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捨てられたヒト、拾われた瞬間  作者: 桜井良樹
6/14

地獄はすぐ側に

憎しみに燃えるヒト、ヒトの死を嘆くヒト

それらは、敗者だ。


「おはようございます。」朝の声をかけた。


「おはよう。」


「おはよー。」声を返してくれる。


そこに立つのは、金髪の美少女、背が高く貫禄のある男性。


 少し懐かしいヒトの暖かさを感じる。

でも、なにかが違う。


「今日は朝早くからすまないね。」

    凛々しい声がかかる。

   スラー・シャロン二

僕にとっての恩人。

 彼はこの村の村長であり、Sard精鋭部隊隊長。

逃亡してきた僕らを匿ってくれている。

 僕はその部隊の隊員、すなわち軍人となった。


「いえ、大丈夫です。」


「そういえばカゲアキは?」

    マドローナが尋ねてきた。

マドローナ・リカヨリド

僕らを見つけたヒト、ナーバス・リカヨリドの一人娘であり、Sardの隊員。


「寝ているんじゃないのか?」


「ヤヨイ、カゲアキがどこかわかるか?」


「すみません、僕も彼と行動を共にしてまだ日が浅く、彼のことはあまりわからないんです。

 多分、まだ自宅かと思います。」


僕はカゲアキのことなど知らない、ただの他人。

でも、他人のままではいけない。

 僕は彼に償わなけらばならない。

彼は、僕が殺したのだから。


「ありがとうヤヨイ。彼、今何歳なんだ?」


「遅刻するなんて、子供みたいだね。笑」

       彼女は笑っている。

笑っているヒトを見たのは久しぶりだ。

笑った顔は、()()()以来見ていない。


「そういえばだヤヨイ、軍服のサイズは合っていたかい?」


「おかげさまで。」


「そうか、それはよかった。」


「お、遅れてすみません。」

ガチャリと扉が開いた。

(他のヒトは揃っている。とても気まずい。)


「遅かったね、カゲアキ。何か困りごとでもあったかい?」


「ふ、服を着るのにと、戸惑ってしまって。」


制服

 こんなものを見たのは久しぶりだった。


俺は制服を見るのが嫌いだ。

見ていると、中学の朝を思い出す。


俺を迎えにきてくれたあいつを。

 

 例えデザインは違うとしても、見たくはなかった。


「じゃあそろそろ本題に行こうか。」



なぜ僕らが今ここにいるのか、それは昨日、

 夏の虫の声が響く夜。

 

 スラーとヤヨイ、カゲアキは家まで続く小道を歩いていた。


「ヤヨイ、カゲアキ明日村役場まで来てくれ、国から依頼が届いている。」


「依頼、そんな早くに振ってくるのか?」


「ああ、帝国もかなり焦っていてね。不興な経済の中、スガーナ王国と戦おうとしている。そこで彼らの有力な軍人、貴族を殺害するのが我らSard精鋭部隊の役割だ。」


「でも、俺らは訓練すらしていない、そんなやつを精鋭と呼べるのか? 呼べたとしてもすぐに死んでしまうだろう。」


「普通なら、精鋭部隊なんて呼べやしない。でも、の国はもういつ滅んでもおかしくない状況だ。だから、私達は最後までこの国に尽くすと決めている、その為ならなんだってする。それが私達だ。」


「理解しました。貴方達は()()()()()()()をしていると。」


「そうだ。私達は最後まで足掻く、そして必ず勝利する。その為には、たとえ仁道に反した行為であっても執行する。

あと、君たちには誇りを持って欲しい。

君たちはあの牢獄を超えたヒトだ。

あの牢獄を超えるヒトなんてそうそういない、そして君たちはあの国から逃げ出した。

君たちには世界を変える力があるはずだ。

それは、このスラー・シャロン二が保証する。」

スラーの言葉には一つ一つ重みが感じ取れた。でも、彼の顔は()をついていた。


「お褒めにいただき光栄です。スラー・シャロン二隊長。私は、貴方のようなヒトに出会えて嬉しい。この身をもって、このサディールド帝国を勝利へ導きます。」


(スラーの言葉は嘘だ。きっと嘘だ。

 俺らのことなんか知っちゃいない。俺らはきっと、捨て駒だ。

 一般人以上、兵隊以下の俺らをきっといいように使う。彼らは仁道など気にしていない。なのにヤヨイは、なぜあの男に嘘の感謝を伝える?)


「ありがとう、ヤヨイ カゲアキ。君たちのこれからの活躍に期待しているよ。」

スラーと会話をしながら歩いていていき、家の前に着いた。


「ここがヤヨイ、君の家だ。カゲアキ、君の家はその裏側の家だ。中は全く同じ構造の家だ。

 必要なものは全て中に置いてあるはずだ、もし何か欲しい物があったら言ってくれ。用意できる物なら用意しておく。私にできることはこのくらいだ。でも、私は君たちにできることを全て尽くす。だから、この国を救ってくれ。」

スラーは深々と頭を下げた。


やはり頭を下げられるのは、自分を頼ってくれている証だ、それはとても嬉しい。

でも、誠意は感じられない。

昔と同じだ。

()()()を陥れたヒト、そいつと同じ匂いがする。

謝ってもいない、ただ頭を下げるだけ。

そんなやつ、俺は嫌いだ。









「じゃあ、私は戻るよ。明日来てくれよ。」

スラーは家を紹介した後、また来た道を戻って行った。



俺は家に入った。

家はログハウスで木の匂いが心地良い。


テーブルの上には軍服らしきものと食料、衣服が置いてある。


その奥にはベッドがある。

清潔感漂う白のベッド。

俺はすぐ、ベッドに倒れ込んだ。


死んであまり日日(ひにち)も経っていない。

 でも、とても久しぶりだ。

 この世界は狭いのに広い。

 だから、とても疲れてしまう。


きっと、この世界に来てから硬いモノでしか寝ていない、そのせいもあったかもしれない。


「ベッドで嬉しいなんて、俺はどんだけあの世界で快適だったんだ。俺、馬鹿だな。」

目が潤んでしまった。







夜の小道私は一人で歩いていた。


「おい、なぜ嘘をついた。

彼らに本当に期待でもしたか?」

私に話しかける男性、ナーバス・リカヨリド


「ああ、彼らはかなりすごい。

あの国から逃げ出して国境すら通り越した。

でも、すぐ死ぬだろう。

()()()からは逃げられない。」


「確かにあいつは強い、だからと言ってまだ、こんな演技続けるのか?」



「ああ、あいつは私達の仲間を一人で殺した。

本当はこんな部隊は無い、ただの()()。そんなこと伝えられるわけが無い。

悪いが、彼らには捨て駒になってもらう。

あの男、()()ト・()()()()()()()に復讐するために。」







スラーは口を開いた。

「国から届いた依頼はあの国の有力軍人、ランドー・ケンヨードの暗殺だ。」


「ランドーはサディールド帝国国境付近の領主で、何度もこの国に侵攻しようとしている。

 彼は、屈強な軍隊を持っている。そんなのがこの近くにいたら、すぐ国境付近にある町、「ソロンボーン」.が消されてしまうだろう。」


「今日の夜、任務に移る。夕刻までにはソロンボーンに移る。各自、荷物を持ってここにすぐ来てくれ。」


「御意」







役場の前には馬車が止まっていた。

馬車には黒十字の旗を掲げている。

 きっと国旗なんだろう、そう思った。

 この馬車に揺られて町へ向かうのだろう。

(少し酔ってしまうかもしれない。)

そんな気がしてならなかった。


俺は酔いに弱い。

バスに乗るといつも酔っていた。

だから、「何かに乗る」その中でいい思い出は一つもない。


「もう出るぞ。」


その声で馬車に乗り込んだ。


馬車から見た光景は()()だった。

その光景は町に近づくほど酷くなった。


俺はまた、嫌な思い出を一つ増やした。


道は荒れ果て、死体が転がり虫が群がっている。 時々見える集落は壊れた家が並んでいて、極限まで痩せ細ったヒトが食べ物を求め、呻き声を上げている。

あの国とは全く違う。


これが敗者。

何もなく、ただただ朽ちて行くだけのヒト。

これを変えたい。あの国が憎い。

 そう思うのも必然だ。


俺らを救った三人はずっと目を瞑っていた。

もうみたくないのだろう。


ヤヨイはずっと、下を向いていた。


昼下がり、とある村に寄り道をした。

「シャロン」

この村は戦争の被害に遭い、家屋は壊れ落ち、まだまだ死体が転がっており、死体の匂いは強烈でとても酷い。


「これがこの国の現状だ。こんなに貧困しても、戦わなくちゃ豊かな暮らしはやってこない。」


「貴方達が戦う理由、よく分かりました。こんな地獄、変えなければならない。」

 ヤヨイはそう言うと、死体に花を添えた。


ヤヨイはずっと花を持っている。

家から持ってきたのだろう。



最初からわかっていた。

 この世界の神はきっと境雅だ。

境雅は敗者に復活を与えない。

勝者はさらなる覇道を突き進む。

それなのに最後まで足掻く、彼らは立派だ。


「こんな世界を創って、私の、お母さんを殺した神は、()()()()()()()()()()()。」

マドローナは呟いた。


彼女の声はあまりにも低く、憎悪に満ちた声だった。




シャロンの村を後にした。


もう、こんな世界は見たくない。


僕は誓う。

境雅(さかいみやび)必ずお前を殺し、香奈子の理想の世界を創る。


彼女の理想は本物の地獄を創る。









読んでいただきありがとうございます。


広告の下から評価していただけると、とても嬉しいです。


どうか宜しくお願いします。

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