ずれた歯車
見るモノには全て意味がある。
「ねぇ、影秋、見てよほら。」
彼の指差した。方向には山が見える。
「山なんて、学校からでもすぐ見えるだろ。」
「違うよ影秋、山は山でもこの山は、いつも見える山とは違う、全く別の山だよ。」
「お前は、相変わらず、景色が好きだな。」
「ああ、僕は見たことのないモノ、懐かしいモノ、はとても好きだ。だってさ、どっちもとても素晴らしいだろう?」
「俺はそう思わんがな。」
「影秋はまだ見たことがないからだよ。きっとこれから、新しい温度、色が見えてくるよ。」
俺は、見ることができた。
あいつが言っていた素晴らしいモノ。
でも、それは偽りの姿だった。
本当は、屍と呻き声が永遠と覆い尽くす世界。
あいつなら、この世界をどうするのかな。
夕刻、僕らはソロンボーンに着いた。
ソロンボーンの町は道は荒れ果てはなく、家屋は壊れてはいなかった。ただ、至るところに軍人が闊歩していた。
この町はスガーナ王国との国境付近の町だ。
近頃、スガーナ王国の兵士が侵攻し、この国の危険を脅かした。
僕らは、その兵隊の隊長、ランドー・ケンヨードの暗殺。それを、僕らは任された。
「夜、任務を開始する。それまでは各自、この町の偵察をしてくれ。」
「分かりました。」
この町は軍人が闊歩していて、この町の住民はあまりいい顔をしない。
軍人がいるせいで何もかもが軍人優先になってしまう。
住民は生活を蝕む軍人、敵、その二つに怯えるしかない。
俺は町を散策しに行った。
この町は精肉業で有名な町らしい。
でも、商人はあまり見られない。
やはり、軍人が占拠しているからなのだろうか?
「兄ちゃん、こいつ食べねぇか?」
中年男性に声をかけられた。
でも、自分じゃないだろうと無視した。
「あんただよ、あんた。」
やはり、俺だ。
「な、何ですか?」
恐る恐る声を返した。
「これ、食べねぇか?」
男が持っていたのはソーセージを持っていた。
「いいのか?」
「ああ、あんた、体ができてねぇからな。」
男は俺の外見を見て声をかけたらしい。
俺の外見はきっと酷い。
髪は整えてはないし、体はかなり細く、顔は怖いくらい白い。
ただのニートだ。
(こんなヒトを見たら、普通引くだろ。)
と思いならがら、ソーセージを手に取った。
「じゃ、じゃあいただきます。」
それは、俺にとって懐かしい味だった。
母の弁当を思い出した。
小学校の時の運動会。
母は仕事で忙しいのに、弁当まで作って観に来てくれた。
たった二人で食べた弁当。
その味だった。
母は、優しかった。
俺のためになんだってしてくれた。
俺の為を思った、行動ばかりだった。
でも、俺は母の優しさすら捨てた。
自分で捨てた。
母にずっと迷惑をかけて、母を限界にまで追い込んだ俺。
俺は自分が嫌いだ。
(そんな俺に、思い出せと言うのか。母の優しさ、愛を。)俺の頬は少し濡れていた。
「そ、そんなにうまかったか!?」
男は少し昂っていた。
「ああ、この味はいい。とても上手い。」
少し、潤んだ声だったかもしれない。
「そうか、なら買わねぇか?」
「いや、いい。この味は上手い。でも、俺には少しキツ過ぎる。」思い出すのは俺には少しきつい。だから、断ってしまった。
「そうか、じゃあまた来てくれよ。」
男は少し残念そうだったが、俺は男を後にした。
「チッ、いいカモだと思ったんだがな。」
聞こえてしまった。
あの男は俺に高い金額で売ろうとしたのだろう。
そりゃそうだ。この町は軍人に色々な規制を受けている。そのせいで商売など気軽にできる筈がない。
少し心苦しかったがその場を後にして集合場所に向かった。
「今から、任務を開始する。
カゲアキ、マドローナ、ヤヨイはケンヨード邸へ侵入し、速やかにランドー・ケンヨードを暗殺しろ。私とナーバスは外にて、兵士を見張る。屋形内の兵は出来るだけ殺すな。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。」
少しおかしいと思い、声を出した。
「どうした?何かおかしい所でもあるか?」
「俺はそんな戦場になんて出たこともない。そんな奴を送り出したらすぐ死ぬだろう。」
「その心配は不要だ。いざとなったら私とナーバスが乗り込む。まあ、マドローナがいれば大丈夫だろう。」
「ちょっとスラー、そんな期待されても困るんですけど。」
「ああ、マドローナがいれば大丈夫だ。」
「ちょっとお父さんまで!?まあ、そこまで言うなら、見せてやりますよ私の実力。」
彼女の目つきが変わった。
「では、任務開始だ!」
ケンヨード邸郊外
「よかったのか?あの男に復讐をしなくて。」
「もういいさ、妻はもう戻ってこない。でも、俺の代わりにマドローナが妻の仇を打ってくれるさ。それよりあいつら、生きて帰ってこれるか?」
「多分出来ないだろう。彼らにこの館は難易度が高すぎる。成功したとしても、運良く一人は帰ってこれるが、一人は無理だろう。」
「ああ、俺らですら無理だった。ここの兵は強過ぎる。」
「だからこその、捨て駒だ。」
ケンヨード邸
「この程度の兵しか出ないのか!!この国は私の実力を見縊っているな。あのクソ餓鬼め!誰があのクソ餓鬼を王と認めるか!!」
金髪の太った男性、この男がランドー・ケンヨード
「ランドー様落ち着いてください。昂っては完璧な指揮を執ることはできません。」
隣にいるのはメイド服に身を包んだ女性
「おう、すまなかった。私としたことがあのようなクソ餓鬼に苛立ってしまった。」
「それでこそ私の素晴らしい主人にございま、、、、」
「グシャ」短剣を突き刺した音が響いた。
マドローナは彼女を刺した。
従者の服には血が染み込んで、顔は血の気が引いて、色がない。
マドローナは口を開いた。
「こんなので死ぬんだ。スガーナの、一貴族に仕えるヒトなんだから、もう少し耐えれると思ったんだけどなぁ〜。あと、警備緩すぎ。お得意の神からの授かりモノは使わないの?」
「お、お前は、マドローナ・リカヨリド!!」
「久しぶり、ランドー様。」
「お、お前、この男を知っているのか!?」
つい、口を挟んでしまった。
「まあね、大っ嫌いだけど。」
「おい、サディールドの連中の癖に図が高いぞ!」ランドーの声は怒っていた。
「やはり、この国の奴らは愚弄しかしないのか。」
「身体強化」
「来る、気をつけて!」
ランドーは自慢の巨体を活かして、僕らに突進してきた。
俺は、間一髪避けた。
ランドーの突進した跡には埃が舞い、突撃した壁には少し罅が入っていた。
きっと当たったら、一発で死ぬだろう。
「ヤヨイ!!」
マドローナは叫んだ。
いたはずのヤヨイはいない。
ランドーの体には血がついている。
きっと、ヤヨイは殺された。
(ヤヨイは死んだのか?)
見えた。
ランドーの胴に剣が何本も突き刺さっている。
次の瞬間、ランドーの首は飛び、ランドーの体は灰となって消えた。
体の後ろに、彼は立っていた。
そう、ヤヨイは彼を殺した。
ヤヨイは真っ赤に染まっており、周りには剣が何本も転がっている。そして、ヤヨイの顔は平然としているが、目は狂気に溢れている。
ヤヨイは血を一瞬で落とし、周りに転がる剣を瞬時に消した。
マドローナは唖然としている。
俺は少し、彼が怖い。
「あ、すまない。少し迷惑をかけてしまったかな?」
「う、嘘、あんた、何者なの、、、。」
「僕は、ただの一般人だ。でも、少し、この世界を理解しているだけだ。」
「そ、そんなの嘘よ!じゃあどうして、創造が出来るの?貴方、本当は間者なんでしょ!!」彼女、マドローナの声は恐怖と、少しの憎悪を感じた。
俺はただ見ているだけだった。
任務にいたっては、マドローナがランドーの居場所を掴んでいたし、ヤヨイにいたっては、兵士の目をかく乱していた。
俺は結局、何も出来なかった。
今もそうだ。
今はヤヨイ、マドローナの諍いを見ているだけ。
「おい、いたぞ!!」
いつの間にか兵士が来てしまった。
「いまだ!やっちま、、、、」
兵士が襲いかかろうとした瞬間、兵士の首は飛んだ。
ヤヨイは銃を創り出し、兵士を撃ち殺した。
「兵士、君たちは神からの贈り物の使い方をわかっていない。
そんな兵士、ただの有象無象に過ぎない。『自分は特別』そんなモノを持っているから変な形で威張る。そんなモノ、僕が一つ残らず壊してやる。」
ヤヨイは剣を創り、兵士を切り捨て、体を真っ赤に染め上げ、最後には消した。
その後もヤヨイは、兵士を染め上げた。
マドローナは見るに絶えず、瞼を閉じていた。
俺は結局彼の惨殺を最後まで見てしまった。
やはり、ヤヨイは残酷だ。
ヤヨイは、兵を全て殺した。
俺たちは、生還した。
でも、マドローナは前を向けていなかった。
あの光景が忘れられないのだろう。
ヤヨイは何事をなかったかのような顔をしている。
スラーはきっとマドローナの変化に気がついているだろう。
ナーバスは何かに驚いている。きっと、マドローナの顔が歪んでいるからだ。
ナーバスは口を開いた。
「よく、殺せたなマドローナ。自分の実の父を。」
ナーバスはマドローナに声を掛けた。
その声はとても優しくて、どこか嬉しそうだった。
「あんな奴、私のお父さんじゃない。お母さんを寝取ったただのクズよ。でも、少し感謝してる。
もし、あいつが私を追い出さなかったら、お父さんいや、ナーバス・リカヨリドに出会えていない。」
「俺もあの男は嫌いだ。俺から彼女を奪った、あの男が。
だからありがとう。マドローナ。
マドローナはお父さんの誇らしい本物の子供だ。」
彼女は泣いた。声を出して泣いた。
嬉しいのだろう。
実の子供と認められて、感謝を受けて。
「ヤヨイ、話がある。」
スラーから声をかけられた。
「マドローナから聞いた、兵を全て殺したのか?」
「はい、全て殺しました。」
スラーの表情は変わった。怒りの顔だ。
「話したよな、兵を殺すなって、兵を殺されては困るんだ。」
「仕方がなかった。」
それだけしか答えがなかった。
「ふ、ふざけるな!!」
スラーの怒鳴り声が響いた。
「兵を殺されては私達がまるでこの館を制圧したように捉えられる。それだけは避けたかった。
でも、全て殺した。
ヤヨイ、これはかなりのマイナス点だ。覚えておけ。」
次の日から、三人のヤヨイを見る目は変わった。
彼の狂気を知ってしまう。
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