、お前は兵を率いて国境付近に陣を張れ。」
「御意」
「あの国はいい口実を作ってくれた。今こそ、サディールド帝国を滅ぼす。」
(陛下、戦争を起こす気なのですね。戦争など、あなたはやりたくないはずなのに。)
少年は、僕達を導く。
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