選ばれた道
初めて望まれる。
この世界は香奈子の世界だ。
香奈子はずっと理想を語っていた。
飽きるほどその理想を聞いた。
彼女には親友がいた。
境雅
流れるような黒髪の女性で、いつも見れ麗しい、理想的な女性だった。
中学の頃、雅は香奈子といつも話していた。
でも、彼女は理想的女性であったが、完璧ではなかった。
彼女の考え方は少し歪んでいて、
『何かを犠牲にする』
『勝利が全であり、敗者には何も残らない』
『夢を見るほど馬鹿を見る』
というような考えを持った女性であり、クラスのヒトと話すことを拒絶していた。
当然、この考え方がまだ稚拙な考えを持った、クラスの女子から、彼女は好かれるはずもなく、いつもぽつんと一人机で勉強をしていた。
男子もそうだった。彼女の発育はよく、他の女子と比べても、胸が張っていて、安産型の体型をした彼女の体を舐め回すように見ている男子ばかりだった。
彼女の性格を評している男子を僕は見たことがなかった。
僕も彼女が嫌いだった。
僕には、香奈子を独占したい欲があった。
彼女と話すときの香奈子の顔はいつも笑っていたし、僕よりも彼女との方が楽しそうだった。
僕は彼女に嫉妬をしていた。
雅は二十歳で亡くなった。
雅は事故で死んだ。
雅が死んだとき、香奈子は悲しまなかった。
香奈子には昔あったモノが無くなっていた。
この世界の仕組み、僕は知っている。
理想を叶える力、創造。
この仕組みを構築したのが香奈子。
この世界を見ると、ここのヒトはどこかが欠けている。
香奈子はずっと言っていた。『どこまで続く、犠牲のない世界、不満がなく誰もが笑顔の世界が欲しい。』と、この世界はガラスのような壁で覆われた限りある世界。死者ばり出る、戦が止まない世界。
香奈子はきっと、こんな世界を望んじゃいない。
この世界を造った神は歪んでいる。
この歪んだ考え方を持っているのは、雅、あいつしかいない。
僕は寝なかった。
体を創造し、不眠の体を創って起きていた。
(多分、寝てしまっては朝が弱い僕は起ることはできないだろう。
あと、家族を思い出す。
いつも起こしてくれる妻、時々娘も起こしてくれたかな。)
思い出すと、恋しくなる。
「会いたい、会いたいよ、香奈子、花奏ちゃん。」
小さな声が漏れてしまった。
「おはよう、カゲアキ。」朝の挨拶をされた。
挨拶なんてされたのは久しぶりだった。
「お、おはようございます。」
少し緊張してしまった。
「そこまで硬くなる必要はないだろう。」
ヤヨイは少し笑った。
「お前、寝たのか?」
「ああ、ちゃんと寝たよ。
今日は町を目指そう。」
「町? 町に入ったところで俺らは異客なんじゃないか?」
「ああ、僕らは服装から怪しまれるだろう。
だから、服は創り出した。
これを着れば少しは怪しまれずに済むだろう。」
「なら、どうして王都の外ではは怪しまれなかった?」
「多分だが、この世界を創った神がそのような仕組みにしたんだろう。」
「その神、かなり都合の良いことをするんだな。」
「ああ、神はいつだって自分勝手だよ。」
「そうか」
他愛のない会話をしていると、
「おい、お前ら!遭難か?」
男の声がした。
男は毛皮のコートを着た、濃い顔の中年男性で、猪を引いていた。
「いや、俺らは遭難じゃない。」
「よかった。かなり服が汚れているから、遭難かと思ってしまったよ。でも、どうしてこんな場所に?」
「少し、事情がありまして、よろしければ、近くの町を教えてくれませんか?」
「ああ、ここのタイガの近くに村がある、そいつは俺の村だ、ついて来な。」
「えっ、でも狩りの途中なのにいいんですか?」
「気にするな、困っているヒトを助けるのが優先事項だ。」
「ありがとうございます。」
男の言葉に従った。
タイガを進みながらヤヨイは男と話していた。
「お前らの服、少し珍しいな。スガーナから来たのか?」
「スガーナから来たかと言われれば、そうですが、どちらかというと脱走、ですかね。」
彼は少し諦めた口調で話した。
「そうか、あの国で生きるのは厳しいもんな。
あの国じゃ俺らサディールドのヒトに人権なんてない。」
「それは、この国が負けたからか?」
遂、聞いてしまった。
きっと、これから俺らに関わる話だからだ。
このサディールド帝国はスガーナ王国との戦争に負け、多額の賠償金と領土をかなり削り取られて、国内は荒れに荒れていた。
「負けた?いいや違う、昔からだ。
俺らサディールドのヒトは差別されてきた。
理由は簡単、俺らには神からの贈り物、祝福が無いからだ。スガーナの連中は自分達を神の子と称して、俺らを亜種人類と軽蔑して呼ぶ。まぁこの国じゃ、ヒトは差別用語でもなんでもないんだがな。」
やっと理解できた。
何故、兵士たちは俺らを亜種人類を馬鹿にしたような口を聞いたのか、俺らは牢に送り込まれたのか、ようやく理解することができた。
「すまない、貴方は身分証明書を持っているのか?」ヤヨイは男に尋ねた。
「ああ、それは、あの国にしか無い制度だよ。あの制度のせいでサディールドのヒトは殺された。あんな制度、廃止されればいいのに。」
「あの制度を廃止にすることは出来ないのか?」
「もし、あの王がいなければ出来るかもしれないが、あの王が易々と引き下がるとは思えない。」
ヤヨイは知っているような顔をしていた。
「あの王?」
俺にはわからなかった。
「前まで第三王子であった方だよ。
今から一ヶ月くらい前に、即位した王だよ。」
「第三王子。何故彼が即位したんだ?」
「国王と皇太子、第二王子は戦勝パレードに出ている時に殺されてしまってね。
生きていた第三王子が即位して、晴れて国王になった訳だ。」
「あんた、よく知ってるな。」
俺が言葉に出すと、彼の顔は急に険しくなった。
「やっぱ、分かっちまうか。」
男は呟いた。
「あんた、何か隠しているのか?」
「話は後だ。少し急いでくれ。」
男の行動は俺の言葉で180度変わり、急いで村へ向かった。
昼、その村についた。
男の家に案内され、二人は椅子に座らされていた。
男の家はログハウスで、初めて見たログハウスにカゲアキは少し興奮していた。
(本当に、この世界はなんでもありだな。いい意味でも、悪い意味でも。)
タイガの中にある村、[イバスバード]
小さな村でヒトが二十人くらいしか住んでいない。
スガーナ王国の国境付近に位置している。
「お前たちにお願いがある。今日の夕刻、村長に会ってくれないか?」
「村長? 僕らを村に住ませてくれるのか?」
「それもあるがもう一つ、お前たちにしか頼めないことだ。」
話をしていると、玄関のドアが開く音がした。
「ただいまーって誰、その男二人?軍のヒト?」
そこに立っていたのは明るい金髪の女性。
鍋を持っており、中にはキノコが見えた。
「こら!軍の名前を出すな、その事は秘密だと言っただろう!って、あ。」
聞いてしまった。
あの男と軍は関係ある、そう確信した。
だから、男はかなりの情報を知っていた。
「貴方、軍の関係者なのか?」
「まあ、そうなるかな。」
男は少し話ずらそうだった。
「あんた、どうやってあの国の情報を得た?」
「あの国の情報は、、、盗み聞いた。」
「そうか、ならお願いだ。
貴方について教えてくれないか?」
「私はサディールド帝国精鋭スパイ「Sard」の一員、ナーバス・リカヨリドだ。サディールド帝国に全てを捧げ、スガーナ王国を滅ぼすと誓った身だ。」
「ありがとう、ナーバス・リカヨリド。
僕はヤヨイ、ただの一般人だ。そっちの彼はカゲアキ。僕とカゲアキは世界を変える。その為の努力ならば、惜しまない。
ナーバス、貴方の話を聞こう。」
「ナーバス、あんたは俺たちをスパイに入れるつもりだったのか?」
「ああ、その通り。Sardは壊滅の危機でね。10人居たかすらわからないくらいヒトがいない。だから軍から「才能のあるやつを見つけろ」って、言われてたんだよ。で、あんたらみたいなあの国から逃げれるような、猛者を探してたって訳さ。」
「僕らはSardに入ればいい訳か。」
「お願いだ、あの国を変えれるようなヒトは貴方達しかいない。この通りだ。」
ナーバスは僕らに頭を下げた。
俺は、初めて頭を下げられたかもしれない。
俺は、ずっと頭を下げ、諂ってきた。
ただただ、目上のヒトに気に入られようと馬鹿な努力をしていただけで、他のヒトから見たら気持ち悪かったかもしれない、いや、見ててとても気持ち悪かった。
でも、こんな俺でも望まれている。
このヒトに俺は必要だ。だから、頭を下げてくれている。
俺は、嬉しかった。
「ああ、俺をSardに入れてくれ。」
「僕も彼と同意見だ。」
ヤヨイも同調してくれた。
「そうか、それはよかった。」
凛々しくシュッとした男の声が聞こえ、扉を開けて入ってきた。
「た、隊長!!どうして、俺の家に?!」
彼を見た。
彼の髪は黒く、背は高い。
顔はまだ、とても若かった。
だが、彼の顔には傷が多くあり、若い顔なのにとても貫禄があった。
「マドローナが言っていたよ、君が認めた、凄腕の奴がいるとね。」
彼の背後にはさっき家に入ってきた、金髪の彼女がいた。
(そういえばあの女、ナーバスに叱られた後どこかへ出て行っていたな。)
「ごめんね☆ なんか面白そうだから言っちった♪」
「全くお前は。」
「あ、すまないナーバス、こちらの方は?」
「ああ、この男が村長で、この女は私の娘だ。」
「ああ、私が村長であり、Sard精鋭部隊隊長のスラー・シャロン二だ。君たちを歓迎するよ。ヤヨイ、カゲアキ。」
「隊長、話聞いてたのか?」
「ああ、マドローナが家に入った時からね。まさか、君が頭を下げるなんて思わなかったよ。」
「チッ、一番見られたくないところを見られてしまったか。」
「新しい隊員ね。私、マドローナ・リカヨリド。マドローナって呼んでね。ヤヨイ、カゲアキ、これから宜しくね☆」
「こちらこそ、よろしくお願いします。
スラー、マドローナ。」
「よ、よろしくお願いします。」
少し、緊張した。
こんな馴れ馴れしく、俺は話せない、少し空気が苦しかった。
「そうだ、二人とも、これからご飯にしないか?」
「いいのか?」
「もう君たちは村の住民だ。歓迎するのは当たり前だろう。あと、君たちの家まで案内しよう。」
「相変わらず、隊長は準備が早いな。」
僕は久しぶりに暖かい食事を満喫した。
久しぶりでとても嬉しかった。
でも、少しもどかしさがあった。
僕らは夕ご飯を食べたあと、家に案内された。
スラーはベットを用意してくれていた。
その心遣いが、嬉しかった。
久しぶりの布団、僕はすぐ、眠りについてしまった。
「おい、どうしてあいつらを敵に回すような真似をした?」
「だって、そっちの方が面白そうだろ?それにあの男、とても嬉しそうだっただろう?
「私が見たいのは、あいつの絶望した顔、狂った顔、歪んだ顔が見たいのだ、いや、見て証明しなくちゃならない。」
「大丈夫、心配しなくても彼は自分で壊していくよ。なぜかって?
だって、あの少女がいるからね。」
新たな道を見つける。
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