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捨てられたヒト、拾われた瞬間  作者: 桜井良樹
8/14

変化する空気

殺す、それはヒトを一番下げる。


夕刻、外からはブラスバンドの音色と運動部の掛け声が響き渡る教室。


 教室には僕、仙崎弥生(せんざきやよい)矢場香奈子やばかなこしかいない。


 僕の心臓は鼓動を早めていた。


「仙崎くん。」

 彼女は話しかける。


「仙崎くんは、どんなモノが欲しい?」彼女はいつも聞いてくる。


僕が望むモノを。


彼女は酔う程の、衝撃的な僕の理想を求めている。


 でも、僕には無い。

 いや、望んじゃいけない。

 だから、その言葉を言った。

「別に無いし、僕にモノを望む資格はない。」


「まーたそんなこと言うんだ、そんな考え方してたら、病気になっちゃうぞ。」


「大体、そんなに意見が欲しいなら境雅(さかいみやび)に聞けばいいだろ。」

 僕は嬉しい気持ちと、少し恥ずかしい気持ちから、この言葉を言ってしまった。


「違うよ。仙崎くんと雅ちゃんの理想、その二つがあればきっと最高が生まれるよ。」彼女はいつも、僕と境雅の名前を出す。


彼女は呆れる程、理想を求めている。

「お前くらいだよ。日常で最高なんて言うなんて。」


「当たり前だよ。仙崎くんと雅ちゃんは、私の足りない所を補う、なくちゃダメなヒトなんだから。」

 彼女は当たり前と言う。

 僕にとったらこんなこと、当たり前じゃないのに。

 

 夢みたいな話。

 僕は、彼女が話しかけてくれるのが嬉しい。


 嬉しさを抑えようとしても、抑えられない。


 だって、彼女は何度も、僕よりも僕を理解しようとしてくれたから。


だから、少しは彼女に答えたかった。


「なら、一ついいかな?」僕は声をかけた。

こんな僕だけど、欲しいモノがある。


「ん、何?仙崎くんの欲しいものは?」


僕の欲しいモノは、

()()()()()()()()()()()()()()。」

それが答えだった。


僕が願った世界。


もしこれが、その答えならば、変えなければならない。

僕の理想は、こんな荒れ果てたものじゃない。

そして、探さなければならない。


 僕が残したヒト、花奏を。







覚えている。


忘れられない、あの夜の残劇を。


ヤヨイは兵士を一瞬で兵士を殺した。


理想を叶える力、神から与えられし力、()()を使って、ヤヨイはランドー・ケンヨードを超えた。


 怖い。


 ヤヨイが怖い。


 殺すのに抵抗がない彼が怖い。


 ヤヨイは何度もモノを作り出して兵士を殺す。


 ヤヨイはランドーのあの突進を耐え、彼を殺した。


 私達の仲間を沢山殺した、あの技を耐えた。


 彼は、何者なの?





あの夜から一週間が経った。


少し、僕の周りに変化が起きた。


「おはようございます。」朝の挨拶をした。


「おはよう。」一人の男が返す。でも、その言葉は、前よりも冷たくなっている。


女は黙っている。


もう一人の男は外で煙草を呑んでいる。


また、一人に戻った気がする。


「お、おはようございます。」

扉を開け、カゲアキが入ってきた。


「おはよう。」男の声は前と変わらなかった。



彼は口を開き、用件を伝えた。

「明日、君たちには帝都へ赴いてもらい、あの夜の全貌を伝えてもらいたい。この前の任務はかなり、大事になっていて、スガーナ王国から多くの批判の声が上がっている。その理由は、解っているな?」


「はい。理解しています。」


「そうか。ならば準備をして早めに来てくれ。ここから帝都までは、かなり遠いからな。」


「分かりました。」


(俺まで行くのか。)

少し不満に感じたが、まあ、仕方がないだろう。


俺達は村役場を後にした。





静かさがある朝の役場


「マドローナ。」


「何。」


「ヤヨイが、怖いか。」


「怖くなんかない。でも、ヤヨイの考えてる事がわからない。」


「マドローナ、君はヤヨイを恐れている。殺すのに躊躇をしないヤヨイを。」


「だから!、私はヤヨイが怖いんじゃない。でも、彼を見てると思い出す。仲間を殺した()()()()()()()()()()を。

嫌なのに、思い出す。思い出しちゃうの!!」目からは雫が溢れ落ちている。


「マドローナ、泣くな、君は笑っている方が、何千倍と美しい。それと、私達が成すのはアルト・ジョーリックに復讐をする。ただそれだけだ。きっとあいつを見たら、私も、きっと思い出してしまう、仲間のことを。」


「スラー、隊長は、どれだけ私を泣かせるの?」


「私はもう君に泣いて欲しくない。だから、私がアルト・ジョーリックを殺さなければならない。」


「隊長、あんたやる事がやっぱ変わらんな。あんたのことなんだ彼についてわかった事があるんじゃないか?」タバコを喫んでいたナーバス・リカヨリドが戻り、口を挟んだ。


「ナーバス、君も少し分かっているんだろう。ヤヨイは()()()()だとね。」


「なんだ、カゲアキは危険じゃないのか?」


「カゲアキは、ヤヨイほど目立った行動をしていない。きっと、ヤヨイほどの実力はないのだろう。でも、ヤヨイが選んだ男だ、何か怖い程の力を持っているのだろう。」


「あの男は、きっと何もない。いや、何も出来ない。カゲアキは、動こうとも動けない、ただの一般人。あの夜のカゲアキはただ、観ているだけだった。」マドローナは口を挟んだ。


「そうか、中々厄介なヒトだな、そんな奴らを俺は見つけたみたいだな。」


「私は、ナーバスの目と彼らを甘く見ていたな。

ならばこれからは油断はできない。いつ彼らが裏切るかわからない。だから、私は最後まで、彼らを上手く、使って見せよう。」









俺は服を見ていた。


ジャージ

これは俺があの世界から持って来たモノ。その中には血がついた切符、そして何故か買った新聞がある。


その新聞には、俺の知ってる名前が刷られている。


矢場宗治(やばむねはる)


 彼は、俺とはあまり関わりの無い奴だった。

でも、彼は()()()を死まで追い込んだ。


 彼がいなければ、俺はここにいなかったかもしれない。

 彼がいなければ、俺が信頼を落とす必要すら無かったかもしれない。

 彼がいなければ、あいつは、まだ生きていたかもしれない。

 

 でも、後悔しても後の祭り。

 一度失敗したモノを覆すのは難しい。


だから、俺は俺とあいつを壊した彼を憎むしかない。


そうしないと、自分が満たされない。


俺は間違っていないと、思いたい。


だから、矢場宗治は悪だ。


悪いのは矢場宗治だ。

悪いのは矢場宗治なんだ。

悪いのは矢場宗治、、、、



俺は、新聞紙をビリビリに破いた。





俺達は役場へ戻り、村役場前の馬車に乗り込んだ。

この馬車内は、前の馬車よりも内装は豪華だった。そして、国旗を掲げている。


「ヤヨイ、カゲアキ、帝都に着いたら、きっと国の使者がいるはずだ。その者に従い、王宮まで向かってくれ。王宮内に私の知り合いがいる。玄関口で私の名を口にすれば、きっとその者に案内されるだろう。」


「分かりました。その者に、この前の任務の全貌を話せばいいと。」

ヤヨイは頷いている。でも俺は少し、信じられない。(こんな遅くに、報告に向かうのか?俺なら、もう少し早く報告に向かわせるが。)


「ああ、その通りだ。道は前ほど荒れてはいない。ただ、山賊に気をつけてくれ。」


「分かりました。僕は、彼らを見つけたら、()()()()()()。」

ヤヨイは『殺す。』そう答えた。


「いや、殺す必要はない!!」

スラーは大声を上げた。スラーは焦っていたのだろう。


 ヤヨイは殺すのに躊躇がない。


それをきっと、()()は恐れている。

俺ですら、わかってしまった。

ヤヨイはきっと、彼らを超えている。

そんな奴がもしさらに暴れたら、この国には更なる崩壊が待っているのだろう。

 もし山賊を殺したら、国内では、「軍人が平民を殺した。」として一大事になってしまう筈だ。


「すみません。少し、血迷っていました。」ヤヨイは謝った。本当の気持ちはないだろう。


「こちらこそすまない。」

スラーも謝った。彼もきっと、そこまで気持ちはないだろう。


嘘を張り合うヤヨイとスラー。

スラーの目にはきっと、ヒトをすぐ殺す()()()として、ヤヨイは写っている。


ヤヨイの目には、スラーは、()()()()()として写っている。


俺と同じ目で。










僕らは、村を出発し、帝都『バルゴグラード』を目指した。

僕はきっと、()()()()()()()()()()()()()()


 僕はいつの間にか、彼らに嫌われ、居場所を失ったのだろう。でも、僕は別にいい。

もう、()()()()()


でも、()()()()()()()


僕だけじゃなく、()()()()すら、追放したことを。








ヤヨイは危険だが、本当に強い。

残しておけば、次の戦争でも勝てたかもしれない。

最初は単なる捨て駒だったのに、むしろ彼は、全ての兵を殺した。


本当に油断していた。


伝えておけば良かった。

 あの兵は()()()()()()()()()()()()


 私はまた、自分から逃げてしまった。

言葉で朝、最後まで彼らを見ると言ったのに、逃げてしまった。

自分の失敗で狂ったヒトを見たくない。

「ヤヨイ、君は()()()()()だ。」

また一つ、嫌な記憶を生む。








読んで頂きありがとうございました。

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